キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年1月16日(木)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
今週は前半に米国出張が入り、原稿が遅れてしまったことをお詫び申し上げる。何卒ご容赦願いたい。今週のハイライトは、世界的に見れば、やはり現在進行中のガザにおける停戦合意成立と人質解放の行方だろう。これは間違いないが、当地米国での最大ニュースは、やはり、年初から続くロスアンゼルス周辺の山火事である。
当然ながら、米各報道機関の関心はこの山火事により犠牲になった人々や焼け出された多くの住民の悲惨な生活などだが、その報じ方は微妙に違うように感じる。CNNはこのハリケーン並みの強風という異常気象が起こした未曾有の被害に焦点を当てたの対し、FOXは民主党系州知事とロス市長の政治責任を厳しく問うていた。
まあ、この程度の温度差自体は驚くに当たらないのだが、来週にはトランプ氏の2度目の大統領就任式がある。どうやら、2025年も新年早々、親トランプ系と反トランプ系の政治的泥仕合は白熱化しているようだ。米国内の混乱から目は離せそうもない。そうは言っても、本当に騒がしいのはワシントン周辺だけのようだが・・・。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
1月14日 火曜日 | 韓国大統領弾劾裁判始まる |
フィンランド、バルト海NATO加盟国首脳会議を主催 | |
仏新首相、新政府の政策について演説 | |
スリランカ大統領、訪中(4日間) | |
1月15日 水曜日 | 国連事務総長、総会で2025年の優先事項につき説明 |
モザンビーク新大統領就任 | |
1月16日 木曜日 | バヌアツ、議会解散総選挙 |
1月17日 金曜日 | ドイツ首相、訪独中のスウェーデン首相と会談 |
1月20日 月曜日 | ダヴォス会議開催 |
最後はいつものガザ・中東情勢だ。先週はシリア情勢について書いたが、今週は噂されていたガザ戦争の停戦交渉が進展し、8か月間の交渉の末、漸く合意に達した、ようである。「ようである」と書いた理由は、これが「休戦」「和解」に繋がる訳では必ずしもないからだ。そうは言っても、停戦合意が喜ばしいことに変わりはないが・・。
まずは合意内容から。報道によれば、イスラエルとハマースは、1月19日から6週間の期間停戦し、ハマースは33人の人質を解放し、イスラエル側は刑務所に収容しているパレスチナ人を釈放することで合意したという。合意内容の基本は過去相当長い間交渉されてきた内容と、実はあまり変わらない。
では何が変わったか、変わった理由は2つある。第1は壊滅的損害を受けたハマース側が不利な合意内容を受け入れたこと、第2はトランプ次期政権関係者も交渉に実質参加し、今回の合意内容を保証したこと、ではないかと思う。前から言っている通り、停戦はどちらか一方が「負ける」と思わなければ、容易には実現しないものだ。
早速、「手柄」合戦が始まった。トランプ氏は大統領選挙での勝利が今回の合意に結びついたとSNSで強調、ネタニヤフ首相はトランプ氏とバイデン大統領に謝意を伝え、ハマースもSNSで仲介国のカタールやエジプトに謝意を示したそうだ。これで全ての当事者の「顔が立つ」訳だが、真の問題は報じられていない内容である。
報道によれば、今回の合意はあくまで第1段階であり、今後は第2段階と第3段階について協議を続け、恒久的な停戦を目指すという。また合意履行を監視する拠点をカイロに設置し、カタール、エジプト、米国の合同チームが監視にあたるそうだ。だが、果たしてこのプロセス、そんなに上手くいくものだろうか。
最後に、筆者の見立てを書いておこう。ポイントは3つある。第1は、ネタニヤフ首相が賭けに出たということ。これまで同首相にとって、「停戦合意」は「政治生命の終わり」を意味しかねない難関だった。これを今回受け入れたということは、停戦後のイスラエル内政でも「生き延びる」自信を同首相が持てたということだろう。
第2は、ハマースの弱体化である。イスラエルがガザでの戦闘の一段落後も、南レバノンでヒズブッラ掃討作戦を続けたのは、今回の戦争の目的が、親イラン武装勢力だけでなく、シリアとイラン自体だったからだろう。案の定、シリア政権崩壊でイランは影響力を大幅に失った。こうなれば、ハマースに他の選択肢はなかっただろう。
最後に重要なことは、ネタニヤフ首相がこれまでの接触でトランプ次期政権から同首相のイスラエル内政上の地位や将来について何らかの「確信」「確証」を得た可能性である。筆者がネタニヤフであれば、最大の関心事はこれである。逆に言えば、これなしにはハマースとの停戦には応じ難いと思うからだ。
現に、トランプ氏は「この合意を受けて、私の国家安全保障チームは、イスラエルや同盟国と緊密に協力し、ガザ地区が2度とテロリストにとっての安全な避難場所にならないよう引き続き、取り組む。」と述べている。この一文が具体的に何を意味するのかは、今後徐々に明らかになっていくだろう。
いずれにせよ、ガザ地区での死者は1年3か月以上におよぶ戦闘でこれまでに4万6000人を超え、子どもを含む多くの住民が犠牲になっている。他方、ガザ北部ではイスラエル軍の空爆で18人の死傷者が出たとも報じられている。今回の停戦合意が予定通り発効するか、第2段階、第3段階に進めるのかは予断を許さない。
今週はこのくらいにしておこう。
2025年重要日程レポート2【1月13日版】
<今週以前から続く会議>
12日‐1月18日 Abu Dhabi Sustainability Week(アラブ首長国連邦・アブダビ)
1月
<1月13日‐1月19日>
13日 インド11月CPI発表
13日‐1月17日 人権理事会、ダーバン宣言及び行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会、第23回会合(ジュネーブ)
13日‐1月17日 人権理事会、女性と女児に対する差別に関する作業部会、第42回会議(ジュネーブ)
13日‐1月31日 児童の権利委員会第98回会合(ジュネーブ)
14日 アルゼンチン2024年12月CPI発表
14日‐1月15日 フードセク&テック・ イスラエル(イスラエル・ネゲブ)
14日‐1月15日 イスル・アナリティカ(テルアビブ)
14日‐1月16日 Future Mineral Forum(リヤド)
15日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
15日 米国12月CPI発表
15日 24年12月の米消費者物価指数(CPI)(労働省)
15日 フィリピン12月主要経済指標発表
15日 フィリピン11月OFW送金額発表
15日 英国12月CPI発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
15日 24年通年のドイツGDP(連邦統計局)
16日 ドイツ12月CPI発表
16日 米国12月小売統計発表
16日 バヌアツ総選挙
18日‐1月19日 ASEAN外相会議(マレーシア・ランカウイ島)
19日‐1月21日 Saudi Fashiontex Expo(リヤド)
<1月20日‐1月26日>
20日 第47代米国大統領就任
20日 アルゼンチン2024年12月貿易統計発表
20日 フィリピン12月国際総合収支(BOP)統計発表
20日‐2月14日 ICAO(国際民間航空機関)、第228回航空委員会(モントリオール)
20日‐2月14日 ICAO、第234会期委員会(モントリオール)
20日‐1月24日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
20日‐1月24日 UNCTAD、プログラム計画とプログラム実施に関する作業部会、第89回会合(ジュネーブ)
20日‐1月24日 UNCITRAL、作業部会III(投資家対国家紛争解決改革)、第50回会合(ウイーン)
20日‐3月28日 軍縮会議、第一部(ジュネーブ)
21日 24年12月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
21日 市民的及び政治的権利に関する国際規約、第41回締約国会議(ニューヨーク)
21日 ドイツ12月CPI発表
22日 北朝鮮の最高人民会議招集(平壌)
25日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
26日 UN世界経済状況・予測
26日 ベラルーシ大統領選挙
<1月27日‐2月2日>
27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第46回会議(デンハーグ)
27日‐1月30日 アラブヘルス(アラブ首長国連邦・ドバイ)
27日‐1月31日 国連、第1回定例会(ニューヨーク)
28日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
28日‐1月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐1月29日 米国FOMC
29日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
30日 米国第4四半期GDP(速報値)発表
30日‐1月31日 ユーラシア政府間評議会(カザフスタン・アルマトイ)
31日 ケニア1月CPI発表
2月
2日 トーゴ上院選挙
2日 タジキスタン下院選挙
2日 タジキスタン上院選挙
4日 コロンビア2024年12月輸出統計発表
5日 ブラジル2024年12月鉱工業生産指数発表
5日 米国12月貿易統計発表
5日 カナダ12月貿易統計発表
5日 国連経済社会理事会(ECOSOC)パートナーシップフォーラム(ニューヨーク)
5日‐2月7日 インド準備銀行金融政策決定会合
6日 オーストラリア2024年12月貿易統計発表
6日 ベトナム2025年1月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
6日 アルゼンチン2024年第4四半期貿易統計発表
6日‐2月7日 ECOSOCの調整部門(ニューヨーク)
7日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
7日 コロンビア1月CPI発表
7日 マレーシア2024年12月IIP発表
7日 米国1月雇用統計発表
7日 カナダ1月雇用統計発表
7日 台湾2025年1月CPI発表
9日 リヒテンシュタイン議会選挙
9日 エクアドル大統領選挙
9日‐2月12日 Leap25(リヤド)
10日 フィリピン11月直接投資発表
10日 カンボジア2025年1月貿易統計発表
10日‐2月14日 社会開発委員会(CSocD)第63回会議(ニューヨーク)
11日 メキシコ2024年12月鉱工業生産指数発表
11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
12日 インド2024年10月IIP発表
12日 インド2025年1月CPI発表
12日 トルコ1月国際収支統計発表
12日 フランス2024年第4四半期失業率発表
12日 米国1月CPI発表
13日 ドイツ1月CPI発表
13日 イスラエル1月貿易統計発表
13日 ブラジル2024年12月月間小売り調査発表
14日 イスラエル1月CPI発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14日 米国1月小売統計発表
17日 シンガポール1月貿易統計発表
17日 フィリピン12月OFW送金額発表
17日‐2月19日 エネルギー展示会「EGYPES」
17日‐2月21日 Gulfood(ドバイ)
18日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
18日‐2月20日 Global Health Expo(カンボジア)
18日‐2月20日 International Petroleum Technology Conference(IPTC)(マレーシア)
19日 フィリピン2025年1月国際総合収支(BOP)統計発表
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、バーチャル会議)
19日‐3月20日 Foresighting Forum 2025: Charging Forward(オーストラリア)
20日 トルコ中銀金融政策会議
20日 香港2025年1月CPI発表
20日‐2月21日 G20外相会合(南アフリカ共和国)
20日‐2月22日 PAKAR PERTANIAN EXPO(マレーシア)
20日‐2月22日 Malaysia Technology Expo 2025 「マレーシアテクノロジーエキスポ・2025年」(マレーシア)
21日 ロシア中央銀行理事会
21日‐23日 Diving & Resort Travel Expo Malaysia 2025 「ダイビング&リゾートトラベルエキスポマレーシア・2025年」(マレーシア)
24日 EU外相理事会(ブリュッセル)
24日 ユーロスタット、1月CPI(HICP)発表
24日 シンガポール2025年1月CPI発表
24日 イスラエル中央銀行金融委員会会合
24日‐2月28日 開発政策委員会(CDP)第27回会合(ニューヨーク)
25日 OECD2024年第4四半期G20貿易統計発表
26日‐2月27日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国)
27日 米国第4四半期GDP(改定値)発表
28日 EU一般問題理事会(結束政策)(ブリュッセル)
28日 ケニア2月CPI発表
28日 インドGDP2024年度第3四半期統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問