外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年4月14日(火)

外交・安保カレンダー(4月13日-4月19日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 普通なら今頃は米国大統領選挙で筆者を含む有象無象の学者・専門家・評論家があること、ないこと、言いたいことを言い始める時期だ。米国は勿論、恐らく世界には4年に一度の大統領選を追いかけることで飯を食っている人々がいるに違いない。ご愁傷様、今年はこれまでの常識が、4年前以上に、通用しない選挙となるだろう。

 先週はサンダース上院議員が遂に撤退を表明、バイデン前副大統領の民主党候補指名が確実となった。サンダースは「勝利は不可能」として敗北を認めたから、普通なら今後は、バイデンが民主党挙党一致体制構築のため汗をかくべき時だろう。勿論その努力は今必死でしているに違いないが、残念ながら、あまり外には見えてこない。

 当然だろう。パンデミック騒ぎで米大統領選が大きく様変わりしたからだ。指名を確実にしたバイデンはメディアなどを利用したいところだろうが、米内政状況はこの2カ月で激変した。今やバイデンのTV出演機会は大幅に減った。これに対し、トランプはこれまで以上にメディアに出まくっている。この情報量の差は決して無視できない。

 しかもトランプは完全に大統領選挙モードだ。もう地方遊説の機会は当分ない。それよりも、ホワイトハウスで政権内の医療・感染症の専門家とともに、記者会見やブリーフィングを続ける方が選挙には有利と考えたのだろう。一部世論調査では大統領の支持率が3月下旬に上昇に転じ、一時的ながらも、53%まで上昇したそうだ。

 しかし、悲しいかな、2016年選挙当時のトランプ1.0(キャンペーンモード)は相変わらずだ。大統領になってもトランプ2.0(統治モード)へのバージョンアップは過去3年間起きなかった。されば、この種の危機の際に期待されるトランプ3.0(戦時大統領モード)になれるはずはない。トランプ氏は今もバージョン1.7程度のままだろう。

 先週のニューヨークタイムズの記事は一読に値する。「1月以来、トランプ政権はコロナの深刻さを過小評価し、政権内の多くの専門家の提言にもかかわらず、強力な施策をとらなかった」とし、現在の爆発的感染拡大の最大原因はトランプ氏だというのだ。これも意地悪な見方をすれば、バイデン候補応援キャンペーンの一環である。

 もう一つ面白かったのが、日経新聞の「安倍1強にも医系の『聖域』」と題された記事だ。検査の話も、アビガンの話も、上記ニューヨークタイムズ記事と比較しながら読むと、日米の政策決定の状況や構図が意外に似ていることが良く分かる。詳しくは、今週のJapanTimesに書いたコラム(英文だが)を読んで欲しい。

 最近は夕方、前日の東京の感染者数を聞くのが一日の始まりになりつつある。専門家ではないのでオーバーシュート(感染例急増)が起きるかは分からないが、今の数字の伸びはやはり不気味だ。東京オリパラも延期が決まったし、COVID-19軽症者用のホテル確保も進んだのなら、そろそろ大規模な検査を始める時期ではないのか。

 今週も先週と同様、世界各地の外交的動きは鈍いまま。報道が少ないからあまり知られていないが、途上国の感染状況は本当に恐ろしい。欧米ですらあれだけ大量の感染者と死者が出ている。これから感染拡大の震源地はアフリカと南アメリカに移っていくのかもしれない。あな、恐ろしや。

〇アジア
 北朝鮮の最高人民会議が開かれたが金正恩は出席していない。新型コロナ対策の強化を含む決定書を採択したが、感染者はゼロだという。常識的かつ勝手に考えれば、今頃中国の感染症専門家が北朝鮮で大活躍していることだろう。されば、北朝鮮は軍隊も含め対米交渉どころではない、米朝関係はあまり動かないだろう。
 感染者数といえば中国も信じられない。4月10日時点で新たに46人の感染が確認され、うち海外からの渡航者が42人だという。情報操作で笑う者は情報操作に泣く。2月に「2月中にピーク、4月までに収束」と言ってしまった以上、数字的にはこうなるしかない。今後はどうやって辻褄を合わせるのだろうか。お手並み拝見といこう。
 米韓駐留軍経費負担交渉で韓国側が示した13%増の案を米国は拒否したそうだ。韓国側負担5倍を要求するトランプ政権とはもう付き合えない。筆者が文在寅だったら、このまま11月末まで待つしかない。このように、パンデミック感染の行方は世界の全ての指導者にとって判断に迷うところだろう。

〇欧州・ロシア
 英首相が退院して良かった。ただ、ジョンソン氏は今も静養中、英国の感染状況は欧州最悪となる可能性があるという。仏大統領は現在の外出制限を5月11日まで延長、感染は鈍る兆しがあるが、医療機関の負担は依然大きいからだという。一方、スペインは建設業、製造業など一部の産業の再開を認めた。欧州は相変わらずだ。

〇中東
 OPECプラスの1000万BD(バレル / 日)の減産合意後、他国の生産抑制を合わせれば、市場供給量が約1950万BDまで減るとサウジ石油相が述べたそうだ。これを生産抑制と呼ぶか、景気悪化で原油が売れなくなった結果と見るかは、人によって異なる。だが、コロナ騒ぎが長引いても各国は本当に減産を守るのか。これもお手並み拝見だ。

〇南北アメリカ
 米大統領がファウチ・国立アレルギー感染症研究所長の解任を主張する投稿をリツイートして大騒ぎになった。ファウチ氏は米国民が信頼する数少ないトランプ政権内の専門家で「外出自粛規制の早期導入でもっと人命を救えた」と述べた人だ。怒り心頭に違いないトランプの本音は解任だろうが、それでは大統領選挙に資さないだろう。

〇インド亜大陸
 モディ首相は、新型コロナウイルス拡大阻止のため13億人の国民を対象に行っている封鎖措置を2週間延長する方針だという。13億人を封鎖するなんて、一体どうするのか。ムンバイのスラムでも感染が広がっているそうだが、何が起きているのか想像もつかない。今週はこのくらいにしておこう。


6日-24日 軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
13日 中国・3月貿易統計
13日 日露さけ・ます漁業交渉の開催(テレビ会議)
13日-16日 ESCWA(西アジア・経済社会委員会) 第31回 ministerial session(チュニス)
13日-19日 パキスタンIMFレビュー会合
14日 IMF世界経済見通し
14日 IMF世界金融安定報告
14日 日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳テレビ会議
14日 中国第1四半期貿易統計発表
14日-16日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
15日 IMF専務理事がIMF・世銀の春季総会でテレビ会見
15日 第2回G20財務相・中央銀行総裁会会合(バーチャル形式)
15日 米国3月小売売上高統計発表
15日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
15日 韓国第21代国会議員選挙
15日 仏ノートルダム大聖堂火災から1年
15日 北朝鮮の故金日成主席誕生日
15日 ベージュブック(FRB)
16日 国際通貨金融委員会(IMFC)(テレビ会議)
16日 IMF・世銀の春季総会本会議(テレビ会議)
17日 EU3月CPI発表
17日 ロシア1-2月貿易統計発表
17日 中国第1四半期主要経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日 民主党党員集会(ワイオミング州)※郵便投票
17日 仏裁判所でゴーン被告退職金めぐる審理
17日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星7 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
17日-19日 IMF・世界銀行春季総会(バーチャル形式)
19日 マリ国民議会選挙第2回投票
19日-20日 G20保健相会合(バーチャル形式)


【来週の予定】
20日-21日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 英女王94歳の誕生日
22日 EU外相理事会(ブリュッセル)
22日-23日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
23日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
24日 ロシア中央銀行理事会
24日 ロシア3月雇用統計発表
24日ごろ ラマダン(断食)開始
24日 長征5B(次世代有人飛行試験船)打ち上げ(海南省文昌衛星発射センター)
26日 民主党大統領予備選挙(プエルトリコ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問