キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年12月10日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
この原稿はCNN-USで米下院司法委員会の大統領弾劾関連公聴会の生中継を見ながら書いている。今も世界では毎日多くの大問題が生じているにも関わらず、米国議会はトランプ氏のウクライナ疑惑をめぐり多数の証人を召喚し、何十時間も公聴会を繰り返している。距離を置いて見れば、「何かおかしい」感じがしない訳でもない。
そう考えている内に公聴会では冒頭から民主党の委員長と共和党有力理事たちが罵り合いを始めた。民主党の委員長は何度も共和党議員の発言を遮り、ガベル(議長、委員長が持つ小槌)を大きく叩いて一人で議事を進める。その後数分間、一通りの、しかし実に刺刺しい言葉の喧嘩があった。その後、ようやく議事が始まる。
民主党と共和党の法律顧問がこれまでの公聴会で判明した事実を詳細に説明し始めた。これから一日、議論が延々と続くのだろう。この公聴会が終われば、次は大統領弾劾のための関連文書作りが始まる。下院本会議で大統領弾劾訴追が正式に決まるのはクリスマス頃らしい。日本の「桜を見る会」の議論とどう違うのだろう。
こうした米議会での大統領弾劾の動きの詳細を含め、ワシントンでの米国内政の動きを詳しく知りたい向きには、毎週金曜日には掲載されるキヤノングローバル戦略研究所の辰巳主任研究員の「デュポン・サークル便り」がお勧めだ。引き続きご愛読頂ければ幸いである。
今週の筆者の最大関心事は何と言ってもフロリダの米海軍基地で起きた銃撃事件だ。時事通信によれば、「南部フロリダ州ペンサコーラの海軍航空基地で3人が死亡した6日の銃撃事件でFBIは、現場で射殺された容疑者のサウジアラビア空軍少尉の犯行を『テロ行為』として捜査していると明らかにした」らしい。一体何だ、これは?
サウジアラビアという国では今何が起きているのだろう。同国政府が米国に公式に派遣したサウジ空軍のパイロットが、こともあろうに同盟国米国の海軍基地内で同僚の米国人軍人を三人も射殺、更に多数の負傷者を出したのだ。サウジアラビアは自国の軍人のテロ行為すらコントロールできないのか。語るに落ちたとはこのことだ。
ところが、トランプ氏はそのサウジアラビアの国王と皇太子を終始弁護している。自分の部下が殺害され、それが「テロ行為」の可能性があるというのに、トランプ氏はサウジ関係者を非難するどころか、サウジアラビア政府の代弁者のように振舞っている。トランプ氏にはこの「異常さ」が理解できていないらしい。嘆かわしいことだ。
〇アジア
中国外相の韓国における「傍若無人」な振る舞いが批判されている。しかし、韓国がGSOMIAやTHAADを巡って煮え切らない態度を示す以上、中国としても「ねじを巻きに来る」のは当然だろう。王毅外交部長個人の問題ではない。むしろ、中国外交を甘く見た韓国の文在寅政権の「バランス外交」がうまく行っていない証拠だろう。
北朝鮮が「非常に重大な実験」を行った。ICBMの新型エンジンではないかと報じられた。当たらずとも遠からずだろう。北朝鮮は年末までに「ICBM発射や核実験の再開」など「重大な問題」を決定し、国民に対し「制裁下での耐乏生活」に耐えるよう呼びかける可能性が高まったが、そこに北朝鮮の出口はなく、2017年にも戻れないだろう。
先週米下院がウイグル人権法案を可決した。同法案は、「新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族を弾圧する当局者に制裁を科すこと」などを求めているそうだ。中国側は「顔認証や音声認識の技術や製品の輸出を禁じる条項」を懸念しているらしい。なるほど、米議会は目の付け所が良いと感心した。
〇欧州・ロシア
10日にノーベル賞の授賞式がある。今年も日本人が一人受賞したことは喜ばしい。ちなみに、各国の受賞者数では、2年前のデータだが、アメリカが344人、イギリスが110人、ドイツが82人、フランスが59人、スウェーデンが32人、スイスが27人で、これに日本の25人が続く。ロシアですら旧ソ連含め20人しかいない。大したものだ。
〇中東
アフガニスタンで悲劇が起きた。先週4日、東部ナンガルハル州ジャララバード近郊で福岡市のNGO「ペシャワール会」の現地代表の中村哲さんが何者かに殺害されたのだ。筆者は中村さんを個人的には存じ上げないが、あのジャララバードでの様々な支援活動には唯々頭が下がるばかりだ。心からご冥福をお祈り申し上げる。
イラン・米国間で拘束者の相互釈放が実現した。イランは2016年にスパイ容疑で拘束した米国人大学院生、米国は経済制裁違反容疑で18年に拘束したイラン人科学者をそれぞれ解放したそうだ。冷戦中は米ソ間でもよくスパイの相互釈放があったが、それでも冷戦は続いた。今回の「人道的措置」で両国が歩み寄るとは思えない。
〇南北アメリカ
アリゾナ州で行われた民主党大統領候補世論調査で、インディアナ州サウスベンドの市長、ピート・ブティジェッジ氏がバイデン元副大統領と拮抗する結果が出て話題を呼んでいる。この若い市長が来年の風雲児となるのか。アリゾナで民主党が勝つ可能性は高くないが、それでも民主党候補とトランプ氏との支持率の差は縮小している。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
11月1-12月27日 外務省と在中日本国大使館が中国各地で「地域の魅力海外発信支援事業」を開催
2日-11日 対日理解促進交流2019・アジア諸国から高校生らが訪日
2日-13日 国連気候変動枠組み条約第25回締結国会議(COP25)(スペイン・マドリード)
3日-10日 対日理解促進交流プログラム2019・大洋州諸国の大学生らが訪日
8日-14日 第1回日本・AALCO国際法研修の開催(東京・京都)
8日-15日 2019年度中国大学生訪日団第3陣の訪日(日中植林・植樹国際連帯事業)
9日 EU外相理事会(ブリュッセル)
9日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(健康)(ブリュッセル)
9日 メキシコ11月CPI発表
9日 ウクライナ問題をめぐる仏・独・露・ウクライナの首脳会議(パリ)
9日 ナイル川ダム問題に関する3カ国(エチオピア・エジプト・スーダン)外相級会合(ワシントン)
9日-11日WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
9日-17日 対日理解促進交流プログラム2019・シンガポール大学生と専門学生が来日
10日 国連環境計画(UNEP)常任代表委員会 第148回会合(ナイロビ)
10日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
10日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(雇用・社会政策)(ブリュッセル)
10日 中国11月CPI発表 及びPPI発表
10日 アルゼンチン・フェルナンデス大統領が就任
10日 湾岸協力会議(GCC)首脳会議(カタール・リヤド)
10日 ノーベル化学賞・平和賞授賞式
10日 ソユーズ2.1b(ロシア航法測位衛星GLONASS-M 759)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
10日-11日 米国FOMC
10日-11日 ブラジル中央銀行、Copom
10日-18日 対日理解促進交流プログラム2019・香港・マカオ高校生らが訪日
11日 ブラジル10月月間小売り調査発表
11日 インド10月鉱工業生産指数発表
11日 米国11月消費者物価指数(CPI)発表
11日- PSLV C48(RISAT-2BR1等)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
11日-12日 国際農業開発基金(IFAD) 執行理事会 第128回会合(ローマ)
12日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日 英国総選挙(英議会下院)
12日 ロシア2019年第3四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表
12日 アルジェリア大統領選挙
12日 タイ国王の戴冠式水上パレード
12日-13日 欧州理事会(ブリュッセル)
13日 米国11月小売売上高統計発表
13日 ロシア中央銀行理事会
13日 台湾総統選告示
13日 黒海経済協力機構(BSEC)外相会議(ギリシャ・アテネ)
13日 国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)最終日(マドリード)
15日 福井市長選
15日 中国、対米報復関税第4弾の残りの分を発動
15日 米、対中関税第4弾の残りの分を発動
<16-22日>
15日-18日 第14回カンボジア輸出入一州一品展示会(プノンペン)
16日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日 日本ウズベキスタンビジネスフォーラム(東京)
16日 第8回日本ウクライナ経済合同会議(東京)
16日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
16日 安倍首相がインドを訪問
16日 ファルコン9(通信衛星JCSAT-18/KACIFIC-1)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
16日-17日 EU農水相理事会(ブリュッセル
16日-19日 欧州議会本会議(ストラスブール:12月16~19日
17日 ソユーズST(太陽系外惑星探査ケオプス等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
17日 長征3B・遠征1(航法測位衛星第3世代北斗等)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
17日-20日 ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領訪日
18日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、フランクフルト
18日 EU11月CPI発表
19日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
19日 ECB一般理事会(フランクフルト)
19日 米大統領選に向けた民主党の第6回候補者討論会(カリフォニア州ロサンゼルス)
19日 アトラスV(ボーイング社CST-100軌道飛行試験Boe-OFT)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
19日-23日 VIETBUILD HOME 2019(ホーチミン)
20日 米国第3四半期GDP発表(確定値)
20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
20日 ロシア1-10月貿易統計発表
20日 賀一誠マカオ行政長官が就任
20日 長征4B(地球観測衛星CBERS 4A/Ziyuanl-04A)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
21日 米・11月個人消費支出(PCE)物価指数
22日 ウズベキスタン議会選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問