外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2019年6月11日(火)

外交・安保カレンダー(6月10-16日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


 今週のハイライトは何と言っても安倍総理のイラン訪問だろう。タイミング的には筆者のワシントン出張と重なる。日本の総理としては41年ぶりとなるこの歴史的イラン訪問が米国からどう見えるか、ちょっと楽しみではある。しかし、総理が何故今イランに行くのかと聞かれれば、正直なところ、筆者も本当のところは分からない。

 筆者には報道ベース以上の情報はない。そもそも内情を知っていれば、ここでは書けないし、書かないのがこの業界のルールだ。それはともかく、もし報道された通り、米国大統領が日本の首相に「仲介を依頼した」のが事実とすれば、日本外交も随分レベルが上がったものだと思う。一昔前なら、こんなこと起こり得なかっただろう。

 この関連で6月7日付Wall Street Journalの興味深い記事をご紹介したい。「米・イラン『緊迫の2週間』、急変の背後に何が?」なる煽情的な題ではあるが、中身は意外に真面目だ。話は、米軍が5月に2週間、イラン軍が甲板上でロケット発射装置にミサイルを装填しようとしたとされるイラン商船2隻を尾行したことから始まる。

 簡単に言えば、5月からイランが再び米国をテストしようと試みたが、米側が予想以上に強く反応したので、テヘランは今回出した「ちょっかい」を「止め」にした。筆者にはそうとしか思えない。こうしたテストはイランの常套手段だからである。そう考えれば、米国とイランの間で大規模な戦闘は起きないはずだ。

 同記事によれば、米当局者が「イランは米政権の強硬姿勢を受けて対米戦略を変更」し、「自らの影響力が及ぶ中東地域の代理勢力に対し米国に一段と敵対的なアプローチで臨むよう指示した」と判断したのは4月下旬だという。米軍が冒頭のロケット発射装置を積んだイラン商船2隻に注目し始めたのはその直後なのだ。

 米当局者によれば、そのイラン船舶2隻は最終的に元の港に戻り、件のミサイルを降ろしたという。また、同期時には今回、国防総省ではなく、ホワイトハウスの安全保障担当補佐官が空母や爆撃機の湾岸地域派遣を発表した理由についても実しやかに報じている。詳しく引用するとルール違反なので、ここは原文を読んでほしい。

 いずれにせよ、筆者が今の時点で何となく感じていることは次の通りだ。

●米国はイランを挑発しているが、賢いイランはそうした挑発には乗らない
 イランという国は北朝鮮より遥かに賢く、「力」の意味をよく知っている。米国の挑発にイランが手を出したら、ワシントンに攻撃の口実を与える。イランは賢いから、そんな馬鹿なことはしないだろう。

●トランプ氏はイランの最高指導者と会いたがっている
 昨年3月、トランプ氏が金正恩に会うと言い出した時のショックを思い出してほしい。我々と同様のショックを受けたのがボルトンNSC補佐官だと思えばよい。トランプ氏は「これまで誰もやらなかったことをやりたい」だけなのかもしれないのだが・・・。

●ハーメネイ最高指導者は慎重な政治家
 ハーメネイは賢いから、ややこしい話には絶対に乗らない。自らが政治的に傷ついてしまうからだ。仮にイラン側がトランプに会うとなっても、まずはロウハニ大統領を派遣するだろう。宗教的権威の弱いハーメネイが生き延びて来た秘訣はこれである。

●米、イラン、サウジ、イスラエルは危険な「硬式野球」をやっている
 総理のイラン訪問はタイミングとしても絶妙であり、良い試みだ。但し、日本はソフトパワーだから、やれることには限界がある。野球に例えれば、日本はソフトボールだから、上手くやらないと火傷する。それだけ心掛ければ、案外うまく行くのではないか。

●イランは世界一の反米政府と世界一の親米国民が同居する国
 その気になれば米国とイランの間には多くのチャンネルがあるはず。それが機能し始めたら、米国とイランが独自に動き始めることを忘れてはならない。今大事なことは「仲介」に目を奪われて、中東地域のイランの諸悪行を見て見ぬふりをしてはならないということだ。



〇アジア
 今週のアジアは香港に注目だ。先週末、香港の民主派団体が中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する100万人規模のデモを行った。今も香港にこうしたエネルギーが残っていると見るべきか、この法律で香港の「民主主義」が一層弱体化することになるのか。後者でないことを祈るしかない。

〇欧州・ロシア
 英国の与党保守党党首選の立候補届け出が10日締め切られる。ボリスジョンソン前外相、マイケル・ゴーブ環境相らの名前が挙がっているが、どうも新味がない。英国の保守とは何かが問われる選挙になるだろうが、これって一種の政治危機であり、いつか日本でも起きかねない種類のものだ。英国保守主義の動向が気になる。

〇中東
 先週末、中央アジアのカザフスタンで大統領選があり、現職のトカエフ大統領が7割の得票で圧勝したという。当然ながら、野党勢力の大規模デモでは約500人拘束されたというから、まともな選挙ではなかった可能性がある。それでも、カザフスタンが不安定化するよりはましかなぁ?難しい判断ではあるが・・・。

〇南北アメリカ
 先週、メキシコと米国が合意に達し、メキシコが移民対策を強化する見返りに、トランプ政権は対メキシコ関税賦課を見送ることになったという。それにしても、こんなことがまかり通って良いのか。これが通るなら、米国は全ての国に対し、勝手に追加関税を発動し、全ての問題を解決できることになる。実に恐ろしい時代になったものだ。

〇インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。



5月13-6月28日 ジュネーブ軍縮会議(CD)second part (ジュネーブ)
20-6月17日 第14期第7回ベトナム国会(ハノイ)
21-6月21日 国際民間航空機関(ICAO)council phase 第217回会合(モントリオール)
6月3-14日 国際原子力機関(IAEA)環境研究所の海洋モニタリング専門家が訪日
3-14日 世界気象機關(WMO)世界気象会議 第18回会合(ジュネーブ)
7-10日 フランス・メール経済・財務相が訪日
9-11日 韓国・文大統領がフィンランド・ノルウェー・スウェーデンを訪問
9-11日 阿部外務副大臣がラオス訪問
10日 中国5月貿易統計発表
10日 日仏ハイレベル経済財政対話(財務省)
10日- 色丹島及び択捉島からの患者の受け入れ
10-11日 日米貿易交渉の実務者会合(ワシントン)
10-11日 第7回アフリカ開発会議(TICAD7)高級実務者会合(SOM)の開催(エチオピア・アフリカ連合本部)
10-14日 IAEA理事会(ウィーン)
10-14日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 年次会合(ローマ)
10-21日 ILO総会(ジュネーブ)
11日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
11日 ファルコン9(CバンドSAR搭載地球観測衛星Radarsat C-1, 2, 3)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
11-12日 ガーナ・アクフォ=アド大統領がガイアナを訪問
11-13日 第28回ASEAN 税関局長会議(28th ASEAN Customs Directors-General Meeting)(ラオス)
11-13日 ユニセフ執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
11-13日 米ゲーム見本市「E3」開幕(ロサンゼルス)
11-14日 アフリカ開発銀行(AfDB)総会(赤道ギニア・マラボ)
11-14日 河野外務大臣がスウェーデン及びイランを訪問
11-19日 JENESYS2019・中国高校生訪日団が訪日
12日 米国5月消費者物価指数(CPI)発表
12日 中国5月CPI発表、PPI発表
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル4月月間小売り調査発表
12日 仏ルノー年次株主総会
12日 シンガポール・米朝首脳会談から1年
12-14日 安倍首相がイランを訪問
12-15日 酪農業フェア(Fieldays)(ハミルトン)
12-16日 ラオスICT展示会(Lao ICT EXPO)(ビエンチャン)
13日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルク)
13-14日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ルクセンブルク)
14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
14日 米国5月小売売上高統計発表
14日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14-15日 上海協力機構首脳会議(キルギス)
15-16日 G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合(長野県軽井沢町)
16日 グアテマラ大統領および共和国議会議員選
16-18日 国際世界観光機関(UNWTO)執行理事会 第110回会合(バクー)



【来週の予定】
17日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
17日 米通商代表部(USTR)、対中制裁第4弾で産業界から意見を聞く公聴会
17日 日本サウジアラビア・ビジネスフォーラム(東京)
17-18日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会 第52回会合(ウィーン)
17-19日 世界気象機関(WMO)執行理事会 第71回(ジュネーブ)
17-23日 パリ国際航空ショー開幕(パリ郊外ルブルジェ)
17-29日 チャイコフスキー国際コンクール(モスクワ)
18日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
18日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
18日 EU5月CPI発表
18日か19日 ロシア第1四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表
18日か19日 ロシア1-5月鉱工業生産指数発表
18-19日 米国FOMC
18-19日 ブラジル中央銀行、Copom
18-20日 UN-Women 執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
18-21日 第3回ASEANビジネス諮問委員会〔3rd ASEAN Business Advisory Council(ASEAN-BAC)Meeting〕(バンコク)
18-21日 第12回米国・アフリカビジネス総会(モザンビーク・マプト)
19日 グアテマラ大統領選挙・総選挙
20日 米・1-3月期の経常収支(商務省)
20日 南ア大統領施政方針演説(SONA)
20-21日 欧州理事会(ブリュッセル)
20-23日 第34回ASEANサミット(34th ASEAN Summit)(バンコク)
21日 アリアン5(Eutelsat 7CとDirecTV 16)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
21日 プロトンM・DM-03(ガンマ線天文衛星Spectr-RG)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
21日か24日 ロシア1-4月貿易統計発表
22日 ILO理事会及びその委員会 第336回会合(ジュネーブ)
22日 モーリタニア大統領選挙
22-29日 国連食糧農業機関(FAO)総会 第41回会合 (ローマ)
23日 トルコ・イスタンブール市長選再選挙
23日 ファルコンヘビー(STP-2, COSMIC-2など)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
23-25日 建築業界フェア(Buildnz)(オークランド)
23-25日 防災展(national safety show)(オークランド)




宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問