外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年6月4日(火)

外交・安保カレンダー (6月3日-9日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週は米国内政の話から始めよう。先月末、興味深い事象が二つ連続して起きた。まずは、トランプ氏がいわゆる「愛人口止め料」関連疑惑で刑事訴追された事件。この裁判では5月30日にNY州裁判所の陪審員がトランプ氏は有罪と評決した。前大統領で有力大統領選候補の有罪評決という、前代未聞の出来事だ。

早速トランプ氏は「バイデンが仕掛けた魔女狩り不当裁判」だなどと大いに吠えたが、その表情は硬く険しかった。翌31日、今度はバイデン大統領が記者会見を行い、ガザ戦争を終わらせるための3段階からなるイスラエル提案の概要を発表。「今は決定的瞬間だ」などと述べ、ハマースが同提案を受け入れるよう強く求めた。

負け犬の如きトランプが裁判批判を行った翌日、今度は大統領然としたバイデンが重要外交政策を語る、というベタな演出はあまりに政治的で不快感を抱いたほど。まあ、それはさて置き、米国では今や関心はバイデン大統領の息子ハンター・バイデンの銃不法所持裁判の行方に移りつつある。それにしても面白い国だなぁ。

トランプの有罪評決で11月の大統領選にどの程度影響が出るのか、筆者は「わからない」、これが正直なコメントだ。一部全国世論調査ではバイデンが僅かながら逆転したとも報じられたが、問題は7激戦州、具体的には、時計回りでウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダの各州だ。

各州での世論調査は有罪宣告後まだ行われていないのではないか。また、仮に結果が出たとしても、投票日の5カ月以上も前の世論調査など、人気投票以上でも以下でもない。だから、「これで一喜一憂」しても仕方がないのだが、米国には4年に一度「これで食っている」人々もいる。これも米国内政の一断面なのだ。

今週はシンガポールでシャングリラ対話があった。アジア安保会議などと訳されているが、決して公式の国際会合ではない。英国シンクタンクIISSのやり手興行師が毎年主催し、便利が良いので皆が集まるようになったイベントだ。欧州ではミュンヘンで似たような会議が毎年開かれている。概要は報じられているので省かせて頂く。

筆者が気になったのは、今回会合のサイドラインで、日米韓3カ国の防衛大臣が会談し、3カ国の共同訓練の拡充で一致したことだ。北朝鮮だけでなく、中国も念頭に置いた地域の軍事的脅威を抑止する方策を整える、とも報じられた。尹政権の下で韓国も少しずつ変わりつつあるのだなぁ。それにしても、隔世の感がある。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。

6月 4日 火曜日 インド総選挙結果発表

         スロベニア、パレスチナ国家承認決議を検討

         米国防長官、カンボジア訪問

         パキスタン首相、訪中(5日間)

         (ちなみに、この日は天安門事件が起きた日、欧米人には関係ないのかねぇ)

6月 5日 水曜日 NATO事務総長、フィンランド訪問

6月 6日 木曜日 Dデー80周年記念式典に米仏大統領ら各国首脳が参列

         国連総会、新議長を選出

6月 7日 金曜日 アイルランド、 地方選挙

6月 9日 日曜日 ブルガリア、ベルギーでそれぞれ議会選挙

6月10日 月曜日 BRICS外相会合(ロシア)

最後は定番のガザ・中東情勢を書いておく。先週は「ガザをめぐり人質解放と停戦に向けた交渉は長期化するだろう」と書いたが、先週末に米大統領が絶妙のタイミングで新たな停戦案を公表したことで、再び交渉進展の可能性が僅かだが出てきたようだ。でも未だ予断は許されない。こう考える背景とその問題点を纏めてみよう。

  • バイデンは今回の案を「イスラエルの案」と述べたが、イスラエルが作ったなら、なぜネタニヤフが発表しないのか?それはネタニヤフが発表したくないからだ。 
  • ネタニヤフは現在微妙なバランスで維持されている連立政権を壊したくない。ネタニヤフが賛成すると言った途端、超強硬保守派閣僚数名が連立を離脱するからだ。
  • この案は米イスラエルだけでなく、恐らくはサウジ、エジプト、カタルなど、イランの台頭を快く思わないアラブ諸国も加わって、入念に作り上げられたものに違いない。だが、ネタニヤフは「オウンゴールになる」ので自分では決めたくない。逆に、これを決めないと、今度は(ガンツの如き)連立内穏健派閣僚が離脱しかねないのも事実だ。
  • 合意案は内容的に3つのフェーズからなるというが、報じられたものが全てではないはず。全てを出したら、恐らく纏まらないだろうからだ。悪魔は詳細に宿るものだ。
  • 第一段階の肝は「戦闘の一時停止」「イスラエル軍の人口密集地からの撤退」「人質の一部とパレスチナ囚人との交換」だが、どれもキワモノである。
  • 「戦闘一時停止」は「全面的かつ完全」というが、実は「戦闘はいつでも再開可能」「残りの人質はまだ帰らない」ということ。ハマースもイスラエルも満足できない。
  • 第二段階では漸く「敵対行為の恒久的停止」となるが、ハマースは良くても、イスラエル軍は一体どうするのか、更に、第三段階でガザは誰が統治するのか???
  • 停戦の有無は今後一週間の動き、特にネタニヤフの決断力(または非決断力、というか、優柔不断)に掛かっている。期待すると裏切られるのが中東だから、期待しないで待っていよう。

今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート23【6月3日版】

<今週以前から続く会議>

5月6日‐6月21日 国際民間航空機関(ICAO)第226回航空委員会(モントリオール)
5月13日‐6月28日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)
5月28日‐6月5日 非政府組織委員会、通常会合再開(ニューヨーク)

6月

<6月3日‐6月9日>

3日 ユーロスタット、2月失業率発表
3日 国連近東パレスチナ難民救済事業機関への自発的な寄付の発表のための総会臨時委員会、誓約会議(ニューヨーク)
3日‐6月6日 第6階ASEAN防衛交流プログラム〔ADIP〕(ラオス)
3日‐6月7日 国連開発計画(UNDP)/国連人口基金(UNFPA)/国連人口基金(UNOPS)年次総会(ニューヨーク)
3日‐6月7日 IAEA、理事会(ウイーン)
3日‐6月7日 委員会対拷問、拷問の予防に関する小委員会、第53回会議(ジュネーブ)
3日‐6月7日 女性差別撤廃委員会、事前審議作業部会、第90回会議(ジュネーブ)
3日‐6月13日 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、条約締約国会議補助機関の会合、第60回会合(ボン・ドイツ)
3日‐6月14日 移民労働者およびその家族の権利保護委員会、第38回会議(ジュネーブ)
3日‐6月14日 ILO, 国際労働会議、第112回会議(ジュネーブ)
4日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州、民主党:ワシントンDC)
4日 ブラジル第1四半期GDP発表
4日‐6月6日 APHM国際ヘルスケア会議・展示会2024 (マレーシア)
4日‐6月7日 COMPUTEX、InnoVEX(台北)
4日‐6月8日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting〕、ASEANプラス3高級実務者会議〔ASEAN Plus Three Senior Officials’ Meeting (APTSOM)〕(ラオス)
4日‐6月14日 ITU評議会、2024年の会議(ジュネーブ)(未定)
5日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
5日‐6月6日 IPEF閣僚会合及びクリーン経済投資家フォーラム(シンガポール)
5日‐6月7日 医療・ヘルスケア産業展示会「Africa Health Excon」(エジプト・カイロ)
5日‐6月8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルグ)
5日‐6月9日 APEC観光相会合(ぺルー・クスコ)
6日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
6日 米国4月貿易統計発表
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日‐6月9日 欧州議会議員選挙
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 米国5月雇用統計発表
7日 中国5月貿易統計発表
7日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
7日  沖縄県議選告示(16日投開票)
8日 米国大統領予備選挙(民主党:グアム、米領バージン諸島)
9日 ベルギー連邦議会選挙
9日 タイ上院選投票(16日、26日も)
9日‐6月15日 アヌシー国際アニメーション映画祭開幕(アヌシー・フランス)

<6月10日‐6月16日>

10日 外国人の収容・送還ルールを見直す改正入管難民法が施行
10日‐6月12日 アジア太平洋グリーン水素会議&展示会(APGH)2024 (マレーシア)
10日‐6月14日 米アップル年次開発者会議「WWDC」(クパチーノの本社)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル5月IPCA発表
11日‐6月12日 米国FOMC、経済見通し発表
11日‐6月12日 ウクライナ復興会議(ベルリン)
12日 米国5月CPI発表
12日 ドイツ3月消費者物価指数(CPI)発表
12日 フランス3月CPI発表
12日 中国5月CPI発表
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 インド5月CPI統計発表
12日 FOMC最終日(FRB)
12日‐6月14日 DRCマイニング・ウィーク(コンゴ民主共和国・ルムンバシ)
13日 ブラジル4月月間小売り調査発表
13日‐6月14日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
13日‐6月14日 第2回アスタナ経済フォーラム (カザフスタン・アスタナ)
13日‐6月15日 G7首脳会議(イタリア・プーリア州)
14日 ロシア5月CPI発表

<6月17日‐6月23日>

17日 中国5月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
17日 欧州理事会、非公式会合(ブリュッセル)
17日‐6月18日 特別欧州理事会(ブリュッセル)
18日 EU一般問題理事会(結束)(ルクセンブルグ)
18日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルグ)
18日 ユーロスタット、3月CPI発表
18日 米国5月小売統計発表
18日‐6月19日 ブラジル中央銀行、Copom
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(バーチャル会議)
20日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
20日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
20日 米国第1四半期国際収支統計発表
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
20日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(社会政策)(ルクセンブルグ)
21日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ルクセンブルグ)
21日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
21日‐6月23日 WTO議長プログラム年次会合(スイス・ジュネーブ)
23日‐6月26日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)

<6月24日‐6月30日>

24日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 第39回日ASEANフォーラム(タイ)
25日‐6月27日 建設展示会「BIG 5 Construct Egypt」(エジプト・カイロ)
26日 米国第1四半期対外資産負債残高統計発表
26日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表
26日‐6月29日 FOOD TAIPEI 2024(台北)
27日 米国第1四半期GDP(確定値)発表
27日 メキシコ5月貿易統計、雇用統計発表
27日‐6月28日 欧州理事会(ブリュッセル)
28日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
6月上旬 ラオス5月CPI統計発表
6月下旬 モンゴル国会議員選挙

7月

1日 ハンガリー、EU理事会議長国に就任
1日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、非金融政策(バーチャル会議)
2日 ユーロスタット、5月失業率発表
3日 米国5月貿易統計発表
3日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
3日 トルコ6月CPI発表
3日‐7月4日 上海協力機構(SCO)首脳会議(カザフスタン・アスタナ)
5日 米国6月雇用統計発表
7日‐7月8日 イスラエル中銀金融委員会会合
8日‐7月11日 産業総合博覧会「イノプロム」(ロシア・エカテリンブルク)
9日 メキシコ6月CPI、自動車生産・販売・輸出統計発表
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日 中国6月CPI発表
10日‐7月11日 世界EV・モビリティ技術フォーラム2024(リヤド)
10日‐7月14日 第7回ASEAN犯罪人引き渡し条約に関するASEAN法高官フォーラム(フィリピン)
11日 ブラジル5月月間小売り調査発表
11日 米国6月CPI発表
11日 ドイツ6月CPI発表
12日 フランス6月CPI発表
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 中国第2四半期貿易統計発表
15日 中国第2四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
15日 ルワンダ大統領選
15日‐7月18日 米国共和党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)
16日 イスラエル2024年第1四半期GDP(確定値)発表
16日 米国6月小売統計発表
16日 メルコスール首脳会合(パラグアイ・アスンシオン)(予定)
16日‐7月17日 G7貿易相会合(イタリア・ビラサンジョバンニ、レッジョディカラブリア)
16日‐7月19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日 英国6月CPI発表
17日 ユーロスタット、6月CPI発表
18日 欧州政治共同体会合(英国・ブレナム宮殿)
18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
21日‐7月27日 ASEAN高級実務者会議(ASEAN Senior Officials’Meeting)(ラオス)
21日‐7月27日 第14回東アジア首脳会議(EAS)外相会議(ラオス)
22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
23日 米国2023年直接投資統計(国・産業別)発表
25日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
25日‐7月26日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・リオデジャネイロ)
26日 メキシコ6月貿易統計発表
28日 ベネズエラ大統領選挙
30日‐7月31日 米国FOMC
30日‐7月31日 ブラジル中央銀行、Copom
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日‐8月1日 デジタルトランスフォーメーション・インドネシア・エキスポ(ジャカルタ)
7月中 OECD2024年第1四半期海外直接投資(FDI)統計発表
7月中 WTO2024年第1四半期サービス貿易統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問