外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2020年12月22日(火)

外交・安保カレンダー(12月21-27日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


12月14日の大統領選挙人による米大統領の選出投票は、あっけないほど「波乱なく」終わった。実は「大統領選挙人による投票」光景を見たのはこれが初めて。「ああ、こうなっているのか」、米国の民主主義も捨てたもんじゃない。トランプ氏が開いてしまったパンドラの箱は直ぐ元には戻らないだろうが、時間をかければ希望はあるかもね。

一方、報道によれば、ホワイトハウス内ではこの期に及んで「戒厳令」を発動し大統領選挙を「やり直す」こと本気で議論していたという。トランプ氏はフェイクだと否定しているが、本当じゃないのかなぁ。議論では「怒鳴り合い」もあったそうだが、当然だろう。アホらしくてコメントにも値しないが・・・。こんな提案した人物の神経を疑うしかない。

さて、今週のJapanTimesでは悪化の一途を辿る中豪関係について書いた。モリソン首相の「コロナウイルス起源につき独立現地調査をすべし」発言に切れた中国は徹底的な報復行動に出たようだ。でも、これって、日本のレアアース、ノルウェーのサーモン、フィリピンのバナナ、カナダのカノーラオイルから米国のNBAまで全て同じだ。

産経のコラムではロシアのSVRによる大規模な対米政府ハッキング事件を取り上げる。それにしても、今回のロシアの手口は実に巧妙らしく、米国最高性能の防御ソフトの目を掻い潜った「優れもの」だ。流石はKGBの後継諜報機関SVR、ということか。また、SVRと軍諜報機関GRUとの競争も、調べてみたら結構面白かった。

今回は紙面の都合で詳しく書けなかったが、簡単に言えば、SVRは諜報機関だが、政治的秘密工作はしない、と米国の専門家は考えているようだ。2014-15年、SVRは民主党全国委員会を含む多数の機関や企業から情報を掠め取ったが、入手した情報はロシア政府内だけで使用し、外部にはリークしていないという。

当時のオバマ政権は当然このSVRのハッキングを承知していたが、米側機関も同様の活動をしているので、公表も報復もしなかったという。なるほど、これが米露諜報機関同士の「仁義」なのか。米露には「素人さんには手を出さない」という「ヤ●ザの仁義」に限りなく近いルールがあるのかもしれない。恐らく、中国とは違うだろうが。

ちなみに、ヒラリーが事実上政治的に大いに傷付いた、一連の「eメール」をWikileaksにリークしたのはSVRではなく、同じ情報を入手したロシア軍諜報機関GRUなのだそうだ。少なくとも2014-15年に関する限り、SVRは「正統派」の諜報機関、GRUは「仁義なき」諜報機関だったということになる。

「素人さん」にはあまり関係ない話だが、「その筋の人々」には大きな違いなのだろう。

〇アジア
中国人民解放軍が初の国産空母「山東」を含む艦隊に台湾海峡を通過させる訓練を実施するという。前日には米軍のミサイル駆逐艦が台湾海峡を通過したばかり。このままでは中国側のメンツが立たないのだろう。振り返ってみれば、状況は1996年より米台にとって不利となっている。こうした傾向は今後も続くことを覚悟すべきだろう。

〇欧州・ロシア
ここ数週間、英国の南東イングランドで新型コロナウイルス感染症の症例が急増している。調査の結果、関連症例の大部分が変異した新型コロナウイルスによるものらしい。既にこの感染性の高い「新種」は欧州以外でも発見されている。日本に来るのも時間の問題なのか。今年の年末年始は今まで経験したことないものとなるだろう。

〇中東
イラクの首都バグダッドの米大使館周辺にロケット弾8発が撃ち込まれ、イラク軍検問所付近で兵士少なくとも1人が負傷したという。おお、まだグリーンゾーンに対するロケット攻撃は続いているのか。筆者が現地に駐在した2004年前半、週に一回は空襲警報が鳴っていた。その後は一日に何十発も着弾したこともある。どうやらイラクは完全に壊れてしまったようだ。

〇南北アメリカ
来年以降のトランプ氏の活動を占う分析が増えている。一部には「AIで視聴者が望む言葉を分析し、トランプ氏がそれを政治番組とバラエティー・ショーで話し続ける。そんなトランプ・チャンネルがアメリカ世論を支配する近未来も絵空事ではない。」と見る向きもある。確かにそうだなぁ。その可能性は否定しない。

だが、ワシントンでは10年ではなく、4年が「一昔」だ。78歳になるトランプ氏が4年後に健在かは大いに疑問、最大の課題は「老いとの闘い」だろう。トランプ氏の魅力は「アドリブ一発芸」だが、あの切れ味を4年間維持できるのか。有名な保守系トークショーホストのRush Limbaughだって今は肺がんを患い昔の勢いはないのだから。

〇インド
先週末、インド国内の新型コロナ累計感染者数が1000万人を超えた。この数字は米国に次いで世界第二位だ。勿論、人口も多いから当然だろうが、人口がほぼ同じ規模の中国で感染者がいないとは、事実にせよ、虚偽にせよ、信じられない。今週はこのくらいにしておこう。


12月1-27日 ソマリア議会選挙
19-1月23日 対日理解促進交流プログラム・日韓大学生オンライン交流事業
20-27日 UNESCO執行理事会 第210回会合(パリ)
21日 ロシア1-10月貿易統計発表
21日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
21日 イラン核合意当事国の英仏独中露とEUの閣僚級オンライン協議
22日 米国第3四半期GDP発表(確定値)
22日 長征3B/E(天通一号03)打ち上げ(四川省西昌衛星発車センター)
23 日 米・11月個人消費支出(PCE)(商務省)
23日 米・バー司法長官が退任
24日 メキシコ11月貿易統計・雇用統計発表
24日 モルドバ・サンドゥ大統領が就任
25日 クリスマス(ニューヨーク市場は全て休場)
25日 ロシア11月雇用統計発表
26日 UNEP常駐代表委員理事会 第153回会議(ナイロビ)
27日 ニジェール大統領・国民議会議員選挙
27日 中央アフリカ大統領・国民議会選挙


<28-1月3日>
29日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
29日 ゴーン被告逃亡から1年
30日 ロシア2020年第3四半期需要項目別GDP統計(速報値)
31日 英国のEU離脱移行期間終了
2021年1月1日 ポルトガルがEU議長国に就任
1日 ベラルーシが独立国家共同体(CIS)の議長国に
1日 ロシアで電子ビザ(Eビザ)の対象範囲を全土に広げる連邦法が発効
3日 米国第117議会第1会期開会


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問