外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2020年1月6日(月)

外交・安保カレンダー(12月30日-1月5日)

[ 2020年外交・安保カレンダー ]


謹賀新年

 今年最初となる本原稿は昨年同様、元旦の夜に書いている。齢66歳にもなると、お正月と言われても昔のような興奮はない。子供の頃はお年玉を貰えたものだが、筆者の子供たちだって今やお年玉という歳ではない。これからは毎年、孫たちにお年玉を強請られる時代が来るのだろう。皆様のお正月はどうだっただろうか。

 さて、昨年は金正恩朝鮮労働党委員長が朝鮮中央テレビを通じ「新年の辞」を発表したが、今年は2日未明現在、未だ「新年の辞」は出ていない。その代わりなのだろうか、朝鮮中央通信は元日に、12月28日から31日まで開かれた朝鮮労働党中央委員会総会の模様を報じている。同委員長の発言は概ね次の通りだったらしい。


■米国は対話を唱えながらも、朝鮮を完全に窒息させ圧殺しようと二面的な態度を取っている
■米国が対北朝鮮敵視政策を追求するなら朝鮮半島の非核化は永遠にない。我々が公約に一方的に縛られる根拠はなくなった
■米国の敵視政策が撤回され、朝鮮半島に恒久的な平和体制が構築されるまで、国家安全のため戦略武器開発を中断なく続ける
■世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる
■人民が受けた苦痛と抑制された発展の対価をきれいに受け取るための衝撃的な実際行動に移るだろう
■我々の核抑止力強化の幅と深さは、米国の今後の立場によって調整される

 要するに昨年の中央委員会総会の決定を撤回し、非核化交渉に臨む米国の姿勢次第では核実験やICBM発射を再開する可能性を示し、今後再び北朝鮮国民の生活が厳しくなることを正当化しようと予防線を張っているのだろう。以上を昨年の「新年の辞」の内容(下記参照)と比べれば、米国の対北朝鮮交渉の失敗は明らかだ。

1.朝鮮半島に恒久的な平和体制を構築し、完全な非核化に進もうとすることは、党と政府の不変の立場で、私の確固たる意志だ
2.既にこれ以上、核兵器をつくりも実験しもせず、使いも広めもしないと宣言してきた
3.トランプ米大統領といつでも再び向き合う準備ができており、必ず国際社会が歓迎する結果を出すために努力する
4.米国が約束を守らず、一方的に何かを強要しようと制裁・圧迫に出れば、やむを得ず自主権と国家の最高利益を守るため、新しい道を模索せざるを得なくなるかもしれない
5.米側には我々(北朝鮮)の主導的・先制的努力に対する信頼性ある措置を改めて求める
6.南北関係については「驚くべき変化」に「満足」しており、南北協議による合意は事実上の不可侵宣言である
7.開城工業団地と金剛山観光を如何なる前提条件や対価なしに再開する用意がある
8.朝鮮戦争休戦協定の当事国と平和体制への転換のための多国間協議をも積極的に推進すべし

 どうやら、今年も金委員長の言動に振り回されそうだ。我々は一体いつまでこの茶番劇に付き合わされるのか。昨年も筆者は「恐らく来年もこれと同じコメントをしている可能性が高いかもしれない。いい加減にしてほしい」と書いた。その意味で、北朝鮮の対外政策は極めて一貫しているということだ。実に大したものではないか。

〇アジア
 米大統領は第一段階の米中貿易合意署名式を1月15日に開くと発表した。更に、「後日、私が北京を訪れ第2段階の議論を始める」とツイートしたようだ。上記の北朝鮮側報道について「彼は非核化の合意文書に署名した。約束を守る男だ」と述べるに留まったのとは対照的。やはり、大統領選で重要なのは北朝鮮ではなく中国なのだ。

〇欧州・ロシア
 先々週の年末恒例記者会見に続き、プーチン大統領は大晦日、恒例の新年に向けたテレビ演説で、「我々の団結が崇高な目標の達成に向けた基盤となる」とし、国民に結束を呼びかけたそうだ。プーチン政権の「危機感が滲む」演説だったと報じられたが、確かにこうした演説は近年あまりなかったかもしれない。
 いずれにせよ、最近のプーチン氏は、国民の愛国心に訴えて求心力の維持向上を図っており、こうした姿勢は対ロシア経済制裁が続く限り、嫌でも取らざるを得ないのだろう。一方、英国も1月末のEU離脱の方針を変えないようだ。これ以外に欧州では大きなニュースがなかった。何と平和なのだろう。

〇中東
 カルロス・ゴーン氏(というか容疑者)が(やっぱり)レバノンに逃げた。日本の司法制度は「腐敗」しているが、レバノンでなら「公正な裁判」が受けられるとでも言うのか。お笑いである。ゴーン氏の出身といえば「レバノンとブラジルとフランス」だ。こんな人物を信じ、称賛し、服従したのは一体誰だったのか。天に唾する話である。
 中東でより重要な事件は、在イラク・米国大使館が親イラン武装勢力に近いと見られる群衆による襲撃を受けたことだ。イランのイラク内外での影響力拡大に対する米側実力行使が一定の水準を超えた。これが直接の理由だろうが、それにしても、イラン側は再び外国公館を標的にした。これがまかり通れば、外交官は仕事にならない。

〇南北アメリカ
 米大統領弾劾問題が停滞している。ペローシ下院議長は未だ本件を上院に送付していないからだ。このままでは我慢比べが続き、そうこうしている間に2月4日にはアイオワ州党員集会が始まる。こうした陳腐な戦術が吉と出るか凶と出るかは正直分からない。今年は、4年前とは違った意味で、結果を予測しにくい選挙になるだろう。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問