キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年10月29日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週末、米大統領が重大発表を行った。特殊部隊による作戦でイスラム国(IS)首領の隠れ家を急襲、バグダーディは「泣き叫びながら」自爆したという。しかし、筆者に言わせればIS首領の死なんて象徴的意味しかない。対欧米テロは続くが、忠実な同盟者クルド人を見捨てたトランプ政権の即興的外交政策の方がよっぽど悪質だ。
それはともかく、今度の米国大統領は、やることなすこと、専門家を唸らせるパーフォーマンスが全くできない男だなと実感する。米国内政治的にはバグダーディ暗殺は大成功の筈だった。だが、各種報道によれば今回の特殊作戦は、急遽立案・実行せざるを得なかったこともあり、かなり際どい危険なオペレーションとなったようだ。
トランプ氏が10月7日に突然在シリア米軍の撤退を発表したため、今回の作戦準備が十分ではなかった可能性を指摘する向きもある。そりゃそうだろう、一方で通常部隊が撤退を始める中、先週木曜日に漸くバグダーディの居所を察知し、日曜日の未明には8機のヘリコプターで100人以上もの特殊部隊兵士を動員したのだから。
トランプ氏は大得意だったようだが、バグダーディ殺害という大成果にもかかわらず、米国内外はどこか冷めているような気がする。一つは、国内でウクライナ疑惑をめぐる大統領弾劾調査が進んでいるためだろう。一方海外では、今回のシリアからの米軍撤退で同盟国米国の信頼性が大きく傷付いたことが大きかったのかもしれない。
〇アジア
香港は相変わらずだが、北京では重要会議が開かれている。一般に「四中全会」と呼ばれるこの会議、正式には「19期中央委員会第4回全体会議」という。期間は28-31日だが、三中全会が開かれたのは昨年2月だから、何と1年8カ月ぶりの開催だ。共産党内では、混乱こそないにせよ、意見集約が遅れた可能性はある。
大山鳴動という言葉があるが、一体何に時間がかかったのか、重要政策や重要人事は決まるのかに注目したい。問題は対米貿易問題だけではない。中国は米国が売ってきた喧嘩を買って米国との大国間覇権争いを本格的に始めるのか、それとも、経済構造改革を優先する戦略的方針変更に進むのか、中国にとっては正念場だろう。
〇欧州・ロシア
欧州連合(EU)大統領が、英国のEU離脱期限を来年1月31日まで延期することでEUが合意したと述べたそうだ。英国が求めた延期は「フレクステンション(柔軟な延期)」と言うらしい。ブレグジットやら、フレクテンションやら、やたら新語が飛び交う現状、やはり欧州の現状は正常ではない。
先週大阪で「そこまで言って委員会」の録画があったが、筆者だけが「最終的に英国のEU離脱はない」と予測した。明確な根拠はないが、英国内で「出る出ない」が決まらない中、EUの多くは英国に付き合わざるを得ないのでは、と感じている。仏など一部の国は強硬だろうが、「出る」と言えない英国など当面放っておくしかないだろう。
〇中東
米国内では今次特殊作戦の詳細が話題になっているが、中東では各地でデモが頻発している。特に今週はレバノンの状況が心配だ。過去二週間ほど、レバノン政府の経済運営失策に対する抗議活動が激化、各地で数千人規模のデモが起きている。政府はインターネット利用音声通話サービスへの課税案を撤回したそうだ。
驚くべきことに、今CNNを見ていたら、同国の中央銀行が「数日で」破綻すると言い出したようだ。これって、末期症状ではないのか。しかし、こんなことは一朝一夕では起こり得ない。要するに、レバノンという国は国家としての一体性を欠き、様々な宗派の寄せ集めでしかないことを露呈してるのだ。これは自己統治能力の問題である。
〇南北アメリカ
アルゼンチンの大統領選挙で左派野党候補の元首相が当選した。2015年に就任した中道右派の現職大統領を破っての政権復帰だ。しかし、新大統領は例のバラマキ政権の有力者の一人だ。現大統領は緊縮財政で改革を進めたが、結局は元の木阿弥である。南米も中東を笑えない。ここでも問題は自己統治能力の有無なのだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月3日-11月8日 国連総会 第一委員会 第74回会合(ニューヨーク)
3日-11月15日 国連総会 第四委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月20日 国連総会 第六委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月27日 国連総会 第二委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-12月5日 第14期2019年第3回マレーシア国会会期
14日-11月8日 国連人権委員会 第127回会合(ジュネーブ)
24日-11月4日 東京モーターショー開幕(東京ビッグサイト)
24日-11月7日 ILO理事会及び委員会 第337回会合(ジュネーブ)
27日-11月3日 対日理解促進交流2019・中国社会科学院青年研究者代表団が訪日(テーマ:高齢化社会対策)
28日 メキシコ9月貿易統計発表
28日-30日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会A及び非公式・専門家委員会 第56回会期(ウィーン)
28日-11月2日 ニュージーランド・ピーターズ外相が日韓を訪問
29日 饗宴の儀(3回目、皇居・宮殿)
29日-30日 米国FOMC
29日-30日 ブラジル中央銀行、Copom
29日-31日 WTOサービス貿易理事会(ジュネーブ)
29日-11月15日 国際麻薬統制委員会(INCB) 第126回会合(ウィーン)
30日 米国 第3四半期GDP発表(速報値)(商務省)
30日-11月3日 北方四島における共同経済活動(観光パイロットツアーの実施)
31日 イギリスのEUの離脱期限
31日 ユンケル欧州委員長任期満了
31日 EU・9月失業率発表
31日 EU・GDP(速報値)第3四半期(EU統計局)
31日 米国9月個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
31日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
31日 インド8月鉱工業生産指数発表
31日 饗宴の儀(4回目、皇居・宮殿)
31日 外務省・IOM共催・外国人受け入れと社会統合のための国際フォーラム開催(赤坂区民センター区民ホール)
31-11月4日 ASEAN関連首脳会議(バンコク)
11月1日 第3回RCEPサミット(バンコク)
1日 米国10月雇用統計(労働省)
1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表
1日-3日 ニュージーランド ビッグボーイズ・トイ・エキスポ(オークランド)
2日 ラグビー W杯2019 決勝(横浜国際総合競技場)
2日 アンタレス(NG-12/Cygnus)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
2日-3日 ASEANビジネス投資サミット(バンコク)
3日 米国が冬時間入り
3日 自動車F1米国GP決勝(米テキサス州オースチン)
3日-7日 国連工業開発機関(UNIDO)総会 第18回会合(アブダビ)
<11月4-10日>
4日 国連開発活動への提供基金会議(ニューヨーク)
4日-7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 米国9月貿易統計発表
5日-10日 第2回中国国際輸入博覧会(上海)
6日か7日 ロシア10月CPI発表
6日-8日 VIET WATER 2019(ホーチミン)
6日-8日 Indonesia Fintech Show 2019(ジャカルタ)
7日 ユーログループ(ブリュッセル)
7日 ブラジル10月IPCA発表
7日 メキシコ10月CPI発表
7日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗13Q)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
8日 EU教育・青少年・文化・スポーツ理事会(ブリュッセル)
8日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
8日 中国10月貿易統計発表(税関総署)
9日 中国10月CPI発表
10日 ルーマニア大統領選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問