キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年1月21日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
今週のハイライトは何といってもトランプ第二期政権の発足だろう。現地時間で20日正午ということは、日本時間21日午前2時。どうするか悩みに悩んだが、既に原稿を書くと約束している以上、やはり生中継を見ることに決めた。だが、そのためには睡眠時間を大幅に削る必要がある。という訳で、今週は支離滅裂なことを書くかもしれない。この点は予めご容赦願いたい。
ところで、筆者が米大統領選を初めて体験したのは1976年11月だった。爾来48年間、米大統領選は予備選から本選挙、更には就任演説まで、一通りは目を通してきたつもりだ。だから大抵のことは驚かないのだが、それでも今回のトランプ氏の言動はユニークだった。メディアでは、宣誓の際に用意した聖書に手を置かなかったとか、メラニア夫人の帽子の鍔が邪魔で頬にキスできなかったとか、色々報じられていた。
筆者にとって最大の驚きは新大統領のバイデン前政権に対する度を越えた「挑戦的」「挑発的」言動だった。大統領就任式といえば、米国では最も重要な政治イベントの一つで、それなりの荘厳かつ格調高い雰囲気が期待されると思うのだが・・・。トランプ氏にそういう発想はあまりないらしく、結局は全てを政治イベント化していた。古き良き米国の伝統を知る者にとっては、信じがたいことなのだが・・・。
さて、今週の筆者の最大関心は、第二期トランプ政権が、トランプ氏の言うような「アメリカの黄金時代」への復帰を象徴するのか、それとも、米国の「更なる衰退」の前兆なのか、ということだった。この点については今週の日経ビジネスに一文を寄稿したので、そちらをご一読願いたい。また、就任式全体については、恐らくワシントンの辰巳由紀主任研究員から「デュポンサークル便り」の形で詳しいレポートがあると思うので、ここでは詳細に立ち入らない。
ただ、就任演説について一言。スピーチは全体で約30分、8年前よりもかなり長く、アドリブが入ったかどうかまでは知らない。映像で見る限り、ほぼテレプロンプターを読んでいたと思うので、恐らくは原稿通りだったのだろう。それにしても、トランプ氏の演説はアドリブの方が断然面白い。原稿を読むトランプ氏には全く覇気がなく、話が面白くないのだ。でも、アドリブであれだけ喋れるのだから、テレプロンプターでも、トランプ氏ならちゃんとやれるはず。もう少し練習したらどうかな、とすら思う。
ところで、バイデン敗北・トランプ再選は単なる米内政のエピソードではない。いつも言っていることだが、IT革命やグローバル化で経済格差が広がる中、その潮流に乗り遅れた庶民が抱く既存エリート層への不満と憤怒の受け皿になったのが欧米の極左と極右だ。されば、トランプ再選も、欧州での動きと同様、第二次大戦終了後80年間続いた「啓蒙主義・国際主義的リベラリズム」の戦間期の終焉を加速することになるのだろうか。
正直に言えば、2016年、トランプ氏が最初に大統領に当選した際、不覚にも筆者は当時の政治現象を「トランプ派」対「非トランプ派」の戦いと捉えていた。しかし、トランプ現象が「偶然」ではなく「不可逆的」となった今、筆者は従来とは異なる見方をするようになった。簡単に言えば、「もしかしたらトランプ現象は、従来の『清く正しく美しいアメリカ』に敵対するものでは必ずしもなく、むしろそれと表裏一体の『同じコイン』の裏面に過ぎないのではないか」ということだ。詳細は日経ビジネスをご一読願いたい。
今週は米大統領就任式関連が長くなったので、いつもの「外交内政イベント」はお休みさせて頂き、最後はガザ・中東情勢に簡単に触れたい。
先週はガザ戦争の停戦交渉が漸く合意に達し、現時点でイスラエル人女性3人の人質が、90人のパレスチナ人との交換で、解放されたようである。過去15か月間も、恐らくはずっとトンネル内に監禁されていただろうから、さぞ大変だったろう。それにしても、イスラエル人の人質1人はパレスチナ人30人分の価値がある、ということなのかね。この種の報道を見る度に複雑な気持ちになるのは筆者だけではなかろう。
問題はこの交換プロセスがいつまで続くかだが、結論から言えば、決して予断を許さないと思う。人質を全員解放するということは、イスラエル側に対する抑止が利かなくなるということ。されば筆者がハマース関係者だったら、そう簡単に全員解放という訳にはいかない筈だからだ。「悪魔は詳細に宿る」のであり、しかもポイントはユダヤ人とハマースの「狐とタヌキ」の交渉だから、混乱はある程度仕方ないのかなぁ。今は停戦交渉がうまく進むことを祈るしかない。トランプ政権にとっては最初の試練となるかもしれないが・・・。
今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート3【1月20日版】
<今週以前から続く会議>
1月12日‐1月18日 Abu Dhabi Sustainability Week(アラブ首長国連邦・アブダビ)
1月13日‐1月31日 児童の権利委員会第98回会合(ジュネーブ)
1月18日‐1月21日 トランプ氏の米大統領就任関連行事
1月19日‐1月21日 Saudi Fashiontex Expo(リヤド)
1月
<1月20日‐1月26日>
20日 第47代米国大統領就任
20日 アルゼンチン2024年12月貿易統計発表
20日 フィリピン12月国際総合収支(BOP)統計発表
20日‐2月14日 ICAO(国際民間航空機関)、第228回航空委員会(モントリオール)
20日‐2月14日 ICAO、第234会期委員会(モントリオール)
20日‐1月24日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
20日‐1月24日 UNCTAD、プログラム計画とプログラム実施に関する作業部会、第89回会合(ジュネーブ)
20日‐1月24日 UNCITRAL、作業部会III(投資家対国家紛争解決改革)、第50回会合(ウイーン)
20日‐3月28日 軍縮会議、第一部(ジュネーブ)
21日 24年12月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
21日 市民的及び政治的権利に関する国際規約、第41回締約国会議(ニューヨーク)
21日 ドイツ12月CPI発表
22日 北朝鮮の最高人民会議招集(平壌)
25日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
26日 UN世界経済状況・予測
26日 ベラルーシ大統領選挙
26日 山形、岐阜各県知事選投開票
<1月27日‐2月2日>
27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第46回会議(デンハーグ)
27日‐1月30日 アラブヘルス(アラブ首長国連邦・ドバイ)
27日‐1月31日 国連、第1回定例会(ニューヨーク)
27日‐1月31日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行委員会第1回定例会議(ニューヨーク)
27日‐1月31日 人権理事会、強制失踪または非自発的失踪に関する作業部会、第135回会合(ジュネーブ)
27日‐2月7日 拷問禁止委員会、拷問およびその他の残虐、非人道的、または品位を傷つける取扱いまたは刑罰の防止に関する小委員会、第55回会合(ジュネーブ)
28日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
28日‐1月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐1月29日 米国FOMC
29日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
30日 米国第4四半期GDP(速報値)発表
30日‐1月31日 ユーラシア政府間評議会(カザフスタン・アルマトイ)
30日‐1月31日 非政府組織委員会(ニューヨーク)
31日 ケニア1月CPI発表
2月
2日 トーゴ上院選挙
2日 タジキスタン下院選挙
2日 タジキスタン上院選挙
3日‐2月7日 UNCITRAL、第2作業部会(紛争解決)、第81回会合(ニューヨーク)
3日‐2月7日 国際麻薬統制委員会第142回会議(ウイーン)
3日‐2月11日 WHO、執行理事会、第156回会議(ジュネーブ)
4日 コロンビア2024年12月輸出統計発表
5日 ブラジル2024年12月鉱工業生産指数発表
5日 米国12月貿易統計発表
5日 カナダ12月貿易統計発表
5日 国連経済社会理事会(ECOSOC)パートナーシップフォーラム(ニューヨーク)
5日‐2月7日 インド準備銀行金融政策決定会合
6日 オーストラリア2024年12月貿易統計発表
6日 ベトナム2025年1月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
6日 アルゼンチン2024年第4四半期貿易統計発表
6日‐2月7日 ECOSOCの調整部門(ニューヨーク)
7日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
7日 コロンビア1月CPI発表
7日 マレーシア2024年12月IIP発表
7日 米国1月雇用統計発表
7日 カナダ1月雇用統計発表
7日 台湾2025年1月CPI発表
9日 リヒテンシュタイン議会選挙
9日 エクアドル大統領選挙
9日‐2月12日 Leap25(リヤド)
10日 フィリピン11月直接投資発表
10日 カンボジア2025年1月貿易統計発表
10日‐2月14日 社会開発委員会(CSocD)第63回会議(ニューヨーク)
11日 メキシコ2024年12月鉱工業生産指数発表
11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
12日 インド2024年10月IIP発表
12日 インド2025年1月CPI発表
12日 トルコ1月国際収支統計発表
12日 フランス2024年第4四半期失業率発表
12日 米国1月CPI発表
13日 ドイツ1月CPI発表
13日 イスラエル1月貿易統計発表
13日 ブラジル2024年12月月間小売り調査発表
14日 イスラエル1月CPI発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14日 米国1月小売統計発表
17日 シンガポール1月貿易統計発表
17日 フィリピン12月OFW送金額発表
17日‐2月19日 エネルギー展示会「EGYPES」
17日‐2月21日 Gulfood(ドバイ)
18日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
18日‐2月20日 Global Health Expo(カンボジア)
18日‐2月20日 International Petroleum Technology Conference(IPTC)(マレーシア)
19日 フィリピン2025年1月国際総合収支(BOP)統計発表
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、バーチャル会議)
19日‐3月20日 Foresighting Forum 2025: Charging Forward(オーストラリア)
20日 トルコ中銀金融政策会議
20日 香港2025年1月CPI発表
20日‐2月21日 G20外相会合(南アフリカ共和国)
20日‐2月22日 PAKAR PERTANIAN EXPO(マレーシア)
20日‐2月22日 Malaysia Technology Expo 2025「マレーシアテクノロジーエキスポ・2025年」(マレーシア)
21日 ロシア中央銀行理事会
21日‐23日 Diving & Resort Travel Expo Malaysia 2025 「ダイビング&リゾートトラベルエキスポマレーシア・2025年」(マレーシア)
24日 EU外相理事会(ブリュッセル)
24日 ユーロスタット、1月CPI(HICP)発表
24日 シンガポール2025年1月CPI発表
24日 イスラエル中央銀行金融委員会会合
24日‐2月28日 開発政策委員会(CDP)第27回会合(ニューヨーク)
25日 OECD2024年第4四半期G20貿易統計発表
26日‐2月27日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国)
27日 米国第4四半期GDP(改定値)発表
28日 EU一般問題理事会(結束政策)(ブリュッセル)
28日 ケニア2月CPI発表
28日 インドGDP2024年度第3四半期統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問