キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年7月2日(火)
[ 2024年外交・安保カレンダー ]
「今週は忙しくなりそうだ」と先週書いたが、文字通りそうなってしまった。米大統領選のTV討論会、イラン大統領選挙、フランス議会選挙が続いた上に、NHKの『キャッチ!世界のトップニュース』という番組に出演する機会も得た。そのためか、原稿の仕上がりが遅れてしまったことをまずはお詫び申し上げたい。
さて、米大統領選のテレビ討論会だが、結果は「予想通り」というか、「だから言わんこっちゃない」というべきか、民主党関係者にとっては最悪の結末となった。6月27日の討論会でのバイデン候補のパーフォーマンスは、要するに「老醜」、大統領選候補者として実に大きな政治的ダメージを受けたからである。
早速ワシントンではバイデン候補の出馬辞退を求める声が出始めているが、それは如何なものかと思う。バイデンに代わる候補を出したいという気持ちはわからないではない。でも、今ここで民主党がバイデン氏に代わる新たな大統領候補をゼロから擁立するには、ちょっと時間が足りないではないのかね。
他の能力はいざ知らず、トランプ氏の「個人攻撃」や「ネガティブキャンペーン」能力はピカ一である。民主党の代替候補が誰になっても、その人物の「身体検査」はこれから、しかも徹底的に始まるのだ。されば、バイデン氏以外の候補が11月の大統領選挙でトランプ氏に勝利できる可能性は極めて低いと思わざるをえない。
要するに、民主党にとっては「進むも地獄、退くも地獄」である。それでは、これでトランプ氏が楽勝かといえば、それも違うだろう。バイデンが次期大統領として相応しくないことは、トランプが相応しいことを必ずしも意味しないからだ。共和党はもちろんだが、民主党政治の「劣化」も予想以上に深刻のようである。
続いてはフランスの総選挙だが、これも仏政治の劣化を象徴する事態となった。報道によれば、国民議会(下院、定数577)選挙の第1回投票の暫定結果は、右派政党「国民連合」(RN)が共闘勢力を含め得票率33.1%で首位、左派連合が27.9%で2番手となり、マクロン大統領の中道与党連合は何と第3位の20.7%に止まった。
マクロンの判断ミスとまでは言わない。だが、今のところは「肉を切らせて骨を切る」作戦が外れ、「骨肉とも切られてしまった」状態だ。7月7日の決選投票でRNの単独過半数を阻止すべく、左派系と中道系が包囲網構築を目指す動きも出始めたというが、昨日まで罵り合っていた連中が一致団結できるのかね?甚だ疑問である。
次はイラン大統領選挙だが、予想通り、強硬保守派と改革派候補による決選投票になったようだ。但し、これには注釈が必要である。筆者はイランに真の意味での「改革派」がいるとは思っていないからだ。本当にイランを「改革」したいなら、イスラム共和制そのものを直す必要があるが、彼らはそこまでは考えていないだろう。
決選投票は普通の保守派と強硬保守派の争いに過ぎない。しかも、「改革派」が勝利する可能性はあまり高くないだろう。立候補が認められた6人の候補者の中に「改革派」がいたことは、最高指導者が民衆の不満の「ガス抜き」効果を狙ったためで、決して「改革」を望んでいる訳ではないと思うからだ。
ここでNHK『キャッチ!世界のトップニュース』について一言。地上波ながら平日朝10時05分という時間帯ではあるが、これは極めて良質の国際ニュース番組だ。筆者が出演した7月1日の特集は【対イスラエル政策に影響も アメリカのユダヤ社会】だったが、こんな微妙な内容を、よくぞ取り上げてくれたと感謝している。
HPには「アメリカの人口の2%ほどを占めると言われているユダヤ系の人たち。政財界やメディアなど各界で著名人を輩出している。また、バイデン政権が国際社会から強い批判を受けながらもイスラエルを支援し続ける背景に、アメリカのユダヤ社会の影響があるとも指摘されている」とある。
続いて、「専門家と共に、アメリカのユダヤ社会が、対イスラエル政策に持つ影響力について分析する」とあったが、その専門家が筆者だった。なんと光栄で、有難いことか。これまでアメリカのユダヤ系社会については「陰謀論」的な言説が多かったが、これほど真正面から解説する番組はこれまでなかっただけに、とても嬉しかった。
続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。
7月2日 火曜日 | 独首相、ポーランド訪問 |
ハイチ大統領・首相、ワシントンで米国務長官と会談 |
|
7月3日 水曜日 | カザフスタンで上海協力機構首脳会議開催(2日間) |
欧州安全保障協力機構(OSCE)の議員会議が閉幕 | |
7月4日 木曜日 | 中国国家主席、タジキスタン訪問(3日間) |
英国、総選挙 | |
7月5日 金曜日 | イラン、大統領選挙決選投票 |
7月7日 日曜日 | フランス、総選挙・第二次投票 |
パラグアイでメルコスール外相会議開催 | |
7月8日 月曜日 | インド首相、ロシア訪問(2日間) |
最後にいつもの定番のガザ・中東情勢だが、今週はあまり大きなニュースがない。ということは、イスラエルが目立たないように、しかし、極めて効果的に「戦闘」を続けているということだ。ガザ関係については来週詳しく書くことにする。
今週はこのくらいにしておこう。
2024年 重要日程レポート27【7月1日版】
<今週以前から続く会議>
6月18日‐7月12日 人権理事会、第56回会議(ジュネーブ)
6月24日‐7月3日 危険物輸送に関する専門家委員会、第64回会議(ジュネーブ)
6月24日‐7月12日 UNCITRAL、第57回会合(ニューヨーク)
7月
<7月1日‐7月7日>
1日 ハンガリー、EU理事会議長国に就任
1日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、非金融政策(バーチャル会議)
1日 国会議員の所得公開
1日 6月の新車販売台数(自販連・全軽自協)
1日 中国が航空・宇宙関連分野の輸出規制実施
1日 豪総督に実業家モスティン氏が就任
1日‐7月5日 UNEP、常駐代表委員会の年次副委員会、第11回会議(ナイロビ)
1日‐7月12日 国際海底権限機関、法的および技術委員会(第2部)(キングストーン)
1日‐7月19日 国際法セミナー、第58回(ジュネーブ)
1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
1日‐8月2日 人権委員会、第141回会議(ジュネーブ)
2日 ユーロスタット、5月失業率発表
3日 米国5月貿易統計発表
3日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
3日 トルコ6月CPI発表
3日 新紙幣発行
3日 厚生労働省が公的年金の財政検証結果公表
3日‐7月4日 上海協力機構(SCO)首脳会議(カザフスタン・アスタナ)
3日‐7月5日 UNCTAD、競争法と政策に関する政府間専門家グループ、第22回会議(ジュネーブ)
4日 英総選挙
5日 米国6月雇用統計発表
7日 東京都知事選投開票
7日 仏下院選第2回投票
7日‐7月8日 イスラエル中銀金融委員会会合
<7月8日‐7月14日>
8日‐7月11日 産業総合博覧会「イノプロム」(ロシア・エカテリンブルク)
8日‐7月12日 人権理事会、先住民族の権利に関する専門機関、第17回会議(ジュネーブ)
9日 パウエルFRB議長が米上院銀行委員会で証言
9日 メキシコ6月CPI、自動車生産・販売・輸出統計発表
9日‐7月11日 NATO首脳会議(ワシントン)
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日 中国6月CPI発表
10日‐7月11日 世界EV・モビリティ技術フォーラム2024(リヤド)
10日‐7月14日 第7回ASEAN犯罪人引き渡し条約に関するASEAN法高官フォーラム(フィリピン)
11日 ブラジル5月月間小売り調査発表
11日 米国6月CPI発表
11日 ドイツ6月CPI発表
11日 不倫口止め料裁判でトランプ前米大統領に量刑宣告
12日 フランス6月CPI発表
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 中国第2四半期貿易統計発表
<7月15日‐7月21日>
15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 ルワンダ大統領選
15日‐7月18日 米国共和党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)
16日 イスラエル2024年第1四半期GDP(確定値)発表
16日 米国6月小売統計発表
16日 メルコスール首脳会合(パラグアイ・アスンシオン)(予定)
16日‐7月17日 G7貿易相会合(イタリア・ビラサンジョバンニ、レッジョディカラブリア)
16日‐7月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 英国6月CPI発表
17日 ユーロスタット、6月CPI発表
18日 欧州政治共同体会合(英国・ブレナム宮殿)
18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
21日‐7月27日 ASEAN高級実務者会議(ASEAN Senior Officials’Meeting)(ラオス)
21日‐7月27日 第14回東アジア首脳会議(EAS)外相会議(ラオス)
<7月22日‐7月28日>
22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
23日 米国2023年直接投資統計(国・産業別)発表
25日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
25日‐7月26日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・リオデジャネイロ)
26日 メキシコ6月貿易統計発表
28日 ベネズエラ大統領選挙
<7月29日‐8月4日>
30日‐7月31日 米国FOMC
30日‐7月31日 ブラジル中央銀行、Copom
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日‐8月1日 デジタルトランスフォーメーション・インドネシア・エキスポ(ジャカルタ)
7月中 OECD2024年第1四半期海外直接投資(FDI)統計発表
7月中 WTO2024年第1四半期サービス貿易統計発表
8月
1日 ユーロスタット、6月失業率発表
2日 米国7月雇用統計発表
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 メキシコ6月雇用統計発表
3日 トルコ7月CPI発表
6日 メキシコ7月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国6月貿易統計発表
6日‐8月8日 ASEAN第22回公共サービス協力に関する高級実務者会議〔Senior Officials Meeting for the 22nd ASEAN Cooperation on Civil Service Matters(ACCSM)〕(ブルネイ)
7日 中国7月貿易統計発表
8日 メキシコ7月CPI発表
9日 ブラジル7月IPCA発表
9日 ロシア7月CPI発表
9日 ロシア2024年第2四半期GDP成長率(速報値)発表
9日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
9日 フランス第2四半期失業率発表
9日 ドイツ7月CPI発表
9日 中国7月CPI発表
13日 トルコ6月国際収支統計発表
13日 イスラエル7月貿易統計発表
14日 米国7月CPI発表
14日 ブラジル6月月間小売り調査発表
14日 フランス7月CPI発表
15日 米国7月小売統計発表
15日 中国7月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 フィリピン6月OFW送金額発表
15日 トルコ7月中央政府予算
15日 サウジアラビア7月CPI発表
15日 イスラエル7月CPI発表
16日 APECエネルギー担当相会合(ペルー・リマ)
16日‐8月18日 第46回ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース(HLTF-EI)(ラオス)
18日 イスラエル2024年第2四半期GDP(速報値)発表
19日 フィリピン7月国際総合収支(BOP)統計発表
19日‐8月22日 米国民主党全国大会(イリノイ州シカゴ)
20日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
20日 ユーロスタット、7月CPI発表
20日‐8月21日 国際持続可能エネルギーサミット「International Sustainable Energy Summit 」(ISES) 2024(マレーシア)
20日‐8月22日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting(SOM)〕(ラオス)
22日 トルコ中銀金融政策会議
22日 メキシコ第2四半期GDP発表
23日 OECD2024年第2四半期G20貿易統計発表
24日 北部準州議会選挙(オーストラリア)
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日‐8月28日 イスラエル中銀金融委員会会合
28日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
29日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
29日 トルコ7月貿易統計発表
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
30日 ドイツ7月労働市場統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問