キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年4月24日(金)
[ コリア・ウォッチャーの視点 ]
今月より不定期掲載で、筆者が特に気になった半島関連のニュースの中で、日本であまり報道されていないものをピックアップしてご紹介しています。
今日筆者が選ぶニュースはこちらです。
2020年4月20日付『東亜日報(日本語版)』
「米、在韓米軍縮小など4つのシナリオを検討」
韓国語版にはより詳しい内容が掲載されています。
2020年4月20日付『東亜日報(韓国語版)』
「防衛費増額交渉空回りするや...在韓米軍カードを再び取り出して圧迫」
【日本語版・韓国語版記事の概要】
在韓米軍駐留経費をめぐる問題では米韓両国による交渉が長引いている。今月1日には、在韓米軍で働く韓国人労働者の約半分にあたる約4,000人が無給休職状態になってしまった。先月31日には、総選挙を前に韓国人労働者に配慮したからなのか、韓国側交渉代表は「早晩最終妥結されるものと期待」と発言した。しかし、今月10日付ロイターが、トランプ大統領は13%増という韓国側案を拒否したと報じたことにより、一転、交渉妥結の見通しは不透明になった。その後米国側からは在韓米軍の一部撤退も選択肢として出てきている。
同記事では、トランプ政権関係者の「実際に(在韓米軍の)削減を求める人をワシントンにおいて探すのは難しい」との発言を引用し、米側は「現在の在韓米軍を維持しながら交渉を続ける第1シナリオに重きを置きつつ、交渉で韓国側に圧力をかけるためのカードとして、規模の異なる削減案を盛り込んだ他の3つのシナリオを活用するにとどまる可能性がある」とやや楽観的に指摘している。
【筆者コメント】
今回の東亜日報の記事が出た翌日、トランプ大統領は韓国側の駐留費追加負担案を拒否した旨述べる一方、現時点での在韓米軍撤退については否定しました。どうやら韓国側は米国が現状では朝鮮半島における軍事プレゼンスを減らすつもりがないと判断しているようです。韓国は、米国の足元を見つつ、可能な限り少ない追加負担による合意を求めてギリギリの交渉をしているのでしょう。
一方で、最近米軍の東アジアにおける前方プレゼンスには目に見える変化が起きています。今年2月にはフィリピン政府が「訪問米軍地位協定」の破棄を通告しました。4月18日にはグアムのアンダーセン空軍基地から、2004年以来、同空軍基地に展開してきたB-52戦略爆撃機がすべて米本土へ帰還しました。一方、海上では太平洋上で唯一活動していた空母「セオドア・ルーズベルト」が、乗員に新型コロナ・ウイルス感染者が出たためグアムへの寄港を余儀なくされました。他の空母でもウイルス感染者が増える中、米第7艦隊は佐世保を母港とする強襲揚陸艦「アメリカ」が南シナ海で豪州海軍と共同訓練する様子などをSNS上で連日写真とともに伝えています。現在「アメリカ」は巡洋艦と2隻で南シナ海に展開しているようですが、韓国メディアも「同艦の四方を国籍不明の軍艦最低8隻が囲んで航行している」との香港発報道を引用しており(2020年4月22日「南シナ海の米上陸艦、中国の軍艦に包囲?」『東亜日報(韓国語版)』)、韓国でも南シナ海での米中緊張の高まりには一定の関心があるようです。
在韓米軍の駐留経費を巡る米韓交渉の行方は北東アジアだけでなく、南シナ海や東南アジアにも影響を与えるでしょう。金正恩の動静など北朝鮮情勢も不透明さが増す中で、米韓交渉がどのように妥結するのか、引き続き注視していかなければなりません。
伊藤 弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員