外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2020年1月14日(火)

外交・安保カレンダー(1月13日-19日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


 この原稿はインドネシアのジャカルタ空港で書き始めた。この空港、正式にはジャカルタ・スカルノ・ハッタ国際空港というらしい。ハッタとはスカルノと並ぶ建国の父だ。今回は久し振りにシンガポールとインドネシアに出張したが、どちらも羽田空港が利用できるので助かった。逆に、成田がますます遠く感じるようになったが・・・。

 シンガポールではパネル討論会、インドネシアでは大学での講演などをいずれも英語で行った。シンガポール英語は相変わらず独特だが、インドネシアの学生が英語を喋るようになったのは大きな進歩だ。一昔前はシンガポール人が英語でASEANを代表するかのように喋る姿をインドネシア人が苦々しく思っているという話をよく聞いた。

 インドネシアの国際的地位が向上しつつあることを象徴する話だろう。勿論、一般にインドネシアの英語のレベルは、教授レベルの能力も含め、まだまだ改善の余地がある。だが、インドネシアという国の将来性を考えれば、この国の英語力向上の努力は正当に評価すべきだと思った。

 これに比べると、日本の英語教育はまだまだではないか。インドネシア在留邦人の方に伺ったら、今回の「民間企業の英語テスト導入」騒ぎで、日本の英語教育は再び10年を無駄にする、と言っていた。正にその通り、インドネシアのような国から見ると、実に歯痒い気持ちになってしまうのだが・・・。今週はJapanTimesと産経新聞に「2020年に起きないこと」について書いた。ご関心の向きはご一読願いたい。

 台湾の総統選挙は予想通りだった。でも、これは中国のオウンゴールだ。一昨年まで蔡英文は内政的に劣勢で再選すら危ぶまれていた。状況を劇的に変えたのが昨年来の香港「民主化運動」。北京政府の判断ミスがなければ、蔡英文の圧勝はなかっただろう。中国の「強圧的」外交の限界を見る思いだ。

 それにしても、台湾民主主義は定着したなとつくづく感じる。「自由民主」という新しいアイデンティティを台湾の若い世代が正確に理解し始めたのか。台湾のみならず、東アジア全域での方向性は、自由で開かれた制度か、それとも閉鎖的統制下での経済的安定なのか、という究極の選択肢に行き着くだろう。

 近年米国の台湾政策は変わりつつあり、ワシントンでも新たな米台関係を模索する動きが出てきた。一部のASEAN諸国と台湾は水面下で密接な関係を維持してきている。これからは「インド太平洋」なる概念の中で中国や台湾の位置付けを考える必要が出てくるかもしれない。

 そうこうしている内に羽田に着いた。日本ではバドミントンの有力選手がマレーシアで交通事故でケガをしたニュースが流れていたが、筆者の関心はイラン国内での反政府デモの動向だ。各種報道によれば、13日までに、イランがウクライナ旅客機を撃墜した事件に抗議する反体制デモがテヘランで3日連続で行われたという。

 BBCによれば多くの学生が「優秀な人たちが殺され、宗教指導者が権力にしがみついている」と抗議したそうだ。折角スレイマーニ司令官殺害で国内不満勢力を「反米」で一致させたのに・・・、今回の革命防衛隊のミサイル誤射事件はイラン・イスラム政権にとって極めて大きな痛手となるかもしれない。

 それにしても、革命防衛隊の戦闘技量は大丈夫なのか。いくら緊張状態にあったとはいえ、民間航空機には識別信号があるはず。それを確認できない革命防衛隊は本当に精鋭なのか、それともロシア製防空システムの欠陥なのか、それとも、考えたくはないが、誰かがジャミングでもしたのだろうか。実に謎の多いお粗末な話である。

〇アジア
 米中貿易交渉の関連で、米財務省が主要貿易相手国・地域の通貨政策を分析した「外国為替報告書」を公表し、中国の『為替操作国』認定を解除したそうだ。中国に対する譲歩のようにも思えるが、どれだけ実質的効果があるかは疑問である。米中とも「狐と狸の化かし合い」は得意、形式よりも実質をしっかり見ないといけないと思う。

〇欧州・ロシア
 先週欧州で一番悲しいニュースは、イラン革命防衛隊によるウクライナ民間旅客機撃墜事件だろう。多くの犠牲者はイラン人留学生だともいわれるが、ウクライナ政府も踏んだり蹴ったりではないか。ウクライナ以外で大きなニュースはなかったが、英国のEU離脱はどうなっているのだろうか、気になるところだ。

〇中東
 安倍首相がオマーン、サウジ、UAEを訪問している。オマーン訪問の前日に同国のカブース「国王」が亡くなった。オマーンは中東湾岸地域で数少ない「良心の国」、ご冥福をお祈りしたい。ちなみに、カブースは正確にはスルタンであり、国王ではない。スルタンは政治的権力と宗教的権力を兼ね備える、国王よりも格上の存在である。

〇南北アメリカ
 米大統領弾劾問題がようやく動き始めた。未だ上院に送付されていない状況は解消されるだろうが、今度はトランプ氏の個人弁護士であるジュリアーニ元NY市長が、上院での裁判に関与すると言い出した。毎度お騒がせのジュリアーニだが、彼も含め、トランプ氏の周辺の人々は一体どうやって仕事をしているのか、実に不思議だ。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

6日-15日 対日理解促進交流プログラム2019・韓国大学生らが訪日(静岡県)
7日-13日 中国・王外相がエジプト、ジブチ、エリトリア、ブルンジ及びジンバブエを訪問
10日-13日 若宮外務副大臣のアラブ首長国連邦訪問
10日-18日 対日理解促進交流2019・ASEAN派遣(日本の高校生らがベトナムを訪問)
11日-15日 安倍首相がサウジアラビア、UAE、オマーンを訪問
11日-18日 対日理解促進交流2019・ニュージーランド、フィジなど大洋州の大学生らが訪日
12日-13日 ロシア・ラブロフ外相がウズベキスタンを訪問
12日-16日 河野防衛相がハワイ、ワシントン訪問、日米防衛相会談
13日 安倍首相がUAEムハンマド皇太子と会談(アブダビ)
13日 米アカデミー賞ノミネート発表
13日-14日 茂木外務大臣が米国訪問(サンフランシスコ )
13日-14日 香港アジア金融フォーラム(Asian Financial Forum)
13日-15日 中国・劉鶴副首相が米国との貿易協議の合意文書の署名のため欧米
13日-16日 欧州議会本会議(ストラスブール)
13日-16日 秋葉外務事務次官が中国出張(西安)
13日-16日 香港ファッション・ウイーク(秋/冬)
13日-16日 ワールドフューチャーエナジーサミット2020(UAE・アブダビ)
13日-18日 中山外務大臣政務官が東ティモール及びネパール訪問
13日-21日 対日理解促進交流2019・ASEAN招へい(カンボジア大学生らが日本を訪問)
14日 UNウィメン執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
14日 UNICEF執行理事会 Election of Bureau (1 meeting)(ニューヨーク)
14日 米国2019年12月CPI発表
14日 中国・19年12月の貿易統計(税関総署)
14日 米民主党の大統領選候補者討論会(アイオワ州)
14日 米韓外相会談(サンフランシスコ )
14日 安倍首相とオマーン・アスアド副首相兼国王特別代理が会談(マスカット)
14日-16日 Rasina Dialogue 2020(インド)
14日-19日 鈴木外務副大臣がホンジュラス共和国、ニカラグア共和国及びベリーズ訪問
15日 ブラジル2019年11月月間小売り調査発表
15日 米中が貿易協議「第1段階」合意文書に署名(ホワイトハウス)
15日 ベージュブック(FRB)
15日 長征2D(吉林一号、アルゼンチンの地球観測衛星)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
15日 GSLV(GISAT 1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
16日 米国2019年12月小売売上高統計発表
17日 EU2019年12月CPI発表
17日 中国2019年10-12月期の中国GDP(国家統計局)
17日 アリアン5(インド通信衛星GSAT-30、Eutelsat Konnect)打ち上げ(仏領ギアナ基地)


【来週の予定】
20日 EU外相理事会(ブリュッセル)
20日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
20日 キング牧師生誕記念日で米市場休場
20日 中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長身柄引き渡し審理開始(カナダ・バンクーバー)
20日-23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
21日 メキシコ2019年12月雇用統計発表
21日-24日 世界経済フォーラム年次会合(スイス・ダボス)
22日 カナダ中央銀行政策金利・金融財政報告書発表
23日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
24日-30日 中国春節休暇
25日 米アニー章授賞式(ロサンゼルス)
26日 ペルー国会議員選挙
26日 米グラミー賞授賞式(ロサンゼルス)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問