キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年10月1日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週は先々週の強行軍外国出張の疲れがどっと出てしまったが、残念ながら国際情勢は休んでくれない。日本のマスコミは国連での米韓首脳会談と日米首脳会談に関心があったようだが、米国メディアの関心は専ら、ワシントンポスト紙が報じた7月25日のトランプ氏とウクライナ大統領との電話会談の内容だったようだ。
同報道によれば、米国の現職大統領が、最大の政敵バイデン親子の汚職を捜査するよう、ウクライナ大統領に電話で要請したという。事件の発端は内部告発、電話会談の内容を知った告発者が現職大統領の「権限濫用」を申し立てた。これを受けて民主党が多数を占める米下院でも「大統領弾劾のための調査」が正式に始まった。
それにしてもトランプ氏は検察組織を一体何だと思っているのだろう。司法当局は大統領の犬ではない。敢えて言えば、彼らは「法律に忠実な犬」である。今週の日・英のコラムは米国と韓国の「司法権の独立」を比較し、そのあり方と実態について書いた。結構面白い視点で書けたので、お時間があればご一読願いたい。
先週はキヤノングローバル戦略研究所での筆者の講演会の中で行った政策提言を今週ご紹介するとお約束した。時間の関係であまり多くは提言できなかったのだが、以下に講演当日、中国、韓国、北朝鮮、欧州、ロシア、イラン、米国に関して行った状況認識と政策提言を簡単にご紹介することにしよう。
〇アジア
中国:大国化は不可避だが、その目的は世界制覇というより、アヘン戦争の歴史的屈辱の克服にある。具体的には旧中華勢力圏から西洋勢力(今は在日、在韓米軍)を駆逐することだろう。西太平洋での米中軍事バランスは変化するだろうが、中国の科学技術と一帯一路がいつまで持続可能かは未知数だ。
政策的には、日中関係は米中の従属変数であり、独立変数にはなり得ない。だが、米中対立は20年は続くだろうから、米中関係が良くならない間は、日本にとって対中改善の好機だ。これと同時に、中国に更なる現状変更を認めぬための我が国の抑止力の整備が重要となる。
朝鮮半島:冷戦構造の変化、北の核武装、中国台頭、米国迷走により韓国は伝統的な「均衡外交」に回帰しつつある。一方、中ソを失った1990年代より北朝鮮は国体維持・生き残りのため核兵器開発に邁進し、北京・東京を狙う中距離核弾道ミサイルの実戦配備が時間の問題となりつつある。
政策的には、北中露との関係改善と米韓同盟維持は両立可能だと信じる韓国を含む「米韓日連携」の維持は困難である。韓国がその新たな「均衡」政策により中朝側に過度に傾斜しないよう日韓関係を最低限維持する必要あり。北朝鮮の核に対しては、北東アジアでの核抑止強化と非核三原則の部分的見直しを議論すべし。
〇欧州・ロシア
冷戦終了後、旧東欧諸国のEU、NATO加盟により欧州ロシア関係が悪化し、政治統合を目指すEUの限界が露呈した。英のEU離脱、各国の民族主義、移民問題などで欧州は「内向き」になりつつある。対露関係で日本は北方領土の「時効停止」を図るべく対話を継続する一方、欧州諸国には東アジア問題への更なる関与を働き掛ける。
〇中東
イラン:79年のイラン革命、91年の湾岸戦争、03年のイラク戦争と11年のシリア内戦を経て中東湾岸地域には「力の空白」が生まれ、イランは影響力拡大に成功。湾岸での国際的対立の本質は宗教ではなく、伝統的な民族間の競争だ。対イラン友好も大事だが、湾岸安定は最優先、シーレーン維持のため更なる防衛努力が必要だ。
〇南北アメリカ
米指導力に翳りが見えつつあり、新孤立主義のトランプ政権はダークサイド現象を助長している。但し、米国の国力は低下していない。低下したのは米国の国力を活用する米政治家の能力だ。トランプ政治はオバマ大統領誕生という歴史的事件の反作用であり、米共和党の伝統的な保守理念(国際主義・自由主義)は変質しつつある。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
30日 EU8月失業率発表
30-10月3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
30-10月4日 日・トルコ経済連携協定交渉第 17回会合の開催(東京)
30-10月5日APEC女性担当相会合および女性と経済フォーラム(チリ・ラセレナ)
1日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表
1日 中山外務大臣政務官がパラオを訪問
1日 ニカラグア・韓国FTA発効
1日 国民議会議員就任(2019年-2024年期)
1日 中国建国70周年記念式典、閲兵式、軍事パレードおよび10万人の市民が参加するパレード
1-3日ASEAN 第75回投資調整委員会(CCI)(インドネシア)
1-7日 中国国慶節
1-11月21日 国連総会 第三委員会 第74回会合(ニューヨーク)
2日 ロシア第2四半期需要項目別GDP統計(速報値)発表
2日 ドイツ主要経済研究所秋季経済予測発表
2-5日 International forum Russian Energy week2019 (モスクワ)
3-4日 世界経済フォーラム・India Economic Summit (ニューデリー)
3-4日 バングラデシュ・ハシナ首相がインドを訪問
3-6日 VIETNAMPLAS 2019 - 19th Vietnam International Plastics & Rubber Industry Exhibition(ホーチミン)
3-11月8日 国連総会 第一委員会 第74回会合(ニューヨーク)
3-11月15日 国連総会 第四委員会 第74回会合(ニューヨーク)
4日 EU環境理事会会合(ルクセンブルク)
4日 米国8月貿易統計、9月雇用統計発表
4日か7日 ロシア9月CPI発表
5日 UAE第4回連邦諮問評議会(FNC)選挙
6日 ポルトガル議会総選挙
6日 チュニジア国民議会選挙
6日 中朝国交樹立70周年
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問