外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年3月12日(火)

外交・安保カレンダー(3月11日-17日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週は10日にアカデミー賞発表とポルトガル総選挙があり、17日にはロシアの大統領選挙が予定されている。アカデミー賞では「君たちはどう生きるか」が長編アニメ賞を受賞しただけでなく、「ゴジラ-1.0」が日本映画初の視覚効果賞を獲得した。実に嬉しく誇らしい話であり、一部では「W受賞-邦画が快挙」などとも報じられた。

勿論、快挙には違いないのだが、米国内報道では「原爆の父」で物理学者が主人公の「オッペンハイマー」が作品賞、監督賞など7部門で受賞したニュースの扱いが圧倒的に大きい。米国の映画界の賞だから、当然と言えば当然なのだが、「ゴジラ」や宮崎駿監督の受賞を大きく取り上げた米紙報道は残念ながら、あまりない。

自虐的に聞こえるとすれば、本意ではないが、例えば米大リーグの「大谷現象」に関する話は、欧州は勿論、米国でも、日本のように連日報道されることはない。要するに、世界の諸現象は、それが何処で起こり、誰にとって意味があり、どの地域に大きな影響が及ぶかで、その報道ぶりは変わるのだ。このことを忘れてはならない。

その観点からは、ロシアの大統領選挙は大きいようで小さなニュースだ。内外報道では「プーチン大統領の再出馬と通算5選は確実視」されており、プーチン陣営は「8割前後の高い得票率をめざす」とされる。筆者が興奮しない理由は、結果が選挙前から見えているからだ。プーチンの5選については来週コメントすることにしたい。

ロシア大統領選以上に筆者が関心を持ったのはポルトガル総選挙だ。10日の選挙で、野党中道右派連合の「民主主義同盟」が最多の議席を獲得し、与党だった中道左派「社会党」書記長は敗北を認めた。ここまでは別に驚かないのだが、今回注目したのは保守政党「シェーガ」が議席数を4倍近く増やして躍進したことだ。

民主主義同盟が79議席、社会党が77議席、シェーガが48議席を獲得したが、いずれの党も過半数には届かず、連立交渉が本格化するという。こうした「極右(この表現自体必ずしも正確ではない)政党」の躍進は、近年欧州各国で、浮沈を繰り返しながらも、着実に続いているようだが、今回もそれを証明することになるのだろうか。

シェーガ(so much for thatの意味らしい)は5年前総選挙で初議席を獲得、その主張は「移民規制強化」「政治腐敗の撲滅」などで、欧州の他の「極右」政党と大きく変わらない。こうした現象はあくまでポルトガル独自の一時的現象なのか、それとも今後10年の欧州の姿を暗示しているのか。ロシアよりこちらの方が気掛かりである。

こうした欧州の動きを「煽っているのか、呼応しているのか」は別として、似たような動きは米国でも起きている。筆者は8年前、「トランプ大統領とダークサイドの逆襲」という物騒な本を書いたが、同書を読み直してみても、今欧米で起きている現象は、一連の、もしかしたら変更不能の、大きな政治的潮流ではないかと危惧している。

こうした見地から、先週のJapanTimesに “Wake up, America!(アメリカよ、目を覚ませ)”と題したエッセイを寄稿した。これまで一部の米国識者は「American exceptionalism(アメリカ例外主義)」を唱えてきたが、今やアメリカは「例外」ではなく、民主主義が機能しない、自己中心的な、ごく普通の国になりつつあるようだ。

筆者に言わせれば、アメリカ例外主義とは「底抜けにナイーブで、単純で、率直でありながら、世界のリーダーなどと煽てられれば、その国力を国際社会の公益のために、惜しげもなく使う美徳を備えた人々からなる国家の信条」である。こんなことをやろうとする国は、この世界で、米国以外に存在しなかったのも事実だ。

その意味で、アメリカは例外であり、その同盟国もこれを歓迎し、利用してきた。ところが、今のアメリカはもはや「例外」ではなくなりつつある。されば、他の国々も、アメリカをそのように扱い始めるだろう。それがどれほどアメリカの国益を犠牲にするかをトランプ候補とその支持者は理解しているのだろうか・・・。と筆者は書いたのだ。ご関心の向きは先週のJapanTimesをご一読願いたい。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

3月11日月曜日 カリブ共同体諸国、ハイチ問題で首脳会議(ジャマイカ)

        米大統領、2025会計年度の予算教書発表

        中国の全人代が閉幕

        マレーシア首相、訪独

3月12日火曜日 ポーランド大統領と首相、訪米

        IAEA事務局長、訪日(14日まで)

3月13日水曜日 ペルー外相、訪米、外相会談

        リトアニア大統領、訪仏

        EU外務・安全保障政策上級代表、訪米(15日まで)

3月15日金曜日 ロシア大統領選挙(17日まで)

最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢だ。

  • 米イラン関係は小康状態、イエメンの親イラン武装勢力「アンサールッルラー(フーシー派)」以外は、対米攻撃を封印し続けている
  • 先々週から「ハマースが人道的見地から人質を解放することはないので、停戦の交渉は成功しない」などと書いてきたが、やはりネタニヤフは譲歩しなかったようだ
  • これで悪化したのが米イスラエル首脳間の関係。元々民主党系政治家とネタニヤフの関係は一貫して悪かったが、米大統領選の本選が事実上始まった以上、国内、特に民主党内への配慮から、バイデンも黙っていられなかったのだろう
  • しかし、ガザ問題が大統領選を左右する問題になるとは思えない。いくら民主党左派とはいえ、バイデン憎しでトランプを当選させることは決して本意ではないだろうからだ

今週はこのくらいにしておこう。

2024年 重要日程レポート11【3月11日版】

<今週以前から続く会議>

2月12日‐3月29日 ICAO(国際民間航空機関)第225回会議(モントリオール)
2月19日‐3月15日 平和維持活動特別委員会とその作業部会、実質会合(ニューヨーク)
2月26日‐4月5日 人権理事会、第55回会議(ジュネーブ)
3月4日‐3月15日 国際海底機構法務・技術委員会(第1部)(キングストーン)
3月4日‐3月22日 障害者権利委員会、第30回会合(ジュネーブ)
3月4日‐3月28日 人権委員会、第140回会議(ジュネーブ)
3月5日‐3月15日 ICSC、第97回会合(ニューヨーク)

3月

<3月11日‐3月17日>

11日 スペースX・スターリンクグループ6-43、ファルコン9ブロック5号(ケープカナベラル空軍基地)
11日 バイデン米政権が2025会計年度の予算教書を発表
11日‐3月22日 女性の地位委員会、第68回会合(ニューヨーク)
12日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
12日 米国2月CPI発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 インド2月CPI統計発表
12日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ジョージア州、ミシシッピ州、ワシントン州、民主党:北マリアナ諸島、海外民主党員、共和党:ハワイ州)
12日 2月の企業物価指数(日銀)
12日‐3月13日 第6回アフリカ気候レジリエンス投資サミット(ACRIS VI)(キガリ・ルワンダ)
13日 トルコ1月国際収支統計発表
13日 石油製品価格調査(経産省)
14日 米国2月小売統計発表
14日 スペースX・スターリンクグループ6-44、ファルコン9ブロック5(ケネディー宇宙センター)
14日‐3月15日 麻薬委員会、すべての国際的な薬物政策公約の実施状況を把握し、2029年までの進むべき道を概説するためのハイレベル会合(ウイーン)
15日 米国大統領予備選挙(共和党:北マリアナ諸島)
15日 トルコ2月中央政府予算
15日 フランス2月CPI発表
16日 米国大統領予備選挙(共和党:グアム)
16日 北陸新幹線の金沢―敦賀間開業
17日 ロシア大統領選挙
17日 自民党大会

<3月18日‐3月25日>

18日 ユーロスタット、2月CPI発表
18日 植民地国・人民への独立付与に関する宣言の実施状況に関する特別委員会、組織的会合および2024年会合前半部分(ニューヨーク)
18日‐3月19日 日銀金融政策決定会合(日銀)
18日‐3月22日 麻薬委員会、第67回会合(ウイーン)
18日‐3月22日 国連拷問被害者支援任意基金評議員会、第59回会合(ジュネーブ)
18日‐3月27日 人権理事会 恣意的拘禁作業部会、第27回会合(ジュネーブ)
18日‐3月28日 ILO理事会および委員会第350回会合(ジュネーブ)
18日‐3月29日 国際民間航空機関(ICAO)第231回理事会(モントリオール)
18日‐3月29日 国際海底機構理事会第29回会合第1部(キングストーン)
19日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:アリゾナ州、フロリダ州、イリノイ州、カンザス州、オハイオ州)
19日 2月訪日外国人数(日本政府観光局)
19日‐3月20日 米国FOMC、経済見通し発表
19日‐3月21日 ASEANゲーミングサミット(フィリピン)
20日 三者社会サミット(ブリュッセル)
20日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
20日 FOMC最終日(FRB)
20日‐3月23日 繊維製品の展示会(ジャカルタ)
21日 米国2023年第4四半期国際収支統計発表
21日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
21日 スイス中銀が金融政策発表
21日 英イングランド銀行(中央銀行)が金融政策と議事録を発表
21日‐3月22日 WTO一般理事会
22日 ロシア中央銀行理事会
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ルイジアナ州、民主党:ミズーリ州)
24日 日本維新の会党大会(京都市)
24日 愛知県大府市長選投開票

<3月25日‐3月31日>

26日‐3月29日 ボアオ・アジアフォーラム年次総会(中国海南省ボアオ)
27日 米国2023年第4四半期対外資産負債残高統計発表
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国2023年第4四半期GDP(確定値)発表
29日 CIS経済理事会、第15回CIS国際経済フォーラム(場所未定)
31日 米国通商代表部(USTR)2024年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
3月上旬 中国1~2月貿易統計発表
3月中旬 スロバキア大統領選挙
3月中旬 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
3月上旬 第14期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)、第14期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)

4月


2日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:コネチカット州、デラウェア州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、ウィスコンシン州)
3日 トルコ3月CPI発表
3日 ユーロスタット、2月失業率発表
3日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
3日‐4月4日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会、非公式会合(運転)(ブリュッセル)
3日‐4月4日 IMTM-地中海観光国際展示会2024(テルアビブ)
4日 米国2月貿易統計発表
4日‐4月5日 第1768回経営管理と情報技術の進歩に関する国際会議・2024年(カンボジア)
5日 米国3月雇用統計発表
5日 ロシア2023年経済活動別・需要項目別GDP発表
5日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 米国大統領予備選挙(民主党:アラスカ州、ハワイ州、ノースダコタ州)
7日‐4月9日 EU農水相理事会、非公式会合(農業)(ゲンク)
8日 イスラエル中銀金融委員会会合
9日 メキシコ3月CPI発表
10日 ブラジル3月IPCA発表
10日 米国3月CPI発表
10日‐4月11日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
10日 ロシア3月CPI発表
11日 ウクライナ3月CPI発表
11日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル2月月間小売り指数発表
11日 中国3月CPI発表
11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
11日‐4月12日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ルーバン・ラ・ヌーブ)
12日 中国第1四半期貿易統計発表
12日 ドイツ3月CPI発表
12日 フランス3月CPI発表
12日 インド2月鉱工業生産指数発表
12日 インド3月CPI統計発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
12日 CIS外相会議(ベラルーシ・ミンスク)
13日 米国大統領予備選挙(民主党:ワイオミング州)
14日 イスラエル3月貿易統計発表
15日 イスラエル3月CPI発表
15日 米国財務省 半期為替政策報告書提出期限
15日 米国3月小売統計発表
15日‐4月16日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
15日‐4月19日 中国輸出入商品交易会(広州)
15日‐4月21日 IMF・世界銀行春季総会(米国・ワシントン)
16日 中国第1四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会小売品販売総額等)発表
17日 ユーロスタット、3月CPI発表
17日‐4月18日 欧州理事会、非公式会合(ブリュッセル)
18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(米国・ワシントン)
18日‐4月19日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(消費者問題)(ブリュッセル)
19日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
19日‐4月21日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
20日 米国大統領予備選挙(共和党:ワイオミング州)
21日 米国大統領予備選挙(共和党:プエルトリコ)
22日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
22日‐4月25日 欧州議会本会議(ストラスブール)
23日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ペンシルベニア州)
23日‐4月24日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会、非公式会合(保健)(ブリュッセル)
23日‐4月27日 中国輸出入商品交易会(広州)
24日 ロシア第1四半期鉱工業生産指数発表
24日 北マケドニア大統領選挙(第1回投票)
25日 米国第1四半期GDP(速報値)発表
25日‐4月27日 北京国際汽車展覧会(北京)
26日 ロシア中央銀行理事会
26日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国大統領予備選挙(民主党:プエルトリコ)
29日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
29日‐4月30日 EU一般問題理事会、非公式会合(ブリュッセル)
30日 ドイツ3月労働市場統計発表
30日 ウクライナ1~3月鉱工業生産指数発表
30日 ドイツ2024年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 フランス2024年第1四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日‐5月1日 米国FOMC 
4月中 クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問