外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年9月8日(火)

外交・安保カレンダー(9月7-13日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


自民党の総裁選が始まり、永田町周辺に巣食う政治雀たちの言動が再び活発になってきた。今や彼らの関心は総裁選の結果ではなく、早くも新首相による解散・総選挙の(可能性ではなく)時期に移りつつある。それにしても、病気による電撃辞任発表にもかかわらず、安倍首相自身と自民党の支持率が急上昇したのは予想外だった。

これが日本の国内政治だと言われれば身も蓋もないが、国外では全く別の論理で重要な事件が起きている。今週筆者が注目するのはインドと中国の緊張が続いていることだ。両国には4000キロ以上の未確定国境線があり、6月には山岳地帯で「武器を使わない」軍事衝突が発生し、45年ぶりに死者を出す事件が起きている。

8月31日、インド軍は北部ラダック地方と中国西部のチベット自治区にまたがるパンゴン(班公)湖周辺で29~30日に「現状を変更しようとする挑発的な軍事行動」があったとして中国を非難したと報じられた。6月の事件は決して偶発的、一時的な事件ではなく、これからも拡大しかねない一連の対立の始まりなのだろう。

対する中国軍西部戦区の報道官は、インド軍が実効支配線を越えたとして「強烈な反対」を表明したそうだ。ちなみに、最近中国が表明する「反対」は常に「強烈」という形容詞が付くのだが、他の表現方法はないのかい、と突っ込みたくもなる。ここで筆者が強く思ったことは最近インドの対中観が急速に悪化していることだ。

これまで筆者は、チベットを緩衝地に持つインドにとり中国は必ずしも戦略的脅威ではないと考えていた。しかも、インドの伝統的外交政策は非同盟主義だ。インドが対中懸念を深めるにしても、近い将来一線を越えることはないと思っていたのだ。だが、ここ数年でインドの対中政策はpoint of no returnを越えつつあるように見える。

続いて、自民党総裁選。各種報道が外交安保に関する三候補の「公約」を簡潔に纏めている。古今東西、この種の公式発言等を読む場合には、「何が書かれているか、語られているか」ではなく、「何が語られていないか」に注目することが重要だ。詳細は新聞報道をお読み頂くとして、ここでは大きな話をしたい。

簡単に言えば、三者三様なのだが、どうも良く分からない。一つだけ分かることは、日中、日露、日韓についてほとんど言及がないことだ。ある意味、これらはいずれも安倍外交の「積み残し案件」だが、本当はこれらについて踏みこんだ議論が必要ではないかと思う。この点については今週のJapanTimesのコラムをご一読願いたい。

今回もう一つ気になったのが、自民党の総裁選のあり方だ。今回は任期満了ではないので、党員投票は行わず、国会議員票(衆参両院議長を含めない)394票と都道府県代表票141票の計535票で行うことが決まった。一部には、これでは党員の意思が十分反映されないという批判もあるという。だが、この議論も良く分からない。

任期途中での総裁辞任で簡易形式の総裁選が行われるのは12年ぶりだというが、問題の本質は別にある。そもそも、この「党員選挙」「予備選挙」なるものは、同じく予備選挙をやっている欧米諸国と比べても、実に摩訶不思議である。この制度、構造的にヒラの党員の一票と国会議員の一票との間に驚くべき「格差」があるからだ。

自民党の党員数は1991年で公称約547万人だったがその後減少に転じ、2001年に200万人を割り、2009年には結党以来初めて100万人を割ったそうだ。最低は2012年の約79万人だったが、2016年には100万人の大台を回復したという。だが、国会議員も党員なのだから、議員票もこの100万票の一部という見方も成り立つ。

例えば、米国大統領選挙の予備選では、連邦議会議員や知事も一党員に過ぎず、一票の価値は平等だ。実は、米民主党にこれらの党幹部を「スーパー代議員」とする制度もあるのだが、決して評判が良い訳ではない。日本の自民党だって、筋論から言えば、百余万の党員が平等に総裁を選ぶのが最も理に適っていると思うのだが。

他方、党員による完全予備選挙が常にベストとは限らない。最近の例でも、米国民主共和両党の予備選挙は本来の趣旨を逸脱している。元々は「党幹部による密室政治」の打破が目的だったが、次第に一部強硬派活動家による予備選挙の「占拠」が常態化し、バランスの取れた候補者が選ばれないという弊害が出てきたのだ。現在の自民党内の議論はまだ健全なのかもしれない。

最後に米大統領選について。2016年と2020年の比較を書こうと思ったのだが、ここで紙面が尽きてしまった。要するに、全国レベルでどちらの候補が何%リードしているか知ってもあまり意味はない。特定の州での、白人労働者層、郊外の女性票、非白人層の人口動態などにつき詳細な分析が必要だからだ。この続きは次回書こう。

〇アジア
金正恩委員長は台風9号の被災地を視察、対策の不備を認め、現地の党幹部を解任し、党員向け公開書簡で復旧支援を呼びかけたそうだ。北朝鮮で立派な災害対策ができる訳もないのに、結果責任で処分される地方党幹部たちはあまりに哀れである。台風10号で更に処分者が増えるのだろう。

〇欧州・ロシア
ベラルーシで大規模デモが4週間続き、6日首都ミンスクでは10万人超が参加したという。この我慢比べ、背後に誰がいるか知らんが、かなり長引きそうだ。一方、毒を盛られたロシアの野党指導者がドイツで治療を受けているが、ドイツは対露制裁も考えていると報じられている。こうした水面下の動きで米国は蚊帳の外なのだろうか。

〇中東
どうしたことか、中東からのニュースが途切れがちだ。アラブ首長国連邦に次いでイスラエルと国交正常化に強硬に反対する勢力はないが、同時にこれに追随してイスラエルとの正常化に走る国もないようだ。もう「アラブの大義」や「パレスチナ問題が中東問題の核心」といった議論は死んでしまったのだろうか。

〇南北アメリカ
トランプ大統領は戦没兵士や戦争捕虜を「お人好しの負け犬suckers and losers」と呼んだそうだ。それならイラク戦争後のバグダッドに赴任した筆者だって「負け犬」に近い。戦争を経験しないことが悪いとは言わないが、国のために、国民のために戦場や危険地帯に赴く(英語ではharm’s wayという)人々への敬意がないのは残念だ。

〇インド亜大陸
インドのCOVID-19感染者が増え続けている。このままでは世界一になるかも。今週はこのくらいにしておこう。

8月29-9月20日 自転車ツール・ド・フランス(ニース〜パリ)
31-9月13日 テニス全米オープン(ニューヨーク)
7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7日 中国8月貿易統計発表(税関総署)
7日 レーバーデー(労働者の日)(ニューヨーク市場は全て休場)
7日 EU外相をホスト役にセルビア、コソボが首脳会談(ブリュッセル)
7-25日 児童の権利委員会 第85回会合(ジュネーブ)
8日 EU第2四半期実質GDP成長率発表
8-9日 エジプト代議院選
8-11日 UNICEF執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
9日 メキシコ8月CPI発表
9日 ブラジル8月IPCA発表
9日 中国8月CPI発表 PPI発表(国家統計局)
9日 ロシア2020年第2四半期経済活動別GDP統計(速報値)
9日 カナダ中央銀行政策金利発表
9-10日 G20雇用相会合(バーチャル形式)
9-11日NEPCON Vietnam 2020(電子、自動車関連展)(ハノイ)
10日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
10日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
10日 上海協力機構(SCO)外相会議
10日 ブラジル7月月間小売り調査発表
11日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務省会合)(場所未定)
11日 米国8月CPI発表(労働省)
11日 インド7月鉱工業生産指数発表
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 イラン議会選
11日 Astra Rocket3.0(低軌道技術実証衛星など)打ち上げ(アラスカ Kodiac)
11-12日 G20農業・水資源相会合(リヤド)
11-12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会 非公式会合(ベルリン)
12日 伊ベネチア国際映画祭授賞式
13日 ロシア統一地方選挙
13日 F1トスカーナ決勝(イタリア・ジェロ・サーキット)

<9月14-21日>
14-17日 欧州議会本会議(ストラスブール)
14-18日 IAEA理事会(ウィーン)
14-10月2日 国連人権理事会 第55回会合(ジュネーブ)
15日 ロシア1-8月鉱工業生産指数発表
15-16日 UNウィメン執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
15日-12月 第75回国連総会開会(ニューヨーク)
15-16日 米連邦公開市場委員会(FOMC)(FRB)
15日 中国8月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 長征11(吉林一号高文03 9機)打ち上げ(海上発射(黄海近海))
15-16日 ブラジル中央銀行、Copom
15-16日 米国FOMC
16日 G20環境相会合(リヤド)
16日 米国8月小売売上高統計発表
16-17日 EU教育・若年・文化・スポーツ相会合 非公式会合(教育)
17日 EU 8月CPI発表
17-18日 アジア開発銀行(ADB)年次総会(第2段階)(テレビ会議)
18日 米・4-6月期経常収支
18日 ロシア中央銀行理事会
19日 ニュージーランド総選挙(オークランド)
19日 李登輝氏の追悼告別式(台北郊外・大学の礼拝堂)
20-21日 EU外相理事会非公式会合(貿易)(ベルリン)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所研究主幹