外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年10月7日(水)

外交・安保カレンダー(10月5-11日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


先週から今週にかけて興味深い動きがあった。まずは、トランプ氏のコロナウイルス感染と3日入院後の突然の退院のニュースから。米国は勿論、日本にも「自業自得」という声はある。確かに酷い大統領候補者ではあるが、それでも相手は生身の人間だ。「一日も早い回復をお祈りする」、というのが大人の対応というものだろう。

ホワイトハウスの医師団によれば、大統領の病状は徐々に回復しているそうだが、本当なのか。こんなに医者の言うことを聞かない患者もあまりいないだろうが、プロの医師としての診断を無視するような人の主治医にだけはなりたくない。トランプ氏ほど大統領選のため医学を政治化しようとする大統領は他にいないと思う。

さて、その大統領選だが、先週、討論会第一ラウンドが行われた。注目のアンカーはFOXニュースのクリス・ウォレス、あの保守的TV局内では数少ないバランスの取れた司会者だと思う。たまたま自宅で時間もあったので、同討論会のTV生中継は全部見ていたのだが、結論を先に言えば、全くの時間の無駄だったと思う。

論点としては最高裁、コロナ、経済、納税申告、人種、法と秩序、気候変動、郵送投票、国民へのメッセージなどが用意されたのだが、内容は恐ろしく浅かった。44年間の米国大統領選観察で、恐らく今回が最悪の討論会だったと思う。米国の民主主義も劣化したものだ。

とにかく、トランプ候補は攻撃に徹した。自身の白人男性労働者層という岩盤支持層固めには成功したし、極右勢力は大喜びかもしれないが、当然副作用もある。新たな支持獲得には失敗、むしろ、郊外の女性、マイナリティの票を失ったことはかなり痛いだろう。このままでは避けたかった「現職大統領信任投票」が現実になりつつある。

トランプ氏は最後のチャンスを台無しにしてしまった。これでまた一人、選対委責任者の首が飛ぶだろう。一方、バイデンは大統領らしく振舞うことに必ずしも成功しなかった。大失敗はなかったが、「可もなく、不可もない」だけでは決定打にならない。今回の討論会がバイデン陣営にとって追い風にはなりそうもない。

要するに、バイデンはトランプの稚拙な戦術に救われたと言うべきだ。しかし、バイデンがカメラ目線で、国民に語り掛けていたのは良かったと思う。リベラル系NYTなどはこの点を強調していたが、逆にトランプ寄りのFOXはこれを無視していた。そういえば、米国の友人たちも口を揃えて、「酷い討論会だった」と言ってたっけ。

理由は簡単、両候補、特にトランプ氏が、人の話を聞かず、相手の話の途中に割り込んで、罵倒するという、ディベート学の基本に反する姿勢に終始したからだ。ボクシングで言えば、相手がパンチを出すとすぐクリンチする、反則ばかりで試合にならない。最近米国で「Presidential」という言葉が使われなくなった理由が良く分かった。

反則の多くはトランプによるものだったが、バイデンも堪忍袋の緒が切れたのか、Will you shut up, man?と発言するなど、トランプの挑発に乗ってしまった。大統領候補同士の討論会が「正々堂々、事実と論理、どちらが大統領の相応しいか」のコンテストにならなかったのは、予想通りではあったが、それにしても、がっかりだ。

最大の理由はトランプ陣営の劣勢、トランプの焦りだろうが、結果はトランプ陣営にとって逆効果となった。過ぎたるは猶及ばざるが如し、とはこのことだ。特に、アンカーのウォレスがトランプに何度も苦言を呈していたのには驚いた。一方、バイデンは立派だったかというと、必ずしもそうではない。

やはり、バイデンはごく普通の候補者に過ぎなかった。相手がトランプだからよく見えただけかもしれない。今回はトランプがあまり突っ込むので、バイデンがボケたり、失言したり、暴言を吐く暇すらなかったのが幸いしたのではなかろうか?全国レベル、激戦州レベルともに、バイデンがやや優勢な状況に変化はないだろう。

今後の見通しだが、トランプ氏はその得意手で浮上することは難しくなったのではないか、今頃選対委員長は頭を抱えているのではないか。こうなれば、バイデン候補の失策を待つしかないとなるだろうが、今回はその機会をトランプが自ら潰したように感じる。

最新の世論調査ではバイデンがリードを広げているが、多くの大統領選挙は激戦州での浮動層の数%の動きで決まることが多いので、大統領入院で、また先行きが見えなくなった。 今後は、10月7日に副大統領候補者による討論会(ユタ州ソルトレークシティー)、10月15日に第2回大統領候補者による討論会(フロリダ州マイアミ)、10月22日に 第3回大統領候補者による討論会(テネシー州ナッシュビル)が予定されているが、本当に討論会なんてやれるのか、状況は星雲状態と言って良いだろう。

もう、正直言って、トランプの動静を追っかけるのは疲れた。今週筆者が最も懸念するのは、ナゴルノカラバフ情勢だ。1994年に停戦になったはずの紛争だが、過去一週間のアゼルバイジャンとアルメニア両国間の武力行使の応酬は従来と違う何かを感じさせる。欧米が無関心な中で、大問題に発展することを恐れる。

最大の理由は、この問題にトルコ、イラン、クルド、ロシアなど中東・中央アジアのややこしいことを平気でやる国々が直接・間接に関与していることだ。大統領の入院騒ぎで米国政府はほとんど脳死状態だろうから、ロシアやトルコがやりたい放題やる可能性がある。民主主義の下で立派な外交をやるのは実に難しいなと痛感する。

〇アジア
今週日本で日米外相会談と、日米豪印のQuad外相会合がある。このコロナ禍の中で、米大統領入院の騒ぎの中で東京で開かれること自体、意義があるということ。今後はこの四カ国に続きQuadに加わる国が出てくるかどうかだ。この点はJapanTimesに書いたのでご一読願いたい。

〇欧州・ロシア
上記のナゴルノカラバフ問題で仏大統領が色々発言している。フランスは正論を言うのだろうが、EU全体が連携しているように思えない。これではロシアにやられる!要するに、米国がしっかりと動かない限り、西側欧米諸国も実効性のある国際的流れを作ることはできないのだろう。

〇中東
茂木外相がサウジを訪問、同国の新エネルギー戦略や脱石油に向けた経済改革を話し合ったそうだが、それって30年前とどこが違うのかね?壮大なアイディアは結構だが、問題は本当にそれを実行するだけの民度を伴う国民がいるのか、育っているのかということだ。サウジはやっぱり変わらない。

〇南北アメリカ
今週は7日に副大統領候補同士のTV討論会がある。72時間前にPCR検査陰性であることが条件だそうだ。そうであれば、15日のトランプ氏はそもそも第二回討論会に参加できるのか。バイデン候補は取り止めも示唆しているようだが、こうした日程自体が大統領選挙にとって微妙な影響を及ぼしそうである。

〇インド
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

7月27-10月16日 第18期国会第2常会第1部(フィリピン)
9月28日-10月16日 国連経済的、社会的、文化的権利委員会 第68回会合(ジュネーブ)
1-8日 中国国慶節、中秋節
4-8日 米・国務長官が日韓モンゴル歴訪
5日 ユーロ・グループ(ルクセンブルク)
5日 ノーベル賞発表開始
5-6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(エネルギー)(ベルリン)
5-8日 EU議会本会議(ストラスブール)
5-8日 国連包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)諮問グループ 第55回会合(ウィーン)
5-11月20日 国連総会 第三委員会 第75回会合(ニューヨーク)
5-11月25日国連総会 第二委員会 第75回会合(ニューヨーク)
5-12月14日 国連総会 第五委員会 第75回会合(ニューヨーク)
6日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
6日 米国8月貿易統計発表
6日 メキシコ9月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ロシア9月CPI発表
6日 日米豪印外相会合(東京都内)
6-11月4日 国連総会 第一委員会 第75回会合(ニューヨーク)
6-11月20日 国連総会 第六委員会 第75回会合(ニューヨーク)
7日 G20観光相会合(バーチャル形式)
7日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
7日 FOMC議事要旨(FRB)
7日 米・副大統領候補討論会(ユタ州ユタ大学)
7-16日 国際海底機構 第26回会合 partⅡ
8日 メキシコ9月CPI発表
8日 ブラジル8月月間小売り調査発表
8-9日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
8-11月10日 国連総会 第四委員会 第75回会合(ニューヨーク)
9日 ブラジル9月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
10日 朝鮮労働党創建75年
11日 タジキスタン大統領選挙
11日 リトアニア議会選挙

<12-18日>
12日 コロンブスデー(為替、債権市場が休場)
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
12日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12日 インド8月鉱工業生産指数発表
12-16日 ベラルーシでロシアなど6カ国合同軍事演習
12-18日 IMF・世界銀行 年次総会(バーチャル形式)
13日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
13日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(テレビ会議)
13日 中国9月貿易統計発表
13日 米国9月消費者物価指数(CPI)発表
13-14日 WTO一般理事会
13-16日 香港エレクトロニック・アジア
14日 第4回G20財務相・中央銀行総裁会合(バーチャル形式)
14日 ソユーズ2.1a (国際宇宙ステーション第63次及び64次長期滞在ミッション用ソユーズMS-17)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
14-15日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(通信/デジタル問題)(バーデン=バーデン)
15日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
15日 中国9月CPI発表
15日 ロシア1-9月鉱工業生産指数発表
15日 米・第2回大統領候補討論会(フロリダ州マイアミ)
15日 英・EU自由貿易協定(FTA)交渉合意期限(英国が設定)
15日 CIS外相会議(ウズベキスタン・タシケント)(オンライン形式)
15-16日 欧州理事会(ブリュッセル)
15-16日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)理事会
15-25日 ロシア軍とベラルーシ軍の合同演習(ベラルーシ西部ブレスト近郊)
16日 CIS首脳会議(ウズベキスタン・タシケント)(オンライン形式)
16日 ユーロスタット、9月CPI発表
16日 米国9月小売売上高統計発表
16-18日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC、バーチャル形式)
17日 ニュージーランド総選挙(オークランド)
17日 ソユーズ2.1b(ロシア航法測位衛星GLONASS-K 15)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
18日 ギニア大統領選挙
18日 メキシコ(コアウィラ州、イダルゴ州議会)選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所研究主幹