キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年10月23日(水)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
ラグビーワールドカップ準決勝進出という日本の夢は遂に潰えた。南アフリカは実に速く強かった。筆者のような素人の目にも彼我の力の差は歴然だ。それでも多くの日本人は今回の日本チームの戦いぶりを決して忘れないだろう。9月20日からの夢のような一ヵ月間は、ジョセフHCの言う通り、まさに「脱帽」という他ない。
この一カ月で何百万もの日本人がラグビーファンに転向したのではないか。彼らのあのごっつい、マッチョな体躯からは想像もできないようなスピード。有難いことに筆者もこれで一通りラグビー関係ルールを理解できるようになった。ただ一つだけ気になったことがある。ある解説者が「これで日本の戦いは終わった」と述べたことだ。
揚げ足取りのようで申し訳ないが、「戦い」は終わったのではない。「戦い」は負けたのだ。決して勝ってはいないだろう。何でこんなことを言うのかって?実は試合の直前に読んだミッチ・マコーネル米上院共和党院内総務がワシントンポスト紙に書いたトランプ政権を批判する寄稿文の一節を思い出したからだ。
同議員は「戦争はただ終わるのではない。戦争では勝つか、負けるかしかないのだ」と言い切った。トランプ氏が「終わりのない戦争を終わらせる」として北シリアから米軍を撤退させたことを強く批判し、「そのような左右双方の孤立主義的レトリックを駆使しても戦争の実態は変わらない」と指摘したのだ。
そこらの民主党の陣笠議員ではない、与党共和党の上院院内総務(マジョリティリーダー)が現職の共和党大統領の政策判断を徹底的にこき下ろしたのだから、穏やかではない。トランプ氏のこの新たな「勢いと偶然と判断ミス」による決定については英語のコラムに書いた。お時間があればご一読願いたい。
ちなみにこうした孤立主義的レトリックは日本にもある。8月15日は終戦記念日であって、決して敗戦記念日ではない。しかし、何度「終戦」と呼んでも、マコーネル院内総務が指摘した通り、「戦争はただ終わるのではない。戦争とは勝つか、負けるかしかないのだ」から、実に興味深いではないか。
今週のハイライトは何と言っても即位礼正殿の儀とそれに合わせて来日する各国要人との一連の首脳外交だろう。安倍晋三首相は21日に23人、25日までに合計50人の各国要人と会談するらしい。ご苦労様としか言いようがないが、その中には中国の国家副主席、韓国の首相も含まれるから、単なる儀礼外交ではなさそうだ。
〇アジア
案の定、香港でまだデモが続いている。マスク禁止法なんて作るからこんなことになる。香港政府の高官も北京の共産党首脳も、まがりなりにも言論の自由が保障されてきた社会で起きるデモを如何に封じ込めるかについて「想像力(イマジネーション)」を欠いていると痛感する。このままではデモは続くが、香港は地盤沈下するだけだ。
〇欧州・ロシア
最近、一体英国はどうなっているの、という質問を良く受ける。これに対しては「ラグビーを見てほしい」と答えることにしている。ラグビーに英国の統一チームなんてないでしょ?ウェールズ、イングランド、スコットランドはそれぞれ別チームでしょ。こんな国がEU離脱で統一見解なんて出せる訳ないでしょ?実に乱暴な議論ではあるが・・・。
〇中東
朝日新聞はこう書いた。
先週日本政府はイランに配慮し米国が主導する『有志連合』構想への参加を見送った。派遣もホルムズ海峡は避け、防衛省設置法の『調査・研究』目的で、情報収集の強化を目的とする。米国防総省は「別々の行動を希望するなら、その努力を歓迎する」「すべてのパートナーが緊密に連携し、情報共有を続けることを求める」と述べた。
更に、米第5艦隊元司令官が「日本が有志連合に参加しなくても、米国や他国と調整すれば、ずっと効果的に日本の船舶を守ることができる。日米は相互運用可能な装備を多数保有し、情報共有の仕組みもある。有志連合と、日本のような単独国の情報共有が最重要だ」などと語ったそうだ。後半部分は良く分からない記事だなあ。
元司令官のコメントなど報じても仕方ないだろう。恐らくは公式見解が取れなかったのか。いずれにせよ、日本政府の対応は、良く言えば「バランスの取れた絶妙の措置」だが、悪く言えば「どれも中途半端。トランプ政権でなかったら、対米、対イランの双方で深刻な問題が生じたかもしれない」程度の歯切れの悪い措置ではなかろうか。
〇南北アメリカ
今週カナダで総選挙がある。トルドー元首相の息子の現首相が苦戦しているらしい。あれだけ若く颯爽としていたのだが、やはり若過ぎたのか、それとも親の七光りで、そもそも政治家として実力が足りなかったのか。カナダに「トランプもどき」の首相が出たらと心配したが、最大の争点は「地球温暖化」だそうだから、まだ大丈夫だろう。
トランプ氏がまたまた大統領とは思えない朝令暮改を繰り返した。来年米国がホスト国となるG7サミットをマイアミにあるトランプ一族所有のゴルフリゾート施設で開催すると一度は発表したものの、その後同決定を突然「撤回」するとツイッターで発表したからだ。もう宮仕えはご免だが、特にトランプ政権では絶対に仕事をしたくないな。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月3日-11月8日 国連総会 第一委員会 第74回会合(ニューヨーク)
3日-11月15日 国連総会 第四委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月20日 国連総会 第六委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月27日 国連総会 第二委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-12月5日 第14期2019年第3回マレーシア国会会期
14日-11月8日 国連人権委員会 第127回会合(ジュネーブ)
15日-23日 対日理解促進交流2019・ラオスから防災・環境に関心を有する大学生らが訪日
15日-25日 ICAO Committee Phase 第218回会合(モントリオール)
17日-21日 インド・コヴィンド大統領がフィリピンを訪問
17日-22日 シンガポール・ウン・エンヘン国防大臣が中国を訪問
17日-23日 対日理解促進交流2019・韓国高校生らが訪日
19日-21日 中山外務大臣政務官がインドネシアを訪問
20日-22日 北京香山フォーラム
21日 即位礼外交スタート
21日 カナダ総選挙
21日-23日 オープン・イノベーション・フォーラム(ロシア・モスクワ・スコルコボイノベーションセンター)
21日-24日 欧州議会本会議(ストラスブール)
21日-25日 万国郵便連合(UPU) 管理理事会 (ベルン)
22日 ロシア1-8月貿易統計発表
22日 メキシコ9月雇用統計発表
22日 トルコ・エルドアン大統領がロシア訪問
22日 即位礼正殿の儀
23日 ロシア9月雇用統計発表
23日 ボツワナ・大統領選及び総選挙
23日 香港立法会(議会)で逃亡犯条例改正案正式撤回
24日 ECB定例理事会(独フランクフルト)
24日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題理事会(ルクセンブルク)
24日-11月4日 東京モーターショー開幕(東京ビッグサイト)
24日-11月7日 ILO理事会及び委員会 第337回会合(ジュネーブ)
25日 ロシア中央銀行理事会
25日 韓国独島の日
25日-26日 G20観光相会合(北海道倶知安町)
25日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
26日 エアーズロックが登山禁止(オーストラリア)
27日 アルゼンチン大統領選挙・国会議員選挙
27日 ウルグアイ大統領選挙及び上下院議員選
27日 コロンビア地方選挙
27日 ハイチ議会選
27日 オマーン諮問議会選
27日 ドイツ・チューリンゲン州議会選挙
【来週の予定】
28日 メキシコ9月貿易統計発表
28日-30日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会A及び非公式・専門家委員会 第56回会期(ウィーン)
29日-30日 米国FOMC
29日-30日 ブラジル中央銀行、Copom
29日-31日 WTOサービス貿易理事会(ジュネーブ)
29日-11月15日 国際麻薬統制委員会(INCB) 第126回会合(ウィーン)
30日 米・第3四半期GDP発表(速報値)(商務省)
30日-11月4日 ASEAN関連首脳会議(バンコク)
31日 ユンケル欧州委員長任期満了
31日 外務省・IOM共催・外国人受け入れと社会統合のための国際フォーラム開催(赤坂区民センター区民ホール)
31日 EU・9月失業率発表
31日 EU・GDP(速報値)第3四半期(EU統計局)
31日 米・9月個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
31日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
31日 インド8月鉱工業生産指数発表
31日午後11時(英国時間)、午前0時(11月1日・中央ヨーロッパ時間) 英国がEUを離脱予定
10月中 ナイジェリア・ブハリ大統領が南アフリカを訪問
11月1日 米国10月雇用統計発表
1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表
1日 米・10月雇用統計(労働省)
1日-3日 ニュージーランド ビッグボーイズ・トイ・エキスポ(オークランド)
2日 アンタレス(NG-12/Cygnus)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問