キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年7月30日(火)
[ 2024年外交・安保カレンダー ]
今年も8月がやって来た。日本のこの「暑い夏」、どうにかならんのかなぁ?昔は8月になったら暑くなるぞ、なんて思っていたが、今は下手すると6月末から真夏みたいな酷暑が始まる。やはり、気象変動というのは本当なのかもしれない。それに比べれば先週の国際政治は意外に静かだったような気がする。
米大統領選の「万華鏡」も先週は一休み、ハリス候補は伴走者(running mate副大統領候補のこと)を来週7日までに決めるはずだ。下馬評ではアリゾナ州のケリー上院議員、ペンシルベニア州のシャピロ知事、ミネソタ州のワルツ知事の3人に絞られたと報じられたが、どれも一長一短。でも、先週はもっと重要なことがあった。
先週末に日米「2+2」会合が東京で開かれたからだ。ブリンケン、オースティン両長官が揃って出席し、筆者にしてみれば、驚くべき、隔世の感のある、共同文書が発表された。そのことを日本のメディアは概ね次の通り報じている。例えば、日経新聞の電子版の書き出しはこんな感じだ。
「日米両政府は28日、都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開いた。在日米軍を再構成して部隊運用を担う新司令部を設け、自衛隊と指揮統制を連携させると確認した。「拡大抑止」の閣僚会合も初めて開催し、米国が核を含む戦力で日本を守る体制強化を進めると合意した。」
これが朝日新聞の電子版になると、「軍事の「日米一体化」、指揮権の独立性懸念 「核の傘」依存も深まる」との見出しで、「28日の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)では、米側が新たな司令部設置を表明。指揮統制連携強化で「日米一体化」はさらに加速することになる。一方、拡大抑止をめぐる初の閣僚級会合も開催。日本の米国の核兵器への依存はかつてないレベルで深まっている。」となる。
微妙だが両者は明らかに違う。それはともかく、共同文書で最も重要なのは「米国は、平時及び緊急事態における相互運用性及び日米間の共同活動に係る協力の深化を促進するため、在日米軍をインド太平洋軍司令官隷下の統合軍司令部として再構成する意図を有する。」の部分だ。分かり難い文章だが、ここは英語版を読もう。
英語版ではこう書かれている。
To facilitate deeper interoperability and cooperation on joint bilateral operations in peacetime and during contingencies, the United States intends to reconstitute U.S. Forces Japan (USFJ) as a joint force headquarters (JFHQ) reporting to the Commander of U.S. Indo-Pacific Command (USINDOPACOM).
要するに、在日米軍司令部は在日統合軍司令部になるということだ。筆者の現時点での理解に基づき、誤解を恐れず、これを高校野球に例えれば、在日米軍司令官が統合軍司令官になるということは、「野球部の練習用合宿所の管理人」だったおっさんが「甲子園で戦うチームの監督」になる、ぐらい「大きな変化」なのである。
しかも、その新たな司令官は日米の共同活動joint bilateral operation (日米二国間の共同オペレーション)において米軍側の指揮を執るということだ。勿論、自衛隊がこの米側司令官の指揮下に入ることはない。詳細は今後日米間で詰められることになると思うが、いずれにせよ、日本側の「指揮権の独立性」に懸念は生じないだろう。
しかし、筆者が気になったのはここではない。共同文書を丹念に読めば、統合司令部と拡大抑止に加えて、今回の2+2会合の3つ目の目玉は「防衛産業と先端技術面での協力」である。ウクライナ戦争の教訓は「備蓄した武器弾薬は一瞬にして消費される」という現実を踏まえた極めて重要な決定であるのだが・・・。
それ以上に、筆者が「隔世の感がある」と書いた理由は日米「2+2」会合の「進化」である。要するに、2+2会合を始めた頃は、2+2と言いながら、米側の某長官は多忙なので副長官で良いか?とか、毎年の開催は難しいとか、米側から色々言われたものだ。当時はフルの「2+2」会合を日本で開催するなんて、夢また夢の時代だったのである。
例えば、筆者が担当課長だった2000年9月にはニューヨークで2+2会合が開かれたが、その際の共同発表は、今から振り返れば、大半が日米安保の精神論と在日米軍問題に費やされ、今回のような具体的中身のある言及は殆どなかった。昨年1月の共同発表ですら、今回のような「ビーフ」はない。時代は大きく変わったのである。
このことを今週のJapanTimesに書こうと今構想を練っている。今の若い人は読んでくれないだろうが、「2+2」にも長い経緯があったこと、今回日本で「2+2」だけでなく、日米韓防衛大臣会合も開かれたことが戦略的に如何に重要な意味を持つか、を是非とも知ってもらいたいからである。
続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。
7月30日 火曜日 イラン新大統領就任
米フィリピン、2+2会合開催
豪州外相が韓国訪問
7月31日 水曜日 イタリア首相、4日間の訪中終了
ミャンマーの非常事態宣言(2021年2月)が失効
8月1日 木曜日 OPECプラスの閣僚モニタリング会合開催
8月2日 金曜日 ブルガリアでの気候変動パネル会合が終了
8月3日 米国務長官、アジア歴訪(ベトナム、ラオス、日本、フィリピン、シンガポール、モンゴル)を終了
コロンビア政府と反政府勢力との間の6か月間の停戦期間が終了
最後にいつものガザ・中東情勢だが、先週はネタニヤフ首相が訪米した。バイデン、ハリス、トランプ氏とそれぞれ会談し、議会演説も行ったが、その雰囲気は一昔前とは大違いだったようだ。それでも、ネタニヤフ首相のバイデン、トランプ両氏との会談は、これまで様々な経緯はあったものの、概ね良好だったと報じられている。
問題はハリス候補との会談だったらしい。同じ民主党でも、バイデンとハリスではイスラエルへの対応が微妙に異なったのだろうか。それとも、バイデンが「良い警官」をやり、ハリスに「悪い警官」を意図的にやらせたのだろうか。
11月にハリス候補が勝ったら、イスラエルとの関係では再度悶着があるかもしれない。いずれにせよ、ネタニヤフは今もハマース壊滅という最終目標を諦めておらず、恐らく11月まで現在の方針を変えないのではないか。
そんな中、イスラエルの戦闘区域が更に拡大する恐れが出てきた。ハマース、西岸パレスチナ人、イエメンのフーシー派に加え、ゴラン高原でもヒズブッラによる攻撃があり、イスラエル側に死傷者が出たからだ。当然イスラエルは何らかの報復攻撃をするだろうが、一体どこまでやるのかね。戦線拡大を望んでいるのはハマースで、実はイスラエルもヒズブッラも望んでいないとの見方もあるのだが・・・・。
今週はこのくらいにしておこう。
2024年 重要日程レポート31【7月29日版】
<今週以前から続く会議>
7月1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
7月1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
7月8日‐8月23日 大陸棚の限界に関する委員会、第61回会議(ニューヨーク)
7月
<7月29日‐8月4日>
29日‐8月2日 国際海底機関、総会、第二部、第29回会議(キングストーン)
29日‐8月9日 情報通信技術の犯罪目的への対処に関する包括的な国際的な条約を詳細に検討するための臨時委員会、再開の結論セッション(ニューヨーク)
29日‐9月13日 軍縮会議、第3部(ジュネーブ)
30日 6月の労働力調査(総務省)
30日 6月の有効求人倍率(厚労省)
30日‐7月31日 米国FOMC
30日‐7月31日 ブラジル中央銀行、Copom
30日‐7月31日 日銀金融政策決定会合(日銀)
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日‐8月1日 デジタルトランスフォーメーション・インドネシア・エキスポ(ジャカルタ)
31日 7月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)(EU統計局)
31日 7月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
7月中 OECD2024年第1四半期海外直接投資(FDI)統計発表
7月中 WTO2024年第1四半期サービス貿易統計発表
8月
1日 ユーロスタット、6月失業率発表
1日‐8月2日 全国知事会議(福井市)
2日 米国7月雇用統計発表
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 メキシコ6月雇用統計発表
3日 トルコ7月CPI発表
<8月5日‐8月11日>
5日‐8月9日 人権理事会諮問委員会、第32回会議(ジュネーブ)
5日‐8月16日 宇宙空間における軍拡競争の防止のための更なる実務的措置に関する政府専門家グループ 第2回会合(ジュネーブ)
5日‐8月23日 人種差別撤廃委員会 第113回(ジュネーブ)
6日 6月の家計調査(総務省)
6日 6月の毎月勤労統計調査速報(厚労省)
6日 メキシコ7月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国6月貿易統計発表
6日‐8月8日 ASEAN第22回公共サービス協力に関する高級実務者会議〔Senior Officials Meeting for the 22nd ASEAN Cooperation on Civil Service Matters(ACCSM)〕(ブルネイ)
7日 中国7月貿易統計発表
7日 決算―ソニーグループ、NTT、ソフトバンクグループ
7日 石油製品価格調査(経産省)
7日‐8月9日 国際地理空間情報管理専門家委員会、第14回会議(ニューヨーク)
8日 メキシコ7月CPI発表
8日 7月の景気ウオッチャー調査(内閣府)
9日 ブラジル7月IPCA発表
9日 ロシア7月CPI発表
9日 ロシア2024年第2四半期GDP成長率(速報値)発表
9日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
9日 フランス第2四半期失業率発表
9日 ドイツ7月CPI発表
9日 中国7月CPI発表
<8月12日‐8月18日>
12日‐8月16日 人権理事会、通信作業部会、第34回会議(ジュネーブ)
12日‐9月6日 障害者の権利に関する委員会、第31回会議(ジュネーブ)
13日 トルコ6月国際収支統計発表
13日 イスラエル7月貿易統計発表
14日 米国7月CPI発表
14日 ブラジル6月月間小売り調査発表
14日 フランス7月CPI発表
14日 韓国で元慰安婦をたたえる「慰安婦の日」
15日 米国7月小売統計発表
15日 中国7月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 フィリピン6月OFW送金額発表
15日 トルコ7月中央政府予算
15日 サウジアラビア7月CPI発表
15日 イスラエル7月CPI発表
15日‐8月16日 APECエネルギー相会合(リマ)
16日 APECエネルギー担当相会合(ペルー・リマ)
16日‐8月18日 第46回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース(HLTF-EI)(ラオス)
18日 イスラエル2024年第2四半期GDP(速報値)発表
<8月19日‐8月25日>
19日 フィリピン7月国際総合収支(BOP)統計発表
19日‐8月22日 米国民主党全国大会(イリノイ州シカゴ)
19日‐8月23日 生物兵器禁止条約の強化に関する作業部会、第4回会合(ジュネーブ)
20日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
20日 ユーロスタット、7月CPI発表
20日‐8月21日 国際持続可能エネルギーサミット「International Sustainable Energy Summit 」(ISES) 2024(マレーシア)
20日‐8月22日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting(SOM)〕(ラオス)
22日 トルコ中銀金融政策会議
22日 メキシコ第2四半期GDP発表
23日 OECD2024年第2四半期G20貿易統計発表
24日 北部準州議会選挙(オーストラリア)
<8月26日‐9月1日>
26日‐8月30日 UNDP/UNFPA/UNOPSの執行委員会、第2回定例会(ニューヨーク)
26日‐8月30日 国連人権理事会 恣意的拘禁に関する作業部会、第100回会合(ジュネーブ)
26日‐8月30日 第53回太平洋・島嶼国フォーラム首脳会議(ヌクアロファ・トンガ)
26日‐9月13日 児童の権利委員会、第97回会議(ジュネーブ)
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日‐8月28日 イスラエル中銀金融委員会会合
28日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
29日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
29日 トルコ7月貿易統計発表
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
30日 ドイツ7月労働市場統計発表
9月
1日 ドイツ・ザクセン州議会選挙
1日 ドイツ・テューリンゲン州議会選挙
2日 インドネシア8月CPI発表
3日 メキシコ7月雇用統計発表
3日 ブラジル第2四半期GDP発表
3日‐9月4日 第33回アグロ・マショフ国際博覧会(イスラエル・エルサレム)
3日‐9月4日 クリーンテック 2024(テルアビブ)
3日‐9月6日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)
4日 オーストラリア2024年第2四半期GDP統計発表
4日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
4日 米国7月貿易統計発表
4日 カナダ中央銀行政策金利発表
4日 トルコ8月CPI発表
5日 タイ8月CPI統計発表
6日 米国8月雇用統計発表
6日 メキシコ8月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ユーロスタット、第2四半期実質GDP成長率発表
8日 ロシア統一地方選挙
9日 メキシコ8月CPI発表
9日 中国8月CPI発表
9日‐9月13日 APEC中小企業担当相会合(ペルー・プカルパ)
10日 ヨルダン国政選挙
10日 ブラジル8月IPCA発表
10日 第2回大統領候補者討論会(開催地未定)
10日 英国労働市場統計(5~7月)発表
10日 ドイツ8月CPI発表
10日 中国8月貿易統計発表
10日‐9月13日 WTOパブリックフォーラム
11日 トルコ7月国際収支統計発表
11日 米国8月CPI発表
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 ロシア8月CPI発表
12日 ブラジル7月月間小売り調査発表
12日 インド7月鉱工業生産指数発表
12日 インド8月CPI発表
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
13日 G20デジタル経済相会合(ブラジル・マセイオ)
13日 ロシア第2四半期経済活動別GDP(速報値)発表
13日 ロシア中央銀行理事会
13日 フランス8月CPI発表
14日 中国8月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 ルーマニア大統領選挙(初回投票)
15日 トルコ8月中央政府予算
16日 大統領討論委員会(CPD)主催第1回大統領候補者討論会(テキサス州サンマルコス)
16日‐9月19日 Foodex Saudi 2024(リヤド)
16日‐9月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 インドネシア8月貿易統計発表
17日 米国8月小売統計発表
17日‐9月18日 米国FOMC、経済見通し発表
17日‐9月18日 ブラジル中央銀行、Copom
17日‐9月19日 EV Auto Show(EVAUTOSHOW)(リヤド)
18日 英国8月CPI発表
18日 ユーロスタット、8月CPI発表
19日 米国第2四半期国際収支統計発表
20日‐9月21日 未来サミット、アクション・デイズ(ニューヨーク)
22日‐9月23日 未来サミット、サミット(ニューヨーク)
21日 トルコ中銀金融政策会議
22日 ドイツ・ブランデンブルク州議会選挙
22日‐9月25日 英国労働党大会(リバプール)
23日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
23日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表
23日‐9月27日 国際工業見本市(コロンビア・ボゴタ)
24日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
24日‐9月26日 Global Water Expo(リヤド)
24日‐10月4日 第79回国連総会一般討論(米国・ニューヨーク)
25日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(バーチャル会議)
25日 ロシア1~8月鉱工業生産指数発表
25日 米国第2四半期対外資産負債残高統計発表
25日 CPD主催副大統領候補者討論会(ペンシルベニア州イーストン)
25日‐9月26日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)第9回年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
25日‐9月27日 Expoalimentaria 2024(ペルー・リマ)
26日 米国第2四半期GDP(確定値)発表
26日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
26日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
26日‐9月28日 ロシア・エネルギーウィーク(ロシア・モスクワ)
27日 メキシコ8月貿易統計発表
27日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表
27日 ドイツ8月労働市場統計発表
29日 オーストリア議会総選挙
29日 ルーマニア大統領選挙(決選投票)
29日 トルコ8月貿易統計発表
29日‐10月2日 英国保守党大会(バーミンガム)
9月中 WTO2024年第2四半期財貿易統計発表
9月下旬 フランス2025年政府予算案・社会保障会計法案発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問