外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年6月30日(火)

外交・安保カレンダー(6月29日-7月5日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 今回の原稿は今年27回目、ちょうど半年の「折り返し地点」まで来たことになる。「もう半年か」という思いが例年以上に強いのは、今年前半がコロナウイルス一色だったからか。しかし、こうした状態は最低来年まで、下手すると、その後も長く尾を引く可能性が高い。という訳で、今回は久し振りにコロナパンデミックと共生する話から始める。

 今筆者が一番知りたいのは先進国ではなく、開発途上国でのコロナ感染拡大の実態だ。各種報道によれば、4月下旬には欧州・米国など先進国に集中していた感染者が過去数カ月の間に途上国で急速に広がりつつあるという。当時は感染者の4分の3は先進国だったが、6月下旬には途上国が過半数を占めるようになった。

 恐らくこうした状況は今後も続くだろう。ブラジルが筆頭の中南米、インドなど南アジアからイランなど中東にかけては既に多くの感染者が出ている。現地の医療状況に鑑みれば、外国からの支援がなければ壊滅的状況に至る可能性は高い。では、一体誰がこうした途上国の支援を行うのか。先進国は自国だけで手一杯だろう。

 されば、中国が再び手を伸ばしてくるのか。だが、中国だって全能ではない。いつ第二波、第三波が始まるか分からないからだ。こう考えると、来年以降は、どうやって感染爆発が続く途上国を支援するか、そのため如何に早くワクチンや特効薬を開発するか、などが国際政治のテーマになるだろう。日本にその準備はあるだろうか。

 さて、閑話休題、ボルトン元補佐官の暴露本発売から早くも一週間経った。あの保守強硬派ボルトンが昨日曜朝のCNN政治番組に出演し、トランプ政権をこき下ろしていた。やはりトランプに対する私怨なのか。それとも、国家のために敢えてリスクをとっているのか。恐らく、前者ではないかな?

 この暴露本を読むのに、今回は従来と異なる手法を用いた。直ちに電子版を購入し、全文に目を通したのだ。重要部分に黄色マーカーを引き、個人的感想を書き込んでから、再度関連部分を整理しコメントするやり方は、従来と変わらない。今回異なるのは、こうした事前作業を全てパソコン上で行ったことだ。

 そもそも電子版図書は「食わず嫌い」というか、何故か殆ど利用してこなかった。ところが、実際に使ってみると、これまでの自分の愚かさを憂えた。Kindleアプリは実に便利、自宅のPCでの読みかけも、そのまま外出先のタブレットで読める。「全文キーワード検索」だって簡単。おかげで今回は効率良く原稿がはかどった。もう手放せない。

 だが、これで内容が変わる訳ではない。①トランプは大統領の器ではなく、②2期務めるべきではない、③暴露された内容にあまり新味はなく、従って、④大統領選への影響も少ない、ということに尽きる。同書については今週のJapanTimesや日経オンラインにちょっと視点を変えたコラムを書いたので、ご一読願えれば幸いである。

 さて、ボルトン話はこのくらいにして・・・。今週も国際ニュースは「夏枯れ」が続いている。そんな中、筆者が気になったのは、「ロシアがアフガニスタンのタリバン系武装勢力に対し米軍を含むNATO軍兵士殺害のために報奨金を支払っていた」というニュースだった。確かにけしからん話であり、同情は禁じ得ないが、筆者は「ふーん」だ。

 筆者の第一印象は「えっ、何が問題なの?当たり前じゃない」というもの。米国のCNN等反トランプ・メディアは「大統領は事前に知っていたのか、知っていたのに何もしなかったのか」というお得意の問題提起を始めている。対するトランプ氏も、いつもの通り、「そんな話は聞いていない」と苦し紛れに反論している。相変わらずだな。

 ソ連がアフガニスタンに侵攻した後、中東全域から若く狂信的な現状不満分子を現地に集め、ムジャーヒディーンとしてゲリラ戦術を教え養成したのは、一体誰だったのか。米国の諜報機関が彼らに対し報奨金どころか、武器の扱い方からケシの栽培方法まで懇切丁寧に教えたことは、当時から公然の秘密だった。

 更に言えば、そのムジャーヒディーン達の中から生まれたのが、あの「アルカーイダ」ではなかったのか。今ロシアが米軍に対しやっていることと、1980年代に米国が当時のソ連軍に対しやったことと、一体どこが違うのか。可哀想なのは大国に翻弄されたアフガン人たちだろうが、と思ったらちょっと切なくなってしまった。

〇アジア
 韓国与党幹部が韓国のG7首脳会議参加に反対した安倍首相を批判したそうだ。せっかくお声がかかったのに、こともあろうに日本に反対されたので、ご立腹だろう。理解できない訳ではないが、日本が反対しなくたって、G11のアイディアに欧州が乗る筈はない。初めから実現可能性はゼロだった、と言ったらあまりに不憫だろうか。

〇欧州・ロシア
 英カンタベリー大司教が世界中の教会は「白いキリスト」を「当然」再考すべしと述べたそうだ。しかし、当時のベツレヘムに生まれたジーザスは当然中東のセム系だったに違いないから、そもそも「白い」訳がない。だが、それを「白く」描いたことが「人種差別」だと批判されるのなら、それも違うだろう。今の議論はどこかおかしい。

〇中東
 ユニセフがイエメン児童数百万人がパンデミックで「飢餓の瀬戸際」にある恐れを指摘したそうだ。可哀想に!でも、イエメンは今も内戦の真っただ中、パンデミックがあろうが、なかろうが、子供たちの悲劇は続く。イエメンは筆者がエジプトでアラビア語研修を始めた1979年のはるか前から、ちっとも変っていないのだから。

〇南北アメリカ
 米ミシシッピ州議会が、南北戦争の「南軍旗」が一部入った州旗を変える法案を可決した。この「南軍旗」、正確には「アメリカ連合国(Confederate States of America、連邦を離脱した7つの州、すなわちサウスカロライナ州、ミシシッピ州、フロリダ州、アラバマ州、ジョージア州、ルイジアナ州、テキサス州からなる)」の海軍旗だったそうだ。
 「レベル・フラッグ」が通称とされるらしいが、それは「反逆者の旗」という南軍の矜持なのかもしれない。最初の南軍旗は横長で星条旗と見分けが難しかったらしく、最終的に海軍旗を正方形にしたのだそうだ。それにしても、今でもこの南軍海軍旗を州旗の一部に使っていたとは。1960年代の公民権運動ぐらいで米国は変わらないのか。

〇インド亜大陸
 中印係争地帯での両国兵士間衝突でインドは中国との関係を見直すというが、実際にはそれほど簡単ではなさそうだ。逆に、中国にとっては対印関係改善するなら今だが、果たして北京にその度量はあるだろうか、疑問である。今週はこのくらいにしておこう。


<6月29日-7月5日>
29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 ロシア5月雇用統計発表
29日-30日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
29日-7月2日 UNICEF執行理事会 Annual session(ニューヨーク)
29日-7月3日 WFP執行理事会 Annual session(ローマ)
29日-7月24日 国連自由権規約人権委員会 第129回会合(ジュネーブ)
30日 中国・6月PMI(国家統計局)
30日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
30日 板門店での米朝首脳会談から1年
30日-7月2日 欧州地域委員会(CoR)第139回本会議(オンライン)
1日 ロシア憲法改正の是非を問う国民投票
1日 ドイツ・EU議長国任期開始(12月31日まで)
1日 香港返還から23年
1日 米・メキシコ・カナダ間の新しい合意 USMCAがNAFTAに代わる
1日 ファルコン9(米国航法測位衛星GPS 3-SV03)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
2日 FOMC議事要旨(FRB)
2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
2日 米国5月貿易統計、6月雇用統計発表
2日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
2日 EU5月失業率発表
3日 独立記念日(4日)振替で米市場休場
3日 ゴーン被告逃亡に協力した7人の初公判(イスタンブール)
3日 エレクトロン(キヤノン電子の衛星CE-SAT-IB)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
5日 ドミニカ共和国大統領選挙、国会議員選挙
5日 クロアチア議員選
5日 東京都知事選


【来週の予定】
6日 国連経済社会理事会 integration segment (ニューヨーク)
6日-7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日-10日 人権理事会 ワーキンググループ 第26回会合(ジュネーブ)
6日-17日 国連国際商取引法委員会 第53回会合(ニューヨーク)
7日 マラウィ大統領選
7日 大統領予備選挙(ニュージャージー州)
7日 イタリア・ディ・マイオ外相がロシアを訪問(モスクワ)
7日 メキシコ6月自動車生産・販売・輸出統計発表
8日 ブラジル5月月間小売り調査発表
8日 快舟十一号(吉林一号高文02Aなど)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
8日-10日 欧州議会本会議(ストラスブル)
9日 メキシコ6月CPI発表 PPI発表
9日 中国6月CPI発表
10日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル6月IPCA発表
10日 シンガポール総選挙
10日 韓国前大統領に差し戻し審判決
11日 大統領予備選挙(ルイジアナ州)
11-12日 香港民主派が立法会(議会)選に向けた予備選


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問