キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年8月25日(火)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
米大統領選は佳境に入った。先週の民主党全国大会に続き、今週は月曜から四日間、共和党の全国大会が開かれている。興味深いことに、今年の民主・共和両党大会、例年とは一味も二味も異なるが、まずは共和党から。今年の共和党大会はあらゆる意味で四日連続の「トランプ独演会」となりそうである。その理由はこうだ。
今年の共和党大会は月曜日夜から、日本時間では火曜日の朝から始まる筈、だった。普通なら指名を受諾する大統領候補が最終日に演説し、シャンシャンで終わる。ところがどうだ、今回は米国東岸時間の月曜昼から早くもトランプ氏が登場、一時間近く、申し訳ないが、殆ど内容のない、およそ演説とは呼べない、「漫談」をぶった。
ある程度予想はしていたが、やっぱりね。だが、如何に面白い芸人でも観客の「飽き」には勝てない。トランプ氏の話は確かに面白いのだが、同じギャグを4日続ければ観客だって飽きてくる。トランプ氏の岩盤支持層なら喜ぶだろうが、今トランプ氏が必要なのは岩盤支持層の確認ではなく、新たな支持層の獲得・拡大ではないのか。
党の結束はどうかというと、この点でも今回の共和党大会は従来と異なる。そもそも演説する政治家の中に元大統領や元大統領候補が一人もいないからだ。ブッシュ元大統領、ロムニー元候補とも事実上のボイコット。その代わりなのか、今回トランプ氏は四日間、連日登場して喋るという。おいおい、勘違いも甚だしいではないか。
一方、民主党大会は新型コロナ対策もあり、殆ど全てが仮想空間で行われた。例年であれば、巨大な会場を4日間借り切り、全国から集まった無数の代議員や党関係者が、延々とお祭り騒ぎを繰り広げる。だが、今年はそれが一切なかった。可能な限り対面集会を開こうとする共和党とはスタイルが大きく異なっているようだ。
普通なら今頃は、日本からも多くのジャーナリストや米国政治の専門家が、文字通り、あの手この手を使って党大会会場に潜り込み、現場からの中継や同時進行レポートを日本のメディアに垂れ流すところ。だが、今年はそれもなかった。会場の熱気や盛り上がり自体がそもそも感じにくい。さぞ関係者は困っていることだろう。
状況はアメリカ人も同じ。選挙は一種の「熱気と狂気の伝染病」だ。その意味では今週の共和党大会が如何に運営・演出されるかに関心がある。トランプ陣営の戦いぶりを左右する重要な要素だからだ。トランプ漫談は「仮想空間」では盛り上がらない。テレプロンプターを読むトランプ氏の演説など、聞くに堪えない代物だからだ。
筆者がトランプ氏なら、コロナ対策などお構いなく、出来るだけ多くの観衆を出来るだけ大きな会場に入れるだろう。トランプ氏の真骨頂はジャズの即興演奏に近い。観衆の熱気を感じながら、彼らとコミュニケートしながら、お得意のアドリブを連発する。自己愛性人格障害ともいわれるトランプ氏にはそうした状況設定が不可欠なのだ。
トランプ陣営の悪夢は「トランプ政権」4年間の信任投票になってしまうこと。それを避けるには、トランプ経済政策で裨益した人々にその成果を再確認させる必要がある。その点は月曜夜トランプ・ジュニアが演説で強調していたが、あんな演説が無党派層の心に響くとは思えない。良きにつけ悪きにつけ、全てはトランプ氏次第のようである。
〇アジア
一年前、土壇場で「破棄通告が一時停止」された日韓GSOMIAは、「通告」がないので事実上延長されるのだという。ある韓国与党幹部は、「GSOMIA終了の可能性はほとんどないのか」と問われ、「事実上、そのように解釈され得るが、問題は日本の態度だ」と答えたそうだ。いやいや、それは逆、問題は韓国の態度だろう。
〇欧州・ロシア
ベラルーシで大統領退陣要求の大規模デモが続いている。国営メディアは、ヘリコプターに乗り込み防弾チョッキにライフルを持った大統領の姿を放映したという。これではダメだが、西側もこの機に乗じてベラルーシを取り込もうなどと画策しない方が良いと、スウェーデン元首相が書いていた。さすがはスウェーデン、良く分かっている。
〇中東
イラン原子力庁は7月に中部ナタンズの核関連施設で起きた火災が「破壊工作」だったと発表した。イランは報復すると見られるが、それよりも、「破壊工作」をやった集団はプロ中のプロで凄いな、と思う。どのような形で作戦を実行したのか、とても気になる。イラン国内の協力者がいなければ、実行は極めて難しかったと思うからだ。
〇南北アメリカ
トランプ氏側近のコンウェー女史が辞任表明した。彼女ほど打たれ強いトランプ側近を他に知らないが、やはり彼女も母親だったのかと思うと、どこか哀れに思えてくる。直前に15歳の娘が「(母親の)親権から解放されたい」とツイートしたそうだ。権力のためとはいえ、無理を重ねれば、最後は家庭崩壊するという教訓なのだろうか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
20-25日 茂木外務大臣がパプアニューギニア、カンボジア、ラオス、ミヤンマー訪問
24日 安倍首相の連続在職日数が歴代トップ
24日 茂木外相がミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と会談(ネピドー)
24-27日 米・共和党全国大会(ノースカロライナ州シャーロット)
24-9月4日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)ワーキンググループB 第55回会合(ウィーン)
25日 ロシア7月雇用統計発表
26日 EU外相理事会非公式会合(防衛)(ベルリン)
26日 メキシコ第2四半期GDP発表
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日 米国第2四半期GDP発表(改定値)
27日 米・トランプ大統領が共和党大会で指名受諾演説(ワシントン)
27-28日 EU外相理事会非公式会合(ベルリン)
27-28日 International Conference on Apparel Textiles and Fashion Design 2020(コロンボ)
27-28日 米・ジャクソンホール経済シンポジウム(オンライン)
27-29日 Vietnam International Premium Products Fair2020 (生活・美容・家庭用などの商品関連展)(ホーチミン)
28日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
28日 米・7月PCE物価指数
28日 ファルコン9(SAOCOM 1B、Rideshare Mission1、Sequoia他)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
29日 韓国与党・「共に民主党」代表選
29-9月20日 自転車ツール・ド・フランス(ニース〜パリ)
30日 モンテネグロ議会選挙
30日 自動車F1 第7戦決勝(ベルギー・スパフランコルシャン)
30-9月1日 EU農水相理事会非公式会合(コブレンツ)
<31-9月5日>
31日 インド第1四半期GDP発表
31日- Astra Rocket3.0(低軌道技術実証衛星)打ち上げ(アラスカKodiac)
31-9月3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
31-9月4日 UNDP、UNFPA、UNOPS執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
31-9月13日 テニス全米オープン(ニューヨーク)
9月1日 韓国通常国会開会
1日 ブラジル第2四半期GDP発表
1日 EU7月失業率発表
1日 ヴェガ(小型宇宙機ミッションサービスの実証フライト)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
1-4日 マレーシア国際ハラル展示会(MIHAS)2020(クアラルンプール)
1-5日 香港ウォッチ・クロック・フェア
2日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
3日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
3日 米国7月貿易統計発表
3-5日 香港センターステージ(ファッション・フェア)
4日 米国8月雇用統計発表
4日 メキシコ8月自動車生産・販売・輸出統計発表
4日 ロシア8月CPI発表
5日 G20教育相会合(サウジアラビア・リヤド)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問