キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年10月21日(水)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
今週も掲載が通常より遅れてしまった。理由は多々あるが、菅首相の初外遊(この言葉も考えてみれば変な表現だ)の結果を見たいという気持ちもあった。首相の海外出張については先週書いたので、ここでは繰り返さない。一日待ったことが幸いしたのか、既に一部本邦日刊紙が社説を書いている。ここで若干コメントしてみよう。
毎日新聞は「アジア外交進めるてこ(梃子)に」、日経新聞が「東南アジアと信頼関係深めよ」、産経新聞は日本出発前に「平和と繁栄へ声そろえよ」という見出しをそれぞれ付けている。三者三様の社説だが、基本的には毎日が書いた通り「日本と良好な関係にある東南アジアを舞台にした菅外交の無難な滑り出しといえる」だろう。
筆者が特に注目したのは、讀賣新聞がハノイでの政策スピーチに触れたことだ。「菅首相はハノイでの演説で、ASEANが昨年まとめた独自のインド太平洋構想について、『多くの本質的な共通点を有している』と語った。法の支配や自由などの基本的な価値観を共有していることを確認した意義は大きい。」うんうん、この視点は重要だ。
更に、讀賣社説は南シナ海情勢について、「法の支配や開放性とは逆行する動きが起きている」と述べ、名指しを避けつつ中国を牽制した。国際ルールを無視し、覇権主義的な行動を続ける中国の動きは容認できない。日本は米国や関係国と緊密に連携し、中国に粘り強く自制を求めねばならない」と指摘している。筆者もほぼ同様の観点から今週のJapanTimesにコラムを書いたので、お時間があればどうぞ。
だが、今週筆者が最も注目したのは、同じASEANでもタイ内政の混乱だった。報道によれば、「タイの反政府グループは20日、バンコク首都圏の都市鉄道の全駅に同日午後5時50分に集結するよう呼びかけた。首相退陣、民主的新憲法制定、王室改革、民主活動家の釈放などを要求し、政府が要求を受け入れない場合は『ビッグサプライズ』がある」とし、混乱はタイ全土に広まりつつあるという。
毎度のことではないか、という向きもあるだろう。確かにそうだが、今回筆者が懸念するのは「タイ王室」が果たす役割の変化だ。東南アジアは専門ではなく自信はないのだが、従来タイではエリートの既得権層と一般大衆との間の緊張が高まる度に国王が節目節目で介入し国内安定に向け一定の役割を果たしてきたと理解している。
ところが今回は反政府勢力の要求の中に「王室改革」が入ってしまった。逆に言えば、今や王室は国内の様々な政治勢力から一定の距離を置ける中立的存在ではなくなりつつあるかもしれないのだ。タイはASEAN諸国の中で最も重要な国の一つである。同国の安定は地域全体の安定に不可欠だけに、ちょっと気になるところだ。
〇アジア
ロシアの情報機関が東京五輪・パラリンピックの関係団体にサイバー攻撃をしていたと英政府が発表した。ロシアは全く変わっていないようだが、米国では日本以外の国々への攻撃が大きく報じられている。日本の場合、対象は主催団体やスポンサー企業だったらしいが、国家安全保障に直結する問題であれば実に由々しいことだ。
〇欧州・ロシア
アルメニアとアゼルバイジャンの首脳が、両国軍の戦闘が続くナゴルノカラバフについて協議するためモスクワで会談する用意があると表明したそうだ。うーん、ロシア外交も強かだなあと言わざるを得ないが、本当にその程度の会談で問題が解決するのかといえば、それは無理だ仮に停戦に合意しても、長続きはしないだろう。
〇中東
最近イランの動きが気になるところだが、イランについて現役の在テヘラン外交官が「抵抗か協調か、イランの民意を左右する米大統領選」と題した小論を寄稿している。いくら専門家とはいえ、在外勤務の日本の現役外交官がネット上に文章を書くなんて、これは滅多にないこと。一読に値すると思うので、ここにご紹介しておきたい。
〇南北アメリカ
退院後のトランプ氏が連日吠えている。これを断末魔の叫びと見るか、一発大逆転の兆しと見るかは、人によって異なるだろう。筆者には2016年の苦い思い出がある。「逆張り」するのは簡単だが、我々は競馬の予想屋ではない。だが、バイデンが大差で勝たなければ、米国の民主主義は変質していく。筆者の最大の懸念はここにある。
〇インド
インドが、毎年日米と行う合同海上演習今年はオーストラリアが参加すると発表、その大義名分は「インドは海上安全保障分野で他国との連携強化を進めており、オーストラリアとの防衛協力拡大を踏まえ、2020年のマラバールには豪海軍が参加する」ということらしい。なるほど「クアッド」はかなり着実に進んでいるようだ。今週はこのくらいにしておこう。
5-11月20日 国連総会
第三委員会 第75回会合(ニューヨーク)
5-11月25日国連総会
第二委員会 第75回会合(ニューヨーク)
5-12月14日 国連総会
第五委員会 第75回会合(ニューヨーク)
6-11月4日 国連総会
第一委員会 第75回会合(ニューヨーク)
6-11月20日 国連総会
第六委員会 第75回会合(ニューヨーク)
8-11月10日 国連総会
第四委員会 第75回会合(ニューヨーク)
15-25日 ロシア軍とベラルーシ軍の合同演習(ベラルーシ西部ブレスト近郊)
18-21日 菅内閣総理大臣がベトナムおよびインドネシアを訪問
19日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
19-20日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
19-20日 鈴木外務大臣政務官の山口県訪問
19-22日 欧州議会本会議(ストラスブルーグ)
19-11月12日 第14期第10回ベトナム国会(ハノイ)
20日 太平洋・島サミット中間閣僚会合の開催(テレビ会議)
21日 メキシコ9月雇用統計発表
21日 米・ベージュブック(FRB)
21日- エレクトロン15号機(キヤノン電子のCE-SAT-IIBなど)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
21-24日 VIETNAM EXPO
2020(ハノイ)
22日 G20汚職対策担当相会合(バーチャル形式)
22日 ロシア1-8月貿易統計発表
22日 セーシェル大統領選
22日 米・第3回大統領候補討論会(テネシー州ベルモント大学)
22日 米連邦最高裁判事人事の上院司法委員会採決
22日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星15 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
22-23日 EU競争力担当相理事会 非公式会合(域内市場・産業)(ボン)
23日 EU環境相会合(ルクセンブルク)
23日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
23日 APEC中小企業相会合(バーチャル形式)(クアラルンプール)
23日 ロシア9月雇用統計発表
23日 ロシア中央銀行理事会
24日 エジプト議員選
24日 カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州選挙
25日 ウクライナ地方選挙
25日 チリ憲法改正の是非を問う国民投票
25日 中国の朝鮮戦争参戦70年
25日 欧州各国が冬時間入り
25日 富山・岡山県知事選
25日 ソユーズ2.1b(ロシア航法測位衛星GLONASS-K 15)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
<26-11月1日>
26日 カナダ・サスカチュワン州選挙
26-27日 B20サミット
27日 メキシコ9月貿易統計発表
27-28日 ブラジル中央銀行、Copom(金融政策委員会)
27-28日 国連人間居住計画 執行理事会 2nd 2020 regular meeting (ナイロビ)
27-11月13日 INCB(国際麻薬統制委員会) 第129回会合(ウィーン)
28日 タンザニア大統領および総選挙(投票日)
28-30日 CTBTOワーキンググループA 第58回会合 (ウィーン)
29日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
29日 米国第3四半期GDP発表(速報値)
29-30日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会
非公式会合(運輸)(パッサウ/バート・グリースバッハ)
30日 米・9月PCE物価指数(商務省)
30日 EU3四半期GDP発表(EU統計局)
30日 EU 9月失業率発表
30日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表
31日 ジョージア議会選挙
31日 コートジボワール大統領選挙
31日 ベルリン新空港「ベルリン・ブランデンブルク国際空港」開港
31日 長征6(地球観測衛星Qilu-1, 4)打ち上げ(山西省 太原衛星発射センター)
11月1日 モルドバ大統領選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問