キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年9月16日(水)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
今週は16日に菅新内閣発足ということで、原稿締切日を勝手に延ばしてしまった。党閣僚人事次第では新内閣の外交政策にも何らかの変化があるかもしれない、と思ったからだ。結論を言えば、案の定というか、それはなさそうだ。安全優先なのか、外務大臣からNSC局長まで外交安保人事の骨格はほとんど変わっていない。
そもそも新内閣全体が事実上の「居抜き」内閣なのだから、当然と言えば当然。強いて「新味」といえば新任の防衛大臣だろうが、岸大臣は安倍首相の実弟だから、前内閣の方針が変わるとは思えない。外国報道機関からの問い合わせには、文字通り「継承」を重視し、絶対安全運転に徹する内閣だ、と筆者は答えている。
安倍政権に批判的な人々は路線継承の新味なき新内閣などと手厳しいようだが、安倍路線継続を求める人々は安定した政権運営継続を歓迎する。日本メディアでは早くもこうした立場の違いから様々な報道が流れ始めたが、日本でも、米国の如く、最初の100日ぐらいは蜜月にして、新内閣の動きを温かく見るべきではないか。
もう誰も話題にしなくなったが、個人的には総裁選での岸田、石破両候補の順位が気になっていた。最終的には岸田候補が2位になったが、朝日新聞のまとめでは、「各3票が配分されている都道府県連票(計141票)について、菅氏がトップの89票で、6割超を獲得した。石破氏の42票、岸田氏の10票に大きく差をつけた」そうだ。
先週も書いたことだが、自民党の党員数は2016年に100万人の大台を回復している。米国大統領選挙の予備選では、連邦議会議員だろうが、知事だろうが、一票の価値は一般党員と平等だ。日本の自民党だって、筋論から言えば、百余万の党員が平等に総裁を選んでもおかしくないのだが、今やそんな議論をする者はいない。
今年も再び9月11日がやってきた。19年前のこの日、筆者は北京の日本大使館に勤務していた。当時の中国はようやく人々が豊かになり始めた頃、今とは比べ物にならないほど毎日が楽しかった。アルカーイダによる貿易センタービルへの攻撃はCNN生中継で女房と見ていた。改めて犠牲となった方々に哀悼の意を表したい。
では、今年の9月11日はどうか。日本国内では外交安全保障面で重要な動きがあった。同日は国家安全保障会議が開かれ、安倍首相の、事実上最後の、首相談話が発表された。内容的には「抑止力の重要性」を強調しつつ、年末までに国家安全保障戦略の改定を含む、新たな方向性を滲ませた「頭出し」談話となっている。
あくまで、「敵基地攻撃」などではなく「専守防衛」の枠内での「抑止力の強化」という大局的な概念整理をしたようだが、その方向性は正しい。突然の病気再発による退陣とはなったが、16日の辞任までに安倍首相は、何とか方向性を示しておきたかったのだろう。これが実現すれば、安倍安全保障政策の菅内閣による総仕上げとなる。
一方、11日、海外では米大統領が、バハレーン国王とイスラエル首相、それぞれと電話会談を行った後、「米国の仲介で両国が国交正常化で合意」したと発表した。8月13日にはアラブ首長国連邦(UAE)・イスラエルの国交正常化が合意されており、トランプ氏はこれを「歴史的成果」だと自画自賛している。
UAEとの場合、サウジが慎重な態度を取ったこともあり、これに追随して国交正常化を急ぐ他のアラブ諸国はないと見ていた。ところがどうだ、どうやらバハレーンは米国の圧力に屈した(失礼)というか、強い要望を受け入れたのだろう。小さいとはいえ、新たに正常化に踏み切ったアラブ国家が2か国になったことは小さくない話だ。
今後は目立たない形でこれに追随する湾岸アラブ諸国が更にいくつか出るかもしれない。いずれにせよ、イスラエルとGCC諸国との関係改善は既に水面下で進んでいたので、内容的には現状を追認した形だ。今後はサウジの動きに注目したいが、それにしても、パレスチナの指導部は一体何なのか。誰も責任を取ろうとしない。
最後に、米大統領選について。昨日中央公論の主催で東大の久保文明教授との対談を行った。いつもながら、同教授の分析は鋭く、実に勉強になった。おっと、今週もここで紙面が尽きてしまった。具体的内容は10月10日発売の11月号をお読み頂きたい。
〇アジア
15日、WTOの第一審である紛争処理小委員会が、米国が2018年に中国製品に課した関税措置は国際貿易ルール違反との判断を下した。勿論判断は正しいが、上級審での審理が事実上不可能なので、本件これにて一件落着、ということにはならない。米国は反発し、WTO脱退すら仄めかしている。八方塞がりは続くだろう。
〇欧州・ロシア
毒殺されかかったロシアの野党勢力指導者が15日、人工呼吸器なしで呼吸ができるとソーシャルメディア上で明らかにしたそうだ。使われたのは神経剤ノビチョクらしいが、それは軍事用化学兵器の可能性が高く、ロシア政府の関与が改めて疑われている。いずれにせよ、一日も早く回復し、真相を語ってほしいものだ。
〇中東
15日、イスラエルがホワイトハウスでUAE、バハレーンとの国交正常化合意文書に署名した。どう考えても大統領選挙狙いだが、その効果は限定的だろう。こうした歴史的事件にケチをつけるつもりは毛頭ないが、これでパレスチナ問題が事実上解決不能となるコストを将来一体誰が払うのだろうか。ただでは済まないはずなのだが。
〇南北アメリカ
米西海岸の山火事は450万エーカーを焼き尽くし、カリフォルニアの大気汚染は世界最悪に、煙は遠く東海岸のワシントンやニューヨークにまで到達しているという。この暗い空は米国の良識ある有権者の目まで曇らせるのだろうか?大統領選挙は遂に最終段階に入り、両候補の足の引っ張り合いは今や「仁義なき戦い」だ。
〇インド亜大陸
相変わらずインドのCOVID-19感染者が増え続けているが、それ自体もうニュースではなくなったのか。今週はこのくらいにしておこう。
8月29-9月20日 自転車ツール・ド・フランス(ニース〜パリ)
7-25日 児童の権利委員会 第85回会合(ジュネーブ)
14日 中国・EUオンライン首脳会議
14日 自民党両院議員総会で総裁選投開票、新総裁を選出
14-17日 欧州議会本会議(ストラスブール)
14-18日 IAEA理事会(ウィーン)
14-10月2日 国連人権理事会 第55回会合(ジュネーブ)
15日 ロシア1-8月鉱工業生産指数発表
15日 イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、国交正常化で調印式(米ワシントン)
15-16日 UNウィメン執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
15日-12月 第75回国連総会開会(ニューヨーク)
15-16日 米連邦公開市場委員会(FOMC)(FRB)
15日 中国8月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 長征11(吉林一号高文039機)打ち上げ(海上発射(黄海近海))
15-16日 ブラジル中央銀行、Copom
15-16日 米国FOMC
16日 G20環境相会合(リヤド)
16日 米国8月小売売上高統計発表
16日 日本・新内閣発足
16-17日 EU教育・若年・文化・スポーツ相会合 非公式会合(教育)
17日 EU 8月CPI発表
17-18日 アジア開発銀行(ADB)年次総会(第2段階)(テレビ会議)
18日 米・4-6月期経常収支
18日 ロシア中央銀行理事会
18日 日本・臨時国会閉幕
18日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星13 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
19日 ニュージーランド総選挙(オークランド)
19日 李登輝氏の追悼告別式(台北郊外・大学の礼拝堂)
20-21日 EU外相理事会非公式会合(貿易)(ベルリン)
<9月21-28日>
21日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(鉄道/デジタル問題)(テレビ会議)
21日 長征4B(海洋二号C)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
21-22日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
21-25日 国際原子力機関(IAEA)年次総会(ウィーン)
22日 ロシア1-7月貿易統計発表
22日 G20貿易相会合(バーチャル形式)
22日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
22-29日 第75回国連総会一般討論(ニューヨーク)
23日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会 (非金融政策)(フランクフルト)
23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
23日 インドネシア地方首長選挙(270地域)
23日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表
24日EU外相理事会(ブリュッセル)
24日 ECB一般理事会(フランクフルト)
24日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
24日 フォークランド諸島住民投票
24-25日 EU臨時首脳会議(ブリュッセル)
25日 EU競争力担当相理事会(研究)(ブリュッセル)
25日 ロシア8月雇用統計発表
27-28日 G20エネルギー相会合(サウジアラビア アル・コバール)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問