キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年1月7日(火)
[ 2025年外交・安保カレンダー ]
今回が2025年新年初の外交安保カレンダーとなる。寒中お見舞い申し上げる。今年もご愛読宜しくお願いしたい。今年は新年早々、ニューオリンズとラスベガスで自動車による大事件が相次いで起きた。これが今年の米国内混乱の予兆とならないことを祈るしかない。
前者は有名なバーボンストリートでの暴走無差別殺傷事件でISIS系テロだと報じられ、後者はトランプホテル前でのイーロン・マスクのテスラ社製電気トラック爆発事件で、どうやら自爆事件だったようだが、未だ詳細は不明である。当初は多くのアメリカ人も連続テロ事件ではないかと疑ったようだ。2025年も「恐ろしい年」になるのか。
昨年の外交安保カレンダー第1号を読み返してみると、筆者は「もしかしたら『放電』ばかりしていたのではないか、しっかり『充電』ができていなかったのではないか、という反省」を書いていた。要するに、「充電」なければ「原稿」なし、ということなのだが、この思いは今年も変わっていない。うーーん、もっと精進しなければなあ、と思う。
今年最初に気になったのは日鉄のUS Steel買収事件とゴールデングローブ賞だ。両者は一見無関係だが、実は共通点がある。筆者がいつも言う「All Politics is Local」の典型例だと思うからだ。同じ事象が日米で全く違う形で報じられること自体はよくあることで決して驚かない。問題はこれが日米の溝になることであろう。
まずはゴールデンローブ賞から。SHOGUNが4部門受賞したことについて日本メディアは、「SHOGUNは昨年9月、エミー賞過去最多の18冠を獲得」したが、今回は「それをはるかにしのぐ快挙」で、「欧米やアジア、アフリカなど世界中の映画ジャーナリストが投票」するゴールデングローブ賞で「世界に認められた」と報じている。
ところがNewYorkTimesは同じゴールデングローブ賞関連報道でSHOGUNについて殆ど報じていない。写真入りでの受賞者紹介も殆どが米国人で、日本人は名前だけ、授賞式での真田広之氏の見事な英語によるコメントも一切報じられないのは残念だ。日本の報道ぶりとは大違いだが、これが米国人の一般的な見方である。
見方を変えれば、日鉄による米製鉄会社買収も同じだ。日本メディアは日鉄による「訴訟」準備を報じ、石破首相の「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念の声が上がっていることは残念ながら事実だ。重く受け止めざるを得ない」と述べたことを詳しく伝えている。
また、同首相は政府としてはコメントしないが、「懸念の払拭に向けた対応は米政府に強く求めたい」「なぜ安全保障の懸念があるのかということについてきちんと述べてもらわなければならない」などと言明したことも報じられた。だが、当然ながら、米側、特にバイデン政権の対応は正反対。要するに「All Politics is Local」なのだ。
どちらが悪いか議論しても溝は埋まらない。民主主義である以上、ある程度仕方のないことだ。タイミングはともかく日鉄の対応に不備はない、US Steelの経営陣の判断も正しい。一方、米国の労組は「日本側は勿論、米民主党政府も信用できない」といういう判断。トランプもバイデンも乗った。これを筆者は「合成の誤謬」と呼ぶ。
このままなら喜ぶのは中国政府なのだが、その判断は「合成の誤謬」の中には入って来ない。案の定、中国人民日報系の環球時報は、米大統領の日本製鉄による買収中止命令を1面で報じ、日本企業を「がっかりさせた」、「米国は疑問を持たれている」「バイデン氏は一部側近の助言を無視した」などと報じている。相変わらずだ。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。新年だからだろうか、静かなものである。
1月7日 火曜日 | ガーナ大統領就任式 |
1月8日 水曜日 | イラク首相、イラン訪問 |
EU外交トップ、ヨルダン外相と会談 | |
1月9日 木曜日 | レバノン議会、大統領選出? |
1月10日 金曜日 | ベネズエラ大統領の就任式 |
1月11日 土曜日 | 米国務長官、韓国、日本、フランス、イタリア、ヴァチカン歴訪から帰国 |
中国外交部長、ナミビア、コンゴ、チャド、ナイジェリア歴訪から帰国 | |
1月12日 日曜日 | コモロで議会選挙 |
クロアチア、大統領選家選投票 |
最後はいつものガザ・中東情勢だ。先週は「今は真の意味の『シリア再建』への序曲か、それとも更なる『シリアの悲劇』の始まりなのか?神のみぞ知る」と書いたが、先週、新政権を支持する勢力と元シリア政府軍の残党との間で戦闘が起きたと報じられた。詳細は不明だが、筆者のイラクの経験ではちょっといやな「前兆」である。
今週はこのくらいにしておこう。2025年が読者の皆様にとって実り多い年となることを祈っている。
2025年重要日程レポート1【1月6日版】
<今週以前から続く会議>
1月5日‐1月6日 イスラエル中央銀行金融委員会会合・経済見通し発表
1月
<1月6日‐1月12日>
6日 ベトナム12月分および2024年の社会・経済統計(GDP、CPI、投資、貿易など)発表
6日 米議会、上下両院合同会議でトランプ氏の大統領選勝利を確定
7日 米国12月貿易統計発表
7日 2024年11月の米貿易収支(商務省)
8日 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(24年12月17日、18日開催分)(連邦準備制度理事会=FRB)
8日 メキシコ2024年12月自動車生産・販売・輸出統計発表
8日 ブラジル2024年11月鉱工業生産指数発表
9日 コロンビア2024年12月CPI発表
9日 メキシコ2024年12月CPI発表
9日 ブラジル2024年11月月間小売り調査発表
9日 オーストラリア11月貿易統計発表
9日 山形、岐阜各県知事選告示(26日投開票)
9日 レバノン議会が大統領選出
9日‐1月12日 米大統領がイタリア訪問
10日 国連事務局の選挙(ニューヨーク)
10日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行委員会事務局選挙(ニューヨーク)
10日 ユニセフ、執行委員会、事務局の選挙(ニューヨーク)
10日 国連女性機関、執行委員会、事務局長選挙(ニューヨーク)
10日 米国12月雇用統計発表
10日 24年12月の米雇用統計(労働省)
10日 マレーシア11月IIP発表
10日 フィリピン10月直接投資発表
10日 インド10月IIP発表
10日 メキシコ2024年11月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル2024年12月IPCA発表
10日 ベネズエラ大統領選で一方的に勝利宣言したマドゥロ氏の3期目就任式
10日‐1月12日 北米国際自動車ショー(米デトロイト、一般公開は11〜20日)
12日‐1月18日 Abu Dhabi Sustainability Week(アラブ首長国連邦・アブダビ)
<1月13日‐1月19日>
13日 インド11月CPI発表
13日‐1月17日 人権理事会、ダーバン宣言及び行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会、第23回会合(ジュネーブ)
13日‐1月17日 人権理事会、女性と女児に対する差別に関する作業部会、第42回会議(ジュネーブ)
13日‐1月31日 児童の権利委員会第98回会合(ジュネーブ)
14日 アルゼンチン2024年12月CPI発表
14日‐1月15日 フードセク&テック・ イスラエル(イスラエル・ネゲブ)
14日‐1月15日 イスル・アナリティカ(テルアビブ)
14日‐1月16日 Future Mineral Forum(リヤド)
15日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
15日 米国12月CPI発表
15日 24年12月の米消費者物価指数(CPI)(労働省)
15日 フィリピン12月主要経済指標発表
15日 フィリピン11月OFW送金額発表
15日 英国12月CPI発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
15日 24年通年のドイツGDP(連邦統計局)
16日 ドイツ12月CPI発表
16日 米国12月小売統計発表
16日 バヌアツ総選挙
19日‐1月21日 Saudi Fashiontex Expo(リヤド)
<1月20日‐1月26日>
20日 第47代米国大統領就任
20日 アルゼンチン2024年12月貿易統計発表
20日 フィリピン12月国際総合収支(BOP)統計発表
20日‐1月24日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
20日‐1月24日 UNCTAD、プログラム計画とプログラム実施に関する作業部会、第89回会合(ジュネーブ)
20日‐1月24日 UNCITRAL、作業部会III(投資家対国家紛争解決改革)、第50回会合(ウイーン)
21日 ドイツ12月CPI発表
22日 北朝鮮の最高人民会議招集(平壌)
25日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
26日 UN世界経済状況・予測
26日 ベラルーシ大統領選挙
<1月27日‐2月2日>
27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27日‐1月30日 アラブヘルス(アラブ首長国連邦・ドバイ)
27日‐1月31日 国連、第1回定例会(ニューヨーク)
28日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
28日‐1月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐1月29日 米国FOMC
29日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
30日 米国第4四半期GDP(速報値)発表
30日‐1月31日 ユーラシア政府間評議会(カザフスタン・アルマトイ)
31日 ケニア1月CPI発表
2月
2日 タジキスタン下院選挙
2日 タジキスタン上院選挙
4日 コロンビア2024年12月輸出統計発表
5日 ブラジル2024年12月鉱工業生産指数発表
5日 米国12月貿易統計発表
5日 カナダ12月貿易統計発表
5日 国連経済社会理事会(ECOSOC)パートナーシップフォーラム(ニューヨーク)
5日‐2月7日 インド準備銀行金融政策決定会合
6日 オーストラリア2024年12月貿易統計発表
6日 ベトナム2025年1月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
6日 アルゼンチン2024年第4四半期貿易統計発表
6日‐2月7日 ECOSOCの調整部門(ニューヨーク)
7日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表
7日 コロンビア1月CPI発表
7日 マレーシア2024年12月IIP発表
7日 米国1月雇用統計発表
7日 カナダ1月雇用統計発表
7日 台湾2025年1月CPI発表
9日 リヒテンシュタイン議会選挙
9日 エクアドル大統領選挙
9日‐2月12日 Leap25(リヤド)
10日 フィリピン11月直接投資発表
10日 カンボジア2025年1月貿易統計発表
10日‐2月14日 社会開発委員会(CSocD)第63回会議(ニューヨーク)
11日 メキシコ2024年12月鉱工業生産指数発表
11日‐5月10日 上院議員候補者および政党の選挙活動期間(フィリピン)
12日 インド2024年10月IIP発表
12日 インド2025年1月CPI発表
12日 トルコ1月国際収支統計発表
12日 フランス2024年第4四半期失業率発表
12日 米国1月CPI発表
13日 ドイツ1月CPI発表
13日 イスラエル1月貿易統計発表
13日 ブラジル2024年12月月間小売り調査発表
14日 イスラエル1月CPI発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14日 米国1月小売統計発表
17日 シンガポール1月貿易統計発表
17日 フィリピン12月OFW送金額発表
17日‐2月19日 エネルギー展示会「EGYPES」
17日‐2月21日 Gulfood(ドバイ)
18日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
18日‐2月20日 Global Health Expo(カンボジア)
18日‐2月20日 International Petroleum Technology Conference(IPTC)(マレーシア)
19日 フィリピン2025年1月国際総合収支(BOP)統計発表
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、バーチャル会議)
19日‐3月20日 Foresighting Forum 2025: Charging Forward(オーストラリア)
20日 トルコ中銀金融政策会議
20日 香港2025年1月CPI発表
20日‐2月21日 G20外相会合(南アフリカ共和国)
20日‐2月22日 PAKAR PERTANIAN EXPO(マレーシア)
20日‐2月22日 Malaysia Technology Expo 2025 「マレーシアテクノロジーエキスポ・2025年」(マレーシア)
21日 ロシア中央銀行理事会
21日‐23日 Diving & Resort Travel Expo Malaysia 2025 「ダイビング&リゾートトラベルエキスポマレーシア・2025年」(マレーシア)
24日 EU外相理事会(ブリュッセル)
24日 ユーロスタット、1月CPI(HICP)発表
24日 シンガポール2025年1月CPI発表
24日 イスラエル中央銀行金融委員会会合
24日‐2月28日 開発政策委員会(CDP)第27回会合(ニューヨーク)
25日 OECD2024年第4四半期G20貿易統計発表
26日‐2月27日 G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ共和国)
27日 米国第4四半期GDP(改定値)発表
28日 EU一般問題理事会(結束政策)(ブリュッセル)
28日 ケニア2月CPI発表
28日 インドGDP2024年度第3四半期統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問