外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年9月1日(火)

外交・安保カレンダー(8月31日-9月5日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


先週28日に安倍首相が「突如」健康を理由に辞任を表明して以来、閉塞感のあった日本内政が久し振りに活性化されたようだ。政治評論家やマスコミの政治部長は水を得た魚の如く、未確認情報と長年の直感に基づき、次から次へと「あること」「ないこと」を言う。これでは数カ月前の新型コロナ評論氾濫の時とあまり変わらない。

一国の首相の健康問題をあたかも(失礼)競馬の予想屋の如く予測・解説する。誰々が何時何処で体調悪化の兆候を如何に掴んだかを滔々と語り、鬼の首でも取ったように誇示する。多くの素人出演者はそれを聞きながら、「国民目線」で本質とはズレたコメントを流す。勿論政局は大事だが、最近は虚しさを覚えることの方が多い。

という訳で、先週は米国内政、そして今週は日本の政局がそれぞれ動き始めた。今は外交よりも国内政治の時代なのか。特に、東京の政治天気予報は政治天気図自体を大幅に書き換える必要がありそうだ。しかし、最も重要なことは日本の外交政策の行方である筈。諸外国と本コラムの最大関心事は常にこれである。

首相辞任の第一報をNHKが流したのは28日14時過ぎだったか。偶々讀賣テレビ「そこまで言って委員会」のリモート録画の真っ最中、しかも安倍首相の健康問題が番組最後のテーマだったので、スタジオ内は緊迫したらしい。そりゃそうだろう、筆者も、他の出演者と同様、前日自民党で流れた楽観論を前提に話していたのだから。

安倍首相の辞任といえば、13年前の2007年9月を思い出す。当時は首相夫人の補佐役だったが、内々辞任の意向を知らされたのは会見当日の朝、発表のわずか半日前だった。今回もごく限られた側近しか知らなかったのは当然。良い意味で、政治家の健康情報なんてそんなものだ。調子よくぺらぺら他人に喋れる筈はない。

それにしても、13年前とは異なり、今回は時間的余裕があり、かなり制御された『突如』の辞任会見になった気がする。恐らくこのXデー以降の筋書きは、何種類か既に準備され、幾つかについてはかなり真面目に吟味されていたことだろう。少しでも日本内政に知見がある者なら、その程度のことは容易に想像がつくというものだ。

ところが外国人記者にはこれが分からない。辞任会見4日前の8月24日、安倍首相が8日間で二度目の病院訪問を行った直後、何人かの米国人ジャーナリストと話す機会があった。「大変大変心配している。恐らく我々の知らないところで物事が急速に動いている。官房長官の動きに要注意」などと伝えたが、相手の反応はゼロだった。

でも、それも無理はないだろう。日本語ができない彼らには、なぜ人気No1の石破さんが苦戦しそうなのか、なぜ安倍さんの意中の人・岸田さんが孤立しそうなのか、なぜ若い河野さんや小泉さんの出馬の可能性が低いのか、よく理解できていないようだ。我々の日本人のワシントン取材も実は同じような盲点があるのかもしれないが・・・。

いずれにせよ、近く第二期安倍内閣の足掛け8年が終わる。8年間の外交はお世辞抜きで大成功だったと思う。8年も時間をかける特権を持った安倍外交は、恐らく戦後日本外交史上最も戦略的な外交活動だろう。強力な長期政権を持つことが戦略的外交にとって如何に重要かが良く分かるだろう。

勿論、全てが上手く行った訳ではない。日露交渉や拉致問題など成果が出なかった場合の方が多かったのも事実だ。でも、外交には相手がある。そもそも外交の残り物には福などない。残り物だからこそ、成果を出すのは他のどの案件よりも困難だ。ここら辺を今週の産経新聞と日経ビジネスに書いたので、ご一読願いたい。


〇アジア
チェコ上院議長が台湾を公式訪問し、中国は「高い代償を払うことになる」と脅したそうだ。この種の訪問が続くと困るのは中国だが、どうやって流れを止めるのか。しかし、これが台湾をめぐる「新常態」となれば、中国は増々意固地となるだろう。過ぎたるは猶及ばざるが如し。これがbackfireしないよう、細心の注意が必要である。

〇欧州・ロシア
ベラルーシで大統領退陣要求の大規模デモが3週間も続いている。今のところ非暴力だが、これがいずれ流血となり弾圧されるか、●●色革命になるかは大問題だ。これも台湾問題と同様、ベラルーシに圧力を掛け過ぎると必ずbackfireするだろう。中国にせよ、ロシアにせよ、相手が大国であることは一時も忘れてはならない。

〇中東
ポンペイオ国務長官がエルサレムで共和党大会で放映する演説を収録した。昔なら公私混同だろうが、トランプ政権関係者は意に介さない。目的は多くが民主党に投票するユダヤ系アメリカ人の票ではない。狙いがトランプ氏のベースである数千万票のエヴァンジェリカル派有権者だとしたら、悲劇だ。米政治はかくも劣化したのか。

〇南北アメリカ
ABCニュースの世論調査では、民主党バイデン候補のトランプ氏に対するリードに大きな変化は見られないという。でも、まだ8月末だろう、殆ど意味のない数字ではないか。通常なら10月には両大統領候補の支持率の差が縮小していくはず。本当の勝負は9-10月の戦いである。筆者はまだ、バイデン有利とは言い切らないつもりだ。

〇インド亜大陸
インドの一日のCOVID-19感染者が8万人近くになったという。恐ろしいとしか言いようがない。インドの農村が壊滅しないことを祈るばかりだ。今週はこのくらいにしておこう。

24-9月4日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)ワーキンググループB 第55回会合(ウィーン)
29-9月20日 自転車ツール・ド・フランス(ニース〜パリ)
30-9月1日 EU農水相理事会非公式会合(コブレンツ)
31日 インド第1四半期GDP発表
31日 ファルコン9(SAOCOM1B, Rideshare Mission1他)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
31-9月3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
31-9月4日 UNDP、UNFPA、UNOPS執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
31-9月13日 テニス全米オープン(ニューヨーク)
9月1日 ブラジル第2四半期GDP発表
1日 EU7月失業率発表
1日 イラン核合意の当事国・機関による合同委員会会合(ウィーン)
1日 米大統領が黒人男性銃撃事件の現地訪問(中西部ウィスコンシン州ケノーシャ)
1日 訪台中のチェコ上院議長が立法院(国会)で演説(台北)
1日 韓国通常国会開会
1日 自民党総務会で総裁選日程を決定
1日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星12 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
1-4日 マレーシア国際ハラル展示会(MIHAS)2020(クアラルンプール)
1-5日 香港ウォッチ・クロック・フェア
2日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
2日 ヴェガ(小型宇宙機ミッションサービスの実証フライトと超小型衛星46基)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
3日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
3日 米国7月貿易統計発表(商務省)
3日 気候変動対策のオンライン閣僚級会合
3日 ジャマイカ代議院(下院)選
3-5日 香港センターステージ(ファッション・フェア)
4日 米国8月雇用統計発表(労働省)
4日 メキシコ8月自動車生産・販売・輸出統計発表
4日 ロシア8月CPI発表
5日 G20教育相会合(バーチャル形式)
6日 北海道地震から2年
6日 自動車F1イタリアGP決勝(モンツァ・サーキット)

<9月7-13日>
7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7日 中国8月貿易統計発表(税関総署)
7-25日 児童の権利委員会 第85回会合(ジュネーブ)
8日 EU第2四半期実質GDP成長率発表
8日 エジプト代議院選
9日 メキシコ8月CPI発表
9日 ブラジル8月IPCA発表
9日 中国8月CPI発表 PPI発表(国家統計局)
9日 ロシア2020年第2四半期経済活動別GDP統計(速報値)
9日 カナダ中央銀行政策金利発表
9-10日 G20雇用相会合(バーチャル形式)
9-11日NEPCON Vietnam 2020(電子、自動車関連展)(ハノイ)
10日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
10日 ブラジル7月月間小売り調査発表
11日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務省会合)(場所未定)
11日 米国8月CPI発表(労働省)
11日 インド7月鉱工業生産指数発表
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 イラン議会選
11-12日 G20農業・水資源相会合(リヤド)
11-12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会 非公式会合(ベルリン)
12日 伊ベネチア国際映画祭授賞式
13日 ロシア統一地方選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問