キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年12月17日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
この原稿はスコピエの空港ロビーで書いている。スコピエと聞いて「北」マケドニア共和国の首都だと分かる人は少ないのではないか。更に、昔はマケドニアだったのに「何時から『北』マケドニアになったのか」などという優れた疑問が生じれば、その読者は相当の国際通だ。正直、筆者もここに来るまで知らなかったことが少なくない。
今回の出張先は長年の懸案であったバルカン半島だ。そうは言っても、旧ユーゴスラビアは「7つの国境、6つの共和国・・・・」、欧州のバルカン部分の実に複雑な諸問題の縮図のような民族地域の塊だ。同地域を知るには旧ユーゴ6共和国とコソボを見ないことには始まらない。手始めが今回のコソボと北マケドニア出張というわけだ。
バルカン半島は歴史上、欧州・中東・アジアの諸勢力の覇権争いの中で常に草刈り場となってきた。陸続きの国境が多いため、ここでの覇権争いは常に「ゼロサム」ゲーム、すなわち、誰かが必ずジョーカーを引くという、実に悲しい結末となる。このような地で「Win-Win」の解決を言うのは簡単だが、その実現は極めて難しいだろう。
今回の短期間の出張だけでも、コソボでは、米国が大いに肩入れし、欧州は仲介の努力を重ね、ロシアがセルビアの背後で暗躍し、中国は経済的に関与を深め、トルコが再び影響力の拡大を図るなど、煮ても焼いても食えない関係国が跳梁跋扈していることが良く分かった。地政学的思考の訓練には最善の場所の一つだろうが・・・。
とにかくローマ帝国からオスマン帝国、ユーゴスラビアまで、歴史問題の奥深さは東アジアの比ではない。特に、オスマン帝国の500年の統治がバルカン諸民族の生活、文化、発想、行動指針に決定的な影響を与えたことは間違いない。オスマンの帝国統治の良い所と悪い所を含め、その呪縛から抜け出せない部分があると感じた。
コソボについてはJapanTimesの英語のコラムに書いたので、時間のある方はご一読願いたい。いずれにせよ、バルカン半島が一度や二度の出張で理解できるほど単純な地域でないことを実感した。これが今回の最大の収穫だ。今後も、少なくともセルビア、ボスニア、アルバニアには行かないと・・・。世界は広いと改めて実感する。
19日にイランの大統領が訪日する。あまり大きな成果を期待すれば失望するだろうが、イランを巡って何か物事を動かす(またはそのふりをする)こと自体に意味があるとすれば、それなりに大変意味のある会談になるだろう。ここでイランが大きな譲歩をすることはないが、彼らにもホストに恥をかかせない知恵ぐらいはあるからだ。
〇アジア
トルコの有名サッカー選手がウイグル問題で中国をツイッター批判し、中国で大炎上したそうだ。だが、ウイグルに関する各種報道を読めば、イスラム教徒があのような反応を示すのは当然だ。「中国人民の感情を傷つけた」からサッカー試合を放送中止にするより、もっとムスリムの心に響く反論をした方がずっと生産的だと思うのだが。
北朝鮮がまた「新たな実験」を行った。金正恩はもう腹を決めたのだろう。楽観主義者たちが最低限の期待を抱き続ける中、この一年半余り筆者は我慢してきたが、結局北朝鮮はICBMの開発と核弾頭小型化を一貫して継続してきたということだ。来年以降生まれる北東アジアでの新たな戦略環境に日本は対応できるのだろうか。
〇欧州・ロシア
先週のイギリス総選挙では予想以上にジョンソン首相が大勝した。確かに、ジョンソン氏の方がメイ前首相より、大衆迎合というか、大衆扇動が得意なんだなと痛感する。これで英国のEU離脱は決定的になった。心のどこかに、最後は英国民も離脱を撤回するのではないかと淡い期待もあったが、その可能性もなくなったということだ。
それにしても、労働党は惨憺たるもの。ジョンソン首相は、コービン党首のお蔭で勝てたとも言えるだろう。労働党がもう少し中道でまともであったら、結果は随分違っていたかもしれない。この点は、もしかしたら、今の日本にもある程度言えることかも・・・。やはり国の正しい選択には健全な野党を持つことが死活的に重要なのだろう。
〇中東
イラク、イランに次いでレバノンがまた混乱している。ベイルートでは先週末2日間反政府デモが再燃し、デモ隊と警察が衝突した。10月末には大規模デモの末にハリーリ首相が辞任に追い込まれたが、おっとどっこい、そのハリーリが首相に返り咲くという話が出ているらしい。一体レバノン人は何を考えているのか?
AFPによれば、10月デモのスローガンは「無能で腐敗にまみれた政治体制の全面的な見直し」だったそうだが、もし本当にハリーリ以外に首相候補がいないなら、レバノンという国はとてつもなく深い腐敗と縁故主義の闇から出られない、自己統治能力の欠如した国と国民ということだ。実は似たような国はバルカンにもあるが・・・。
〇南北アメリカ
CNNを見ているとワシントンからの報道はarticle of impeachment(弾劾訴追書とでも訳すのか)案の下院本会議上程が秒読みとなっていることばかり。これに対しホワイトハウスは全面対決モードで戦うつもりらしい。このままだと上院の弾劾裁判でトランプ氏が有罪となる可能性はまずないだろう。
これを来年のトランプ氏敗戦への序曲と見るか、それとも壮大なる時間の無駄と見るかは、見る人によって違うだろう。しかし、筋論で言えば、大統領の交代は大統領選挙で決めるべきであり、それでも勝てないなら、民主党は致命的なほど弱体化しているということだ。今のままではトランプ支持者がトランプを見捨てる可能性は低い。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
11月1日-12月27日 外務省と在中日本国大使館が中国各地で「地域の魅力海外発信支援事業」を開催
9日-17日 対日理解促進交流プログラム2019・シンガポール大学生と専門学生が来日
10日-17日 対日理解促進交流プログラム2019・フィジーなど大洋州諸国の訪日
10日-17日 対日理解促進交流「カケハシプロジェクト」・米国高校生らが訪日
10日-18日 対日理解促進交流プログラム2019・香港・マカオ高校生らが訪日
10日-18日 対日理解促進交流プログラム2019・日本の高校生らがタイを訪問
11日-18日 ミクロネシア・パニュエロ大統領が中国を訪問
11日-18日 MIRAI2019「日本の経済・ビジネス」をテーマに欧州各国の大学生・大学院生らを招へい
13日-17日 若宮外務副大臣がフィンランド及びスウェーデンを訪問
15日-18日 第14回カンボジア輸出入一州一品展示会(プノンペン)
15日-21日 中山外務大臣政務官がバヌアツ共和国及びトンガ王国を訪問
15日-22日 対日理解促進交流・米国大学生グループが訪日(群馬・兵庫県)
16日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会 election of the bureau(ニューヨーク)
16日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日 日本ウズベキスタンビジネスフォーラム(東京)
16日 第8回日本ウクライナ経済合同会議(東京)
16日 ロシア1-11月鉱工業生産指数発表
16日 長征3B・遠征1(航法測位衛星第3世代北斗等)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
16日-17日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
16日-19日 欧州議会本会議(ストラスブール:12月16-19日)
16日-20日 中国メディア訪日団が訪日(日中植林・植樹国際連帯事業)
17日 ソユーズST(太陽系外惑星探査ケオプス等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
17日 ファルコン9(通信衛星JCSAT-18/KACIFIC-1)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
17日-20日 ウズベキスタン・ミルジヨエフ大統領訪日
17日-21日 茂木外務大臣がロシア訪問
17日-23日 尾身外務大臣政務官がパラグアイ及びブラジルを訪問
18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
18日 EU11月CPI発表
18日-25日 対日理解促進交流プログラム・米国高校生グループが訪日(東京・沖縄)
19日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
19日 ECB一般理事会(フランクフルト)
19日 米・第3四半期経常収支(商務省)
19日 イラン・ローハニ大統領が日本を訪問
19日 米大統領選に向けた民主党の第6回候補者討論会(カリフォニア州ロサンゼルス)
19日 アトラスV(ボーイング社CST-100軌道飛行試験Boe-OFT)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
19日-23日 VIETBUILD HOME 2019(ホーチミン)
20日 米国第3四半期GDP発表(確定値)
20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
20日 ロシア1-10月貿易統計発表
20日 賀一誠マカオ行政長官が就任
20日 長征4B(地球観測衛星CBERS 4A/Ziyuanl-04A)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
20日 アトラスV(ボーイング社CST-100軌道飛行試験Boe-OFT)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
21日 米・11月個人消費支出(PCE)物価指数
22日 ウズベキスタン議会選挙
<23-29日>
23日 インド・ジャールカンド州下院選挙
23日-25日 安倍首相が中国を訪問
24日 メキシコ11月雇用統計発表
24日 ロシア11月雇用統計発表
24日 日中韓首脳会談(四川省成都)
24日 プロトンM(気象衛星Elektro-L N3)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
25日 クリスマス(ニューヨーク市場は全て休場)
27日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
27日 メキシコ11月貿易統計発表
27日 長征5(実践二十号)打ち上げ(海南省文昌衛星発射センター)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問