キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年11月19日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
今週の原稿は2019年の47回目、今年も、もう5週間しかないのか。時の経つのは実に速いものだ。これと同様、世界中で起きている紛争や混乱も、以前よりずっと速く進展、もしくは悪化するようになった気がする。IT革命により、情報(特に悪い情報)はあっという間に世界一周するからだろう。
先週のハイライトは、日本では専ら日韓GSOMIAだった。デッドラインが11月23日に迫る中、多数の米国務省、国防総省の高官がやたらと韓国を訪問したり、韓国要人と会談したりして、必死でGSOMIA離脱の撤回を要請している、というか圧力を掛けている。筆者に言わせれば、「何を今更」であるが・・・。
よく考えてみてほしい。問題の発端は、例の「タマネギ男」法相のスキャンダルが吹き荒れた8月下旬、文在寅大統領が最側近の意見だけを取り入れ、韓国外交国防関係者の反対にも関わらず、日韓GSOMIA終了の決断を下したことだ。つまり問題は大統領本人であり、次官補や国防長官が圧力を掛けても効果は薄いのである。
しかも、あれだけアカラサマな圧力を受ければ、文大統領だって譲歩したくても、譲歩できなくなる。それが韓国国内政治の実態だろう。要するに、米国がこの問題を本当に解決したいのであれば、もっともっと前から、大統領レベルかつ水面下で、強力な圧力を文氏に掛ける必要があった。トランプ氏がそれを実行した形跡はないが。
そもそも、今の大統領にそのような「高度な交渉」を期待するのは無理だろう。米大統領が動かない状況の下で、国防長官が如何に頑張っても、韓国内政は動かないのではないか。あと数日内に文大統領が8月末の決定を撤回する度量があれば、多くの日本人は同大統領を見直すかもしれない。だが、恐らくそれは無理だと思う。
先週のもう一つのハイライトは米下院情報委。従来の大統領弾劾調査の秘密会を公開形式に切り替え、在ウクライナ米国臨時代理大使と国務省の元ウクライナ担当次官補代理がテレビカメラの前で、米国の現職大統領が軍事援助供与と引き換えに自己の政敵に対する収賄捜査をウクライナ大統領に要請したと証言した。
要するに、遂にワシントンで、ウクライナ疑惑をめぐり、来年の大統領選に向けた大規模な公開メディア戦争が勃発したということ。これがトランプ政権の「終わりの始まり」となるか、民主党議会指導部が墓穴を掘るかは分からない。唯一明らかなことは、今やワシントンの職業外交官が公然と現職大統領を批判し始めたことだ。
それにしても、トランプ政権の米国務省イジメは度を越えている。初代ティラーソン前長官は、国務省予算を大幅に削減し、職業外交官を目の敵にして、彼らの昇進を止め、多くを事実上の依願退職に追いやった。今のポンペイオ長官にも現職の米職業外交官を守ろうとする姿勢は全く見られない。国務省官僚が激怒するのは当然だ。
そう言えば、日本の外務省も一昔前、元内閣総理大臣の令嬢だった外務大臣や民主党政権に徹底的にイジメられたことがある。それでも、日本の外務官僚は終始お行儀が良かった。「内部告発」もせず、国会で政治家を批判する証言をすることもなく、唯々、政治的に中立な、あるべき官僚像を演じ続けたからだ。
しかし、内閣人事局ができた今、状況は最悪となっている。外務公務員だけではない。霞が関を中心とするすべての高級官僚にとって今や第二次大戦後最悪の危機が到来している。彼らは日本のDeep State(国家の中の国家)なのか。今週のJapan Timesのコラムではこの話題を取り上げた。御一読頂ければ幸いである。
〇アジア
香港の大学キャンパスが大混乱に陥っている。1970年安保当時の日本と同様、一部の過激派学生は大学に籠城し始めた。取り締まりの暴力化、過激化が進んでいるためだが、これは学生側にとって自殺行為でもある。このまま過激化すれば、日本の1970年代と同様、学生たちは庶民の支持を失い、香港経済が衰退するだけだ。
〇欧州・ロシア
今週、日本での対欧州関心は比較的静かだ。日本語のニュースではローマ法王の訪日とルーマニアの国民投票があるくらい。ところが英語メディアになると、英国のアンドリュー王子が、未成年買春というか、不適切交際疑惑で炎上している。米国の大富豪のアレンジらしいが、王子はBBCのインタビューで全面否定。長引きそうだ。
〇中東
今週もイランが騒がしい。対イラン経済制裁の影響は相当深刻なようだ。先週拡大し死傷者まで出たガソリン値上げ抗議デモに対し、ロウハーニ大統領は「社会の不安定を容認しない」と警告したそうだ。産油国だから国際的にはまだまだ安いガソリンだが、最大三倍値上げは庶民にとって大打撃だ。
イランでは今インターネットがほぼ全土で止まっているらしい。このままでは庶民の生活が更に苦しくなり、穏健派政治家の信頼度は地に落ち、対米強硬派がイラン核合意からの離脱を求め、イラン内政は一層混乱するという最悪の結果で、トランプ政権の思惑通りになるだけだ。されば、米国は今後も制裁を決して止めないだろう。
〇南北アメリカ
BBCラジオとのインタビューでクリントン元米国務長官が来年の米大統領選に再出馬する可能性につき、「私はどんなことに関しても、絶対にないとは決して言わない」と答えたそうだ。おいおい、米民主党はかくも人材払底なのか。こんな状態では大統領選に勝てるはずがない。米民主党の受難は相当長期間続くのではないか。
〇インド亜大陸
スリランカ大統領選で、前大統領の弟で親中派の野党候補が当選したという。同候補は選挙戦中から近隣諸国との関係強化を訴えていたが、中国の影響力が再び強まる可能性もあると報じられている。流石は中国、転んでもただでは起きないのか、要注意だ。今週はこのくらいにしておこう。
10月7日-11月20日 国連総会 第六委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月7日-11月27日 国連総会 第二委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月7日-12月5日 第14期2019年第3回マレーシア国会会期
10月21日-11月21日 第14期第8回ベトナム国会
11月1日-12月27日 外務省と在中日本国大使館が中国各地で「地域の魅力海外発信支援事業」を開催
11日-12月6日 拷問禁止委員会 第68回会合(ジュネーブ)
12日-19日 対日理解促進交流2019・ニュージーランド及びクック諸島など大洋州諸国の大学生らが訪日
12日-20日 対日理解促進交流2019・日本の大学生がベトナムを訪問
12日-27日ユネスコ総会 第40回会合(パリ)
13日-21日MIRAI2019・「平和構築」をテーマに西バルカン諸島の青年らを招へい
14日-27日 第39回インド国際貿易フェア(ニューデリー)
16日-19日 ASEAN拡大国防相会議(ADMMプラス)関連会合(バンコク)
16日-19日 河野防衛相がバンコクを訪問
16日-20日 中谷外務大臣政務官がセネガルを訪問
17日 ベラルーシ下院議員選
17日-23日 英国・チャールズ皇太子とカミラ夫人がニュージーランドを訪問
18日 F1ブラジルGP決勝
18日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日 ロシア1-10月鉱工業生産指数発表
18日 マーシャル諸島議員選
18日 大饗の儀(2回目)(皇居・宮殿)
18日-12月1日 米・ロサンゼルス自動車ショー(一般公開は22日から)
18日-22日 WFP執行理事会(second regular session)(ローマ)
18日-22日 国際海事機関(IMO)理事会 第30回 Extraordinary session(ロンドン)
18日-29日 ICAO council phase 第218回会合(モントリオール)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日-20日 UN人間居住計画 執行理事会 resumed first session(ナイロビ)
19日-26日 ローマ法王がタイと日本を訪問
19日-26日 対日理解促進交流2019・インドの高校生と大学生らが訪日
20日 米大統領選に向けた民主党の第5回候補者討論会(ジョージア州アトランタ)
20日-23日 Plastics & Rubber Indonesia 2019(ジャカルタ)
20日-23日 VTG - 19th Vietnam Int'l Textile & Garment Industry Exhibition(ホーチミン)
21日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
21日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(文化・スポーツ)(ブリュッセル)
21日 FOMC議事録
21日-22日 IAEA 理事会(ウィーン)
22日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(若年)(ブリュッセル)
22日 ロシア1-9月貿易統計発表
22日-23日 G20外相会合(愛知県)
22日-23日 アフリカ投資フォーラム「Africa 2019」(エジプト・シャルムエルシェイク)
22日-23日 天皇、皇后両陛下が伊勢神宮参拝
22日-12月1日 アビジャン農業・動物資源国際見本市「SARA2019」(コートジボワール)
23日 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)消失期限
23日 第10回軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合(名古屋)
23日 アリアン5(エジプト通信衛星TIBA-1等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
23日 長征3B・遠征1(航法測位衛星第三世代北斗19, 20)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
23日-24日 日中韓3カ国環境相会合(TEMM21)(北九州市)
23日-30日 2019年度中国大学生友好交流訪日団が訪日(日中植林・植樹国際連帯事業)
24日 高知県知事選
24日 ウルグアイ大統領選挙(決選投票)
24日 ギニアビサウ大統領選挙
24日 ルーマニア国民投票
24日 香港区議会(地方議会)選挙
【来週の予定】
25日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
25日 メキシコ第3四半期GDP発表
25日 エレクトロン("Running out of finger"ロケットラボ社)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
25日-27日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)第53回会合(ウィーン)
25日-28日 欧州議会本会議(ストラスブール)
25日-12月5日 国際海事機関(IMO)総会 第31回会合(ロンドン)
26日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
26日 ロシア10月雇用統計発表
26日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
27日 米国第3四半期GDP発表(改定値)
27日 ベージュブック(FRB)
27日 ナミビア大統領選挙・国民議会選挙及び国民投票
27日 PSLV C47(地球観測衛星Carttsat-3等)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
27日-29日 Jakarta Smart Living Expo 2019(ジャカルタ)
27日-29日 The 8th International Plastics & Rubber Technologies & Materials Exhibition for Vietnam(ホーチミン)
28日 米・10月消費支出(PCE)物価指数(商務省)
28日-29日 EU競争理事会(ブリュッセル)
29日 ユネスコ 執行理事会 第208回会合(パリ)
29日 米・感謝祭(ニューヨーク市場は全て休場)
29日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
29日 EU10月失業率発表
29日 インド第2四半期GDP発表
29日 西アフリカ協商理事会首脳会議(トーゴ・ロメ)
30日 ドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長任期終了
12月1日 ミシェル・シャルル欧州理事会新常任議長就任
1日-5日 IWA Water and Development Congress & Exhibition(コロンボ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問