キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年9月10日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週末は珍しく原稿書きが順調で比較的ゆっくりできた。いつもなら日曜日の夜は大抵半徹夜となる。特に、日本語と英語のコラムの締め切りが重なる週は地獄だ。幸い、今週は英語のみなので時間的余裕があった。今週はジョンソン英首相が安倍首相との初の首脳会談で捕鯨問題に「失望」を表明したとの英国の報道を取り上げた。
これで日曜夜は久し振りに爆睡できるかと思ったら、何と未明に台風15号が千葉県上陸、おかげで月曜朝の会議には出席できなかった。被災地域の方々には心からお見舞いを申し上げたい。それにしても、最近の気象庁の発表内容は決して官僚的でなく、好感を持った。言葉一つで、人をその気にさせる説明の典型例である。
今週は日本で内閣改造があり、内政的には一部関係者の関心が高まっている。だが、筆者の関心は内政は内政でも、やはり韓国内政の行方だ。先週のワイドショー系番組はテーマが日韓関係ばかりだったが、これには理由がある。とにかく数字が取れるらしいのだ。テレビ局もビジネスだから、当然といえば当然なのだが・・・。
そうこうしている内に、韓国大統領が例のタマネギ男を法務長官に任命したとの速報が入ってきた。一連の疑惑について韓国検察は妻を在宅起訴し、捜査を拡大しているようだ。多くのメディアは「任命強行は世論の反発を強め、文政権への逆風が強まる可能性がある」と報じているが、それは今後も続く韓国与野党の攻防に過ぎない。
筆者の関心は、韓国の司法が、真の意味で政治的圧力から独立し、法だけに基づいて司法権を行使できるか、である。文在寅政権から見れば、韓国の検察は保守の巣窟であり、最高裁判所(大審院)の改革(左傾化)に続き、検察にもメス(政治介入)を入れるつもりなのだろう。もし検察が保守の巣窟なら、それはそれで大問題だ。
しかし、考えてみれば、この世界に真の意味で「政治から完全に独立した司法」など存在しない。どの国にだって完璧な司法などあり得ない。日本でも昔は「指揮権発動」事件があったのだから。問題は独立の程度であり、一般人の常識的な法律感覚から、政治の介入しない公平で中立な司法過程ぐらいは最低限確保してもらいたい。
その点、韓国はどうなのか。前例の踏襲を重んじる法曹界は一般的に保守的傾向が強いが、だからといって、それが政治的に反「進歩系」、反「リベラル」であるとは限らない。問題は韓国法曹関係者に、法の専門家として、最低限どの程度の「矜持」を求めるのか、である。韓国には日本の「大津事件」のような教訓はあるのだろうか。
〇アジア
香港デモが続いている。行政長官は「逃亡犯条例」改正案を「完全撤回」したが、この人は政治家として実に「勘が悪い」。何週間も前にこれを言っていれば、デモの勢いは収まっただろうが、今となっては「Too little. Too late」。北京のお偉方も、民主制下でのデモの収拾方法が全く分かっていない。現状は起こるべくして起きている。
〇欧州・ロシア
英首相のEU離脱が一層迷走している。議会では離脱延期法案が可決され、「合意なき離脱」に突っ走る同首相はこれ対抗して議会解散案を提出したが否決される。解散案再提出を狙う首相だが、実弟の閣僚は辞任するなど、やることなすこと成功しない。このままでは本当に「野垂れ死ぬ」かもしれない。英語では何と言うのだろう。
〇中東
相変わらず、トランプ政権の外交はお粗末だ。今度は7日に予定されていたアフガニスタンの武装勢力ターリバーンとの秘密会談を急遽取止めたという。トランプ氏がツイートしたものだが、場所はキャンプデービッド山荘の予定だったが、取止めた理由は前々日のカブールでの自動車爆弾事件で米兵一名が死亡したことだそうだ。
亡くなった米兵には申し訳ないが、アフガニスタンでは自動車爆弾事件など日常茶飯事であり、米兵は他にも多く亡くなっている。なぜ今回だけ取止めるのか。トランプ氏お得意の「思い付き」衝動的決定だとすれば、トランプ外交の迷走は続く。公然の秘密だが、トランプ政権内にも米軍アフガニスタン撤退には賛否両論があるからだ。
ターリバーン広報官は「1件の爆破を受けて協議から離脱した米政府には成熟と経験が足りない」と批判したそうだ。ターリバーン如きにこう言われるとは、アメリカも地に落ちたというべきだが、米国政府内だけでなく、ターリバーン内部にも米ターリバーン交渉を拒否する勢力がいるのだ。別に驚くべきことではないが・・・。
〇南北アメリカ
先週末、米国共和党内で2020年大統領候補の指名争いに参戦する3人目の政治家が名乗りを上げたという。よく言えば、勇気のある共和党員、悪く言えば、典型的な売名行為である。しかし、共和党員の間ではトランプ氏の支持率は9割であり、恐らく勝ち目はない。それでもこうした声が上がるだけ米民主主義は健全ということか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
9日 メキシコ8月CPI発表
9日 日本・アラブ経済フォーラム(エジプト・カイロ)
9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
9日 ツバル議会選挙
9日 北朝鮮の建国記念日71周年
9日 国連総会・核兵器の完全廃絶に向けた国際の日に関するハイレベル総会会合(ニューヨーク)
9日 持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議(第8回会合)の開催(外務省)
9日 森外務審議官とロシア・モルグロフ外務次官との協議の開催(東京)
9日か10日 ロシア第2四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表
9-10日 UNウィメン執行理事会 第二定例会合(ニューヨーク)
9-13日 IAEA理事会(ウィーン)
9-13日 対日理解促進交流プログラム2019・中国青年代表団が訪日
9-27日 子どもの権利委員会 第82回会合(ジュネーブ)
9-27日 国連人権理事会 第42回会合(ジュネーブ)
10日 中国8月CPI発表、PPI発表
10日 米アップルが報道イベント(カリフォニア)
10-14日 コソボ・サチ大統領が訪日
10-22日 フランクフルト国際自動車ショー(一般向け12日から)
11日 ブラジル7月月間小売り調査発表
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 H-IIBロケット8号機打ち上げ(種子島宇宙センター)
11-12日 IFAD執行理事会 第127回会合(ローマ)
11-12日 「一帯一路サミット(Belt and Road Summit)」(香港)
11-13日 UNICEF執行理事会 第二定例会合(ニューヨーク)
11-14日 Vietnam International Exhibition on Products, Equipment, Supplies for Medical, Pharmaceutical, Hospital & Rehabilitation(ホーチミン)
12日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
12日 インド7月鉱工業生産指数発表
12日 米国8月消費者物価指数(CPI)発表
12日 米大統領選に向けた第3回民主党候補者討論会(テキサス州ヒューストン)
12-15日 東京ゲームショー2019(一般公開は14日から)(千葉幕張メッセ)
13日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ヘルシンキ)
13日 米国8月小売売上高統計発表
13日 中国中秋節
13-14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会 非公式会合(ヘルシンキ)
13-15日 17th Franchise & License Expo Indonesia(ジャカルタ)
14日 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)臨時首脳会議(ブルキナファソ・ワガドゥグゥ)
15日 チュニジア大統領選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問