キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年12月3日(火)
[ 2024年外交・安保カレンダー ]
先週末、我らがキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は新たな「政策シミュレーション」を主催した。今年3回目となる今回は近未来の台湾情勢を想定し、日米・近隣諸国や日本国内の自治体・経済界などの複数のチームに分かれ、都内某所で学者、政治家、ジャーナリスト、官僚、ビジネスパーソンなど数十人の参加を得て行った。
CIGSは2010年以来、様々な国際情勢や内外のクライシスを想定した架空のシナリオに基づき、泊まりがけで24時間のロールプレー型政策シミュレーション(米国等ではWar Gameとも呼ばれる)を「チャタムハウスルール」で実施してきている。数え方にもよるが、過去14年間でこの手のゲームの実施は40数回目になると思う。
ここに改めてご参加頂いた方々に深甚なる謝意を表したい。詳しい内容の報告については、今回シナリオを作りシミュレーション・コントローラーを務めた峯村健司CIGS主任研究員に任せている。されば、ここではCIGSが政策シミュレーションに「チャタムハウスルール」を導入している理由について説明させて頂きたい。
「チャタムハウスルール」とは、英国の有力シンクタンクが採用する一種の紳士(淑女)協定。会議等参加者の氏名・肩書等詳細は公表せず、また誰が如何なる行動や発言をしたかも口外しない、というもの。日本にもこの種のシミュレーションをやる組織はあるが、一部ではTVカメラを入れ、準公開で行われるケースすらあると聞く。
でも、キヤノングローバル戦略研究所はそんなやり方はしない。カメラや録音機が入れば、参加者が自由に考え本音で語ることができなくなると思うからだ。幸い今回も参加して下さった各プレーヤーの温かい支援もあり、全体として多くの貴重な教訓が得ることができた。中身については、追って報告書を発表する。
今週もう一つ気になったのは欧州情勢、特にドイツ連立政権の瓦解と来年3月の総選挙実施だ。このニュース、実はかなり前から気になっていたのだが、今や混乱はドイツだけでなく、ルーマニアにも飛び火している。ドイツの政局混乱とルーマニアでの「極右」台頭に直接関連はないが、両国には見逃せない「共通点」があるからだ。
詳細は関連記事をお読み頂きたいが、結論から言えば、こうした一連の動きは戦後、特にソ連崩壊後の欧州政治が変質する前兆ではないかと懸念する。従来欧州政治の主流だった穏健中道系左右両勢力間の政権交代ないし連立政権が、経済格差と移民流入拡大を機に、遂に「忘れ去られた人々」の支持を失い始めたのだろう。
その象徴がフォルクスワーゲン労働者のストライキだ。遂にドイツでも製造業の凋落が始まったのだとしたら、これはドイツだけでなく、欧州全体の危機にもなりかねない。EU(欧州連合)は仏独の連携とドイツの忍耐で成り立ってきた。フランスはもう峠を過ぎたが、ドイツでも内政が不安定化すれば、これは「いつか来た道」となる。
欧州の専門家ではないので、「オオカミ少年」になるつもりはない。だが、テレビではこれまで繁栄を謳歌してきたフォルクスワーゲンの労働者たちが、拳を振り上げながら政府・経営者批判を叫ぶ姿が連日流れている。この人たちの怒りの「受け皿」は何なのか。それを再び「国家社会主義」にしない「知恵」を欧州は持っているのか。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
12月3日 火曜日 ギリシャ首相訪英、英首相と会談
NATO外相会合(ブラッセル、2日間)
12月4日 水曜日 仏議会、仏首相不信任決議案について採決投票
アルゼンチン、保守主義行動会議を初めて主催
米大統領、アンゴラ訪問終了
12月5日 木曜日 ウルグアイ、メルコスール首脳会議を主催
欧州議会議長ポーランド訪問、ポーランド首相と会談
12月6日 金曜日 台湾総統、南太平洋諸国訪問を終了
ロシア大統領、ベラルーシ訪問
12月7日 土曜日 ガーナで総選挙
カタルでドーハフォーラム開催(2日間)
12月8日 日曜日 ルーマニア、大統領選決選投票
最後はいつものガザ・中東情勢だ。ようやくイスラエルとヒズブッラの停戦が実現したが、先週筆者は「一方が『もっと勝てる』と思えば、停戦には至らない。これが筆者の考える「戦争と停戦の法則だ」と書いた。「停戦違反が停戦違反を呼ぶ」今の状況は驚かないが、ヒズブッラはもう本格戦闘再開など望まないのではないか。
一方トランプ政権は、トランプ氏の次女の義父でもあるレバノン系米国人実業家をアラブ・中東担当の上級顧問に起用すると発表したそうだ。でも、これってトランプ家お得意のネポティズムとアラブ系米国人有権者に対するリップサービスでしかないだろう。それにしても、トランプ政権は相変わらず分かり易い人々の集まりである。
トランプ氏は起用した人物を「国際舞台で豊富な経験があり、実業界で高く評価されているリーダー」「中東地域の和平を強く支持しており、米国と国益にとって強力な代弁者」と述べたそうだが、所詮「上級顧問」レベルで出来ることは限られている。トランプ政権は引き続き「親イスラエル」強硬政策を続ける可能性が高いだろう。
今週はこのくらいにしておこう。
2024年 重要日程レポート49【12月2日版】
<今週以前から続く会議>
11月22日‐12月8日 第19回ロメ国際見本市(トーゴ・ロメ)
11月25日‐12月29日 対人地雷禁止条約(オタワ条約)検討会議(カンボジア・シエムレアプ)
11月25日‐12月3日 危険物輸送に関する専門家小委員会第65回会合(ジュネーブ)
11月25日‐12月13日 人種差別撤廃委員会第114回会期(ジュネーブ)
11月30日‐12月6日 台湾総統、太平洋3カ国歴訪
12月
<12月2日‐12月8日>
2日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
2日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(雇用・社会政策)(ブリュッセル)
2日 ボスニア・ヘルツェゴビナおよびコソボとの関係に関する代表団(EU・ボスニア・ヘルツェゴビナ安定化連合議会委員会およびEU・コソボ安定化連合議会委員会を含む)
2日 衆院代表質問
2日 インドネシア11月CPI発表
2日 ユーロスタット、10月失業率発表
2日‐12月5日 第62回ASEAN 標準化・品質管理諮問評議会〔The 57th Meeting of the ASEAN Consultative Committee for Standards and Quality(ACCSQ)〕
2日‐12月6日 FAO、理事会、第175回会議(ローマ)
2日‐12月6日 人権理事会、アフリカ系の人々に関する専門家作業部会、第35回会合(未定)(ニューヨーク)
2日‐12月6日 対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約第5回検討会議の締約国(シェムリアップ、カンボジア)
2日‐12月6日 情報通信技術のセキュリティと利用に関するオープンエンドワーキンググループ2021年~2025年、第9回回会議(ニューヨーク)
2日‐12月7日 国際刑事裁判所規程締約国会議第23回会期(デン・ハーグ)
2日‐12月13日 UNCCD、条約締約国会議および補助機関会合、第16回会議(リヤド)
2日‐12月13日 生物兵器禁止条約強化に関する作業部会第5回会合(ジュネーブ)
3日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ブリュッセル)
3日 衆参代表質問
3日 メキシコ10月雇用統計発表
3日 ブラジル第3四半期GDP発表
3日 韓国11月CPI発表
3日 セム・イスラエル・エキスポ 2023/4(テルアビブ)
4日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
4日 参院代表質問
4日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
4日 オーストラリアGDP第3四半期統計発表
4日 トルコ11月CPI発表
4日‐12月6日 第20回ASEAN社会福祉開発担当相会議(SOMSWD)(ブルネイ)
4日‐12月6日 独立監査諮問委員会第68回会議(ニューヨーク)
4日‐12月6日 国連ハビタット、執行委員会、2024年第2回定例会(ナイロビ)
4日‐12月7日 Manufacturing Indonesia 2024(ジャカルタ)
5日 米国10月貿易統計発表
5日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
5日‐12月6日 欧州安保協力機構(OSCE)閣僚会合(マルタ)
5日‐12月7日 Vietnam Medi-Pharm Expo 2024(ベトナム)
5日‐12月11日 Kuala Lumpur International Mobility Show (KLIMS) 2024(マレーシア)
6日 犯罪防止刑事司法委員会、第33回会合再開(ウイーン)
6日 麻薬委員会、第67回会合再開(ウイーン)
6日 ユーロスタット、第3四半期実質GDP成長率発表
6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ブリュッセル)
6日 危険物輸送及び化学物質の分類と表示に関する世界調和システムに関する専門家委員会第12回会合(ジュネーブ)
6日 メキシコ11月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国11月雇用統計発表
6日 ベトナム11月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
8日 ルーマニア大統領選挙(決選投票)
8日 サウジアラビア2024年第3四半期GDP統計発表
<12月9日‐12月15日>
9日 2024年度補正予算案が審議入り
9日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
9日 中国11月CPI発表
9日 メキシコ11月CPI発表
9日‐12月10日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
9日‐12月10日 国連、専門機関、国際原子力機関の外部監査人パネル、第64回通常会議(ニューヨーク)
9日‐12月12日 国連、専門機関、国際原子力機関の外部監査人パネル、第64回通常会議(ニューヨーク)
10日 ドイツ11月CPI発表
10日 中国11月貿易統計発表
10日 ブラジル11月IPCA発表
10日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
10日‐12月11日 ブラジル中央銀行、Copom
10日‐12月11日 Abu Dhabi Space Debate(アラブ首長国連邦・アブダビ)
10日‐12月12日 IFAD 執行理事会 第 143 回会議(ローマ)
11日 トルコ10月国際収支統計発表
11日 アルゼンチン11月CPI発表
11日 米国11月CPI発表
11日 カナダ中央銀行政策金利発表
11日 ロシア11月CPI発表
12日 ベラルーシとの関係に関する代表団
12日 イスラエル11月貿易統計発表
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル10月月間小売り調査発表
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日‐12月13日 ASEANプラス3 財務・中央銀行次長会議(ASEAN+3 Finance and Central Bank Deputies’Meeting)
12日‐12月13日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
13日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
13日 フランス11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
<12月16日‐12月22日>
16日 イスラエル2024年第3四半期GDP(改定値)発表
16日 モーション・コントロール、オートメーション、ロボティクス、パワー・ソリューション 2024(テルアビブ)
16日 中国11月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
16日 EU外相理事会(ブリュッセル)
16日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
16日 独首相の信任投票
16日‐12月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 シンガポール11月貿易統計発表
17日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
17日 英国労働市場統計(8月~10月)発表
17日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
17日 米国11月小売統計発表
17日 米国大統領選選挙人投票
17日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
17日‐12月18日 米国FOMC、経済見通し発表
18日 アルゼンチン第3四半期世帯アンケート結果(労働力調査)、11月貿易統計発表
18日 英国11月CPI発表
18日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日 タイ金融政策委員会6回目
18日 米FOMC最終日(声明発表とFRB議長会見、FRB)
19日 ロシア大統領が内外記者会見(モスクワ)
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
19日 ニュージーランドGDP第3四半期統計発表
19日‐12月20日 欧州理事会(ブリュッセル)
20日 ロシア中央銀行理事会
21日 トルコ中銀金融政策会議
<12月23日‐12月29日>
23日 メキシコ11月貿易統計発表
25日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
25日 サウジアラビア11月貿易統計発表
26日 シンガポール11月工業生産高指数発表
27日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
27日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
28日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
29日 トルコ11月貿易統計発表
<12月30日‐2025年1月5日>
31日 サウジアラビア国際貿易サービス2023年
12月中 中央経済工作会議(北京)
12月中 ASEANデジタル高官会議(ADGSOM)
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 クロアチア大統領選挙(第1回投票)
12月中 WTO2024年第3四半期財貿易統計発表
年内 ジョージア大統領選挙
2025年1月
1日 ロシアで国税基本法改正(個人所得税の累進課税強化、法人税率引き上げなど)
1日 ポーランド、EU理事会議長国に就任
1日 タジキスタンがCISの議長国に
1日 ベラルーシがユーラシア経済連合の議長国に
3日 ドイツ11月労働市場統計発表
3日 コロンビア2024年11月輸出統計発表
3日 メキシコ2024年11月雇用統計発表
3日 米国第119議会第1会期開会
5日‐1月6日 イスラエル中央銀行金融委員会会合・経済見通し発表
6日 ベトナム12月分および2024年の社会・経済統計(GDP、CPI、投資、貿易など)発表
7日 米国12月貿易統計発表
8日 メキシコ2024年12月自動車生産・販売・輸出統計発表
8日 ブラジル2024年11月鉱工業生産指数発表
9日 コロンビア2024年12月CPI発表
9日 メキシコ2024年12月CPI発表
9日 ブラジル2024年11月月間小売り調査発表
9日 オーストラリア11月貿易統計発表
10日 米国12月雇用統計発表
10日 マレーシア11月IIP発表
10日 フィリピン10月直接投資発表
10日 インド10月IIP発表
10日 メキシコ2024年11月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル2024年12月IPCA発表
12日‐1月15日 Abu Dhabi Sustainability Week 「アブダビ・サステナビリティーウイーク」(アブダビ)
13日 インド11月CPI発表
14日 アルゼンチン2024年12月CPI発表
14日‐1月15日 フードセク&テック・ イスラエル(イスラエル・ネゲブ)
14日‐1月15日 イスル・アナリティカ(テルアビブ)
14日‐1月16日 Future Mineral Forum(リヤド)
15日 米国12月CPI発表
15日 フィリピン12月主要経済指標発表
15日 フィリピン11月OFW送金額発表
15日 英国12月CPI発表
15日 フランス12月CPI発表
15日 イスラエル12月CPI発表
16日 ドイツ12月CPI発表
16日 米国12月小売統計発表
19日‐1月21日 Saudi Fashiontex Expo(リヤド)
20日 第47代米国大統領就任
20日 アルゼンチン2024年12月貿易統計発表
20日 フィリピン12月国際総合収支(BOP)統計発表
20日‐1月24日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)
21日 ドイツ12月CPI発表
26日 UN世界経済状況・予測
26日 ベラルーシ大統領選挙
27日‐1月30日 アラブヘルス(アラブ首長国連邦・ドバイ)
28日‐1月29日 ブラジル中央銀行、Copom
28日‐1月29日 米国FOMC
29日 カナダ中央銀行政策金利発表・金融政策報告書発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
30日 米国第4四半期GDP(速報値)発表
31日 ケニア1月CPI発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問