外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年9月23日(水)

外交・安保カレンダー(9月21-27日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


過去一週間でワシントン在住が長い2人の友人と久し振りにウェブチャットを楽しんだ。一人は40年来の民主党系の友人、もう一人は30年来の共和党系、いずれも弱肉強食の政治都市ワシントンで生き延びた、政治感覚の鋭い、筆者にとっては大切な「ワシントン定点観測」の「百葉箱」(失礼)たちである。

まずは、民主党系から。何とその友人は「RBG逝去がちょっと早い『オクトーバーサプライズ』になるかも」と言い出した。「RBG」とは、先日亡くなった米最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグ女史のこと。米国では有名なリベラルのフェミニストで国民の人気も高かった。でも、それが大統領選挙とどんな関係があるのだろう。

結論から言わせてもらえば、RBGの死により、トランプ氏再選の可能性が高まるかもしれない、ということだ。最初聞いたときは半信半疑だったが、後ほど共和党系の友人からもほぼ同じような話を聞いて、予感は確信に変わった。その共和党系友人は喜びを隠し切れない様子、彼から聞いた話をそのままお伝えしよう。

「先週の18日(RBG逝去の日)までは、トランプの得票率はせいぜい42%止まり、激戦州の多くを失い、地滑り的大敗北を喫する可能性大だった。ところがどうだ、彼女の死で状況は完全に変わった。今後の焦点は最高裁判事後任問題となり、コロナ禍の話がすっ飛んでしまったのだから、これで福音派の票も戻ってくるだろう・・・。」

RBGの死でトランプは保守系の女性判事を最高裁に送り出す。保守対リベラルの比率は6対3となり、仮に、バイデン候補が勝っても、上院が民主党多数になっても、最高裁は民主党案件をすべて潰すことも可能となる。心の底ではトランプを毛嫌いする共和党員は少なくないが、さすがの彼らも今回はトランプを支持せざるを得ない。

詳しい話は今週の日経ビジネスOnLineに書いたのでお読み頂きたい。いずれにせよ、今頃、米国民主党系の人々は戦々恐々だろう。それにしても絶妙のタイミングでRBGは亡くなった。長年ガンと戦いながら、いつも知的ユーモアを絶やさなかった小柄の女性闘士に心から哀悼の意を表したい。

今週もう一つ気になったのが、中国共産党総書記を公然と批判した中国国有企業の元トップが横領や公金流用などの罪で実刑を食らったことだ。報道によれば、有罪になったのは国有大手不動産会社「華遠集団」元会長で刑期は懲役18年、罰金420万元だという。この御仁、どうやら北京政界で逃げ遅れたようだ。

同会長は新型コロナウイルスへの初動や情報隠蔽をめぐって習近平指導部を厳しく批判した後、拘束されたという。実質的には中国当局の言論統制強化の一環だろう。この男は党幹部子弟の「太子党」グループ出身で言論界でも積極的に発言、党中央や指導者に対しても鋭い舌鋒で批判することで有名だったとも報じられている。

同会長は同じ太子党の王岐山国家副主席と政治的に近かったという。だから、総書記批判を繰り返しても大丈夫だと過信したのだろうか。いずれにせよ、このレベルの人々であれば、誰もが「叩けば埃の出る身体」。程度の差はあれ、公金横領に近いことをしていない太子党メンバーがいたら、その方が不思議だろう。

〇アジア

ロイターによれば、李登輝元総統の葬儀で台湾を訪問した日本の某元首相が、台湾総統との電話会談に前向きな姿勢を示す日本の新首相の言葉を伝えたことに対し中国が懸念を示したが、同総統自身は「そんな電話会談は予定していない」と述べたというのだ。これは一体何だった?良く分からない。

中国側は、外交部が日本側に説明を求め、そのようなことは「決して起きない」との説明があったと言っている。何というお粗末。こんな電話は黙って掛けるもので、事前にメディアに喋るべきことではない。どこでボタンの掛け違いがあったかは知らないが、これが意図的リークでないとすれば、お粗末外交としか言いようがない。

一方、バンコクでは大規模な民主化要求集会が続いている。これまでタイは、既得権エリート集団と一般庶民を煽るポピュリスト政治家との政争を最後に国王が治めてナンボの国だった。不敬罪にはなりたくないので多くは言わないが、こういう時こそ国民に癒しを与えるのが王室の仕事ではないのかねぇ。

〇欧州・ロシア

毒殺されかかったロシアの野党勢力指導者は体力こそ回復しているものの、認識・言語能力に重大な障害が出ているらしい。何と可哀想に、早期回復を祈ろう。それにしても、反対者は「消すのが一番」とでも考えているのだろうか。やはり、ロシアはソ連時代と変わらない。こうするしか、あの広大な帝国を維持する方法はないのだろうか。

〇中東

米国務長官が対イラン国連制裁を19日午後8時(日本時間20日午前9時)に全面復活した旨の声明を発表したという。でも、こんなことをやってもEU諸国は決して同調しないだろう。あれだけ欧州の同盟国を邪険にした挙句、制裁を復活しようなどと呼びかけても手遅れではないか。トランプ政権の連中も外交が下手くそだなあ。

〇南北アメリカ

カナダが中国との自由貿易協定(FTA)締結交渉の打ち切りを決めたという。中国側の「威圧的な外交」が原因だそうだ。変わらないね、中国は!それにしても、この思い上がりというか、強気というか、なぜ最近中国は英米加豪など英語圏主要国にわざわざ喧嘩を売った上で孤立化するのだろう。中国も意外に外交下手だなあ。

〇インド

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

20-22日 モンゴル・エンフタイワン外相がロシアを訪問

21日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(鉄道/デジタル問題)(テレビ会議)

21日 EU・ボレル外相及び加盟各国の外相とベラルーシ反政権派候補が会談(ブリュッセル)

21日 長征4B(海洋二号C)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)

21-22日 EU農水相理事会(ブリュッセル)

21-25日 国際原子力機関(IAEA)年次総会(ウィーン)

22日 ロシア1-7月貿易統計発表

22日 G20貿易相会合(バーチャル形式)

22日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)

22日 快舟1号甲(吉林一号高文02F)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)

22-29日 第75回国連総会一般討論(ニューヨーク)

23日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会 (非金融政策)(フランクフルト)

23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

23日 欧州委員会が「ダブリン規則」を廃止し難民・移民対策の新協定案を発表

23日 インドネシア地方首長選挙(270地域)

23日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表

24日EU外相理事会(ブリュッセル)

24日 ECB一般理事会(フランクフルト)

24日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)

24日 フォークランド諸島住民投票

24-25日 EU臨時首脳会議(ブリュッセル)

24-25日 IOC東京五輪調整委

25日EU競争力担当相理事会(研究)(ブリュッセル)

25日 ロシア8月雇用統計発表

25日 菅首相が国連総会でビデオ演説

26日 日韓交流おまつり(東京)

27-28日 G20エネルギー相会合(サウジアラビア アル・コバール)

<28-10月4日>

28日 IAEA 理事会(ウィーン)

28日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)

28日 メキシコ8月貿易統計・雇用統計発表

28日 ソユーズ2.1b(Gonets-M 17-19, 2機のKepler他)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)

28日-10月16日 国連経済的、社会的、文化的権利委員会 第68回会合(ジュネーブ)

29日 第1回大統領候補討論会(オハイオ州ケース・ウエスタン・リザーブ大学)

30日 米国第2四半期GDP発表(確定値)

30日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表

30-10月1日 EU農水相理事会 非公式会合(ベルリン)

30-10月1日 EU環境相会合 非公式会合(ベルリン)

1日 EU8月失業率発表

1日 米・8月PCE物価指数(商務省)

1-8日 中国国慶節、中秋節

2日 米国9月雇用統計発表(労働省)

2日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表

2日 ロシア2020年第2四半期需要項目別GDP統計(速報値)

2-3日 チェコ上院選挙(議員の3分の1が改選)

3日 ドイツ再統一から30年

4日 キルギス議会選挙




宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問