キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2020年3月10日(火)
[ 2020年外交・安保カレンダー ]
新型コロナウイルス感染outbreakは今や世界的流行pandemicとなりつつある。先週後半駆け足で米国に出張しケンタッキー大学と同州日米協会で日米安保関係について講演してきた。筆者が現地を離れた金曜午後、同州で初のコロナウイルス感染症例が出た。州知事は一人の感染者でも直ちに非常事態を宣言する。流石に決断は速い。
米国でもようやく静かなウイルス感染パニックが始まったのだろうか。感染拡大に関するトランプ発言は相変わらず支離滅裂。先週も「パニックは無用。専門家がしっかり対応している」などとツイート、挙句の果てには「外出しても治った人々は数多くいる」などと言い出す始末。何とも理解に苦しむ、としか言いようがない。
今週のJapanTimesに「今米国には二人の共同大統領がいる」と書いた。一人が大統領再選を、もう一人は国家統治を担当する。何を喋るか分からないトランプ氏はホワイトハウスのタスクフォースのトップに副大統領を指名。珍しく賢明な判断だ。ペンス氏の説明は不十分だが筋は通っているので、どちらが本当の大統領か分からない。
恐らく、今後は米国でも多数の感染者と死者が出るだろう。やはり、全米規模で静かなパニックが始まったと見るべきだ。サンフランシスコでは3,500人の乗客乗員を乗せた豪華クルーズ客船で感染者が発生。あれ、これって2月に横浜で大騒ぎになった客船と同じオーナーの船じゃないか。大統領選挙への影響は計り知れないと思う。
新型ウイルスといえば、3月8日、韓国外交部は日本の韓国人入国規制強化について対抗措置をとった。韓国側は「保健面での国民の安全を最優先し、節制された相応の措置」だと説明しているが、日本の措置には科学的根拠がある。相手が日本となると「理屈ではない」反応をする韓国のパターンはここでも繰り返されたと見る。
ここ一週間で生じた世界各地の株式市場、原油相場、為替相場の急落・急騰が国際政治と日本外交に及ぼす影響は計り知れない。世界でパンデミックが始まったのだから、これは誰にも止められない。感染が止まらなければ、最後は行く着くところまで行くことになる。それは単なる経済的、政治的悪影響では済まないかもしれない。
危機管理の要諦は「最悪の事態」に常に備えること。今回は敢えて最悪の事態を考える。1968年ホンコン風邪の死者が全世界で100万人、1918年スペイン風邪は500万人だった。今回は世界各地の「相互接続性」があまりに密なため、パンデミック拡大の速度が以前とは比較できないほど早い。これは一種の革命的事態なのか。
これまでの人類の生き方、仕事の仕方そのものが問われていると感じたら、ふと旧約聖書「創世記」の「バベルの塔」のことを思い出した。創世記11章にはこう書かれている。「全ての地は、同じ言葉と同じ言語を用いていた」・・・「主は、人の子らが作ろうとしていた街と塔とを見ようとしてお下りになり、そして仰せられた、」
「『なるほど、彼らは一つの民で、同じ言葉を話している。・・・それなら、我々は下って、彼らの言葉を乱してやろう。彼らが互いに相手の言葉を理解できなくなるように。』主はそこから全ての地に人を散らされたので、彼らは街づくりを取りやめた。その為に、この街はバベルと名付けられた。・・・」
これって実は、グローバリゼーションに失敗した現代人類、特に、14億の民を一つの言語で統制し、神をも恐れぬ巨大な専制国家を作った中国、に対する神からの警告ではないのか。ちょっと終末思想的で脱線してしまったが、これから起きる激変で我々人類は従来の生き方、仕事の仕方に大幅な変更を迫られるのかもしれない。
〇アジア
9日午前、北朝鮮が再び短距離弾道ミサイルを複数発射、日本の排他的経済水域(EEZ)外の海上に落下した。今の米国はウイルス感染と大統領選挙で北朝鮮どころではない。大統領選で北朝鮮問題の比重は低いから、当面米国は動きそうもない。されば金正恩もウイルスと必死で戦う自分たちのことをもっと「構ってほしい」のだろう。
〇欧州・ロシア
先週末に北イタリアで感染者が7,375人、死亡者が366人に達し、北部ロンバルディア州などが封鎖された。やれ中国人労働者が多いとか、キスやハグが原因だとか言われるが、本当か?それなら何故南イタリアでは感染が少ないのか、これを説明できないだろう。ウイルス突然変異の結果、凶暴化したためでないことを祈るのみだ。
〇中東
3月1日、EU・米・仏・独・伊・英・ノルウェー・国連が前日の米国ターリバーン・アフガニスタン和平合意を歓迎した。同合意を多国間合意化した形だが、効果は期待できない。一方、アフガン国内では二人の大統領が宣誓式を行ったという。こんな所からは「早く出たい」という気持ちもわかるが、こんな所だからこそ「出られない」のではないか。
〇南北アメリカ
3月3日のスーパーチューズデーの結果は多くの人々にとって驚きだった。バイデン候補があそこまでカムバックしてくるとは思わなかった。米国では「極左」に近いサンダース候補を目の敵にする民主党主流派の努力がようやく実ったのか。だが、サンダース候補は決して妥協しないので、簡単にバイデン候補の「楽勝」とはならないだろう。
続いて3月10日にはスーパーチューズデー2がある。アイダホ、ミシガン、ミシシッピ、ミズーリ、ワシントン州でバイデン候補とサンダース候補がこれまでと同様、拮抗を続けるか否かが焦点だが、恐らく誰もが納得する優劣はつかないのではないか。そうだとすれば、今後も民主党混乱は続くと見るべきだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
2月17日-3月13日 平和維持活動特別委員会及びワーキンググループ 実質会期(ニューヨーク)
2月24日-3月20日 国連人権理事会 第43回会合(ジュネーブ)
2日-15日 ジュネーブ国際自動車ショー(一般公開は5日から)
2日-27日 国連総会 第五委員会 First part of the resumed session (ニューヨーク)
2日-27日 自由権規約人権委員会 第128回会合(ジュネーブ)
4日-11日 MIRAI2019・「日本の科学技術」をテーマに欧州各国から大学生・院生らを招へい
8日-11日 第26回ASEAN経済大臣リトリートおよび関連会議(ダナン)
8日-11日 中山外務大臣政務官が米国訪問
9日 メキシコ2月CPI発表
9日 日本が中国及び韓国の領事館で発給した査証および香港・マカオ・韓国の査証免除措置を停止
9日 韓国が日本との査証免除措置を停止
9日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
9日-10日 ジュヌ・アフリック主催「第8回アフリカCEOフォーラム」(コートジボワール・アビジャン)
9日-12日 欧州議会本会議(ストラスブール)
9日-13日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
10日 中国2月CPI発表、PPI発表
10日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
10日 EU第4四半期実質GDP成長率発表
10日 大統領予備選挙(アイダホ、ミシガン、ミシシッピ、ミズーリ、ワシントン州)
10日 民主党党員集会(ノースダコタ州)
10日 輸出管理に関する日韓局長級対話(ソウル)
11日 米国2月CPI発表
11日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
11日 東日本大震災から9年
11日-14日 Vietnam International Furniture & Home Accessories Fair 2020(ホーチミン)
12日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日 インド1月鉱工業生産指数発表
12日 共和党党員集会(米領バージン諸島)
12日 2国間ビジネス環境改善委員会(ケニア・ナイロビ)
12日-13日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
14日 共和党党員集会(グアム)
14日 民主党大会(北マリアナ諸島)
14日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星6 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
15日および22日 フランス市町村議会選挙
15日 F1豪州GP決勝
<16-22日>
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
16日 中国1-2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日-17日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
16日-19日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
17日 米国2月小売売上高統計発表
17日 ロシア1-2月鉱工業生産指数発表
17日 インド・モディ首相がバングラデシュを訪問
17日 民主党大統領予備選挙(フロリダ、イリノイ、オハイオ、アリゾナ州)
17日 共和党党員集会(北マリアナ諸島)
17日 賄賂罪などに問われたイスラエル首相の初公判
17日 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム ラテンアメリカおよびカリブ諸国ハイレベル会議(メキシコ市)
17日 ソユーズ2.1b(ロシア航法測位衛星GLONASS-M 760)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
17日-18日 米国FOMC(FRB)
17日-18日 ブラジル中銀、Copom
17日-19日 APEC財務相代理・中央銀行総裁代理級会合(クアラルンプール)
18日 EU 2月CPI発表
18日-19日 G20農業相会合(サウジアラビア・リヤド)
18日-27日 カイロ国際見本市「CIF 2020」開催(エジプト・カイロ)
18日-4月24日 アフリカ経済委員会(ECA) 第53回会合(アディスアベバ)
19日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
19日 米・2019年10-12月期の経常収支(商務省)
19日-21日 クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク)
20日 EU競争担当相理事会 非公式会合(域内市場・産業)(ザグレブ)
20日 ロシア1月貿易統計発表
20日 ロシア中央銀行理事会
20日-22日 ケニア国際トレードショー2020(ナイロビ)
22日 熊本県知事選
22日 ソユーズ2.1b(ワンウェブ衛星#3 34機 バイコヌールフライト #2)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問