キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年5月19日(火)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
今週も自宅軟禁に近いテレワークが続く。夕方に過去24時間の東京と全国の新規感染者数を聞いて一喜一憂するのが日課になった。最近数字が良くなったからといって安心はできない。ワクチンができる保証はなく、集団免疫にも程遠いからだ。なるほど、このフラストレーションでは若い人たちが外出の欲望を抑えきれないのも当然だろう。
コロナ以外で今週気になったのが米中関係だ。ようやく米中貿易合意の第一段階に署名したのは今年の1月だが、今やはるか昔のような気がする。中国の商務部長は「新型コロナ感染拡大で世界の需要は大幅に落ち込み」「中国の貿易は前例のない試練に直面している」と述べた。中国にしては珍しい「泣きごと」にも聞こえる。
更に同部長は、新型コロナが「中国の経済社会の発展に大きなショックをもたらし、企業は極めて困難な局面を迎えている」とも述べた。そんな状況では、中国が米国のモノやサービスを2年間で計2千億ドル増やすとした第一段階の米中合意の履行どころではない、という意味なのか。これにはトランプ氏も黙っていられないだろう。
中国では稼働停止だった国内工場が操業を再開し、4月の輸出は市場予想に反して増加したらしいが、逆に輸入は大幅に減っている。国内の倒産件数は激増しており、生き残っている企業も資金繰り、受注減少、サプライチェーンの断絶で四苦八苦しているはず。今後は中国国内の経済よりも、失業、争議など社会状況に注目したい。
中国との関連でもう一つ気になったのが米海兵隊が進める部隊組織の大改革だ。先週時間があったので米上院軍事委員会の海軍省予算審議の記録を見たが、海兵隊は数十年ぶりで組織改革をやるらしい。特に、3月5日の審議記録と3月20日に発表された「Force Design 2030(2030年の戦力設計)」と題する文書は精読に値する。
長い話を短くすれば、本来水陸両用部隊として発足・進化してきた米海兵隊は、1991年以来、湾岸戦争・同時多発テロなど過去30年、水陸両用戦闘とは異なる中東の砂漠・土漠での過激派武装勢力との戦闘の明け暮れてきた。しかし、大国間競争の時代に入った今、海兵隊は東アジア海域での新任務に向け組織大改革を始めたのだ。
この件について日本の大手マスコミはまだ注目していない。筆者のお勧めは、Wall Street Journal日本語版と、外務省時代筆者の同僚でもあった渡部悦和氏の小論である。日本の軍事専門家も関心を示しており、「海兵隊の大改革は地対艦ミサイル部隊化だ、地対艦ミサイルで中国海軍と戦うのが骨子だ」などと要約する向きもある。
それ自体間違いではないのだが、実はこの大改革、そんな単純なものではない。従来の米海兵隊の部隊編成から戦い方までを根本から大胆に変えようとしている。例えば、これまで7個もあった戦車中隊を全廃するというのだから、半端ではない。この改革は戦略、戦術、装備、訓練、活動場所など多岐に渡るものとなるはずだ。
なぜ筆者はかくも海兵隊に拘るのか。理由の第一は、この大改革の成否が東アジア洋上での対中抑止のカギを握ると思うからだ。米中関係悪化はパンデミック前から始まっていた。新型コロナはこうした傾向を単に加速化、劇症化したに過ぎない。これから米中は経済面以上に、軍事・安全保障面で対立が深まっていくだろう。
第二の理由は、こうした組織改革に伴い在沖海兵隊の活動には変化があるのか、あるとすれば、どのように変化するのか、が気になるからだ。今後海兵隊がいかなる新戦略・戦術を採用するかによっては、それが沖縄における米軍基地問題や日米共同行動の行方にも大きな影響を与えるに違いない。今後も要注目である。
〇アジア
18日夕のWHO総会TV会議に台湾は招待されず。日本も台湾の参加を求めたようだ。当然呼ばれるべき存在だろうが、今やコロナ関連の最大の問題は米中両大国がこれを徹底的に政治化しているというお粗末な現状だ。問題は医療と健康であり、政治ではない。あれだけ努力し結果を出した台湾がこれでは可哀そうだ。
〇欧州・ロシア
欧州は夏のバカンスに向け動き始めた。イタリアがEU諸国からの出入国を自由化すれば、フランスがそれに噛みついている。これだけの大被害を出しているのに、バカンスはちゃんと消化するのかい。さすがは欧州、簡単にはライフスタイルを変えないのだろうが、バカンスのおかげで第二波が起きるなんて縁起でもないことだ。
〇中東
もうすぐラマダン(断食)月が明け、イード休みが始まる。正確にはイード・ル・フィトゥルで、フィトゥルとは断食を終えること。断食といっても日中だけだが、日沈後は皆で集まり大宴会が始まる。それを一カ月もやってから、またお祭りなのだが、これは仕方がない。第二波の原因にもなりかねないので、今年ばかりは控えてもらいたいものだ。
〇南北アメリカ
大統領選で外交問題は通常争点にはならないが、今年トランプ氏は「中国叩き」で乗り切るつもりらしい。もう一つの争点は「バイデン叩き」だが、これについては激戦州の米共和党元知事が「トランプのバイデン叩きは効果なし」「大統領選はコロナと経済に関するトランプの信任投票となる」と言い出した。そうだトランプには耳の痛い話だ。
〇インド亜大陸
インドはコロナ対策ロックダウンの期間を三度延長し、5月末まで続けるという。17日の新規感染者が5,000人弱というのだから恐れ入る。今週はこのくらいにしておこう。
11日-29日 国連子どもの権利委員会 第84回会合(ジュネーブ)
15日-20日 第30回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉会合の開催
18日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
18日 マレーシア連邦議会下院開会・即日閉会
18日 チリ最高裁、筑波大生不明事件で仏への身柄引き渡し最終判断
18日-19日 WHO 世界保健総会 第73回会合(テレビ会議)
18日日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
19日 米・大統領予備選挙(オレゴン州)
19日 米・ムニューシン財務長官とパウエルFRB議長が議会証言(上院銀行委)
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
20日 EU4月CPI発表
20日 台湾の蔡英文総統就任式・2期目スタート
20日 ブルンジ大統領選
21日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第76回会合(テレビ会議)
21日 ロシア1-4月鉱工業生産指数発表
21日 米・FOMC議事録(FRB)
21日 中国全国政治協商会議が開幕(北京)
21日 日本・緊急事態宣言延長2週間で2回目の中間評価(見通し)
21日 H-IIBロケット9号機(宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
22日 WHO 執行理事会 第147回会合(テレビ会議)
22日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
22日 中国全国人民代表大会・中国人民政治協商会議(北京)
22-27日 英連邦首脳会議(ルワンダ・キガリ)
23日ごろ ラマダン終了
23日 米・⺠主党⼤統領予備選挙(ハワイ州)※郵便投票
23-27日ごろ ラマダン明け休暇
24日 イスラエル・ネタニヤフ首相の汚職疑惑をめぐる初公判
<25-31日>
25日 メモリアルデー(ニューヨーク市場は全て休場)
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25-26日 EU農水相理事会
25-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-29日 アフリカ開発銀行総会(アビジャン)
26日 EU一般問題理事会(結束)(ブリュッセル)
26日 メキシコ第1四半期GDP発表
27日 メキシコ4月雇用統計発表
27日 ロシア1-3月貿易統計発表
27日 米・ベージュブック(FRB)
28日 ロシア4月雇用統計発表
28日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
28日 米国第1四半期GDP発表(改定値)
28日 EU競争担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
28日 ファルコン9(Space X社 有人型ドラゴンデモミッション2)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
28-29日 EU米国サミット(ドゥブロヴニク)
28-29日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
28-30日 World conference on Women's studies 2020(コロンボ)
29日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
29日 CIS首相会議(ウズベキスタン・タシケント)
29日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 エレクトロン("Don't Stop Me Now" ANDESITE, NRO)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
31日 インド2019年度GDP暫定推計値発表
31日 ニウエ議会選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問