外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年8月18日(火)

外交・安保カレンダー(8月17-23日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


先週日本はお盆休みだったが、国際情勢に「夏休み」はない。パンデミックと大統領選で米外交が停滞する中、ベラルーシでは大統領選挙の不正問題で反政府抗議運動が始まり、香港では民主的政治風土が急速に失われ、中東ではUAEとイスラエルの関係正常化が突如発表されるなど、実に不気味な動きが表面化しつつある。

いずれの場合も米国、特にトランプ政権の対応はあまりにお粗末としか言いようがない。これだけ国際情勢が動いているのに、米国はパンデミックと大統領選挙に忙殺されている。今週は民主党の全国大会もあり、バイデン候補は党内の結束に必死だろう。これは仕方ないとしても、対するトランプ政権の動きが実に鈍いのだ。

筆者が気になった点を時系列順でご説明しよう。

まずは8月9日、現職が6選を決めたベラルーシ大統領選挙で不正があり、抗議デモが同国各地に拡大、既に数千人が拘束されたという。国連は当局の暴力行為を非難、EU外相も選挙結果の受け入れを拒否したが、今も米国には指導的な動きが殆ど見られない。今は絶好のチャンスだと思うのだが・・・。

昔なら米国はもっと早い段階で、EU関係者と協議を進めながら、ベラルーシ大統領の背後で懸念を深めているに違いないロシアを念頭に、西側民主主義陣営の統一行動を、水面下でリードしていただろう。しかし、今のトランプ政権にそれを期待するのは無理。トランプにはロシアが嫌がることを敢えてやる胆力も気概もないのだから。

香港でも、6月30日に国家安全維持法が施行されて以来、状況は急速に変化している。中英合意で高度の自治が保証された筈なのに、今や香港の本土化が一気に進んでいる。8月10日には黎智英リンゴ日報社主が逮捕された。若い民主化運動家の拘束以上に深刻な事態だが、米国は象徴的な制裁を発動しただけだ。

極め付けは8月13日、米大統領が突如、UAE(アラブ首長国連邦)とイスラエルとの国交正常化合意を発表した。イスラエルとの関係正常化はエジプト、ヨルダンに次いで3か国目であり、勿論、アラブ・イスラエル関係という観点からは歴史的事件であることに違いはない。だが、問題の本質はそうした関係正常化ではない。

今回の関係正常化、素人目には米外交の勝利にも見える。だが、今回の発表で最も大きな打撃を受けたのはパレスチナ人だ。イスラエルは西岸併合を「一時停止」すると約束したそうだが、「一時停止」が「いずれ必ず併合」を意味する可能性があることは中東専門家なら誰でも懸念すること。

要するに、UAEも、そして、恐らくは他のアラブ諸国も、パレスチナを事実上見捨て始めたということ。言い換えれば、1967年のイスラエルによる西岸・ガザ占領問題を「二国オプション」で解決するという1994年のオスロ合意に基づく取引は事実上「死んだ」ということだ。

そうであれば、イスラエルとパレスチナの二つの独立国家の相互承認による中東和平問題の解決が事実上不可能になりつつあるということ。筆者は、今回のイスラエルUAE関係正常化合意によっても、パレスチナ問題の真の解決には繋がらず、これらの動きが中東の長期的安定に資するとも思えない、と考えている。

もう一つ、重要なニュースがあった。それは8月11日、民主党ジョー・バイデン候補がカマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に選んだことだ。ハリス女史の評価については、ワシントンの辰巳由紀さんから送られてくる「デュポン・サークル便り」の番外編に譲ることとし、本稿では深く立ち入らない。

また、大統領選については今週のJapanTimesと産経新聞にそれぞれ別の視点からコラムを書いたので、ご関心があればご一読願いたい。その上で、敢えて申し上げれば、ハリスという選択は確かに歴史的ではあるが、これで民主党のバイデン・ハリス陣営が「勝利に一歩近付いた」などと即断するのは、まだ早い、ということだ。

〇アジア
中国共産党中央党校の元教授が国家主席を「マフィアのボスで、党を自分の道具として使った」、共産党を「政治的ゾンビ」などと批判し処分されたそうだ。同教授は党員資格と退職給付を取り消されたそうだが、今の中国にもこんな勇気のある知識人がいるとは・・・!中国も決して捨てたものではない、ということか。

〇欧州・ロシア
ベラルーシで民主化を求める政治運動が拡大していることは冒頭書いたが、これが同国国民にとって吉報かどうかは分からない。これでベラルーシに「●●色」革命でも起きたら、ロシアは必ずや介入するからだ。モスクワから見て、ウクライナやベラルーシは絶対に失ってはならない「最後の緩衝地帯」、ロシアは既に動いているだろう。

〇中東
UAEがイスラエルとの正常化に合意した最大の理由はイランからの脅威と対イスラエル関係強化による経済的利益だといわれる。一方、これって事実上の「パレスチナ裏切り」であるが、今はその「裏切り」をやってもUAEが失う利益は大きくないと判断された、ということでもある。ああ、「パレスチナの大義」は何処へ行ったのだろうか。

〇南北アメリカ
大統領選の郵送投票の是非や失業者支援策の規模をめぐって議会民主党とホワイトハウスがガチンコをやっている。トランプ政権は郵政公社のトップを交代させ、郵便投票は不可能などとほざいている。大統領が「卓袱台返し」を始めるなんて・・・。民主主義とは、かくもコストの大きい制度なのだろうか。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

4-9月18日 ジュネーブ軍縮会議 third part(ジュネーブ)
17日 ロシア1-7月鉱工業生産指数発表
17-18日 APEC構造改革担当相会合(マレーシア・スランゴール)
17-20日 米・民主党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)
18日 レバノン・ハリリ元首相暗殺の判決(オランダ・ハーグ郊外の国際法廷)
19日 EU7月CPI発表
20日 イラク・カーズィミー首相がワシントンを訪問(ホワイトハウス)
20日 バイデン前米副大統領が党大会で指名受諾演説(東部デラウェア州)
20日 FOMC議事要旨
20-25日 茂木外務大臣がパプアニューギニア、カンボジア、ラオス、ミヤンマー訪問
21日 メキシコ6月小売・卸売販売指数
21日 ロシア1-6月貿易統計発表
23日 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄通告から1年

<24-9月1日>
24-27日 米・共和党全国大会(ノースカロライナ州シャーロット)
24-9月4日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)ワーキンググループB 第55回会合(ウィーン)
25日 ロシア7月雇用統計発表
26日 EU外相理事会非公式会合(防衛)(ベルリン)
26日 メキシコ第2四半期GDP発表
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日 米国第2四半期GDP発表(改定値)
27-28日 EU外相理事会非公式会合(ベルリン)
27-28日 International Conference on Apparel Textiles and Fashion Design 2020(コロンボ)
27-29日 Vietnam International Premium Products Fair2020 (生活・美容・家庭用などの商品関連展)(ホーチミン)
28日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
28日 米・7月PCE物価指数
28-30日 Hotel show Colombo
29日 韓国与党・「共に民主党」代表選
29-9月20日 自転車ツール・ド・フランス(ニース〜パリ)
30日 モンテネグロ議会選挙
30日 自動車F1 第7戦決勝(ベルギー・スパフランコルシャン)
30-9月1日 EU農水相理事会非公式会合(コブレンツ)