キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年7月21日(火)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
今週は7月10日に発表されたバイデン候補の経済政策に焦点を当てたい。若干旧聞には属するが、先週日本でコロナ感染数が再び増加し、バイデン経済政策があまり大きく報じられなかったからだ。コロナ関連報道により、どれだけ重要国際ニュースが報じられなかったことか。それはさておき、バイデン経済政策の骨子は次の通り。
◆ 4年間で総額7000億ドルの支出、内訳は4000億ドルの「メイドインアメリカ」製品(モノとサービスを含む)支援プロジェクト支出と、3000億ドルの電気自動車、AI等の「アメリカ産」ハイテク関連研究開発への支出
◆ 連邦政府が「アメリカ製」の医療製品などのみを調達するための100日間の「サプライチェーン」見直しと、現行の「バイアメリカン」政策の抜け穴封じ
◆ これにより500万人の新規雇用を創出
ここで驚くべきは、保護貿易や産業政策重視という点で、バイデン候補の経済政策がトランプ候補の「アメリカ第一」主義とほとんど変わらないという現実だ。早くも共和党側からは、「バイデン経済政策はトランプ経済政策のパクリだ」といった厳しい批判が出始めている。もうワシントンでは自由貿易主義者は絶滅危惧種なのだろう。
やっぱりね、と筆者は思う。従来から、「バイデン大統領になっても対中政策に大きな変化はない」と言い続けてきたからだ。最近のアメリカの内向き傾向はトランプ政権ではなく、オバマ政権から始まったこと。バイデンが中国に優しいとか、息子が中国とコネクションを持っている、などという話はそろそろ昔話になりつつある。
もう一つ、先週筆者が気になったのが、ドナルド・トランプ氏の姪であるメアリー・トランプ博士が書いた暴露本『Too Much and Never Enough: How My Family Created the World's Most Dangerous Man』の出版だ。全体で225頁の比較的短い本だが、この風変わりな題名が本書に書かれている驚くべき内容を暗示している。
直訳すれば、『あまりに酷く、終わりがない(トランプの悪行?):如何に我が家族は世界で最も危険な男を創ったのか』とでもなるか。この本の凄いところは、著者であるメアリー・トランプ博士が正真正銘の精神科医であり、医学的見地から叔父である大統領の人となりを冷徹に分析していること。少なくとも単純な売名目的ではなさそうだ。
それにしても、トランプ家とは一体どういう家族なのか。メアリーは姪っ子だから、本書では大統領のことを「ドナルド」と呼んでいる。そのドナルドの父親がフレッド・シニア、長男のフレッド・ジュニアがドナルドの兄であり、かつメアリーの父でもある。ここまでなら普通のセレブ家族とあまり変わりないように思えるが、問題はここからだ。
トランプ家最大の問題は、①不動産王フレッド・シニアがおよそ家族の愛や絆に関心のない金の亡者であったこと、②その父親の期待に応えられなかったメアリーの父が家業から離れ、後にアル中で若死にしたのに対し、ウソつきでナルシシストの出来の悪い次男ドナルドが相続税を大幅節税し家業を継ぎNY不動産で成功したことだ。
要するに、彼女によれば、ドナルド(の社会性)はフレッド・シニアによって「破壊」されたのである。メアリー博士のドナルド評は辛辣そのもの、例えば以下の通りだ。彼女が遺産相続をめぐりドナルドと対立したことは事実だが、それを割り引いても、メアリー博士の冷徹さ、生真面目さが行間から滲み出てくるようで実に興味深い。
◆嘘つきドナルド
As usual with Donald, the story mattered more than the truth, which was easily sacrificed, especially if a lie made the story sound better.
◆節操なきドナルド
The only time Donald went to church was when the cameras were there. It's mind boggling. He has no principles. None!
◆人の悪口を言い合うトランプ家
That kind of casual dehumanization of people was commonplace at the Trump dinner table.
◆ドナルドは自己愛性人格障害、社会病質者
Donald a narcissist - he also meets the criteria for antisocial personality disorder, which in its most severe form is generally considered sociopathy but can also refer to chronic criminality, arrogance, and disregard for the rights of others.
◆ドナルドは依存性人格障害
For dependent personality disorder, the hallmarks of which include an inability to make decisions or take responsibility, discomfort with being alone, and going to excessive lengths to obtain support from others.
◆ドナルドのメアリーに対する卑猥な言葉
"Holy shit, Mary. You're stacked." "Donald!" Marla said in mock horror, slapping him lightly on the arm.
◆ドナルドは三歳児
Donald today is much as he was at three years old : incapable of growing, learning, or evolving, unable to regulate his emotions, moderate his responses, or take in and synthesize information.
◆ドナルドのエゴは脆弱
Donald is not simply weak, his ego is a fragile thing that must be bolstered every moment because he knows deep down that he is nothing of what he claims to be.
気が滅入るので、もう止めよう。本書ではドナルド・トランプの異常な生い立ちと性格の悪さが、これでもか、これでもかと書かれている。同じく最近暴露本を出版したボルトンも「大統領再選に反対」だったが、米国庶民にとっては姪という身内のメアリー暴露本の方がよりショックだろう。大統領選へのダメージはずっと大きいかもしれない。
〇アジア
香港立法会選挙の行方が気になる。民主派側が勝利すれば拍手喝采だが、中国は徹底的に弾圧するだろうから、とても悲しい気持ちになる。一方、北朝鮮では金正恩がご立腹、また幹部が大量更迭されそうだ。疫病被害拡大のせいなのだろうが、更迭される側の人々のことを考えると、別の意味でとても悲しい気持ちになる。
〇欧州・ロシア
欧州は夏休みだが、EU首脳会議では、コロナで打撃を受けた経済復興の基金案について意見が収斂していないようだ。EUは相変わらずだが、どうせ、いずれは妥協するだろう。時間はかかるが、あれだけの巨大な共同体を何とか維持し続けているのだから、やはり彼らには一定の敬意を表すべきなのかもしれない。
〇中東
イランで昨年11月反政府デモに参加したとして死刑判決を受けた3人の死刑執行が猶予されるらしい。国際的批判の高まりが功を奏したのであれば良いのだが・・・。一方、イラン関連では「イランのハッカーが誤って流出、不正侵入の様子を記録した動画の中身」なんて報道もあったが、「誤って流出」なんてあり得ない。これも情報戦の一環と見るのだが・・・
〇南北アメリカ
米大統領がFOXNewsで新型コロナは「いずれ消える。最後に正しいのは私だ」と繰り返した。あの保守系でトランプべったりと思われていたFOXのインタビュアーですらさすがに驚いているように見えた。メアリー博士の精神科医としての診断を読んだ後は、なおさら思う。アメリカの大統領は本当に大丈夫なのか?
〇インド亜大陸
インドのコロナ感染は止まらないが、それ以外には特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<7月20日-26日>
20日 EU農水相理事会(ビデオ会議)
20日 H-IIA ロケット42号機(UAE火星探査機「HOPE」(Al-Amal):EMM)打ち上げ(種子島宇宙センター)
20日-22日 米・ポンペオ国務長官がとイギリスとデンマークを訪問
21日-22日 EU競争担当相理事会 非公式会合(研究)(ベルリン)
21日-22日 国連経済社会理事会 Management segment(ニューヨーク)
22日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
22日-23日 WTO一般理事会
22日-23日 G20デジタル経済相会合
23日 筑波大生不明事件でチリ人容疑者の仏引き渡し
23日 長征5(火星探査機「天問1号」)打ち上げ(海南省文昌衛星発射センター)
23日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-15(76P))打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
23日-24日 国連経済社会理事会 Organizational session (ニューヨーク)
24日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)(ブリュッセル)
24日 ロシア中央銀行理事会
24日 トルコの世界遺産アヤソフィアでイスラム礼拝
26日 ファルコン9(SAOCOM 1B, Rideshare Mission1, Sequoia他)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
【来週の予定】
27日 メキシコ6月貿易統計・雇用統計発表
27日 朝鮮戦争休戦協定調印から67年
27日-28日 World conference on Womens studies 2020(世界女性会議2020)(コロンボ)
27日-8月7日 香港エレクトロニクス・フェア(オンライン形式)
27日-8月7日 香港医療・ヘルスケア・フェア(オンライン形式)
27日-8月7日 香港ファッション・ウィーク(オンライン形式)
27日-8月7日 香港インターナショナルICTエキスポ(オンライン形式)
28日-29日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会(テレビ会議)
28日-29日 米国FOMC 29日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
29日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
29日 アリアン5(BSAT 4b, Galaxy 30, MEV-2)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
30日 EU6月失業率発表
30日 米国第2四半期GDP発表(速報値)
30日 プロトン(Ekspress 80, Ekspress 103)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
30日 アトラスV(マーズ2020)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
30日 Astra Rocket 3.0(低軌道技術実証衛星)打ち上げ(アラスカ Kodiac)
30日 長征4B(資源三号03)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
31日 米国6月PCE物価指数(商務省)
31日 インド第1四半期GDP発表
31日 EU4-6月期GDP速報値(EU統計局)
31日 チリ大統領教書発表(バルパライソ)
8月1-15日 APEC第3回高級実務者会合(ペナン)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問