外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2020年4月28日(火)

外交・安保カレンダー(4月27日-5月3日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 自宅待機のような、テレワークのような、中途半端な状況が連日続いている。相変わらず巷では「注意深いが根拠のない」楽観論と「世紀末論的」悲観論が飛び交う。一般庶民は一体誰の話を信じたら良いのか、不安は募るばかりだろう。「緊急事態宣言」から3週間経った今、人々は再び悲観論に傾きつつあるように思える。

 それを示す一つの例が週末の人出だ。先々週末の湘南海岸には人が押し寄せ、海岸通りも車で渋滞していた。ところが、先週末は「漸く」閑散とするようになった。これだけ民度の高い国民でも、一億人に「強制力のない外出自粛」を順守してもらうには時間がかかる。しかも、外出自粛だけで問題が解決する訳ではないのだ。

 最近在宅時間が長くなり、これまでできなかった読書や資料の整理が一気に進んでいる。自室の中に作った「ミニTVスタジオ」も音声と画像の不具合を除けば(というか、これが最も大事なのだが)、何とか使えそうだ。テレビはともかく、少なくともラジオ番組ではかなり質の高い音をネットを使って送れるらしく在宅生出演も可能らしい。

 もう一つ気付いたのは、このミニTVスタジオが個人的にも使える、ということだ。昨日も、これまで近くにいながら会えなかった米国人の旧友とTVチャットを楽しんだ。若い人たちにとっては「当たり前」かもしれないが、「なるほど、こういう使い方もあるのだ」と感心した。これなら感染を気にせず会話が楽しめる。凄い時代になったものだ。

 ただ、個人的には昔ながらの「対面方式」「face-to-face」の対談も捨て難い。相手の表情や息遣いなどが判るとコミュニケーションも更に弾むと思うからだ。それにしても、何時になったら経済活動など普通の生活が戻り、毎日の閉塞感が解消されるのだろうか。今や世界中でこの問題が最大関心事の一つになっている。

 米国では州によって部分的ながら経済活動が再開されている。これが吉と出るか凶と出るかは判断の分かれるところ。二週間後に今回活動再開した州で再び感染例が急増したら、一体どうするのだろう。最近のニュースはCOVID-19関連ばかりで面白くない。コロナに関係なく変化する国際情勢をフォローする必要性を痛感する。

 旧聞だが4月23日のThe New York Times一面に、世界各国、特に産油国が原油余剰とウイルスのダブルパンチで困難に直面しているとして、イラク、メキシコ、ベネズエラ、エクアドル、ナイジェリア、サウジアラビア、ロシア各国の現実を比較する記事が出ていた。国家収入の多くを原油に依存するこれら諸国がウイルス騒ぎで危機に瀕しているのだ。

 原油価格の低迷は原油輸出が国家収入に占める割合の高い国ほど大きなダメージを及ぼす。あのサウジアラビアですら今の国家予算のベースはバーレル当たり80ドルらしい。それでイエメンでの戦争、イランとの対立、国内経済構造の転換などの難題にいかに対処するつもりなのだろうか。他人事ながら大いに懸念するところだ。

 サウジ経済の低迷はヨルダンなどサウジに頼る他の非産油アラブ諸国の経済を直撃する。石油が出ず、出稼ぎと観光などで公務員給与や年金システムを維持してきた国ばかりだけに事態は深刻だ。ガソリンが安くなったと喜んでいる場合ではない。パンデミックによる油価の下落が中東情勢に及ぼす影響をよく見ておく必要がある。

 今週のJapanTimesに「パンデミックは外圧だ」というコラムを書いた。日本にとり新型コロナウイルス禍は一種の「外圧」であり、今こそ日本は旧来の法令、慣行、伝統に固執して国家としての進化を妨げる国内の「抵抗勢力」を押さえ、医療、年金、教育、金融などサービス関連諸制度をデジタル化すべしという内容だ。ご一読願いたい。

 先週、スティムソンセンターとキヤノングローバル戦略研究所が共催するWebinar(ウェブ上の仮想空間で行うセミナー)にスピーカーの一人として参加した。web上ながら参加者は世界各国から100人を超えたという。ご参加頂いた方には心より御礼申し上げたい。今後は日本語でも同様のイベントを実施していければ、と思っている。

〇アジア
 26日から中国全人代の常務委員会が北京で開かれている。今年の全人代本体は新型ウイルスで延期されたが、今回新たに開催時期が決まるのだろうか。また、金正恩が重体だ、死亡したなどという噂が流れているが、これまでもよくあったこと。トランプ氏は思わせぶりなことを言っているが、北朝鮮の観測気球かもしれず、要注意だ。

〇欧州・ロシア
 スペインやイタリアでコロナ関係規制の緩和が始まった。だが、これで本当に大丈夫なのか。米国での実験とも併せて、2週間後の欧米が気になるところだ。一方、ロシアでは感染者数が8万人を超え、死者数も800人近くだという。ロシアは原油安とウイルス感染で新たな試練に晒されている。プーチン氏は沈黙だが・・・。

〇中東
 OPECプラスの減産合意後、先週遂に先物がマイナス40ドルを付けたそうだ。売り手が40ドル払って購入者に買ってもらうなんて・・・。今の油価水準は名目上(実質ではないい)、1973年のオイルショック前と同じ水準ではないか。まさか、こんな時代が来るとは思わなかった。しかも、パンデミックが続く限り、こうした悲劇は続くのだ。

〇南北アメリカ
 米ミズーリ州がパンデミック被害で米連邦裁に中国政府の責任を認め損害賠償を求める訴訟を提起したという。大統領選を意識したものとはいえ、無茶苦茶な話だ。また、先日トランプ氏の「厚生長官更迭検討」なる記事が流れたが、翌日大統領自身が報道を否定。だが、これが「事実ではない」訳では「必ずしもない」ので皆困るのだ。

〇インド亜大陸
 インド首相が感染抑制策を順守するよう国民に再度強く呼び掛けているが、どうなることやら・・・。インドは人口過密、衛生インフラ不備、国内の人的移動による拡散が懸念されるなど問題は山積だ。欧米の後に地獄が始まるのは途上国とインドかもしれず、恐ろしい。今週はこのくらいにしておこう。


26日-29日 中国全人代常務委員会(北京)
27日 メキシコ3月雇用統計発表
27日 板門店での南北首脳会談・板門店宣言発表から2年
27日-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28日 メキシコ3月貿易統計発表
28日 米・大統領予備選挙(オハイオ州)
28日-29日 米国FOMC(FRB)
29日 米国第1四半期GDP発表(速報値)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 EU3月失業率発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(フランクフルト)
30日 ユーロ圏1-3月期GDP速報値(EU統計局)
30日 米・3月PCE物価指数発表(商務省)
5月1日-5日 中国労働節休暇
2日 米・民主党大統領予備選挙(カンザス州)
2日 米・民主党党員集会(グアム)


【来週の予定】
4日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4日-6日 IAEA理事会(ウィーン)
5日 米国3月貿易統計発表
5日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
5日-6日 ブラジル中銀、Copom
5日-7日 国連食糧農業機関(FAO)欧州・中央アジア地域会議(ウズベキスタン)
7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7日 メキシコ4月CPI発表
7日 中国4月貿易統計発表
7日 ロシア4月CPI発表
8日 米国4月雇用統計発表
8日 ブラジル4月IPCA発表
9日 共和党大会(ワイオミング州)
10日ポーランド大統領選(郵便投票可)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問