外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年5月29日(水)

外交・安保カレンダー (5月20日-6月2日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週は、日中韓首脳会議もあったが、先週に続きワシントンで感じたことを書く。帰国直前、ジョージタウン大学現代アラブ研究センターの同級生で、今は中東関係シンクタンクにいる友人と会った。もう付き合いは43年、ワシントンで最も古い友人の一人で微妙な話も率直に話ができる、筆者には定点観測のための貴重な「百葉箱」だ。

その彼の周辺でちょっとした「異変」が起きているという。近年彼らユダヤ系米国人を取り巻く環境が激変しつつあるというのだ。先週は、イスラエルと米国の関係が「曲がり角」に差し掛かっているのかもしれないと書いたが、「曲がり角」どころか、米国では一つの時代が終わり始めたのかもしれない、と思うようになった。

彼によれば、近年米国では反ユダヤ主義が復活しており、大学での「パレスチナ連帯」デモも、実はその一環に過ぎない、のだそうだ。驚いた筆者に対し彼は、米アトランティック誌の本年4月号の「米国ユダヤ人の黄金時代は終わりつつある」と題する小論を読むよう勧めてくれた。早速読んだ同エッセイの結論は筆者には衝撃だった。

  • 反ユダヤ主義は右派だけでなく左派でも増えている
  • ユダヤ系米国人の前例なき安全と繁栄の時代は終わりつつある
  • 彼らが望むリベラル秩序も破壊の危機に瀕している

こうした感覚は、恐らく誰も口には出さないが、最近のユダヤ系米国人コミュニティの多くが共有する閉塞感に繋がるものだと直感した。日本でユダヤ系の話をすると、必ずと言って良いほど、各方面から「陰謀論」絡みの誤解に直面するので、これまでは避けてきたのだが、今回は敢えて書くことにした。

詳細は今週の産経新聞とJapanTimesにそれぞれ違う視点から書いた小論をご一読願いたいが、結論は決してバラ色ではない。2020年代がますます1930年代に似てきたのではないかと、憂いは募るばかりだ。どうかこうした直感は単なる誤解か錯覚に過ぎませんように、と心から祈っている。

続いて、いつもなら、欧米から見た今週の世界の動きを見ていくところだが、今週はメモリアルデー週末ということで、関連情報が十分集まらなかった。お休みとさせて頂くのでご容赦願いたい。

最後は定番、ガザでの停戦交渉の行方と中東情勢を書いておこう。

  • 米イスラエル間、特にバイデンとネタニヤフの間の「チキンゲーム」は幸い未だ始まってはいないようだが、和解に至ったとは到底言えないだろう。それを笑うのはイランとハマースであり、中露もそれを大歓迎する、という力関係に変化はない。
  • 個人的には、イラン大統領事故死後のイラン内政に関心があるが、ここで穏健派が主導権を握るとは到底思えない。ライースィ大統領は強力な保守強硬派だが、この種の「イスラエム法学者」などイランには腐るほどいるので、後任のリクルートは難しくないだろうからだ。
  • 26日のイスラエル軍によるラファ北西部への空爆で40人以上の民間人が亡くなったが、イスラエル軍報道官は、「標的に隣接した施設に武器が保管されており、攻撃の結果それに引火した可能性を含め、あらゆる可能性を調査している」と述べ、二次爆発による民間人犠牲拡大の可能性を示唆したそうだ。
  • この事件をイスラエル首相は「tragic mistake」と述べたそうだが、mistakeとは近くに武器弾薬庫があることを知らなかった、という意味なのか。いずれにせよ、この種の問題は結果が全てだ。イスラエルは事実上、ラファ侵攻を始めたということか。
  • ICC(国際刑事裁判所)の検察官がハマースとイスラエルの指導者の逮捕状を請求した「事件」では、不幸なことに、国際法が未だ一元的な法規範として確立していないことを露呈する結果となった。議論は多々あるだろうが、少なくとも非国家のハマースと主権国家イスラエルを法的に同等に扱うことには、どうしても違和感がある。
  • という訳で、今後もガザをめぐり人質解放と停戦に向けた交渉は長期化するだろう。

今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート22【5月27日版】

<今週以前から続く会議>

4月15日‐5月31日 国際法委員会 第75回会合、第一部(ジュネーブ)
4月19日‐6月1日 インド総選挙投票開始
5月6日‐6月21日 国際民間航空機関(ICAO)第226回航空委員会(モントリオール)
5月13日‐5月31日 女性差別撤廃委員会、第88回会合(ジュネーブ)
5月13日‐6月28日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)
5月20日‐5月31日 第140回国際麻薬統制理事会(ウイーン)

5月

<5月27日‐6月2日>

27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27日‐5月30日 第4回小島嶼開発途上国国際会議(セントジョンズ (ニューファンドランド・ラブラドール州)
27日 スペースX・スターリンクグループ6-60、ファルコン9ブロック5号(ケープカナベラル宇宙軍施設)
27日‐5月28日 EU外相理事会・(防衛)(ブリュッセル)
27日‐6月1日 WHO、世界保健総会、第77回会合(ジュネーブ)
28日 OECD2024年第1四半期G20貿易統計発表
28日 EU国防相理事会(ブリュッセル)
28日‐6月5日 非政府組織委員会、通常会合再開(ニューヨーク)
29日 民間的及び政治的権利に関する国際規約締約国会議、第40回会合(ニューヨーク)
29日 スペースX・アースケア(EarthCARE)、ファルコン9ブロック5号(ヴァンデンバーグ宇宙軍基地)
29日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
29日 南ア総選挙
30日 ロスコスモス・プログレスMS-27(88P)、ソユーズ2.1a(バイコヌール宇宙基地・カザフスタン)
30日 メキシコ4月雇用統計発表
30日 米国第1四半期GDP(改定値)発表
30日 ユーロスタット、4月失業率発表
30日 EU外相理事会・(貿易)(ブリュッセル)
30日 トルコ4月貿易統計発表
30日 サウジアラビア4月貿易統計発表
30日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
31日 4月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
31日 5月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
31日 UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFPおよびUN-Womenの理事会、UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFPおよびUN-Womenの理事会合同会議(ニューヨーク)
31日‐6月2日 アジア安全保障会議(シンガポール)

6月

1日 アイスランド大統領選挙
1日 「OPECプラス」閣僚級会合(ウィーン)
2日 メキシコ大統領選挙、上下両院議員選挙、メキシコ市など9州知事選挙
3日 ユーロスタット、2月失業率発表
3日 国連近東パレスチナ難民救済事業機関への自発的な寄付の発表のための総会臨時委員会、誓約会議(ニューヨーク)
3日‐6月6日 第6階ASEAN防衛交流プログラム〔ADIP〕(ラオス)
3日‐6月7日 国連開発計画(UNDP)/国連人口基金(UNFPA)/国連人口基金(UNOPS)年次総会(ニューヨーク)
3日‐6月7日 IAEA、理事会(ウイーン)
3日‐6月7日 委員会対拷問、拷問の予防に関する小委員会、第53回会議(ジュネーブ)
3日‐6月13日 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、条約締約国会議補助機関の会合、第60回会合(ボン・ドイツ)
3日‐6月14日 移民労働者およびその家族の権利保護委員会、第38回会議(ジュネーブ)
3日‐6月14日 ILO, 国際労働会議、第112回会議(ジュネーブ)
4日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州、民主党:ワシントンDC)
4日 ブラジル第1四半期GDP発表
4日‐6月6日 APHM国際ヘルスケア会議・展示会2024 (マレーシア)
4日‐6月7日 COMPUTEX、InnoVEX(台北)
4日‐6月8日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting〕、ASEANプラス3高級実務者会議〔ASEAN Plus Three Senior Officials’ Meeting (APTSOM)〕(ラオス)
5日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
5日‐6月6日 IPEF閣僚会合及びクリーン経済投資家フォーラム(シンガポール)
5日‐6月7日 医療・ヘルスケア産業展示会「Africa Health Excon」(エジプト・カイロ)
5日‐6月8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルグ)
5日‐6月9日 APEC観光相会合(ぺルー・クスコ)
6日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
6日 米国4月貿易統計発表
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日‐6月9日 欧州議会議員選挙
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 米国5月雇用統計発表
7日 中国5月貿易統計発表
7日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
8日 米国大統領予備選挙(民主党:グアム、米領バージン諸島)
9日 ベルギー連邦議会選挙
10日‐6月12日 アジア太平洋グリーン水素会議&展示会(APGH)2024 (マレーシア)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル5月IPCA発表
11日‐6月12日 米国FOMC、経済見通し発表
11日‐6月12日 ウクライナ復興会議(ベルリン)
12日 米国5月CPI発表
12日 ドイツ3月消費者物価指数(CPI)発表
12日 フランス3月CPI発表
12日 中国5月CPI発表
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 インド5月CPI統計発表
12日‐6月14日 DRCマイニング・ウィーク(コンゴ民主共和国・ルムンバシ)
13日 ブラジル4月月間小売り調査発表
13日‐6月14日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
13日‐6月14日 第2回アスタナ経済フォーラム (カザフスタン・アスタナ)
13日‐6月15日 G7首脳会議(イタリア・プーリア州)
14日 ロシア5月CPI発表
17日 中国5月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
17日 欧州理事会、非公式会合(ブリュッセル)
17日‐6月18日 特別欧州理事会(ブリュッセル)
18日 EU一般問題理事会(結束)(ルクセンブルグ)
18日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルグ)
18日 ユーロスタット、3月CPI発表
18日 米国5月小売統計発表
18日‐6月19日 ブラジル中央銀行、Copom
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(バーチャル会議)
20日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
20日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
20日 米国第1四半期国際収支統計発表
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
20日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(社会政策)(ルクセンブルグ)
21日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ルクセンブルグ)
21日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
21日‐6月23日 WTO議長プログラム年次会合(スイス・ジュネーブ)
23日‐6月26日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
24日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 第39回日ASEANフォーラム(タイ)
25日‐6月27日 建設展示会「BIG 5 Construct Egypt」(エジプト・カイロ)
26日 米国第1四半期対外資産負債残高統計発表
26日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表
26日‐6月29日 FOOD TAIPEI 2024(台北)
27日 米国第1四半期GDP(確定値)発表
27日 メキシコ5月貿易統計、雇用統計発表
27日‐6月28日 欧州理事会(ブリュッセル)
28日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
6月上旬 ラオス5月CPI統計発表
6月下旬 モンゴル国会議員選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問