キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年9月17日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週は珍しく日米欧の識者が一堂に集う国際会議に参加してみた。東京三極フォーラムと名付けられたこの会合、米シンクタンク・ジャーマンマーシャルファンドと東京財団政策研究所との共催だった。場所は在京EU代表部、麻布の高台にある素晴らしい建物だ。この模様は産経新聞とJapanTimesに書いたので御一読願いたい。
とにかく、この種の集まりに顔を出すのは数年ぶりだが、恥ずかしながら、その間に日米欧関係は大きく様変わりしたようだ。それでも、特に中国について、日米と欧州の間の温度差は決して小さくなかった。しかしながら、というか、だからこそ、日米欧三極連携は極めて重要なのだと改めて痛感させられた。
今週の筆者の最大関心事は、実は、この三極ファーラムではない。中東で長年恐れていたことが、遂に現実のものになってしまったからだ。サウジの石油施設が10機の無人機に攻撃され、炎上しただけでなく、一時的ながらも、サウジアラビア石油生産量の半分以上に当たる約570万B/Dが止まったのである。
これでも筆者は中東屋のはしくれ、とても無関心ではいられない。だが、日本を含む西側諸国とサウジアラビアには1-2か月分の原油備蓄があるはず。幸い石油の需給もこのところ逼迫しておらず、ある程度油価が上がれば、米国シェールオイルの生産量も増えるだろう。
実のところ、石油専門家の間でも意見は割れている。筆者の見立てでは、湾岸地域でこれ以上戦闘が拡大しない限り、今回の事件が世界経済を揺るがす可能性は低いのではないか。逆に言えば、油価は常に「平時にはマーケットで、有事には政治的に決まる」のであり、やはり、今後の米国の軍事的出方がカギになるだろう。
それではこの無人機攻撃、一体誰の仕業か。今度はイエメンのホーシー派が犯行声明を出したそうだが、これを額面通り信じる輩はいない。イエメンの実情を知れば、いくらイランが支援しているとはいえ、イエメンから何百キロも離れたサウジ内陸の石油施設二か所を無人機で正確に攻撃できるほどの実力があるとは到底思えない。
この原稿執筆時、トランプ氏は「locked and loaded」とツイートしたらしいが、米国高官から威勢の良い発言は聞かれない。昨日はポンペイオ国務長官がイランの仕業だと名指ししていたのだが・・・。誰もが「恐らく、そうだろうな」とは思うのだが、動かぬ証拠が出せるのか、出たとしても米国が本当に報復するかは疑問、少なくとも未知数だ。
トランプ氏は恐らく躊躇するのではないか。彼は対イラン攻撃よりも、NYでイラン大統領と「歴史的」な会談をしたいのだろう。ボルトンがいなくなったので、イランは米国からの反撃はないと見たのだろうか。もしそこまで読み切っていたとしたら、流石はイラン、実に手強い。とてもトランプ政権が戦える相手ではない。
〇アジア
香港デモがまだ続いている。日本の一部メディアでは「香港デモの若者を市民は見放しつつある」といった記事も見られるが、現実とはちょっと乖離がある。デモの参加者は多種多様であり、「市民」が「若者」を「見放す」などといった単純な話ではないからだ。他方、この種の記事を「全くの誤り」だと切り捨てることもできない。
行政長官は「逃亡犯条例」改正案を「完全撤回」した。これはデモ参加者の5つの要求の一つに過ぎないだろうが、逆に言えば、要求の一つが完全に「受け入れられた」ことも否定できない。筆者の信頼する現地関係者は、一つの「終わりの始まり」が始まっていると見ている。なるほど、ここら辺が「当たらずとも遠からず」かもしれない。
〇欧州・ロシア
英首相のEU離脱をめぐる迷走が続いている。しかし、欧州全体を見ると、BrexitはEUが抱える数多くの問題の一つに過ぎないことも見えてくる。EUの将来は英国離脱の有無ではなく、仏独枢軸の有無が決定的に重要だ。ドイツの経済状態と国内政治をしっかり見ておく必要がある。
〇中東
手前味噌だが、三週間前、筆者はこう書いていた。
「もしマクロン大統領が現行の核合意に代わって新たな核合意の締結を目指すなら、ボルトン補佐官はともかく、トランプ氏がこれに乗る可能性はあるだろう。問題は米イラン双方の「強硬派」の出方だ。最悪の場合、こうした動きを潰すため、イスラム革命防衛隊が新たな軍事的挑発を試みる可能性すらある。」
先週の無人機によるサウジ石油施設攻撃は「米イラン対話」を潰すための革命防衛隊による「新たな軍事的挑発」ではなかったのか。証拠は全くないので、筆者の単なる仮説に過ぎないが、今も筆者の考え方は変わらない。この米イラン対話に最も反対するのはイスラエルの首相なのだが、今同国は選挙中。極めて要注意である。
〇南北アメリカ
先週、CNNが民主党大統領候補者10人のテレビ討論会を主催した。「まだ10人もいるのか」と見るか、「ようやく10人になった」と見るかは、意見が分かれるだろう。バイデン前副大統領は全体的に優勢、逆にバイデンの年齢などを問題視した若い候補者は墓穴を掘ったようだ。ざっとしか見ていないが、どの候補も魅力的ではない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
9-27日 子どもの権利委員会 第82回会合(ジュネーブ)
9-27日 国連人権理事会 第42回会合(ジュネーブ)
10-22日 フランクフルト国際自動車ショー(一般向け12日から)
13-21日 対日理解促進交流プログラム2019・ASEAN10カ国「青少年スポーツ交流(ラグビー)」を実施(日本)
16日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
16日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
16日 ロシア、トルコ、イランがシリア情勢で首脳会議(アンカラ)
16日 中国8月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日か17日 ロシア1-8月鉱工業生産指数発表
16-19日 欧州議会本会議(ストラスブール)
16-20日 第63回国際原子力機関(IAEA)総会の開催(ウィーン)
16-22日 ボズイット人種差別撤廃委員会委員の訪日
17日 イスラエル大統領総選挙(再選挙)
17-18日 米国FOMC
17-25日 対日理解促進交流プログラム・カンボジアのカヌー・ナショナルチーム・ジュニア代表一行が訪日
17-12月中 国連総会 第74回会合(ニューヨーク)
18日 EU8月CPI発表
18-21日 ニュージーランド・アーデーン首相の訪日
18-21日 VietnamWood - 13th International Woodworking Industry Fair(ホーチミン)
19日 米・第2四半期の経常収支
19日 ファーウェイの略式判決請求の審理(米テキサス州連邦地裁)
20日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ブリュッセル)
20日 インドのラジナート・シン国防大臣がフランスを訪問
20日 第1回日仏包括的海洋対話の開催(ニューカレドニア・ヌメア)
20日か23日 ロシア1-7月貿易統計発表
21-25日 英国労働党大会(ブライトン)
22日 ポーランド・ドゥダ大統領がイギリスを訪問
22日 米エミー賞発表
22日 自動車F1シンガポールGP決勝
22-24日 EU農水相理事会 非公式会合(ヘルシンキ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問