外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年4月7日(火)

外交・安保カレンダー(4月6日-4月12日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 読者の皆さんが本コラムを読む頃は、日本でもCOVID-19に関する緊急事態宣言が出ているだろう。オーバーシュート(感染例急増)が起きてからでは遅いから、宣言を発出すること自体は基本的に正しい。だが、宣言発出までに一体どれだけの時間がかかったのか。やっぱり、日本は不思議な国なんだなあ、とつくづく思う。

 そもそも緊急事態宣言とは、「緊急かつ特別の危機に対し、緊急かつ特別な措置を発動すること」ではないのか。されば、通常、緊急事態は突然起こるのだから、宣言も基本的には突然出されるはず。実際に、3月初旬に筆者が出張したケンタッキー州では、同州初の感染者が出た時点で直ちに州知事が非常事態を宣言している。

 翻って日本ではどうか。当初は緊急事態宣言を出す法律すらなかった。その後の法改正で発出自体は可能となった。それでも要件が厳しいためか、なかなか宣言は出ない。大都市圏の知事や医療関係者から宣言発出を再三要請された挙句、漸く決断した緊急事態宣言。国民のパニックを起こさないためにはこれが最善なのか。

 日本の緊急事態宣言は誰もが「発出はもはや仕方がない」と思う「コンセンサス」ができないと発出されないのか。理由は恐らく、日本の意思決定が、責任回避のためか、常に「状況対応」型であり、「率先指導」型ではないからだろう。この点は黒船による明治維新の頃から殆ど変わっていないようだ。やはり何かがおかしいと思うのだが・・・。

 不思議な国というならブラジルだって負けていない。ロイターによれば、同国大統領は「新型コロナ感染症を『ちょっとした風邪』と呼び、保健相や州政府が推進する感染拡大を抑制するため社会的距離を保つ政策を経済にとって壊滅的な措置だと批判してきた」そうだ。これって、どこかの同盟国の大統領にそっくりではないか。

 これに対し、ブラジルのスラム街ではギャングが勝手に動いている。車で地域を回り、「誰もがこの問題を真剣に受け止めないので、我々が外出禁止を発動している。街頭でふざけたり、散歩に出かけようとする輩は見せしめとしてそれなりの報いを受けるだろう。家に居るほうがいいぞ」とメッセージを流しているらしい。さすがはブラジルだ。

 だが、今も日米にはブラジル大統領の判断に共感する向きが少なくない。社会的距離やロックダウンでは経済が壊滅的打撃を受ける。命が助かっても経済が破綻すれば終わりではないかと。しかし、逆もまた真だろう。感染症で多数の犠牲者が出れば経済復興もへったくれもないではないかと。当然ながら、筆者の判断は後者である。

 具体的な対応策が国によって異なるのは仕方がない。宣言が出ようと出まいと、国民一人一人が基本を忠実に守らないと自分と家族は守れない。昨日ある友人が転送してくれた「COVID-19の正しい対処法」がここにある。内容は既知のことばかりかもしれないが、今一度をじっくり読んでほしい。皆様の体と心の健康を心からお祈りする。


  • ◆ ウイルスが出てくるのは咳とか唾とか呼気。でも普通の呼気ではうつりません。これまでのほとんどの感染は、①感染者から咳やクシャミで散った飛沫を直接吸い込む、②飛沫が目に入る、③手指についたウイルスを食事と一緒に嚥下してしまうという3つの経路で起こっています。

  • ◆ 感染にはウイルス粒子数として100万個ほど必要です。一回のくしゃみや咳や大声の会話で約200万個が飛び散ると考えられています。つまり感染者がマスクをしているとかなり防ぐことができます。なるべく鼻で息を吸いましょう。口呼吸で思い切りウイルスを肺の奥に吸い込むのはダメです。

  • ◆ 外出中は手で目を触らない、鼻を手でさわらない(鼻くそをほじるのはNG)、唇触るのもだめ、口に入れるのは論外。意外と難しいが、気にしていれば大丈夫です。人と集まって話をする時は、マスク着用。食事は対面で食べない、話さない。食事に集中しましょう。会話は食事後にマスクして。

  • ◆ 家に帰ったら、速攻手を洗う。アルコールがあるなら、玄関ですぐに吹きかけて、ドアノブを拭きましょう。咽頭からウイルスがなくなっても、便からはかなり長期間ウイルスが排出されるという報告があります。

  • ◆ 感染防御のルールを再度整理します。①マスクと眼鏡の着用②手指の洗浄と消毒③会食は対面ではせず、一人で食事を短時間で済ませる④外から帰宅時は先にシャワーを浴びてから、食事陽性患者さんの多くは、手指から口に入るか、食事の時に飛沫感染しているようです。・・・・・

 今週も先週と同様、世界各地の外交的動きは鈍いまま。当然だろう、各国ともCOVID-19対応で忙殺されているからだ。ウイルス関連以外のトピックスも拾ってみた。

〇アジア
 韓国の朝鮮日報が、「北朝鮮には新型ウイルス感染者が1人もいない」とする北朝鮮労働新聞の記事を報じている。理由は「世界で最も優れた社会保険制度」なのだそうだが、あの国は大丈夫か。検査もできないくせに、何故感染者ゼロなどと言えるのか?どれだけの犠牲者が出ているかすら不明な「不思議の国の金正恩」である。
 もう一つ気になるのは4月8日に中国の武漢市が封鎖を解除することだ。本当に大丈夫なのか。現在世界には8種類のCOVID-19が今も感染を広げているという。これまで「封じ込め」てきた武漢のウイルスとは違う、より感染力の強いウイルスが流入したら本当に経済は元に戻るのか。でも、何が起きても公表されないから、同じか!

〇欧州・ロシア
 集中治療室に担ぎ込まれた英首相の容態が気になる。55歳だから未だ年寄ではないが、もう若くもない。万が一という事態にでもなれば、英国のEU離脱だけでなく、英国の対外政策自体にも大きな影響が出かねない。一方、大陸欧州ではオーバーシュート状態が続いている。欧州の試練はこれからも続きそうだ。

〇中東
 サウジアラムコが先月に続き、月次公式販売価格(OSP)発表を延期した。原油相場急落を受けサウジとロシア間の亀裂は解決しそうにない。サウジの皇太子は本気でロシアを相手に価格競争を仕掛けようとしているのか?勝算はあるのか。良く言えば小気味好い、悪く言えば向こう見ずの「大人の喧嘩」なのだが・・・。

〇南北アメリカ
 米大統領選では、民主党への関心が薄れてきている。ウィスコンシンでは州知事の予備選延期決定が同州最高裁によって覆された。民主党サンダース陣営では複数の選対幹部からサンダース候補に撤退を促す声が出始め、同陣営が分裂しているそうだ。どうやらCOVID-19はバイデン候補に味方しているらしい。

〇インド亜大陸
 カースト制が今も残るインドでは社会格差が新型ウイルスを封じ込める上で障害となっている。ロックダウン中の同国ではスラム街の低賃金労働者に「社会距離」を取る余裕はなく、首都圏では数十万人もの最貧困出稼ぎ労働者が出身地に向かって大移動を始めたそうだ。これがインド社会に何をもたらすのか、気になって仕方がない。今週はこのくらいにしておこう。


4日-6日 中国清明節休暇
6日 ロシア3月CPI発表
6日-24日 軍縮委員会 annual session(ニューヨーク)
7日 大統領予備選挙(ウィスコンシン州)
7日 メキシコ3月CPI発表
7日 ブラジル2月月間小売り調査発表
7日 日本・コロナ感染 拡大を受け緊急事態宣言へ(首都圏・大阪府・兵庫県)
8日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
8日 中国・武漢市の封鎖解除
9日 FOMC議事要旨(3月17-18日開催分)(FRB)
9日 ブラジル3月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
9日 インド2月鉱工業生産指数発表
9日 ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第62次及び63次長期滞在ミッション用ソユーズMS-16)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
10日 中国3月CPI発表 PPI発表(国家統計局)
10日 米国3月消費者物価指数(CPI)発表
10日 民主党大統領予備選挙(アラスカ州)※郵便投票
10日 グッドフライデー(聖金曜日)(為替は通常取り引き、債権、株式、商品市場は休場)
10日 北朝鮮の最高人民会議(平壌)


【来週の予定】
13日-16日 ESCWA(西アジア・経済社会委員会) 第31回 ministerial session(チュニス)
13日-19日 パキスタンIMFレビュー会合
14日 中国第1四半期貿易統計発表
14日-16日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
15日 第2回G20財務相・中央銀行総裁会会合(バーチャル形式)
15日 米国3月小売売上高統計発表
15日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
15日 韓国第21代国会議員選挙
15日 仏ノートルダム大聖堂火災から1年
15日 北朝鮮の故金日成主席誕生日
15日 ベージュブック(FRB)
17日 EU3月CPI発表
17日 ロシア1-2月貿易統計発表
17日 中国第1四半期主要経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日 民主党党員集会(ワイオミング州)※郵便投票
17日 仏裁判所でゴーン被告退職金めぐる真理
17日-19日 IMF・世界銀行春季総会(バーチャル形式)
19日 マリ国民議会選挙第2回投票
19日-20日 G20保健相会合(バーチャル形式)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問