外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年2月25日(火)

外交・安保カレンダー(2月24日-3月1日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 先週書いた通り、日本の新型ウイルス感染は新段階に入った。最早水際作戦どころではなく、今は如何に国内の重篤者の命を救うかだ。感染者発生は日常茶飯事で、厚労大臣も現状は「次のフェーズ」への移行期だとしている。気の早い米国メディアは横浜のクルーズ船よりも、韓国での感染大量発生に注目し始めた。

 確かに韓国や北朝鮮のことは気になっていた。その韓国では19日に53人だった感染者が22日までの三日間で約8倍の433人へと急増した。しかも、韓国内新興宗教の信徒間で集団感染が広がった可能性があるらしい。感染者の多くは「新天地イエス教会」の信者と教団「聖地」近くの病院関係者だとも報じられた。

 更に、気になるのが北朝鮮の沈黙だ。平壌が中国からの入国者を止めたのは1月22日頃だが、結果的にはそれでも遅すぎたかもしれない。日本では既に1月18日に感染が確認されたのだから。北朝鮮の医療体制、衛生状態を考えれば、北朝鮮で驚くべき事態が起きるかもしれない。米朝「非核化」交渉に与える影響も気になる。

 歴史好きの読者は当然と思われるだろうが、歴史上中国王朝はそんなに簡単には倒れなかった。独裁政権は反対者を何時でも抹殺できたからだ。それでも独裁王朝には必ず弱点がある。歴史上中国王朝が崩壊する「三点セット」は「飢饉と邪教と疫病」の同時発生だった。この点は今もそう変わらないのではないか。

 中国共産党は当初は集団指導制の疑似王朝だったが、今や新たな皇帝が支配する本格的帝国となった。この現代の帝国があの「飢饉」、すなわち米中対立による中国経済の成長鈍化と、「邪教」、すなわち法輪功など新興宗教に、新たに「疫病」、すなわち新型ウイルスが加わるとしたら、習近平皇帝も内心気が気ではなかろう。

 一方、米国では先週末のネヴァダ州党員集会でバーニー・サンダース候補が5割近い得票率で圧勝、民主党主流派を大いに落胆させた。民主党エスタブリシュメントのお好みは勿論バイデン候補だ。サンダースは自称「民主社会主義者」だが、伝統的な民主党とは一線を画す異端者、民主党主流派の言うことを聞くような相手ではない。

 民主党関係者はこのような状況をどう打開するつもりなのか。彼らの唯一の希望はバイデン復活だ。幸いネヴァダ州では、ダークホースと見られつつあったブティジェッジ候補が僅差とはいえ第三位に後退する一方、バイデン候補が第二位を確保し、「首の皮一枚」を残して29日のサウスカロライナ州予備選に希望を繋いだ。

 サウスカロライナ州民主党予備選挙で有権者の6割はアフリカ系、彼らに人気の高いバイデン候補が第一位となる可能性は残っている。バイデン陣営は同州で圧勝し、3月3日のスーパーチューズデーに賭けるしか道はない。一方、ネヴァダ州でブルームバーグ元NY市長はあまり揮わなかった。今週もトランプ氏の高笑いは続く。

〇アジア
 先週末中国国家主席は「懸命な努力の結果、感染状況は改善傾向にある」が、「状況は依然深刻で複雑であり、感染の予防と管理は最も困難で重要な局面にある」、「経済・社会に比較的大きな影響を及ぼすのは避けられない」が「影響は短期的で管理可能」で、「中国にとり危機であると同時に大きな試練だ」と述べたそうだ。
 どこか他人事で責任回避にも聞こえる。責任回避といえば韓国大統領も危機に直面しかねない。例の新興宗教の教会では、閉鎖空間の中で信者が肩の触れ合う距離で祈りを唱えていたそうだ。こんな集団礼拝にまで大統領が責任を負う必要はないだろうが、古今東西、政治は結果責任だ。今後の韓国での感染拡大に注目したい。
 一方、北朝鮮の地方都市では、「肺炎とインフルエンザの疑いで治療を受けていた患者12人がわずか2日の間に死亡」、「病院側の『疑惑の行動』が市民らの恐怖心を煽っている」と報じられた。真偽は不明だが、情報隠蔽なら、中国よりも北朝鮮の方が「役者は上」だ。可哀そうなのは北朝鮮の新型ウイルス感染者たちである。

〇欧州・ロシア
 欧州でも感染が広がっている。イタリアでは感染者が急増し、23日までに150人を超えたという。伊首相は北部の11の自治体を封鎖、「感染が一気に拡大したことに驚いた」と、ここでも他人事のようなコメントをしている。各国とも政治家の不用意な発言には厳しい目が注がれるのだが・・・。

〇中東
  イランでは新型ウイルスで8人が死亡したというが、今週は国会選挙の結果に注目したい。報道によれば、反米保守強硬派が定数30のテヘラン選挙区で議席を独占するなど圧勝したそうだ。投票率は42%程度、前回を約20%下回る過去最低だというが、米国の圧力が原因でイランの穏健派が失速するのはこれが初めてではない。
 選挙の出馬資格は最高指導者の下にある護憲評議会が事前審査するが、既に改革派・保守穏健派の多くは失格となったので、結果自体は驚くに当たらない。革命防衛隊クドゥス部隊のソレイマーニ司令官殺害以来、イラン政界では反米感情が強まっており、保守強硬派が主導権を握れば米国との対立はより先鋭化するだろう。

〇南北アメリカ
 最近米国発のニュースの多くは大統領選挙か新型ウイルス関連だ。今のままでは民主党主流派は忌み嫌うサンダース候補の米大統領選での躍進を止められないかもしれない。これで共和党に続き、民主党すらもが「党外の異端者」に乗っ取られることになるとすれば、これから米国の民主主義は一体どこへ行くのだろうか。
 もう一つ興味深かったのは、米国の諜報機関が「ロシアは4年前と同様、今回も大統領選に介入しているが、特に今年ロシアは、サンダース候補の勝利のため様々な選挙介入を試みている」と分析し、同分析をサンダース候補にも直接伝えたそうだ。流石はロシアである。どうすればトランプが勝つかを実に良く分析している。

〇インド亜大陸
 今週は米国大統領がインドを公式訪問中だが、その成果については来週書くことにする。


17日-3月6日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第67回会合(ニューヨーク)
17日-3月6日 国際海底機構 第26回会合 part1(ナイロビ)
17日-3月13日 平和維持活動特別委員会及びワーキンググループ 実質会期(ニューヨーク)
18日-26日 対日理解促進交流JENESYS2019・日本の大学生らがラオスを訪問
18日-26日 対日理解促進交流 JENESYS2019・日本の大学生らがカンボジアを訪問
19日-28日 対日理解促進交流JENESYS2019・韓国の大学生および高校生らが訪日
21日-28日 中山外務大臣政務官の豪州・フィジーの訪問
23日-27日 尾身外務大臣政務官がスイスを訪問
24日-25日 米・トランプ大統領がインドを訪問
24日-26日 第76回投資調整委員会(76th Coordinating Committee on Investment)(76 CCI)(ミャンマー)
24日-28日 WFP執行理事会 First regular session(ローマ)
24日-28日 国連開発政策委員会 第22回会合(ニューヨーク)
24日-28日 IAEA・グロッシー事務局長が訪日
24日-3月4日 対日理解促進交流JENESYS2019・ASEAN及び東ティモールから「青少年スポーツ交流(サッカー)」の参加者が訪日
24日-3月20日 国連人権理事会 第43回会合(ジュネーブ)
25日 対人地雷禁止条約プレッジング
25日 ロシア2019年貿易統計発表
25日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
25日 メキシコ2019年第4四半期GDP発表
25日 米民主党の大統領選候補者討論会(サウスカロライナ州)
25日 快舟十一号(吉林一号高分02A、中星一号など)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
26日 メキシコ2019年12月小売・卸売販売指数発表
26日 Astra Rocket3.0(技術実証衛星4機)打ち上げ(アラスカKodiac)
27日 米国第4四半期および2019年年間GDP発表(改定値)
27日 EU競争担当相理事会(地内市場・産業)(ブリュッセル)
27日 メキシコ1月雇用統計発表
27日 ハノイでの米朝首脳会談から1年
27日-28日 EU競争担当相理事会(研究)(ブリュッセル)
28日 米・個人消費支出(PCE)1月物価指数(商務省)
28日 メキシコ1月貿易統計発表
28日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
28日 GSLV(GISAT 1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
29日 民主党大統領予備選挙(サウスカロライナ州)
29日 スロバキア議会選挙
1日 ギニア国民議会選
1日 タジキスタン下院選挙
1日 ウルグアイ新政権発足
1日 陸上・東京マラソン


【来週の予定】 
2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
2日 イスラエル総選挙
2日 ジュネーブ国際自動車ショー(一般公開は5日から)
2日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン20号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
2日-6日 子どもの権利委員会 第84回会合(サモア・アピア)
2日-6日 国連麻薬委員会 第63回会合(ウィーン)
2日-6日 香港インターナショナル・ダイアモンド・ジェムパールショー
2日-27日 国連総会 第五委員会 First part of the resumed session (ニューヨーク)
2日-27日 自由権規約人権委員会 第128回会合(ジュネーブ)
3日 EU 1月失業率発表
3日 第13期全国人民政治協商会議第3回全体会議(北京)
3日 大統領予備選挙・スーパーチューズデー(アラバマ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、メーン、マサチューセッツ、ミネソタ、ノースカロライナ、オクラホマ、テネシー、テキサス、ユタ、バージニア州、バーモント州)
3日 民主党党員集会(米領サモア)
3日-4日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
3日-6日 フード・アンド・ホテル・アジア2020年(シンガポール)
4日 ブラジル2019年第4四半期GDP発表
4日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星6 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
4日-8日 香港インターナショナル・ジュエリー・ショー
5日 EU環境理事会会合(ブリュッセル)
5日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 第13期全国人民代表大会第3回全体会議(北京)
5日 GSLV(GISAT1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
5日-6日 OPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会合(オーストリア・ウィーン)
5日-7日 中東フィルム・コミコン2020(MEFCC2020)(UAE・ドバイ)
6日 米国1月貿易統計、2月雇用統計発表
6日 ロシア2月CPI発表
7日 中国2月貿易統計発表
8日 米国が夏時間入り


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問