外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年5月14日(火)

外交・安保カレンダー (5月13日-19日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


先週は意を決し、5日間中国本土に出張させてもらった。北京で2泊、深圳と広州でそれぞれ1泊という強行軍だった。中国出張は7年ぶりだったが、今回は中国を「再発見」する意義深い旅となった。この場をお借りして、改めて、出張中お世話になった在外公館関係者に深甚なる謝意を表したい。

今回の出張で最も強く感じたことは、日中の一般国民のレベルで、相手側に対する深刻なパーセプションギャップが生じているのでは、ということ。3年間のゼロコロナ政策により、中国人の対日観と日本人の対中観の「ずれ」が従来以上に拡大しているのではないか。確かに、こうしたギャップは昔からだが、今回は特に深刻だと思った。

日本人の対中観は悪化している。典型例は「中国は怖い国。何もしていなくても、スパイ容疑で拘束される、とても安心して旅行に行きたいとは思わない」という懸念だ。筆者自身、多くの友人から「今度は拘束されるぞ」と茶化されたこともあり、長い間、訪中を躊躇していたほどだ。

経済面でも対中観は好転していない。典型例は「中国経済はもうピークを過ぎた。経済は直ちに崩壊はしないが、もう長期高度成長は無理だ。とても安心して投資できる状況にはない」といった懸念である。更に、いわゆる「経済安全保障」問題が追い打ちをかけたからか、対中投資が冷え込んでいるとの見方もある。

ところが中国側のパーセプションは全く逆。政治面では「拘束が怖いというが、中国の法律を守りさえすれば、全く問題ない」「なぜ日本は今や落ち目のアメリカへの依存を続けるのか。なぜ中国の側に付かないのか」と感じている。経済面でも「日本経済はもうオワコン。中国経済は日本のようはならない」という根拠なき楽観論がある。

だが、日中関係に関する限り、真実は必ずしも中間にはないのだろう。この点、詳しくは今週のJapanTimesにコラムを書いたのでご一読願いたい。ちなみに、北京には国際問題を議論できる中国人の友人もまだいると思ったが、今回は敢えて連絡しなかった。彼らを不必要な窮地に追い込みたくないからだ。

今回出張の目玉はハードウエア製造業の躍進が凄まじい深圳、東莞など珠江デルタ地域訪問だった。BYDは年間300万台のEV系車両を生産し、夥しい数の裾野の広い製造業がこれらハイテク企業を支えている。ここは一部製造業がまだ健在の日本経済とも親和性が高く、日中スタートアップ産業誕生の可能性を秘めている。

この点については今週の産経新聞WorldWatchに書いたので、こちらもご一読願いたい。欧米が「中国政府の補助金で過剰生産された製品のダンピング輸出が競争を歪めている」と批判するのに対し、中国側は「過剰生産」そのものを否定しているらしい。だが、恐らく実態はそれほど単純な話ではなさそうだ。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

5月14日 火曜日 韓国外相が訪中(15日まで)

         デンマーク、コペンハーゲン民主首脳会議を主催

5月15日 水曜日 スイス大統領訪独、ドイツ首相と会談

         シンガポール首相、退任

5月16日 木曜日 バハレーン、アラブ連盟首脳会議を主催

         NATO国防大臣会合(ブラッセル)

5月17日 金曜日 アルゼンチン外相訪米、国務長官と会談

         ラトビア、欧州外相会合を主催

         モルドバ大統領訪独、独首相と会談

5月18日 土曜日 ペルー、APEC貿易大臣会合を主催(19日まで)

5月19日 日曜日 ドミニカで総選挙

5月20日 月曜日 台湾新総統就任式

最後は、ガザでの停戦交渉の行方である。先々週筆者は、

  • 今もイスラエルは将来の、より洗練された、ラファ侵攻作戦を準備しつつあるが、
  • 米国の対イスラエル圧力も相当なもので、ネタニヤフも妥協せざるを得ないのか
  • という訳で、今後ガザをめぐり人質解放と停戦に向けた交渉が動くかもしれない

と書き、先週には

  • 一つ間違えると、ネタニヤフは米国のバイデン政権か、現在の保守強硬派連立政権か、人質問題と戦争長期化に不満を募らせるイスラエル国民の支持、のいずれかを失いかねない・・・

と書いたが、今週の筆者の関心事は米イスラエル関係の行方である。このままでは両国間、特にバイデンとネタニヤフの間で「チキンゲーム」が始まってしまう。それを笑うのはイランとハマースであり、中露もそれを大歓迎するだろう。「有事が近付くと誤算の連鎖が始まる」、とは正にこうした事態を指しているのかもしれない。

今週はこのくらいにしておこう。


2024年 重要日程レポート20【5月13日版】

<今週以前から続く会議>

4月15日‐5月31日 国際法委員会 第75回会合、第一部(ジュネーブ)
4月19日‐6月1日 インド総選挙投票開始
5月6日‐5月24日 子どもの権利委員会、第96回会合(ジュネーブ)
5月6日‐6月21日 国際民間航空機関(ICAO)第226回航空委員会(モントリオール)

5月

<5月13日‐5月19日>

13日 SpaceX・ファルコン9、スターリンク6-58(ケープカナベラル宇宙軍施設)
13日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
13日‐5月14日 EU教育・青年・文化・スポーツ相理事(ブリュッセル)
13日‐5月14日 ASEANグリーン水素会議2024(マレーシア)
13日‐5月17日 UNCITRAL第5作業部会(倒産法)、第64回会合(ニューヨーク)
13日‐5月17日 人権理事会 開発の権利に関する作業部会、第25回会合(ジュネーブ)
13日‐5月17日 犯罪防止と刑事司法に関する委員会、第33回会合(ウイーン)
13日‐5月31日 女性差別撤廃委員会、第88回会合(ジュネーブ)
13日‐6月28日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)
14日 SpaceX・ファルコン9、スターリンク8-7(ヴァンデンバーグ宇宙軍基地)
14日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:メリーランド州、ネブラスカ州、ウェストバージニア州)
14日 英国労働市場統計(2024年1~3月)発表
14日 ドイツ4月CPI発表
14日 ウクライナ4月CPI発表
14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
14日‐5月16日 第33回欧州復興開発銀行(EBRD)年次総会(アルメニア・エレバン)
14日‐5月19日 経済サミット「ロシア - イスラム世界」(ロシア・カザン)
15日 ロシア2024年第1四半期GDP成長率速報値発表
15日 フランス4月CPI発表
15日 米国4月CPI発表
15日 イスラエル4月CPI発表
15日 サウジアラビア4月CPI発表
15日 シンガポール首相交代
15日 米国4月小売統計発表
16日‐5月18日 起業支援イベント「Riseup Summit」(エジプト・カイロ)
17日 中国4月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
17日 APEC貿易担当相および女性担当相合同会合(ペルー・アレキパ)
17日 ロシア4月CPI発表
17日 フランス2024年第1四半期失業率発表
17日 ユーロスタット、4月CPI発表
17日 国連開発計画会議(ニューヨーク)
17日‐5月18日 APEC貿易相会合(ペルー・アレキパ)
18日 ULA・アトラスV、CST-100 Starliner (Boe-CFT)(ケープカナベラル宇宙軍基地)
19日 ドミニカ共和国総選挙

<5月20日‐5月26日>

20日 ウクライナ1~3月貿易統計発表
20日‐5月24日 農民および農村で働くその他の人々の権利に関する作業部会、第1回会合(ニューヨーク)
20日‐5月24日 原子放射線の影響に関する国際連合科学委員会、第71回会合(ウイーン)
20日‐5月31日 第140回国際麻薬統制理事会(ウイーン)
21日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ケンタッキー州、オレゴン州)
21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ブリュッセル)
22日 英国4月CPI発表
22日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(アイルランド)
23日 メキシコ第1四半期GDP発表
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日 EU競争力担当相理事会・(研究・イノベーション、宇宙)(ブリュッセル)
23日 米国、ケニアのウィリアム・ルート大統領とレイチェル・ルート大統領夫人が国賓訪問(ワシントンDC)
23日‐5月25日 G7財務相会合(イタリア・ストレーザ)
23日‐5月25日 BEYOND EXPO(マカオ)(ヘルスケア、サステナビリティ、コンシューマーテック)
24日 EU競争力担当相理事会・(域内市場・産業)(ブリュッセル)
24日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 米国大統領予備選挙(民主党:アイダホ州)

<5月27日‐6月2日>

27日‐5月28日 EU外相理事会・(防衛)(ブリュッセル)
27日‐6月1日 WHO、世界保健総会、第77回会合(ジュネーブ)
28日 OECD2024年第1四半期G20貿易統計発表
29日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
29日 南ア総選挙
30日 メキシコ4月雇用統計発表
30日 米国第1四半期GDP(改定値)発表
30日 ユーロスタット、4月失業率発表
30日 EU外相理事会・(貿易)(ブリュッセル)
30日 トルコ4月貿易統計発表
30日 サウジアラビア4月貿易統計発表
30日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
31日 UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFPおよびUN-Womenの理事会、UNDP/UNFPA/UNOPS、ユニセフ、WFPおよびUN-Womenの理事会合同会議(ニューヨーク)
5月中 ラオス第7回国会
5月中 CIS首相会議(トルクメニスタン・アシガバード)

6月

1日 アイスランド大統領選挙
2日 メキシコ大統領選挙、上下両院議員選挙、メキシコ市など9州知事選挙
3日 ユーロスタット、2月失業率発表
3日‐6月6日 第6階ASEAN防衛交流プログラム〔ADIP〕(ラオス)
4日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州、民主党:ワシントンDC)
4日 ブラジル第1四半期GDP発表
4日‐6月6日 APHM国際ヘルスケア会議・展示会2024 (マレーシア)
4日‐6月7日 COMPUTEX、InnoVEX(台北)
4日‐6月8日 ASEAN高級実務者会議〔ASEAN Senior Officials’Meeting〕、ASEANプラス3高級実務者会議〔ASEAN Plus Three Senior Officials’ Meeting (APTSOM)〕(ラオス)
5日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
5日‐6月6日 IPEF閣僚会合及びクリーン経済投資家フォーラム(シンガポール)
5日‐6月7日 医療・ヘルスケア産業展示会「Africa Health Excon」(エジプト・カイロ)
5日‐6月8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルグ)
5日‐6月9日 APEC観光相会合(ぺルー・クスコ)
6日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
6日 米国4月貿易統計発表
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日‐6月9日 欧州議会議員選挙
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 米国5月雇用統計発表
7日 中国5月貿易統計発表
7日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
8日 米国大統領予備選挙(民主党:グアム、米領バージン諸島)
9日 ベルギー連邦議会選挙
10日‐6月12日 アジア太平洋グリーン水素会議&展示会(APGH)2024 (マレーシア)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル5月IPCA発表
11日‐6月12日 米国FOMC、経済見通し発表
11日‐6月12日 ウクライナ復興会議(ベルリン)
12日 米国5月CPI発表
12日 ドイツ3月消費者物価指数(CPI)発表
12日 フランス3月CPI発表
12日 中国5月CPI発表
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 インド5月CPI統計発表
12日‐6月14日 DRCマイニング・ウィーク(コンゴ民主共和国・ルムンバシ)
13日 ブラジル4月月間小売り調査発表
13日‐6月14日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
13日‐6月14日 第2回アスタナ経済フォーラム (カザフスタン・アスタナ)
13日‐6月15日 G7首脳会議(イタリア・プーリア州)
14日 ロシア5月CPI発表
17日 中国5月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
17日 欧州理事会、非公式会合(ブリュッセル)
17日‐6月18日 特別欧州理事会(ブリュッセル)
18日 EU一般問題理事会(結束)(ルクセンブルグ)
18日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルグ)
18日 ユーロスタット、3月CPI発表
18日 米国5月小売統計発表
18日‐6月19日 ブラジル中央銀行、Copom
19日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(バーチャル会議)
20日 ECB一般理事会(バーチャル会議)
20日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
20日 米国第1四半期国際収支統計発表
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
20日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(社会政策)(ルクセンブルグ)
21日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ルクセンブルグ)
21日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
21日‐6月23日 WTO議長プログラム年次会合(スイス・ジュネーブ)
23日‐6月26日 セレクトUSA投資サミット(メリーランド州ナショナルハーバー)
24日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
24日‐6月25日 第39回日ASEANフォーラム(タイ)
25日‐6月27日 建設展示会「BIG 5 Construct Egypt」(エジプト・カイロ)
26日 米国第1四半期対外資産負債残高統計発表
26日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表
26日‐6月29日 FOOD TAIPEI 2024(台北)
27日 米国第1四半期GDP(確定値)発表
27日 メキシコ5月貿易統計、雇用統計発表
27日‐6月28日 欧州理事会(ブリュッセル)
28日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
6月上旬 ラオス5月CPI統計発表
6月下旬 モンゴル国会議員選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問