外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年4月21日(火)

外交・安保カレンダー(4月20日-26日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 相変わらずの「自宅待機」が続く毎日だが、皆様どうお過ごしだろうか。筆者もそろそろフラストレーションが溜り始めている。こんな生活、一体いつまで続くのだろう。危機の際は悲観主義者になる筆者の見立てはこうだ。今後もワクチンなど特効薬ができるまで、ダラダラと、強制力のない、外出「自粛」要請が1年、いや2年近く続くのではないか。

 こんなことを考えていたら、CNNが速報を流した。未確認ではあるが、米情報筋によれば、噂通り金正恩が体調を崩し大手術を受けたが、容態は「重大な危険状態(in grave danger)」にあるという。原因が何であれ、北東アジアへの影響は計り知れない。この調子では今回のパンデミックの悪影響も長期化し拡大する可能性が高い。

 仮にそうなったら、現在の国際秩序はどう変わるのだろう。この筆者の関心をテーマに会合が今週開かれる。会合といってもウェブ上の話。ワシントンのスティムソンセンターとキヤノングローバル戦略研究所が「The Post-COVID-19 International Order」なるWebinar(ウェブ仮想空間でのセミナー)を共催することになったのだ。

 本件Webinarは日本時間4月23日夜10時から始まる。当然英語でやるが、お相手は旧知のアメリカ人論客だから、きっと面白くなるだろう。ご関心の向きは、是非遊びに来て欲しい。聴講手続きはこちらから。ウェブ上だから満席はないが、既に100人以上の申し込みがあるという。今後シンクタンク業界はこうなっていくに違いない。

 先のG20保健大臣会合も同様で、これから当分はテレビ会議方式となるのだろう。だが、正直、この方式には功罪がある。公式発言に関する限り、対面もテレビ会議も内容は変わらない。問題は、会議の合間の、もしくは休憩時間での、非公式のトップレベルでの意見交換や根回しが出来ないことだ。この問題、簡単には解決しない。

 それはともかく、同TV会合では「新型コロナウイルス感染拡大を受け世界保健機関(WHO)の機能強化を確認する大臣宣言を出す予定だったが、米国が反発して合意できず見送る事態になった」と報じられた。大臣宣言草案では、「中国の初動対応の遅れを非難する」文言を入れるよう米国が求め、紛糾したらしい。やっぱりね。

 一方、日本では「一世帯当たり30万円」がいつの間にか「国民一人当たり10万円」になった。知人から「一律10万円支給はどう考えてもおかしい、そう思わないか?」と聞かれ返答に困った。筋論を言えば「一律」は確かに腑に落ちない。だが、今はそれが政治的に正しい。実際に発表後、誰も不公平だとは言わない。これが政治なのか。

 いつも言うことだが、危機とは「何事もうまくいかない」からこそ「危機」なのである。利害の異なる全ての人を満足させるような魔法の政策など存在しない。何をやっても、「やって当たり前」だから、決して評価されない。これが危機の際の現職大統領・首相の宿命、定めである。彼らの評価は今ではなく後世の歴史家が決めるのだ。

 このように今はTV会議、Webinarが当たり前になりつつある。実は先週水曜日、ふと思い立って我流で「自宅ミニスタジオ」を作った。なぜか早速テレビ局ウェブ・インタビュー依頼があり、午後に行われたインタビューの一部が同晩放送された。なるほど、考えるより慣れろ、ということか。COVID-19による社会の変化を実感する毎日だ。

 確かに世の中は過去数か月間で大きく変わり始めた。だが、それは「COVID-19 が国際秩序を変えている」訳では必ずしもない。パンデミックはあくまで破壊者であり、何も生産はしない。生産するのは人間だけであり、疫病はそれまで人間が達成してきた成果をただ破壊するだけである。

 されば、今回の新型コロナウイルスも、既に静かに始まっていた世の中の構造的、革命的変化を、単に加速させているだけではないか。だとすれば、COVID-19後の国際秩序もある程度予測可能ではなかろうか。この点については今週のJapanTimesのコラムを書いたので、ご一読願いたい。

〇アジア
 北朝鮮の金正恩「重体」説は確認のしようがないが、万一事実であれば、北東アジア情勢は激変しかねない。要注意だろう。一方、南シナ海では中国がパンデミック騒ぎに乗じて新行政区を設置したが、これは「静かに力の真空を埋める」中国の典型的な戦術である。ボーッとしている方が悪い。しっかりしろ、フィリピンとベトナム!

〇欧州・ロシア
 欧州委員会のチェコ出身副委員長が、EUは医療物資調達で中国やインドに「病的に依存」していると述べたらしい。危機感は分かるが、「病的に」とは穏やかな表現ではない。そうでなくても、欧州にはパンデミック後の差別と迫害の歴史がある。このような差別の兆候は実に嫌な感じがする。

〇中東
 今週後半からイスラム諸国ではラマダン(断食)月が始まる。断食といっても夜明けから日没までだが、COVID-19騒ぎの中で彼らは一体どう行動するのだろう。従来通りなら無数のクラスターができるが、そうした集まりを禁止できるのか。宗教指導者は如何なる判断を下すのか。気になるところだ。
 OPECプラスの減産合意後も、原油価格下落が止まらない。経済が停滞すれば需要は急減するし、夏には貯蔵能力も限界になるらしい。米国がメキシコを助けるって?一体どうやるのか。米国のシェール業界を犠牲にする訳にはいかないだろう。サウジやロシアだけでなく、米国も含めて、産油国は弱り目に祟り目である。

〇南北アメリカ
 米国内で自宅待機命令の解除を求める抗議活動が各地で広がっている。映像で見る限り、トランプ支持者の集団らしく、白人至上主義者らも加わっているようだ。恐らくトランプ氏か、その支持者による大統領選に向けた選挙戦術なのだろうが、お見事という他ない。彼はスピン(情報操作)の天才。だが、策に笑う者は策に泣くはずだ。

〇インド亜大陸
 インドは先週、対外直接投資政策を変更し国境を接する国からの取引に政府の承認を義務付けた。対象は勿論中国であり、コロナ騒ぎでもインドは「やるべきこと」をちゃんとやっている。これもお見事!今週はこのくらいにしておこう。


6日-24日 軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
19日-20日 G20保健相会合(バーチャル形式)
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(フランクフルト)
20日-21日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
20日-24日 第29回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉会合の開催
20日-24日 EUと英国、テレビ会議で貿易や外交・安全保障めぐる交渉再開
21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 英女王94歳の誕生日
21日 緊急事態宣言から2週間
22日 EU外相理事会(ブリュッセル)
22日-23日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
23日 EU首脳テレビ会議
23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
23日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
24日 ロシア中央銀行理事会
24日 ロシア3月雇用統計発表
24日ごろ ラマダン(断食)開始
24日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星7等)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
25日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-14)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
26日 民主党大統領予備選挙(プエルトリコ)


【来週の予定】
27日 メキシコ3月雇用統計発表
27日 板門店での南北首脳会談・板門店宣言発表から2年
27日-28日 EU農漁業相理事会(ルクセンブルク)
27日-28日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 非公式会合(雇用有・社会政策)(ザグレブ)
27日-28日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(エネルギー)(スプリット) 
27日-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28日 メキシコ3月貿易統計発表
28日 米・大統領予備選挙(オハイオ州)
28日-29日 米国FOMC(FRB)
29日 米国第1四半期GDP発表(速報値)
29日-30日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 非公式会合(健康)(サグレブ)
30日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
30日 EU3月失業率発表
30日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(フランクフルト)
30日 ユーロ圏1-3月期GDP速報値(EU統計局)
30日 米・3月PCE物価指数発表(商務省)
5月1-5日 中国労働節休暇
2日 米・民主党大統領予備選挙(カンザス州)
2日 米・民主党党員集会(グアム)



宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問