外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年11月27日(水)

外交・安保カレンダー (2024年11月25日-12月1日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


クラウゼヴィッツ的な表現をお許し頂ければ、「外交は内政の延長」なのだとつくづく思う。これは最近の石破茂首相のAPEC、G20首脳会合出席に関する日本での報道を見聞きして感じたことだ。相変わらず、日本メディアの首脳外交報道は旧態依然、「政治部記者」による「国内政局視点」がどうしても抜けないのだ。

今回の中南米出張の内容は、冷静かつ公平に見て、「可もなく、不可もない」という意味で「まあまあの出来」だったと思う。だが、予想した通り、日本のメディアやSNSでは石破首相の「振る舞い」に対し厳しい批判が噴出した。ちなみに、筆者はいつもの通り、官邸に「ヨイショ」する気など全くないので、念のため。

外交とは、結局は「外国人との交わり」という種類の人間関係だから、人によってスタイルが異なるのは当然。しかし、今回のように、日本の総理が「何を言い、何を聞いたか」ではなく、テレビカメラに映った「振る舞い」ばかりを取り上げて批判的に報ずる姿勢は如何なものか、と思う。今回多くのメディアで問題視されたのは:

  • 会合前は、各国代表と座ったまま握手
  • 歓迎レセプションでは、腕組みをしながら鑑賞
  • 閉幕集合写真撮影には、事故渋滞に巻き込まれた影響もあり、欠席
  • 会議場では、1人でスマホを触っていた
  • 通常は右手で握手をするところ、両手を添えた

などである。これらに対しては:

  • 国際会議では、初出席の総理大臣が挨拶に回るべし
  • 外国首脳とは席を立って握手すべきだった
  • 首脳会談の握手は右手だけ、というのが外交のルール
  • 両手で握手すると下手に出ているように見える
  • 国の代表としてマナー、教養、品性を欠いていた
  • 周囲は外交上のマナーをレクチャーすべきだった
  • 挙句の果てに、トランプと会えなかった

などなど、厳しい声が噴出した。批判したのは、首脳外交の現場を見たこともない評論家や政治部記者が多かったが、「よう言うわ!」というのが筆者の率直な気持ちだ。誤解を恐れず言えば、今回日本の首相が国際会議の場でもスマホを手放せなかったのは、「103万円の壁」などをめぐり国内政治情勢が緊迫していたからだ。

昔なら、首相の海外出張中この種の内政問題は、官房長官か党の幹事長が仕切り、各派閥の意見も聞きながら、節目節目で首相に報告・相談すれば良かった。ところが、今回はこの自民党の意思決定プロセスが機能しない。恐らくは生の情報が直接首相に上がり、首相が何らかの判断を求められていたのだろう、と邪推する。

冒頭筆者が「外交は内政の延長」と書いた理由はこれだ。「外交では右手の握手がルール」?普通はそうかもしれないが、首脳レベルの握手に厳格なルールがあるとは思えない。当の石破首相もカメラから向かって右側に立つときは右手で握手していた。アラブ諸国だったら、男性同士は握手よりも両頬にキスをするのが普通だろう。

そもそも、トランプに会えなかったというが、今トランプに会える人は逆に「問題がある」という時代だ。もうアホラシイからこれ以上は書かない。それにしても、石破首相は「ここまで嫌われている」のかと思う。問題がないとは言わないが、あまりにバランスを欠いた批判をすれば、逆に、批判する側の品位が問われることも忘れないでほしい。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

11月26日 火曜日 NATO・ウクライナ委員会、ロシアの新型ミサイル発射を議論

 キルギス大統領訪独、独首相と首脳会談

 NATO事務総長、ギリシャ訪問

 カナダのノヴァスコシア州議会、解散総選挙

11月27日 水曜日 ナミビアで議会選挙

 スウェーデンで、北欧・バルト海諸国首脳会議開催

 地中海諸国対話会合、閉幕(イタリア)

11月28日 木曜日 カザフスタンでCSTO(Collective Security Treaty Organization集団安全保障条約機構)加盟国首脳会議開催

11月29日 金曜日 アイルランド議会の総選挙

11月30日 土曜日 アイスランド議会で前倒し選挙

12月1日 日曜日 ルーマニアで議会選挙

12月2日 月曜日 イスラエル首相、不正容疑につき議会証言

 米大統領、アンゴラ訪問(3日間)

最後はいつものガザ・中東情勢だ。今週ようやくイスラエルとヒズブッラの停戦が実現しそうである。戦闘は主としてレバノン南部やベイルートで続いていたが、戦況はイスラエルの圧勝であり、ヒズブッラもガザのような状況は回避したかったのだろう。ハマースとは異なり、以前からヒズブッラは停戦を求めていたとも報じられていた。

いつも書いていることだが、戦争の帰趨は外交では決まらない。戦争の帰趨は戦場で決まるものだ。具体的に言えば、交戦者の一方または両方が「負けそうだ」と感じた時、初めて交戦者は真面目に停戦協議を行う。それでも、一方が「もっと勝てる」と思えば、停戦には至らない。これが筆者の考える「戦争と停戦の法則」である。

この法則に従えば、今回はヒズブッラ側が「これ以上戦ったら組織が壊滅する」と思った、ということだろう。イスラエル側は少なくとも11月5日までは停戦する気などなかったろうが、トランプの勝利で停戦した方が有利だと考えたのか。本当の敵はイランであり、武器弾薬補給も必要だし、当面はハマースを叩き続けるつもりだからだろう。

ヒズブッラは単なるテロ組織ではない。レバノン国内にはヒズブッラの政治組織があり、国内政治をしっかりやっている。ここでも「戦争は政治の延長」「外交は内政の延長」なのだろう。今は、トランプ政権側が何も言わないことの方が、筆者にとってはよほど不気味である。今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート481125版】


<今週以前から続く会議>
11月18日‐11月28日 ベトナム第15期第8回の国会会議(フェーズ2)
11月22日‐12月8日 第19回ロメ国際見本市(トーゴ・ロメ)
11月
<11月25日‐12月1日>
25日 シンガポール10月CPI発表
25日 イスラエル中央銀行金融委員会会合
25日 EU教育・青年・文化・スポーツ相理事会(教育・青年)(ブリュッセル)
25日 自民党税制調査会総会(党本部)
25日 政府主催の全国知事会議(首相官邸)
25日‐11月27日 UNIDO、工業開発委員会、第52回会議(ウイーン)
25日‐11月27日 SAUDI HORECA (SHR21)(リヤド)
25日‐11月27日 サウジアラビアがWorld Investment Conference 2024年を開催(リヤド)
25日‐11月28日 欧州議会本会議(ストラスブール)
25日‐12月29日 対人地雷禁止条約(オタワ条約)検討会議(カンボジア・シエムレアプ)
25日‐11月29日 現代奴隷制に関する国連任意信託基金、理事会、第29回会議(ジュネーブ)
25日‐12月1日 プラスチック汚染に関する国際条約の政府間交渉委員会(韓国・釜山)
25日‐12月3日 危険物輸送に関する専門家小委員会第65回会合(ジュネーブ)
25日‐12月13日 人種差別撤廃委員会第114回会期(ジュネーブ)
26日 パレスチナ人民の不可侵の権利の行使に関する委員会、パレスチナ人民との国際連帯の日を記念した特別会議(ニューヨーク)
26日 EU教育・青年・文化・スポーツ相理事会(文化・スポーツ)(ブリュッセル)
26日 トランプ氏不倫口止め料不正処理事件の量刑言い渡し
26日 OECD2024年第3四半期G20貿易統計発表
27日 地方首長の同時総選挙(インドネシア)
27日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、非金融政策(バーチャル会議)
27日 ロシア大統領、カザフスタン訪問
27日 ロシア1~10月鉱工業生産指数発表
27日 米国第3四半期GDP(改定値)発表
27日‐11月28日 北欧・バルト諸国首脳会議(スウェーデン・ハルプスンド)
27日‐11月30日 MEORIENT INTERNATIONAL EXHIBITIONS (Textile, Appliance & Electronics, Power & Energy)「国際展示会(繊維、家電・電子、電力・エネルギー)」(インドネシア)
28日 臨時国会召集
28日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(バーチャル会議・フランクフルト)
28日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
28日‐11月29日 人権理事会、少数民族問題フォーラム、第17回会期(ジュネーブ)
29日 トルコ10月貿易統計発表
29日 EU競争力担当相理事会(研究・宇宙)(ブリュッセル)
29日 石破茂首相が所信表明演説
29日 ドイツ10月労働市場統計発表
29日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
30日 トルコ2023年第3四半期GDP統計発表
30日 アイスランド総選挙
30日‐12月6日 台湾総統、太平洋3カ国歴訪
11月中 集団安全保障条約(CSTO)首脳会議(カザフスタン・アスタナ)

12月
1日 ルーマニア議会選挙
2日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
2日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(雇用・社会政策)(ブリュッセル)
2日 インドネシア11月CPI発表
2日 ユーロスタット、10月失業率発表
2日‐12月5日 第62回ASEAN 標準化・品質管理諮問評議会〔The 57th Meeting of the ASEAN Consultative Committee for Standards and Quality(ACCSQ)〕
2日‐12月6日 FAO、理事会、第175回会議(ローマ)
2日‐12月6日 人権理事会、アフリカ系の人々に関する専門家作業部会、第35回会合(未定)(ニューヨーク)
2日‐12月6日 対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約第5回検討会議の締約国(シェムリアップ、カンボジア)
2日‐12月6日 情報通信技術のセキュリティと利用に関するオープンエンドワーキンググループ2021年~2025年、第9回回会議(ニューヨーク)
2日‐12月7日 国際刑事裁判所規程締約国会議第23回会期(デン・ハーグ)
2日‐12月13日 UNCCD、条約締約国会議および補助機関会合、第16回会議(リヤド)
2日‐12月13日 生物兵器禁止条約強化に関する作業部会第5回会合(ジュネーブ)
3日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ブリュッセル)
3日 メキシコ10月雇用統計発表
3日 ブラジル第3四半期GDP発表
3日 韓国11月CPI発表
3日 セム・イスラエル・エキスポ 2023/4(テルアビブ)
4日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
4日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
4日 オーストラリアGDP第3四半期統計発表
4日 トルコ11月CPI発表
4日‐12月6日 第20回ASEAN社会福祉開発担当相会議(SOMSWD)(ブルネイ)
4日‐12月6日 国連ハビタット、執行委員会、2024年第2回定例会(ナイロビ)
4日‐12月7日 Manufacturing Indonesia 2024(ジャカルタ)
5日 米国10月貿易統計発表
5日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
5日‐12月7日 Vietnam Medi-Pharm Expo 2024(ベトナム)
5日‐12月11日 Kuala Lumpur International Mobility Show (KLIMS) 2024(マレーシア)
6日 ユーロスタット、第3四半期実質GDP成長率発表
6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ブリュッセル)
6日 危険物輸送及び化学物質の分類と表示に関する世界調和システムに関する専門家委員会第12回会合(ジュネーブ)
6日 メキシコ11月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国11月雇用統計発表
6日 ベトナム11月分の社会・経済統計(CPI、投資、貿易など)発表
8日 ルーマニア大統領選挙(決選投票)
8日 サウジアラビア2024年第3四半期GDP統計発表
9日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
9日 中国11月CPI発表
9日 メキシコ11月CPI発表
9日‐12月10日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
9日‐12月12日 国連、専門機関、国際原子力機関の外部監査人パネル、第64回通常会議(ニューヨーク)
10日 ドイツ11月CPI発表
10日 中国11月貿易統計発表
10日 ブラジル11月IPCA発表
10日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
10日‐12月11日 ブラジル中央銀行、Copom
10日‐12月11日 Abu Dhabi Space Debate(アラブ首長国連邦・アブダビ)
10日‐12月12日 IFAD 執行理事会 第 143 回会議(ローマ)
11日 トルコ10月国際収支統計発表
11日 アルゼンチン11月CPI発表
11日 米国11月CPI発表
11日 カナダ中央銀行政策金利発表
11日 ロシア11月CPI発表
12日 イスラエル11月貿易統計発表
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル10月月間小売り調査発表
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日‐12月13日 ASEANプラス3 財務・中央銀行次長会議(ASEAN+3 Finance and Central Bank Deputies’Meeting)
12日‐12月13日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
13日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
13日 フランス11月CPI発表
15日 トルコ11月中央政府予算
15日 イスラエル11月CPI発表
15日 サウジアラビア11月CPI発表
16日 イスラエル2024年第3四半期GDP(改定値)発表
16日 モーション・コントロール、オートメーション、ロボティクス、パワー・ソリューション 2024(テルアビブ)
16日 中国11月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
16日 EU外相理事会(ブリュッセル)
16日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
16日‐12月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 シンガポール11月貿易統計発表
17日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
17日 英国労働市場統計(8月~10月)発表
17日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
17日 米国11月小売統計発表
17日 米国大統領選選挙人投票
17日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
17日‐12月18日 米国FOMC、経済見通し発表
18日 アルゼンチン第3四半期世帯アンケート結果(労働力調査)、11月貿易統計発表
18日 英国11月CPI発表
18日 ユーロスタット、11月CPI(HICP)発表
18日 米国第3四半期国際収支統計発表
18日 タイ金融政策委員会6回目
18日 米FOMC最終日(声明発表とFRB議長会見、FRB)
19日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
19日 ニュージーランドGDP第3四半期統計発表
19日‐12月20日 欧州理事会(ブリュッセル)
20日 ロシア中央銀行理事会
21日 トルコ中銀金融政策会議
23日 メキシコ11月貿易統計発表
25日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
25日 サウジアラビア11月貿易統計発表
26日 シンガポール11月工業生産高指数発表
27日 米国第3四半期対外資産負債残高統計発表
27日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
28日 ロシア第3四半期需要項目別GDP(速報値)発表
29日 トルコ11月貿易統計発表
31日 サウジアラビア国際貿易サービス2023年
12月中 中央経済工作会議(北京)
12月中 ASEANデジタル高官会議(ADGSOM)
12月中 最高ユーラシア経済評議会(ロシア・サンクトペテルブルク)
12月中 クロアチア大統領選挙(第1回投票)
12月中 WTO2024年第3四半期財貿易統計発表
年内 ジョージア大統領選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問