外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年3月24日(火)

外交・安保カレンダー(3月23日-29日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 先週末JapanTimesと産経新聞用のコラム原稿を書いていた頃、米国の感染者数は「3万人を突破した」などと報じられていた。ところが現在(24日早朝)は4万5千人に近付きつつある。これって本当のオーバーシュート(感染例急増)ではないか。「アメリカの検疫体制は最先端」という我々の勝手な「神話」が消えた瞬間である。

 今米国では「social distancing」とか「ventilator」といった普段使わない英語が飛び交っている。前者は「密閉、密集、密接」を避けること、「公の場等で他人と一定の距離(間隔)をとること」を意味する。一方、後者のベンチレーターは「通風機」ではなく、病院で使う「人工呼吸器」のことだ。なるほど、ventilateする機械だから当然か。

 今米国の病院ではマスクだけでなく、この人工呼吸器が不足している。CNNではニューヨーク州クオモ知事がこの点を力説していたが、そのインタビュー相手は何と実弟のクリス・クオモだから笑ってしまう。いずれにせよ、米国の感染者数急増やCNN等トランプに批判的なメディアの狼狽振りは信じ難いというのが率直な印象だ。

 正直なところ、日米のメディア報道は大半がコロナウイルス関連で、やや食傷気味ではあるが、命に関わることなので仕方なかろう。上記コラムでは、「今回のパンデミックは旧約聖書創世記第11章の『バベルの塔』を破壊した『神の怒り』ではないか。バベルの人々が建設した『神をも恐れぬ』巨大な塔は今の『グローバル化』」だと書いた。

 COVID-19は米大統領選に如何なる影響を及ぼすのか。トランプ政権の対応次第だろうが、この点、ニューヨークタイムズは「側近たちは縄張り争い、補佐官たちは自己防衛、優柔不断の大統領は自分を批判するメディアに責任転嫁、専門家を信用せず、彼らの提案を無視、娘婿を含むごく少数しか信じない」と辛口に書いていた。

 残念ながら、これがトランプ政権の実態だ。昔なら今頃米国大統領は全世界に向け、「米国大統領の下でこのパンデミックとの戦いに勝利しよう」と演説したに違いないが、そうした時代は終わった。今週、JapanTimesでは今回のパンデミックの影響について、産経新聞では危機管理と政治家の評価について書いた。是非御一読願いたい。

 日本の大きな国際ニュースも殆どがウイルス関連。時々テレビ局に呼ばれることは光栄なことだが、最近の話題はパンデミックに関するものばかり。メディアの人々も内心はこれで良いのかと思っているに違いないが、やはり視聴者の関心の大半は「今そこにある健康に関する危機」なのだろう。

 今週コロナ関連以外で最も気になったのは、中国系オーストラリア人が中国のスパイだったという報道だ。豪州メディアは、現在中国が拘束している作家ヤン・ヘンジュン(楊恒均)氏が14年間、実は中国の情報機関である国家安全省のスパイだったと報じている。反体制作家という触れ込みが実はスパイだった?さすがは中国だ。

 報道によれば、ヤン氏は復旦大学卒業後に中国外交部に入ったとされていたが、これは虚偽で実際は国家安全省勤務だったという。やっぱりね!というのが率直な感想だ。考えてみれば、「反体制派」型スパイなら簡単には見抜けないので、実に巧妙なやり方である。オーストラリアに一人いるなら、日本には一体何人いるのだろうか。

 もう一つ気になったのは北朝鮮だ。 21日、北朝鮮が再び2発の飛翔体を発射したが、飛距離は410キロで高度は50キロの低高度、弾頭は一度下降し再び上昇する不規則な軌道を描いたという。それが事実であれば、例の「イスカンダル型」ミサイルを含む新型ミサイルであり、依然北朝鮮の新型兵器開発が続いていることを示している。

 トランプ政権が北朝鮮に親書を送ったのに対し、22日、委員長の妹キム・ヨジョン(金与正)が談話を発表。親書受領を確認し、「米大統領が感染防止につき協力する意向を示し、米朝関係を発展させるための構想も説明した」と述べたそうだ。北朝鮮での感染拡大の噂は絶えないが、金正恩も北朝鮮のことを「構ってほしい」のだろう。

〇アジア
 武漢では18日以降新たな感染者はゼロらしいが、そんな発表を信じるのは、中国人でも多くないだろう。2月中旬の段階で中国政府の大御所専門家が「2月中にピーク、4月までに収束を期待する」と公言し、3月には国家主席が武漢に入って「収束宣言」をしたのだから、後は数字を合わせるしかない。それだけの話である。
 国内で新感染者が出ても数えず、増加分は海外からの帰国者、入国者が「持ち込んだ」と説明する。死者が出ても死因を変えれば良いだけだ。中国が外国から中立の独立した医師や専門家を受け入れ、公開の合同調査を行わない限り、如何なる数字も信用できない。むしろ、中国では第二波発生の方が心配である。

〇欧州・ロシア
 イタリアから始まった欧州でのパンデミックは遂に英国にも波及し医療崩壊が懸念されている。それにしても、どうして欧米でオーバーシュートが発生するのか、不思議だ。イタリア人はウイルスを過小評価し、米国人の若者は外出禁止令でも自由に振舞う。もしかしたら、欧米の個人主義の弱点が意外なところで露呈したのだろうか。

〇中東
 ついにシリアで新型ウイルス感染者が見つかった。しかし、これが最初の例ではなかろう。今のシリアでしっかりとした検疫制度が確立しているとは到底思えないからだ。しかも、シリアには中東のオーバーシュート国家イランから多数の兵士や市民が潜伏しているはず。内戦とコロナウイルスのダブルパンチでシリアの悲劇はまだ続く。

〇南北アメリカ
 日本の一部メディアで「トランプ大統領が有能なマネージャーの側面を初めて見せた、コロナ対応で支持率急上昇! 大統領選の追い風に」という記事があった。大統領のウイルス対応に「支持」が55%、「不支持」が43%で、一週間前より「支持」が12ポイント増加、「不支持」が11ポイント減ったという。でも、それがどうしたのか、と思う。
 理由は簡単だ。危機の際、米国民は大統領の下で結束する傾向がある。普通の大統領が普通に対応しても、支持率が70-80%となることは決して珍しくない。これが米国の真の強さだ。ところが、トランプ氏の今回の支持率はわずか55%しかない。これを「急上昇」、「大統領選の追い風」などと即断するのはやや時期尚早ではなかろうか。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


<23-29日>
23日 EU外相理事会(防衛)テレビ会議
23日-24日 EU農水相理事会
23日-27日 Astra Rocket3.0(低軌道技術実証衛星or 電離層探査 NSLSAT1)打ち上げ(アラスカKodiac)
23日-4月3日 UNESCO執行理事会 第209回会合
24日 EU一般問題理事会(結束)
24日 ブラジル1月月間小売り調査発表
24日 ロシア2月雇用統計発表
24日 共和党党員集会(米領サモア)
24日 第4回宇宙開発利用大賞外務大臣賞の表彰(外務省)
24日 ヴェガ(小型宇宙機ミッションサービスの実証フライト等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
25日 先進7カ国(G7)外相テレビ会議
25日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
26日 欧州議会委員会会議
26日 メキシコ2月雇用統計発表
26日 米国2019年第4四半期および2019年年間GDP発表(確定値)
26日 フォークランド諸島国民投票
26日 安倍首相が東京五輪聖火リレー出発式に出席(福島県)
26日-27日 欧州理事会
27日 国連上訴裁判所 Spring session
27日 米・2月PCE物価指数(商務省)
27日 メキシコ2月貿易統計発表
27日 タジキスタン上院選挙
27日 エレクトロン("Don't Stop Me Now" ANDESITE, NRO)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
29日 民主党大統領予備選挙(プエルトリコ)
29日 マリ国民議会選
29日 欧州各国夏時間入り


<30日-4月5日>
30日-4月2日 欧州議会本会議
31日 EU一般問題理事会 非公式会合(結束)
31日 ブラジル2月全国家計サンプル調査発表
31日 ファルコン9(SAOCOM 1B他)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
31日 ヘンリー英王子夫妻が王室離脱
31日-4月2日 国連人間居住計画 執行理事会 2020第1回目定期会合
1日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
1日 EU2月失業率発表
1日 宿泊税導入(トルコ)
2日 米国2月貿易統計発表
3日 米国3月雇用統計発表
4日 G20教育相会合(リヤド)
4日 民主党大統領予備選挙(アラスカ、ハワイ、ワイオミング州)
4日-6日 中国清明節休暇


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問