外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年2月4日(火)

外交・安保カレンダー(2月3日-9日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 本来ならこの原稿の執筆は2月3日夜となる筈だったが、今週は4日の午後まで原稿の完成を延ばすことにした。理由は簡単。米国時間3日にアイオワ州で民主党党員集会があるからだ。それにしても、2020年の民主党は「不作」だなぁ。70歳をとうに過ぎた元副大統領が、同世代のリベラル社会主義者候補を相手に苦戦している。他の候補者たちもピンと来ない連中ばかり、まるで「老人と子供」だ。本稿後半に日本時間4日夕刻現在の筆者のとりあえずのコメントを書いておく。その前に一言だけ。

 今週も東京の巷は中国発「新型肺炎」の話で持ち切りだが、先週も書いた通り、完全封じ込めなど不可能だから、残念だが、いずれは日本でも多くの感染者とある程度の死者発生を覚悟すべきだろう。筆者個人は、過去数日間、新型コロナウイルスに関し日本政府が取った「異例の強制措置」に強い関心がある。具体的にはこうだ。

●入国申請前の14日以内に中国・湖北省に滞在歴がある外国人と、湖北省で発行されたパスポートを所持している外国人については、特段の事情がないかぎり、2月1日から、当面入国を拒否する。

●今回の新型ウイルス感染症を、感染症法の「指定感染症」と、検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を、同じく2月1日から、前倒しで実施する。これで休業指示や医療機関への強制入院だけでなく、検査・診察拒否に対する罰則も可能になる。


 要するに、名指しこそしないが、事実上、湖北省出身または同省に滞在していた「中国人」が主たる対象ということなのか。筆者がそう考える理由は、同省に滞在していた中国人以外の外国人は日本などに来ず、出身国に戻る可能性の方が高いと思うからだ。この種のルールを作る際も特定の外国人については配慮が必要である。

 それにしても、今回の感染症が「異例の強制措置」を容認するような重大な脅威であるなら、他にもある程度「強制的」に処理すべき問題があるじゃないか。例えば、「イージスアショア」ミサイル防衛システムの配備や日本国内の外国人スパイ活動だ。国益と人権のバランスは難しい。この点は今週のJapanTimesコラムに書いておいた。

 さて、本題であるアイオワ州党員集会に移ろう。そもそも、米大統領選挙は11月まで続く長丁場、アイオワは人口300万程度、全米30位の小州だから、今回の結果で大勢が決まることはない。一方、今回の結果については、4日夕刻時点でも集計トラブルで公式発表がない。されば、現時点での個人的な予測を書くしかなかろう。

 今回もある程度の予想は可能だった。アイオワではサンダースが強く、バイデンは伸び悩んでいる。もしバイデンがサンダースに次いで二位になれば、バイデンにもチャンスはあるが、逆に三位以下になれば勢いを失う、というのが大方の下馬評だ。三位以下にでもなれば、バイデンを推す民主党の既存指導部にとっては悪夢だろう。

 個人的には、若いブティジェージの健闘に注目している。1970年代以来、民主党大統領候補で勝ったのは若く、ワシントンとは縁のない、新星候補ばかりだと彼は訴えていた。確かに、カーター、クリントン、オバマはそうだったが、だからといってブティジェージがそうなる保証は今のところない。アイオワについては来週詳しく書こう。

〇アジア
 フランスでアジア系に対する人種差別的風潮が高まっているそうだ。SNS上では「中国人(アジア人)の受け入れを拒否し、強制送還しろ」といったものまであるという。我々だってフランス人とドイツ人の違いは見た目では分からない。これも1930年代に似てはいないだろうか。実に嫌な時代になったものだ。

〇欧州・ロシア
 英国の首相が吠えている。EU離脱後、年末までは従来と同様の「移行期間」となるが、ジョンソン首相が望むEUとの自由貿易協定(FTA)締結は容易ではなさそうだ。英国は関税ゼロを維持しつつ、環境など厳しいEU規制を緩和・撤廃したいのだろうが、EU側がそれを簡単に飲むとは思えない。英国の苦境は続くだろう。

〇中東
 3日、トルコ軍がシリアのイドリブ県でアサド政権軍と交戦し、双方に数十人の死傷者が出たようだ。最近では最大規模の交戦らしく、今後も続く可能性が高い。エルドアン首相は「沈黙するわけにはいかない。今後も報復攻撃を続ける」と強気だ。トルコはつい最近リビア内戦にも介入している。戦線を広げ過ぎているではないか、心配だ。

〇南北アメリカ
 今週からアイオワ党員集会、ニューハンプシャー予備選挙など、大統領選挙戦争が本格化する。一方、大統領の弾劾裁判は、何事もなく(つまりボルトン安全保障担当補佐官の証言もなく)、淡々と無罪評決が出る見込みだ。誰もが「おかしい」と思っているのに「有罪にはできない」もどかしさすら感じない、実に不思議な審判である。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


1月28日-2月5日 対日理解促進交流JENESYS2019・インドネシア若手外交官らが訪日
2日-9日 鈴木外務副大臣の米国訪問
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3日 米大統領選アイオワ州党員集会(アイオワ州)
3日 ロシア2019年経済活動別および需要項目別GDP統計(速報値)
日3-4日 EU競争担当相理事会(研究)(サグレブ)
3日-6日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
3日-6日 アフリカ鉱業投資会議「マイニング・インダバ」(南アフリカ共和国・ケープタウン)
3日-7日 国際麻薬統制委員会 第127回会合(ウィーン)
3日-22日 APEC第1回高級実務者会合
4日 ブラジル2019年12月鉱工業生産指数発表
4日 「アフリカテックサミットキガリ」(ルワンダ・キガリ)
4日 ビジネスと人権に関する行動計画に係る諮問委員会第2回会合の開催(外務省)
4日 米国大統領一般教書演説
4日-5日 ブラジル中央銀行、Copom
4日-11日 対日理解促進交流JENESYS2019・日本の大学生がシンガポールを訪問
5日 米国2019年12月貿易統計発表
6日 ロシア1月CPI発表
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日-7日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会(ジュネーブ)
6日-9日 第15回オートエキスポ(インド・ニューデリー)
6日-14日 カナダ・トルドー首相がエチオピア、セネガル、ドイツを訪問
7日 米国1月雇用統計発表
7日 中国1月貿易統計発表
7日 メキシコ1月CPI発表
7日 ブラジル1月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
7日 ロシア中央銀行理事会
7日 米民主党の大統領選候補者討論会(ニューハンプシャー州)
7日 ソユーズ2.1b(ワンウェブ衛星#2 30機)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
7日-8日 ガーナ・アクフォ=アド大統領がサウジアラビアを訪問
7日-11日 スリランカ・ラージャパクサ首相がインドを訪問
8日 アイルランド総選挙
8日 北朝鮮の朝鮮人民軍創建日(建軍節)
8日 アトラスV(ESAの太陽観測衛星Solar Orbiter)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
9日 アゼルバイジャン議会選挙
9日 カメルーン国民議会選挙
9日 米アカデミー賞授賞式(ロサンゼルス)
9日 ソユーズ 2.1a(通信衛星Meridian-M9)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
9日-10日 第33回アフリカ連合(AU)首脳会議(エチオピア・アディスアベバ)


【来週の予定】
10日 中国1月CPI及びPPI発表
10日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機13号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
10日-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
10日-3月13日「国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(アジア及び同周辺地域)」実施
11日 大統領予備選挙(ニューハンプシャー州)
11日 メキシコ2019年12月鉱工業生産指数発表
11日-12日 第26回国際地中海観光市場展(イスラエル・テルアビブ)
11日-13日 UNICEF執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
12日 ブラジル2019年12月月間小売り調査発表
12日 インド2019年11月鉱工業生産指数発表
12日-14日 ロシア投資フォーラム「ソチ2020」(ロシア・ソチ)
13日 米国1月消費者物価指数(CPI)発表
13日 欧州委員会冬季経済予測
13日 南ア大統領一般教書演説(SONA)
13日 金正男氏殺害から3年
14日 UN Women執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
14日 米国1月小売売上高統計発表
14日 中央アフリカ共和国・国民投票(第二回目)
14日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星5 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
14日-16日 第56回ミュンヘン安全保障会議(ドイツ)
16日 故金正日総書記誕生日・生誕78周年
16日-17日 International Conference on Management, Economics & Social Science 2020(コロンボ)
16日-20日 ガルフード2020(アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ)



宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問