外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年7月9日(火)

外交・安保カレンダー (7月8日-14日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週も、先週と同様、世界各地で行われた選挙の話から始めよう。
イギリスでは労働党が圧勝し、14年振りで政権に復帰した。イランでは1997年以来、27年振りで改革派大統領が誕生した。フランス議会選挙は極右勢力が伸び悩み、左派連合が第一党になった。更に、アメリカではTV討論会で老醜を曝したバイデン大統領に出馬断念を求める声が出始めている。
うーーん、英総選挙の結果だけは予想できたのだが・・・。イランで「改革派」の大統領が選ばれるとは、ね。殆ど期待していなかったので、結構驚いている。改革派大統領といえば、1997年のハタミ大統領当選以来のこと。当時、筆者は湾岸担当の中東第二課長だったので、早速イランに出張し、現地の雰囲気を見に行った覚えがある。
当時は、ホメイニ革命から20年近くたって、イランの社会が徐々に自由を求め始めた頃。スーク(市場)に出かけると、殆どの女性がヒジャーブで髪の毛を隠していたが、中で一人だけ、美しい黒髪をヒジャーブの中から惜しげもなく出している若い女性に遭遇した。しかも、話してみたら、英語が上手なそれは美しい女性だった。
どうして髪を出しているの?どうして英語が喋れるの?などと矢継ぎ早に質問を浴びせた。彼女も臆するところもなく、色々答えてくれた。イラン社会は決してイスラム教一辺倒ではないことが分かった瞬間である。そう言えば、当時から街中のブティックでは、大胆に胸の部分が空いたミニスカートのドレスが売られていたっけ・・・。
ちなみにその美しい女性との会話は僅か3分程度、イラン女性が外国人と話しているということで、周囲に野次馬が集まり、宗教警察が近づいてきたので、大使館員に急かされて急いで退散した。何事もなくて良かったという話だが、イランは想像以上に世俗的だった。今はとても懐かしい思い出である。
されば、あれから27年もたったイランを、イスラム教の厳格解釈しかできない強硬保守派のイスラム法学者が統治などできる訳がない。選挙結果が出る前の土曜日に某テレビ局で「どうなるか」と質問され、思わず、「強硬保守派が勝つのでは?」と答えてしまった。正直なところ、今のイランでは保守派優勢は動かないと思ったからだ。
ところが続いて「もし改革派が勝ったら?」と聞かれたので、幸い、「それはイラン民衆の政府に対する不満が爆発したということ、そちらの方が大変だと思う」と答えた記憶がある。でも、ハタミ大統領時代の最大の教訓は、「改革派大統領は改革ができない」ということ。今回もあまり期待してはいけないと思う。
話を欧州に戻そう。筆者に言わせれば、今回の各国選挙結果に共通するのは「現職指導層への逆風」である。フランスでは中道勢力の凋落が進み、極左と極右の両極化現象が深刻化している。英国では保守勢力が劣化し、大失敗した「EU離脱」強行により英国経済は停滞し、民衆の不満が爆発した。
この点は今の米国もイランも同様。イランでも経済格差や政治への不満が確実に広がっているからだ。最近の保守強硬派による「イスラム第一主義」政治がイランの国際的孤立と経済制裁を招き、国民生活は困窮している。これもイスラム極右勢力の失政の結果だろう。
要するに、これらの選挙結果は決して各国特有の現象ではなく、恐らくは、世界共通の潮流ではないかと思う。されば、今の日本の保守政治は大丈夫なのか・・・。この点については今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書いたので是非ともご一読願いたい。
続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。

7月9日 火曜日 インド首相訪露、露印首脳会議(2日間)
ブラジル大統領、ボリビア訪問
7月11日 木曜日 ワシントンでNATO首脳会議閉幕
韓国中央銀行が金利決定
7月12日 金曜日 日本首相訪独、日独首脳会談
7月15日 月曜日 シリアで議会選挙
ルワンダで総選挙

最後にいつもの定番のガザ・中東情勢だが、今週も表面的にはあまり大きな動きがない。一方、水面下ではハマースとイスラエルが停戦交渉を進めているようだが、もしこれが進展するとしたら、逆に筆者はちょっと嫌な感じがする。
それは、近い将来、イスラエルが南レバノンのヒズブッラと本格戦争に入るか、もしくは、西岸地域で新たなパレスチナ人による大騒動が起こる可能性が高まっているのか、恐らくそうしたことを暗示しているかもしれないと思うからだ。一難去ってまた一難か、実に怖い話である。
今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート28【7月8日版】

<今週以前から続く会議>

6月18日‐7月12日 人権理事会、第56回会議(ジュネーブ)
6月24日‐7月12日 UNCITRAL、第57回会合(ニューヨーク)
7月1日‐7月12日 国際海底権限機関、法的および技術委員会(第2部)(キングストーン)
7月1日‐7月19日 国際法セミナー、第58回(ジュネーブ)
7月1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
7月1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
7月7日‐7月8日 イスラエル中銀金融委員会会合

7月

<7月8日‐7月14日>

8日 スペースX、スターリンクグループ9-3・ファルコン9ブロック5号(ヴァンデンバーグ宇宙軍基地)
8日‐7月11日 産業総合博覧会「イノプロム」(ロシア・エカテリンブルク)
8日‐7月12日 人権理事会、先住民族の権利に関する専門機関、第17回会議(ジュネーブ)
8日‐7月12日 UNEP, 常駐代表委員会の年次副委員会、第11回会議(ナイロビ)
8日‐7月26日 拷問に対する委員会、第80回会議(ジュネーブ)
8日‐8月23日 大陸棚の限界に関する委員会、第61回会議(ニューヨーク)
9日 パウエルFRB議長が米上院銀行委員会で証言
9日 メキシコ6月CPI、自動車生産・販売・輸出統計発表
9日‐7月11日 NATO首脳会議(ワシントン)
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日 中国6月CPI発表
10日‐7月11日 世界EV・モビリティ技術フォーラム2024(リヤド)
10日‐7月14日 第7回ASEAN犯罪人引き渡し条約に関するASEAN法高官フォーラム(フィリピン)
11日 ブラジル5月月間小売り調査発表
11日 米国6月CPI発表
11日 ドイツ6月CPI発表
11日 不倫口止め料裁判でトランプ前米大統領に量刑宣告
12日 フランス6月CPI発表
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 中国第2四半期貿易統計発表

<7月15日‐7月21日>

15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 ルワンダ大統領選
15日‐7月18日 米国共和党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)
15日‐7月26日 国際海底権限機関、評議会、第二部、第二十九回の部分(キングストーン)
15日‐7月26日 ICSC, 第98回会議(ローマ)
16日 イスラエル2024年第1四半期GDP(確定値)発表
16日 米国6月小売統計発表
16日 メルコスール首脳会合(パラグアイ・アスンシオン)(予定)
16日‐7月17日 G7貿易相会合(イタリア・ビラサンジョバンニ、レッジョディカラブリア)
16日‐7月18日 太平洋・島サミット
16日‐7月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 国際刑事裁判所設立条約「ローマ規程」の採択を記念する「世界国際正義の日」
17日 英国6月CPI発表
17日 ユーロスタット、6月CPI発表
18日 欧州政治共同体会合(英国・ブレナム宮殿)
18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
18日 6月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
21日‐7月27日 ASEAN高級実務者会議(ASEAN Senior Officials’Meeting)(ラオス)
21日‐7月27日 第14回東アジア首脳会議(EAS)外相会議(ラオス)

<7月22日‐7月28日>

22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
22日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
22日‐7月26日 人権理事会、傭兵の使用を通じて人権を侵害し、民族自決権の行使を妨げる手段としての作業部会、第52回会議(ニューヨーク)
22日‐7月26日 第四回開発金融国際会議の準備委員会、第一回のセッション(アディスアベバ)
23日 米国2023年直接投資統計(国・産業別)発表
24日 イスラエル首相が米議会演説
25日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
25日‐7月26日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・リオデジャネイロ)
26日 メキシコ6月貿易統計発表
28日 ベネズエラ大統領選挙

<7月29日‐8月4日>

30日‐7月31日 米国FOMC
30日‐7月31日 ブラジル中央銀行、Copom
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日‐8月1日 デジタルトランスフォーメーション・インドネシア・エキスポ(ジャカルタ)
7月中 OECD2024年第1四半期海外直接投資(FDI)統計発表
7月中 WTO2024年第1四半期サービス貿易統計発表

8月

1日 ユーロスタット、6月失業率発表
2日 米国7月雇用統計発表
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 メキシコ6月雇用統計発表
3日 トルコ7月CPI発表
6日 メキシコ7月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国6月貿易統計発表
6日‐8月8日 ASEAN第22回公共サービス協力に関する高級実務者会議〔Senior Officials Meeting for the 22nd ASEAN Cooperation on Civil Service Matters(ACCSM)〕(ブルネイ)
7日 中国7月貿易統計発表
8日 メキシコ7月CPI発表
9日 ブラジル7月IPCA発表
9日 ロシア7月CPI発表
9日 ロシア2024年第2四半期GDP成長率(速報値)発表
9日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
9日 フランス第2四半期失業率発表
9日 ドイツ7月CPI発表
9日 中国7月CPI発表
13日 トルコ6月国際収支統計発表
13日 イスラエル7月貿易統計発表
14日 米国7月CPI発表
14日 ブラジル6月月間小売り調査発表
14日 フランス7月CPI発表
15日 米国7月小売統計発表
15日 中国7月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 フィリピン6月OFW送金額発表
15日 トルコ7月中央政府予算
15日 サウジアラビア7月CPI発表
15日 イスラエル7月CPI発表
16日 APECエネルギー担当相会合(ペルー・リマ)
16日‐8月18日 第46回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース(HLTF-EI)(ラオス)
18日 イスラエル2024年第2四半期GDP(速報値)発表
19日 フィリピン7月国際総合収支(BOP)統計発表
19日‐8月22日 米国民主党全国大会(イリノイ州シカゴ)
20日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
20日 ユーロスタット、7月CPI発表
20日‐8月21日 国際持続可能エネルギーサミット「International Sustainable Energy Summit 」(ISES) 2024(マレーシア)
20日‐8月22日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting(SOM)〕(ラオス)
22日 トルコ中銀金融政策会議
22日 メキシコ第2四半期GDP発表
23日 OECD2024年第2四半期G20貿易統計発表
24日 北部準州議会選挙(オーストラリア)
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日‐8月28日 イスラエル中銀金融委員会会合
28日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
29日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
29日 トルコ7月貿易統計発表
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
30日 ドイツ7月労働市場統計発表

宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問