外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2019年5月28日(火)

外交・安保カレンダー(5月27日-6月2日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


 私事ながら、先週より娘夫婦が孫娘を連れてサンフランシスコから一時帰国している。一昨日は久し振りに一家団欒で大相撲夏場所千秋楽のテレビ中継を見て、実に複雑な気持ちになった。米大統領杯を優勝力士に授与するトランプ氏を国技館の相撲ファンはスタンディングオベーションで迎えていたからだ。

 「アメリカではトランプの評判が凄く悪いのに、なぜ日本人は彼を手放しで歓迎するのかしら」と娘が訝った。「日本人は礼儀正しいんだ、これが中東や欧州だったら靴や卵が飛んできてもおかしくないけどね。」こう言いかけて、筆者は相撲通の米国の友人が「日本人はトランプに座布団を投げるのではないか」と言ったのを思い出した。

 トランプ訪日については今週のJapan Timesと産経新聞にコラムを書いたので詳細は御一読いただきたいが、確かに娘の言う通り、ワシントンでのトランプ氏の評判は下がる一方。先週はペローシ下院議長が「大統領の行為は隠蔽だ」とまで言うようになったが、隠蔽(cover up)とはウォーターゲート事件の悪名高いキーワードだ。

 このようにワシントンでトランプ氏を取り巻く政治環境は悪化の一途だが、ご本人はどこ吹く風。あの図太い神経は十分見習う価値がある。更に月曜日CNNは両陛下によるトランプ夫妻歓迎式典を生中継していたし、前日の大相撲観戦の模様も大きく報じていた。良きにつけ悪きにつけ、トランプ氏のメディア能力は大したものだと思う。

 最後に、恐れ多いことではあるが、新天皇皇后両陛下の皇室外交デビューも特記すべきである。如何に素晴らしい内容を喋っても、それが通訳を通したメッセージであれば、なかなか相手の心には響かない。ところが今回は両陛下ともほぼ英語で通された。トランプ夫妻が神妙に頷くことが何度もあった。素晴らしいとしか言いようがない。

 一方、今週筆者が個人的に注目しているのは欧州議会選挙だ。23-26日に実施された選挙では民族主義や大衆迎合主義など欧州連合(EU)に懐疑的な勢力の伸長が確実になったと報じられた。最近では、こうした「ユーロスケプティズム」も一時の勢いを失いつつあるとの見方すらあっただけに、筆者のショックは内心小さくない。

 特に仏、伊、英では懐疑派が国内第1党になったそうだ。中道路線の親EU派が全体で過半数を確保することは救いだが、予断を許さない状況に変わりはなかろう。昨日英国首相官邸前で辞任を表明したメイ首相は最後涙声になっていた。彼女のショックは欧州良識派のショックでもある。本当に難しい時代になったものだと痛感する。

〇アジア
 今週も中国のファーウェイ(華為技術)関連ニュースを取り上げよう。ロイターなどによると、アナリストの間では同社の今年の出荷量が最大24%も減少し、将来的には同社のスマホが世界市場から姿を消す可能性もあるとの見方が出ているそうだ。その関連で最近筆者が特に注目するのがFIRRMAと呼ばれる米国の新規立法である。

 FIRRMAとは「2018年外国投資リスク審査現代化法」のことで、昨年秋にトランプ大統領の署名を経て成立したものだ。内容的には外国企業の対米投資を審査する外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法律である。米国は最近この種の米国企業に対する投資を規制する法令に基づく権限を大幅に強化しているようだ。

 米政権が最近、華為技術が米政府の許可なく米国の重要技術を購入することを禁止するとともに、国家安全保障を理由に米国の通信ネットワークから同社の製品を事実上排除する措置を発表したのも、このFIRRMAが根拠法のはずだ。米政府が同規制を解除しなければ同社のスマホ出荷は大幅に減少する、実に恐ろしい法律だ。

 華為技術は既に代替技術を準備しているというが、同社の包囲網は確実に強化されているのではないか。今後は中国が華為技術を守るために対米譲歩をするか否かが注目される。昨年だったか、同様のケースでZTEという中国企業が倒産寸前に追い込まれたが、華為技術はZTEよりはるかに巨大だから、問題はより深刻だろう。

 華為技術が米グーグルへのアクセスを失えば、同社が破綻することはないにしても、同社のスマホが2020年に欧米から姿を消す可能性や、同社が最終的に数千人規模の従業員を解雇する必要に迫られ、いつかは世界市場から姿を消す可能性すらあるとも報じられている。華為技術について米国はどの程度本気なのだろうか。

〇欧州・ロシア
 冒頭述べた欧州議会選挙だが、英国ではEU離脱を掲げる新党・Brexit党が最多議席を獲得し、EU残留を主張する自由民主党がそれに次ぐらしい。現在の与党・保守党と最大野党・労働党は共に大きく議席を減らしそうで、特に保守党の得票率は10%にも満たないという。戦後の欧州の大実験はやはり失敗に終わるのか。

〇中東
 今回の日米首脳会談でイランをどう扱ったかに関心がある。日本が米国とイランの「橋渡し」をするという幻想は日本の政治家が好むテーマ。トランプ氏はイランとの対話に前向きともいわれるから、ひょっとしたら「瓢箪から駒」という可能性もゼロではない。しかし、所詮相手は百戦錬磨のイランだから、気を付けないと火傷をするだろう。

〇南北アメリカ
 米国内では何ともレベルの低い中傷合戦が続いている。今度はホワイトハウス報道官が、「バイデン前副大統領に対する評価」ではトランプ氏と金正恩委員長の「見方が一致している」と述べたそうだ。朝鮮中央通信はバイデン前副大統領を金正恩委員長の冒涜を理由に厳しく非難したというが、この大人げない批判、如何なものか。

〇インド亜大陸

 インドの下院総選挙はモディ首相率いる与党が勝利し、同政権は二期目に入る。今週はこのくらいにしておこう。



4月29-6月7日 国際法委員会 第71回会合 first part(ジュネーブ)
5月4日ごろ-6月2日ごろ ラマダン(断食)月
5月13-6月28日 ジュネーブ軍縮会議(CD)second part (ジュネーブ)
20-28日 WHO 世界保健総会 第72回会合(ジュネーブ)
20日-6月17日 第14期第7回ベトナム国会(ハノイ)
21-6月21日 国際民間航空機関(ICAO)council phase 第217回会合(モントリオール)
25-28日 米国トランプ大統領が訪日
25-28日 鈴木外務大臣政務官が中国及びタイ訪問
26-27日 G20のエンゲージメント・グループのT20本会合及びレセプション
27日 メキシコ4月貿易統計発表
27日 オランダ第二院選挙
27日 マダガスカル国民議会選挙
27日 メモリアルデー(戦没者追悼の日)(ニューヨーク市場は全て休場)
27日 ソユーズ2.1b(GLONASS-M 758)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
27日か28日 ロシア1-3月貿易統計発表
27-28日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
27-29日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会A及び非公式・専門家委員会 第55回会合(ウィーン)
27-31日 第1回国連人間居住計画 総会(ケニア・ナイロビ)
27-31日 ASEAN高級実務者会議(ASEAN SOM)(バンコク)
27-31日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第75回会合(バンコク)
27-31日 薗浦内閣総理大臣補佐官がフランス、ドイツ及びエストニアを訪問
28日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日- 米・シャナハン国防長官代行がインドネシア、シンガポール、韓国、日本を歴訪
28-29日 イスラエル・スタートアップ会議(イスラエル・テルアビブ)
28-31日 バングラデシュ・ハシナ首相が訪日
29日 ユーラシア経済連合(EEU)首脳会議(カザフスタン・ヌルスルタン)
29日 ナイジェリア大統領就任式
29-30日 WHO執行理事会 第145回会合(ジュネーブ)
30日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 米国第1四半期GDP発表(改定値)
30-6月5日 米・ポンペオ国務長官がドイツ、スイス、オランダ、英国を訪問
30-6月7日 UNDP、UNFPA、UNOPS執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
31日 UNDP、UNFPA、UNOPS、UNICEF、WFP及びUN-Women執行理事会joint meeting(ニューヨーク)
31日 米国4月個人消費支出(PCE) 物価指数発表(商務省)
31日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
31日 インド第4四半期GDP発表
31日 CIS首脳会議(トルクメニスタン・アシガバード)
31日 プロトン(Yamal 601)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
31-6月2日 第18回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)(シンガポール)
6月1日 エルサルバドル大統領就任(林衆議院議員を特派大使として派遣)
2日 NATO・ストルテンベルグ事務総長が北マケドニア訪問
2-6日 ラマダン明け休暇


【来週の予定】
3-5日 米・トランプ大統領がイギリスを訪問
3-14日 世界気象機關(WMO)世界気象会議 第18回会合(ジュネーブ)
4日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
4日 EU4月失業率発表
4日 天安門事件追悼集会
5日 米・ベージュブック
5日 米・トランプ大統領、アイルランド・バラッカー首相と会談(アイルランド西部シャノン)
5日 デンマーク議会選
5日 長征11(高分解能地球観測衛星Jilin-1 Gaofen 03A, 03B)打ち上げ(海上発射(黄海近海予定))
6日 運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルク)
6日 ECB定例理事会(リトアニア)
6日 EU第1四半期実質GDP成長率発表
6日 米国4月貿易統計発表
6日 米・トランプ大統領がフランスを訪問
6日か7日 ロシア5月CPI発表
6-7日 G7社会政策担当相会合(パリ)
6-7日 国連経済社会理事会(ECOSOC)management segment(ニューヨーク)
6-7日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
6-8日 世界経済フォーラム・ラテンアメリカ会合(コロンビア)
6-8日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(ロシア・サンクトペテルブルク)
7日 運輸・通信・エネルギー理事会(通信)(ルクセンブルク)
7日 米国5月雇用統計発表
7日 端午節
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 ブラジル5月IPCA発表
7日 英・メイ首相辞任
8-9日 G20財務相・中央銀行総裁会議(福岡県)
8-9日 G20貿易・デジタル経済相会合(茨城県)
9日 メキシコ地方選挙
9日 カザフスタン大統領選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問