キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年11月5日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週末、筆者の所属するキヤノングローバル戦略研究所が恒例の政策シミュレーションを実施した。今回は久し振りの経済ゲーム、2020年前半に米中貿易戦争が激化し、世界各地で中国の大規模プロジェクトが動揺し、米中で仮想通貨導入競争が始まる、といった仮想空間を作った。
有難いことに、今回も50人近い、ええっ、こんな人がというような、著名エコノミスト、現役公務員、専門家、学者、ビジネスパーソン、ジャーナリストが集まり、この面倒で複雑な経済ゲームの各プレーヤーを一昼夜リアルに演じてくれた。彼らの知的貢献、特にマーケットチームを演じてくれたプロフェショナルたちに改めて謝意を表したい。
シミュレーションの結果については追ってキヤノングローバル戦略研究所から詳細な報告書が公表されると思うし、最近筆者はシナリオ作りの段階から殆ど関与していないので、余り余計なことは書かない方が良いと思っている。要するに成功したら実際に頑張った人々に感謝。失敗したら筆者が首を洗って責任を取る、ということだ。
それにしても、技術の進歩は大したものだ。今回は市場の動向が重要なので久し振りでマーケットチームを設置したのだが、情報ソフトの進歩により株価と為替の情報がこれまでよりもはるかにビジュアルかつ正確に共有できるようになり、ゲームの精度が格段に進歩した。
一番ショックだったのは東京株式市場の実態だ。専門家の話を聞いて愕然とした。日本株については日本政府は「無策」に思えた。市場との対話が欠如した状態であり、たまに政府発表があっても市場は反応し辛かったという。現実世界も同様で、日本株を動かすのは外国人、東証株の何と70%は外国人が動かしている、のだそうだ。
要するに、東京の市場では「海外からどう見られているか」がマーケットが動く最大の要因らしい。また、日本が寝ている間に米国で何か起きた場合、日本の市場が開く時の状況と、前日に市場を終えた状況とが全く違う場合がある。その点、中国は夜中でもNY市場に影響を与えようと動いているそうだ。流石は中国ではないか。
先ほど、バンコクで短時間日韓首脳対話が行われたと報じられた。ソウル発時事によれば、安倍首相と文大統領は「日韓関係が重要だという点で意見を一致させ、懸案は対話を通じて解決しなければならないという原則を再確認した」、「外務省高官レベルで行われている公式協議を通じ、実質的な関係進展の方策が導き出されることに期待を表明した」「文大統領は必要な場合、さらに高位レベルの協議を検討することを提案、安倍首相は『すべての可能な方法を通じて解決法を模索するよう努力しよう』と応じたそうだ。しかし、これだけではコメントのしようがない。
以上は韓国大統領府の発表内容らしいのだが、おいおい、全体で10分程度の対話、片道5分強で、通訳が入れば翻訳が半分だから実質的には片道数分ずつとなる。それでこれだけ多くのことが本当に話されたのだろうか。良く分からない。この対話というか歓談?は韓国側の呼びかけで行われ、事前に予定されてはいなかったという。
〇アジア
誤解を恐れず書くのだが、最近多くの友人や識者が「中国出張」を躊躇しているという話をよく聞くようになった。「香港」まではOKだが、「中国本土」はちょっと、という感じらしい。例の某国立大学教授の話が独り歩きしているのかもしれない。こんなことでは日中が益々疎遠になってしまうではないか。中国も何か対策を考えて欲しいものだ。
〇欧州・ロシア
英国の港で発見されたトレーラーの冷凍コンテナで死亡したアジア人は、中国人ではなく、ベトナム人だったことが判明したそうだ。しかも報道によれば、欧州へのベトナム人密航者は年間18000人に上るという。密航のシンジケートは巨大な闇だが、英国のEU離脱も闇の中、12月の総選挙まで水面下の死闘が続くのだろう。
一方、そのEUは欧州委員会の新体制発足が遅れているという。委員会の幹部人事について欧州議会の承認が遅れているらしい。こうした混乱が続くなら、英国が離脱しなくても、欧州はガタガタになっていくのではないか。幸い日本に政治空白の恐れは今のところないが、だからといって欧州委員会の惨状は他人事ではない。
〇中東
イランでは40年前にテヘランの米国大使館占拠事件が起きたが、現地では相変わらず「米国に死を」のスローガンが止まない。一方、核合意についてイランは遠心分離機の台数を増やし、公然と制限破りを繰り返している。ハーメネイ最高指導者は米国との対話を働き掛ける仏大統領を「世間知らず」と呼んだが、「世間知らず」とはご自身のことではないのか?
〇南北アメリカ
トランプ氏に対する評価について、世論調査が割れている。WSJとNBCの最新世論調査では、下院の弾劾調査支持が53%、反対は44%だった。一方、トランプは弾劾・罷免されるべきが49%、反対46%。後者について10月初旬の調査とは結果が逆転しているが、この程度の差では誤差の範囲としか言いようがない。
とにかく、今の米国での報道ぶりはちょっと異常である。民主党の大統領候補も決まっていないのに、トランプ氏への支持率を云々しても、始まらないではないか。投票日は来年の11月だ。大勢が見えてくるのは来年の9月以降の話。ならば、少し放っておいたらどうか。我々は米国市民ではないのだから。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月3日-11月8日 国連総会 第一委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月3日-11月15日 国連総会 第四委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月7日-11月20日 国連総会 第六委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月7日-11月27日 国連総会 第二委員会 第74回会合(ニューヨーク)
10月7日-12月5日 第14期2019年第3回マレーシア国会会期
10月14日-11月8日 国連人権委員会 第127回会合(ジュネーブ)
10月21日-11月21日 第14期第8回ベトナム国会
10月24日-11月7日 ILO理事会及び委員会 第337回会合(ジュネーブ)
10月29日-11月6日 対日理解促進交流2019・東ティモール観光業者らが訪日
10月31日-11月4日 ASEAN関連首脳会議(バンコク)
11月1-10日 第46回バグダッド国際見本市(イラク・バグダッド)
1日-12月27日 外務省と在中日本国大使館が中国各地で「地域の魅力海外発信支援事業」を開催
3日-5日 安倍首相がASEAN関連首脳会議の出席のためにタイを訪問
3日-5日 アフリカ連合委員会主催「第11回アフリカ民間セクター・フォーラム」(マダガスカル・アンタナナリボ)
3日-7日 国連工業開発機関(UNIDO) 総会 第18回会合(アブダビ)
4日 RCEP(東アジア地域包括的経済連携)首脳会議の開催(バンコク)
4日 国連開発活動への提供基金会議(ニューヨーク)
4日 米トランプ政権、地球温暖化対策枠組み「パリ協定」離脱で国連への通告が可能に
4日 快舟1号甲(KL-Alpha 1,2)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
4日-6日 若宮外務副大臣がWTOの会合出席のために中国を訪問
4日-7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4日-7日 フィンランド・ハーヴィスト外相がインドを訪問
5日 世界貿易機関(WTO)非公式閣僚会合(上海)
5日 米国9月貿易統計発表
5日 米国・サンフランシスコ市長選
5日 中国・習主席が第2回中国国際輸入博覧会で基調演説(上海)
5日-7日 南アフリカ共和国投資会議(ヨハネスブルク)
5日-10日 第2回中国国際輸入博覧会(上海)
5日-13日 2019年度中国高校生訪日団の 第2陣が訪日(日中植林・植樹国際連帯事業)
6日 ロシア10月CPI発表
6日 森外務審議官と露・モルグロフ外務次官との協議の開催
6日 貿易経済に関する日露政府間委員会・貿易投資分科会 第11回会合及び地域間交流分科会 第8回会合の開催(茨城県つくば市)
6日-8日 Indonesia Fintech Show 2019(ジャカルタ)
6日-8日 VIET WATER 2019(ホーチミン)
7日 ブラジル10月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
7日 メキシコ10月CPI発表
7日 欧州委員会秋季経済予測発表
7日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
7日 モーリシャス国民議会選挙
8日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
8日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(教育)(ブリュッセル)
8日 中国10月貿易統計発表
9日 中国10月CPI発表
9日 天皇陛下即位をお祝いする国民祭典(東京・皇居前広場)
9日 独ベルリンの壁崩壊から30年
10日 スペイン総選挙(4月の総選挙後の連立交渉決裂を受けての再選挙)
10日 ルーマニア大統領選挙
10日-17日 対日理解促進交流2019・中国青年メディア関係者代表団第2陣の訪日
【来週の予定】
11日 EU外相理事会(ブリュッセル)
11日 インド9月鉱工業生産指数発表
11日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
11日 退役軍人の日(ベテランズデー)(外為、債券市場が休場。株式、商品市場は通常通り)
11日-13日 アフリカ開発銀行(AfDB)主催アフリカ投資フォーラム(ヨハネスブルク)
11日-14日 ADIPEC 2019 (アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ)
11日-15日 シンガポール・フィンテック・フェスティバル(SFF)・シンガポール・イノベーション・テクノロジー週間(SWITCH)(シンガポール)
11日-12月6日 拷問禁止委員会 第68回会合(ジュネーブ)
12日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
12日-14日 Miskグローバルフォーラム(サウジアラビア・リヤド)
12日-14日 アフリカIT・情報通信展示会「アフリカ・コム」(南ア・ケープタウン)
12日-14日 国連主催「人口・開発国際会議(ICPD)」(ケニア・ナイロビ)
12日-27日ユネスコ総会 第40回会合(パリ)
13日 ブラジル9月月間小売り調査発表
13日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
13日 米国10月消費者物価指数(CPI)発表
13日 トルコ・エルドアン大統領が訪米
13日-14日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
13日-14日 アジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議(場所は未定)
13日-14日 BRICS首脳会議(ブラジル・ブラジリア)
13日-15日 MARINE VIETNAM 2019(ホーチミン)
13日-16日 Vietnam Foodexpo 2019(ホーチミン)
14日 EU・第3四半期GDP改定値(EU統計局)
14日 中国10月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日-15日 WTO物品貿易理事会(スイス・ジュネーブ)
14日-27日 第39回インド国際貿易フェア(ニューデリー)
15日 米国10月小売売上高統計発表
15日 EU10月CPI発表
15日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)(ブリュッセル)
16日 スリランカ大統領選挙
16日-17日 APEC首脳会議(場所は未定)
16日-19日 ASEAN拡大国防相会議(ADMMプラス)関連会合(バンコク)
17日 ベラルーシ議会選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問