外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2024年1月30日(火)

外交・安保カレンダー( 1月29日-2月4日)

[ 2024年外交・安保カレンダー ]


今週は中東情勢から始めたい。先週筆者は「イランは米軍との直接戦闘は望んでいないだろうが、逆に言えば、直接戦闘の手前まで対米『代理戦争』を続けるだろう」と書いた。ところが、先週末、正に筆者が恐れていたことがシリア・ヨルダン国境付近で起きてしまった。

各種報道によれば、1月28日未明、ヨルダンのシリア国境付近にある米軍の前線基地宿舎が無人機攻撃を受け、兵士3人が死亡、40人以上が負傷したという。昨年10月7日以降、中東で米兵が死亡したのは初めてだ。元々同基地は米軍のシリア国内での対ISIS作戦の最重要拠点の一つであったといわれる。

親イラン民兵組織がシリア側から攻撃を仕掛けた可能性が高いと報じられたが、イランが直接関与した証拠は今のところない。その意味では、イランは今も米軍との直接戦闘を望んでいない可能性は高いだろう。しかし、この出来事は、ガザでの紛争が(ペルシャ)湾岸地域にも波及しかねないという点で、極めて重大な事件である。

こうした事件が起きてしまった以上、米国は必ず報復措置をとるだろう。問題はそれに対するイランの反応である。筆者は今も、米・イランともに、両国間の直接戦闘を望んではいないと考える。しかし、親イラン武装勢力の動き次第では、偶発的または結果的に、イランの指導部が対米攻撃を選択する可能性はゼロでないだろう。

もう一つ、中東関係で気になることがあった。最近、あるユダヤ系米国人の友人から真顔で、「日本のパレスチナ報道は『反ユダヤ主義』的だと」指摘されたからだ。「ガザに関する日本での報道はイスラエルに厳しい」ので、日本のメディアは「反ユダヤ主義」だというのだ。おいおい、ちょっと待ってほしい。

「アンチセミティズム」の本質は日本では殆ど理解されていない。筆者に言わせれば、Anti-Semitismとは、同一の「絶対神」を信仰しながら、別の「預言者」と通じた契約を重視するユダヤ教とキリスト教・イスラム教との間の政治的確執である。

そうであれば、一神教の世界ではない日本にはそもそも「反ユダヤ主義」など存在しないではないか。日本の報道を「親パレスチナ」と批判するその友人には、「日本のパレスチナ報道は『反ユダヤ』ではなく、強いて言えば一種の『反戦』主義であり、ユダヤを敵視したものでは決してない」と説明したのだが、結局納得してもらえなかった。

ユダヤ系米国人に限らず、ユダヤ系の人々は、世界、特に欧米で今、「反ユダヤ主義」「反イスラム感情」が吹き荒れていると見ている。日本はこうした「負の遺産」のない数少ない国の一つだが、だからこそ、紹介したような誤解を避けるためにも、日本発の「パレスチナ報道」には、欧米とは別の意味で、注意が必要だと考える。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

1月30日火曜日 アルゼンチン議会が大統領の包括経済法案について採決

        米中専門家、北京で麻薬問題について協議(31日まで)

        仏大統領、スウェーデン訪問

1月31日水曜日 国連安保理、イスラエルに関する国際司法裁判所の判断を審議

        ミャンマーの非常事態宣言期限

        ブラジル中銀、公定歩合を決定

2月2日金曜日 EU外相会議(3日まで)

2月4日日曜日 エルサルバドル、総選挙

最後は、いつものパレスチナ情勢だ。筆者の見る現時点での状況は次の通り。

  • イスラエルは、仮に人質が全員帰ってこなくても、ハマス掃討作戦を止めない
  • ハマスは最後まで人質全員を解放する気はないだろう
  • 米軍の親イラン・ミリシアに対する報復は限定的なものとなるだろうが、問題はイランがこれらのミリシアをコントロールする「気があるか」、または「能力があるか」である

今週はこのくらいにしておこう。


2024年 重要日程レポート5【1月29日版】


2024年 1月

<今週以前から続く会議>

1月15日‐2月2日 子どもの権利委員会 第95回会合(ジュネーブ)
1月22日‐1月31日 非政府組織委員会、定例会合(ニューヨーク)
1月22日‐2月2日 人権理事会、普遍的定期的審査作業部会、第45回会合(ジュネーブ)
1月22日‐3月8日 第60回大陸棚限界委員会(ニューヨーク)

<1月29日‐2月4日>

29日‐2月2日 常任理事会、第1回定例会(ニューヨーク)
29日‐2月2日 UNDP/UNFPA/UNOPS理事会、第1回定例会合(ニューヨーク)
29日‐2月9日 情報通信技術の犯罪目的使用への対処に関する包括的国際条約策定特別委員会、最終会合(ニューヨーク)
29日‐2月9日 拷問禁止委員会、拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会、第50回会合(ジュネーブ)
29日‐2月2日 宇宙空間平和利用委員会 科学技術小委員会、第61回会合(ウイーン)
29日‐2月16日 女性差別撤廃委員会、第87回会合(ジュネーブ)
30日 インド2023年度第2四半期GDP発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日‐1月31日 米国FOMC
30日 国連経済社会理事会、パートナーシップ・フォーラム(ニューヨーク)
31日 米FOMC最終日(FRB)
31日 ブラジル2023年12月全国家計サンプル調査発表
31日 香港2023年第4四半期経済状況発表、2023年通年GDP成長率発表(速報値)
31日‐2月1日 国連経済社会理事会調整部(ニューヨーク)
31日‐2月2日 軍縮に関する諮問委員会 第81回会合(ジュネーブ)
1月中 OECD2023年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表
1月中 WTO2023年第3四半期サービス貿易統計発表

2月

1日 ロシア制裁の対象となる外国企業の資産を封鎖する法律が発効
2日 米国1月雇用統計発表
2日 ブラジル2023年12月鉱工業生産指数発表
4日 エルサルバドル大統領選
4日 京都市長選投開票
4日 立憲民主党大会(都内)
5日‐2月8日 欧州議会本会議(ストラスブール)
5日‐2月8日 第3回国連内陸開発途上国会議準備委員会第1回会合(ニューヨーク)
5日‐2月9日 子どもの権利委員会、準会期作業部会、第97回会合(ジュネーブ)
5日‐2月9日 人権理事会、人権と多国籍企業およびその他のビジネス企業の問題に関する作業部会、第37回会合(ジュネーブ)
5日‐2月9日 第139回国際麻薬統制理事会(ウイーン)
6日‐2月8日 ユニセフ理事会、第1回定例会合(ニューヨーク)
7日 アゼルバイジャン大統領選
7日 米国12月貿易統計発表
7日 メキシコ1月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 ブラジル2023年12月月間小売り調査発表
8日 連邦総選挙実施(パキスタン)
8日 経団連東海地域経済懇談会
8日  パキスタン下院選
8日 メキシコ1月CPI発表
9日 ドイツ1月CPI発表
9日 メキシコ2023年12月鉱工業生産指数発表
12日 インド2023年12月鉱工業生産指数発表
12日 インド2024年1月CPI統計発表
12日‐2月16日 UNCITRAL、第2作業部会(紛争解決)、第79回会合(ニューヨーク)
12日‐2月23日 ICAO、第231回委員会段階(モントリオール)
12日‐3月1日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第74回会合(ジュネーブ)
12日‐3月29日 ICAO(国際民間航空機関)第225回会議(モントリオール)
13日 英国労働市場統計(2023年10~12月)発表
13日 米国1月CPI発表
13日 フランス2023年第4四半期失業率発表
14日 大統領選挙(インドネシア)
14日 英国1月CPI発表
14日‐2月15日 IFAD管理理事会 第47回会合(ローマ)
15日 イスラエル1月CPI発表
15日 米国1月小売売上高統計発表
15日 英国2023年第4四半期GDP成長率(速報値)発表
16日 フランス1月CPI発表
16日 ロシア中央銀行理事会
19日 EU外相理事会(ブリュッセル)
19日 日ウクライナ経済復興推進会議(東京)
19日‐2月23日 UNEP、オープンエンド常設代表委員会、第6回会合(ナイロビ)
20日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会・非金融政策(バーチャル会議)
21日 メキシコ2023年12月小売・卸売販売指数発表
21日‐2月22日 G20外務相会合(ブラジル・リオデジャネイロ)
22日 メキシコ2023年第4四半期GDP発表
22日 OECD2023年第4四半期G20貿易統計発表
22日 香港2024年1月CPI発表
23日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ゲント)
25日‐2月29日 EU外相理事会・(貿易)(アブダビ)
26日 イスラエル中銀金融委員会会合
26日‐2月27日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
26日‐2月29日 WTO閣僚会合(MC13)(UAE・アブダビ)
27日 メキシコ1月貿易統計発表
27日‐2月29日 エイラート・エイロット第10回再生可能エネルギー会議2024(イスラエル・エイラート)
28日 米国2023年第4四半期GDP(改定値)発表
28日 香港2024~2025年度財政予算案発表
28日‐2月29日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ブラジル・サンパウロ)

3月

1日 ユーロスタット、1月失業率発表
1日 香港1月小売統計発表
1日 ブラジル2023年第4四半期GDP発表
2日 米国大統領予備選挙(共和党:アイダホ州、ミズーリ州)
3日 米国大統領予備選挙(共和党:ワシントンDC)
3日 トルコ2月CPI発表
4日 米国大統領予備選挙(共和党:ノースダコタ州)
5日 米国大統領予備選挙「スーパーチューズデー」(民主党・共和党:アラバマ州、アーカンソー州、カリフォルニア州、コロラド州、メーン州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バーモント州、バージニア州、米領サモア、民主党:アイオワ州、共和党:アラスカ州)
6日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 メキシコ2月CPI発表
7日 台湾2月CPI発表 
7日 米国1月貿易統計発表
8日 ユーロスタット、2023年第4四半期実質GDP成長率発表
8日 米国2月雇用統計発表
10日 ポルトガル議会選挙
12日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
12日 米国2月CPI発表
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 インド2月CPI統計発表
12日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ジョージア州、ミシシッピ州、ワシントン州、民主党:北マリアナ諸島、海外民主党員、共和党:ハワイ州)
13日 トルコ1月国際収支統計発表
14日 米国2月小売統計発表
15日 米国大統領予備選挙(共和党:北マリアナ諸島)
15日 トルコ2月中央政府予算
15日 フランス2月CPI発表
16日 米国大統領予備選挙(共和党:グアム)
17日 ロシア大統領選挙
18日 ユーロスタット、2月CPI発表
19日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:アリゾナ州、フロリダ州、イリノイ州、カンザス州、オハイオ州)
19日‐3月20日 米国FOMC、経済見通し発表
19日‐3月21日 ASEANゲーミングサミット(フィリピン)
20日 三者社会サミット(ブリュッセル)
20日‐3月23日 繊維製品の展示会(ジャカルタ)
21日 米国2023年第4四半期国際収支統計発表
21日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
22日 ロシア中央銀行理事会
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日 米国大統領予備選挙(民主党・共和党:ルイジアナ州、民主党:ミズーリ州)
27日 米国2023年第4四半期対外資産負債残高統計発表
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国2023年第4四半期GDP(確定値)発表
29日 CIS経済理事会、第15回CIS国際経済フォーラム(場所未定)
31日 米国通商代表部(USTR)2024年外国貿易障壁報告書(NTE)提出期限
3月上旬 中国1~2月貿易統計発表
3月中旬 スロバキア大統領選挙
3月中旬 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
3月上旬 第14期全国人民政治協商会議第2回全体会議(北京)、第14期全国人民代表大会第2回全体会議(北京)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問