キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年10月15日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週末12日は台風19号が神奈川県を直撃するということで、筆者の誕生日ではあったのだが、実家のある鎌倉に缶詰めになった。久しぶりの大型台風だというのでかなり緊張したが、確かに雨も風も半端ではなかった。
たまたま、NYTのニュースサマリーを見ていたら、何と「Typhoon Hagibis devastates Japan」とあった。「ハギビス」と発音するらしいが、Hagibisとは一体何か。米国では昔、ハリケーンといえば女性の名前と決まっていたが、最近は男女平等ということで、半数は男性の名前である。
それではHagibisも人の名前か思ったら、何とHagibisはフィリピンで(恐らくタガログ語か)「スピード、速度」を意味する単語らしい。うーん、勉強になったというか、日本のように番号を付ける方が良いと思うのだが、ただ単に慣れているだけなのかも。更に、13日は日本ラグビーが四連勝でベスト8進出など、日本国内では実に色々あった。さて本題に入ろう。
先週も書いたことだが、重要なので繰り返す。10月7日、遂に米軍がシリアから本格的に撤退を始めた。ということは、これまで対ISIS戦を一緒に戦ってきたクルド同盟勢力を米国が見捨てるということだ。米軍は去るから良いが、残されたクルド勢力はトルコに虐殺されるに決まっている。案の定、トルコは9日に総攻撃を開始した。
こんなこと、戦争を始める前から分かっていたことだ。しかも、トランプ氏は実にフザケタことを言っている。「トルコは民間人、キリスト教徒を含む宗教的少数者を保護し、人道的危機を起こさないと約束した。我々はその約束を守らせる。」
Turkey has committed to protecting civilians, protecting religious minorities, including Christians, and ensuring no humanitarian crisis takes place and we will hold them to this commitment.
おいおい、冗談じゃないぜ。そもそもトルコはクルド人を殺さない約束などしていない。一体何を信じたのか。トランプ氏は終わりなき戦争を止めるため、トルコの新たな戦争を黙認、米国に最も忠実なシリア系クルド人同盟勢力を事実上「見捨てた」のだ。クルド人に起きたことは他の場所の他の米国の同盟国にも起きるのでは?
今週の日英コラムのテーマはこれである。
〇アジア
この原稿を書いていたら、韓国のタマネギ法相が突然辞任を表明した。意外に「脆かったなぁ」というのが率直な印象だ。それにしても韓国の「進歩派」を名乗る人々がやっていることは「保守派」と何ら変わらない。これでは韓国一般庶民が浮かばれないではないか。ただ、これで文在寅政権の「終わりの始まり」と即断するのは時期尚早ではなかろうか。古今東西、ポピュリスト政権を甘く見てはいけないと思う。
〇欧州・ロシア
珍しく、今回はポーランドを取り上げる。13日開票の下院選挙の出口調査では、愛国主義・強権政治の保守与党「法と正義」が全得票数の43.6%を獲得する見通し、中道系「市民プラットフォーム」などからなる野党「市民連立」は27.4%に止まるという。
欧州では数年前まで民族主義・大衆迎合主義政党の台頭が強く懸念されていたが、最近ではその種の政党が意外に伸び悩んでいるとも指摘されていた。その意味で、ポーランドはあくまで例外なのか、逆に今回の結果が欧州ナショナリズム、ポピュリズムの潮流を再び拡大するのか気になるところだ。前者であることを祈るしかない。
〇中東
「目には目を」は確かハンムラビ法典の一節だったか。10月11日に紅海で起きたイランタンカーの爆発炎上事件について、イランは「ミサイル2発による攻撃だった」としつつも、サウジアラビアを直接非難はしていない。一方、イランメディアがサウジがやったとの噂を流していることも事実のようだ。これって、6月の日本などのタンカーに対する機雷攻撃の際の状況とほとんど同じではないか。
どうやら、これはサウジとイランの「意地の張り合い」の一環なのだろう。サウジは自分からは仕掛けないが、やられたら必ずやり返す。黙っていればイランが図に乗るだけだから、報復は絶対必要なのだ。「目には目を」がルールだが、「心臓には心臓を」とならないことを祈るしかない。
〇南北アメリカ
トランプ氏の私設顧問弁護士であるジュリアーニ元ニューヨーク市長が炎上している。FBIが同氏を捜査しているとの話もあり、CNNなどは相変わらずトランプ氏に厳しい報道を垂れ流している。米国民のトランプ政権に対する見方は、本当のところ、一体どうなのか。地域、年齢、人種、性別で評価が全く異なるため、判断が実に難しい。
これから米下院による「大統領弾劾のための調査」が本格化し、米内政はますます泥仕合の様相を呈しつつある。最近は米国内政治のエゲツナさが一層鼻につくようにもなった。共和党は酷いが、民主党だって褒められたものではない。まだまだ、大統領選でトランプ氏が再選される可能性はありそうだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月3日-11月8日 国連総会 第一委員会 第74回会合(ニューヨーク)
3日-11月15日 国連総会 第四委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月20日 国連総会 第六委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-11月27日 国連総会 第二委員会 第74回会合(ニューヨーク)
7日-12月5日 第14期2019年第3回マレーシア国会会期
8日-16日 対日理解促進交流プログラム2019・映画・芸術に関心のあるミャンマー青少年が訪日
9日-23日 UNESCO 執行理事会 第207回会合(パリ)
14日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
14日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
14日 コロンブス・デー(為替、債券市場が休場。株式、商品市場が通常取引。)
14日 ノーベル経済学賞発表(ストックホルム)
14日 ロシア・プーチン大統領がサウジアラビアを訪問
14日 中国9月貿易統計発表
14日-15日 欧州農水相委員会(ルクセンブルク)
14日-15日 APEC財務相会合(チリ・サンティアゴ)
14日-18日 UPU 郵便業務理事会(ベルン)
14日-20日 IMF、世界銀行年次総会と関連会合(ワシントン)
14日-20日 中国四川省青年団(日中植林・植樹国際連帯事業)が訪日
14日-11月8日 国連人権委員会 第127回会合(ジュネーブ)
15日 欧州一般問題理事会(ルクセンブルク)
15日 IMFが世界経済見通し(WEO)(ワシントン)
15日 中国9月CPI発表、 PPI発表
15日 ロシア・プチン大統領がアラブ首長国連邦(UAE)訪問
15日 モザンビーク・国民議会選及び大統領選挙
15日 エレクトロン('As The Crow Files')打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
15日-16日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
15日-23日 対日理解促進交流2019・ラオスから防災・環境に関心を有する大学生らが訪日
15日-25日 ICAO Committee Phase 第218回会合(モントリオール)
16日 EU9月CPI発表
16日 米国9月小売売上高統計発表
16日 ロシア1-9月鉱工業生産指数発表
16日 ベージュブック(FRB)
17日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
17日 ジブラルタル議会選
17日 長征3B(TJSW-4)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
17日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星2 60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
17日-18日 欧州理事会(ブリュッセル)
17日-18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)
17日-18日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会(ジュネーブ)
17日-21日 インド・コヴィンド大統領がフィリピンを訪問
18日 IMF・世銀の年次総会本会議(ワシントン)
18日 外務省・FAO共催の世界食料デー記念シンポジウムの開催(東京)
18日 中国・7-9月期GDP(国家統計局)
19日 英離脱延期法が定めるEUとの離脱案合意期限
19日 国際通貨金融委員会(IMFC)(ワシントン)
19日 ココス諸島 自治体(Council)選
19日 プロ野球日本シリーズ開始
19日-20日 G20保健相会合(岡山県)
20日 ボリビア大統領選挙
20日 スイス議会総選挙
20日 スイス住民投票
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問