外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年9月29日(火)

外交・安保カレンダー(9月28日-10月4日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


今週最も気になったのは台湾問題だ。9月に入ってから米台関係の見直しに関する論争が米中論壇で始まった。深刻な内容なので少し詳しく書こう。まずは9月2日米国外交問題の大御所Haasが「対台湾政策は明確であるべし」と題する小論で「米国は従来の『戦略的曖昧さ』に代わり、台湾防衛の意図を明確にすべし」と説いた。

続いて、9月21日、米海兵隊のMills大尉(Captain)が陸軍系専門誌に「米軍は台湾駐留を考えるべし」とする小論を寄稿した。これに対しては24日、中国環球時報の編集長がツイッターで猛反発、「米軍が台湾に戻れば、PLAは中国の領土を保全するための正義の戦いを始める」と警告したことから、話がエスカレートしていった。

単なる言葉の喧嘩なら、どうってことはない。また、HaasとMillsの両論文に直接の関連もないだろう。だが、中国人なら、これが偶然だとは決して思わない。陰謀論が大好きな民族だからだ。この論争が意味するものは何か。今週のJapanTimesコラムはこれを取り上げている。英語だが内容は深刻なので、時間があればご一読頂きたい。

もう一つ気になったのが南北朝鮮関係だ。韓国の文在寅政権は相変わらず迷走、北朝鮮軍による海洋水産部職員射殺事件に関し、大統領が緊急安保関係長官会議で、「北朝鮮側の迅速な謝罪と再発防止の約束を肯定的に評価する」と発表したという。おっと、どこかで聞いたことのある話ではないか。

文政権の迷走よりも筆者が気になったのは、北朝鮮が送ってきた金正恩の「申し訳なく思っている」という謝罪メッセージの含まれた通知文発出の経緯だ。平壌で行われた日朝首脳会談で、北朝鮮側が長年否定していた日本人の拉致を初めて認め、謝罪し、再発の防止を約束したのは、確か、平成14年だったと思う。

あの時、北朝鮮は「謝罪カード」を切れば問題を解決できると思ったか、もしくは、そうすれば問題解決可能だと誰かに囁かれたかは知らないが、とにかくそのシナリオに乗って大失敗する。「あの誇り高き北朝鮮が簡単に謝罪するだろうか?」第一報を聞いて筆者はこう考えた。されば、北朝鮮が今どう感じているかが気になるところだ。

韓国はこのくらいにして、次は米国。遂に大統領選挙が最終段階に入ったが、先週はリベラル派女性最高裁判事死去が「オクトーバーサプライズ」になると書いた。予想通り、トランプ政権は保守派女性判事を後任に指名。最高裁での保守派優位に異を唱える共和党上院議員は殆どいなかった。今のところは、トランプの勝ちである。

これに民主党が黙っている筈はない。27日夜、NYTが遂に、というか予定通りというか、「トランプ氏個人の納税申告書」の詳細をすっぱ抜いた。恐らくかなり前から入手していたに違いないが、最高裁判事後任問題で大統領選の流れが動きそうになった絶妙のタイミングで書いたのだろう。これが仁義なき米国の内政の実態だ。

ロイターなどによれば、トランプ氏は「過去15年のうち10年間も所得税を納めておらず、2016年と17年の連邦税納付額はそれぞれたった750ドルだった」という。NYTやCNNはまた鬼の首でも取ったような大はしゃぎだが、過去の事業損失との損益通算による節税は大統領としてはともかく、経営者としては当然で、違法性は低いだろう。

但し、仮に巨額の借金が本当だとしても、ではトランプ氏は一体誰からいくら借りたのか。米国内の金融機関だけでなく、諸外国の得体の知れないブラックマネーが紛れ込んでいるのではないか、等々。今ワシントン発メディアではこの納税額、借金借入先、その他申告書関連の諸報道が垂れ流されている。

当然、大統領はこれら報道を「完全なフェイクニュース」と否定。庶民感情には程遠いが、トランプ氏はこれで中央突破するしかない。この調子では、11月3日までエゲツナイ暴露合戦が連日続くだろうし、下手をすると投票日後も選挙結果が長期間確定しない恐れすらある。こうなれば、共和党保守派の「良識」に期待するしかないだろう。

〇アジア
ワシントンの連邦地裁が中国発アプリ配信を禁じるトランプ政権の措置を再び一時的に差し止めたという。恐らく順当な措置なのだろう。無茶な強硬策で譲歩を引き出そうとするトランプ政権のやり方に明確な法的根拠があるとは思えないからだ。「戦術は行き詰まり、先行きの不透明さが増している」との日経記事は基本的に正しい。

〇欧州・ロシア
ベラルーシの抗議デモは続くが規模は縮小との報道もある。ルカシェンコの粘り勝ちなのか、米国の静観している態度も気になる。一方、旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンがナゴルノカラバフをめぐり再び衝突した。国際社会は戦闘停止を求めたが、トルコはアルメニアを牽制する。トルコにとっては絶好のチャンスなのだろう。

〇中東
5年前編集部が襲撃された仏風刺新聞「シャルリ・エブド」の旧本社前で再び襲撃事件が起きた。犯人のパキスタン人は本社が移転したことを知らなかったそうだが、お粗末な話だ。他方、あの趣味の悪い風刺画の出来は悪いが、それを再掲するアホな連中にも呆れた。それでも、彼らには表現の自由はある。これが民主主義なのだ。

〇南北アメリカ
日本時間30日午前に米大統領候補者による第一回テレビ討論会がある。エンタメとしては面白そうだが、討論会でのパーフォーマンスがどこまで効果的かは疑問だ。トランプ氏にとっては劣勢挽回のチャンス。民主党系の人々はバイデン候補が途中で沈黙したり、失言したり、暴言を吐いたりしないよう、文字通り、祈っていることだろう。

〇インド
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

28日 IAEA 理事会(ウィーン)
28日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
28日 メキシコ8月貿易統計・雇用統計発表
28日 ソユーズ2.1b(Gonets-M 17-19, 2機のKepler他)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
28日-10月16日 国連経済的、社会的、文化的権利委員会 第68回会合(ジュネーブ)
29日 第1回大統領候補討論会(オハイオ州ケース・ウエスタン・リザーブ大学)
30日 米国第2四半期GDP発表(確定値)
30日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表
30日 ファルコン9(米国航法測位衛星GPS 3A-04)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
30-10月1日 EU農水相理事会 非公式会合(ベルリン)
30-10月1日 EU環境相会合 非公式会合(ベルリン)
1日 EU臨時首脳会議(ブリュッセル)
1日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
1日 EU8月失業率発表
1日 米・8月PCE物価指数(商務省)
1-5日 国連総会 第一委員会 第75回会合(ニューヨーク)
1-8日 中国国慶節、中秋節
1-12日 国連総会 第四委員会 第75回会合(ニューヨーク)
1-20日 国連総会 第三委員会 第75回会合(ニューヨーク)
2日 米国9月雇用統計発表(労働省)
2日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表
2日 ロシア2020年第2四半期需要項目別GDP統計(速報値)
2日 長征3B/E(天通一号02)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
2日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機14号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
2-3日 チェコ上院選挙(議員の3分の1が改選)
3日 ドイツ再統一から30年
4日 キルギス議会選挙
4日 ニューカレドニア住民投票

<10月5日-11日>
5日 G20貿易相会合(リヤド)
5日 ユーログループ(ルクセンブルク)
5日 ノーベル賞発表開始
5-8日 欧州議会本会議(ストラスブルグ)
6日 EU経済・財務相理事会(ストラスブルグ)
6日 米国8月貿易統計発表
6日 メキシコ9月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ロシア9月CPI発表
7日 G20観光相会合(サウジアラビア・アブドゥッラー国王経済都市(KAEC))
7日 FOMC議事要旨(FRB)
7日 米・副大統領候補討論会(ユタ州ユタ大学)
8日 メキシコ9月CPI発表
8日 ブラジル8月月間小売り調査発表
9日 ブラジル9月IPCA発表
10日 朝鮮労働党創建75年
11日 タジキスタン大統領選挙
11日 リトアニア議会選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問