外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2019年5月22日(水)

外交・安保カレンダー(5月20-26日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


 先週末から米国とイランの「言葉の戦争」がエスカレートしている。先々週、米国は「明確なメッセージを送る」ため、空母打撃群と爆撃機部隊を中東に派遣した。先週もサウジアラビアとUAEが複数の原油タンカーに対する「破壊行為」を公表するなど、イランの関与を示唆する報道が続いた。でも、これって、ちょっと異常ではないか。

 同盟国間でも意見は割れた。当初英軍関係者は「イランの脅威増大」を否定していたが、英政府関係者は別の見解を発表している。米国政府内でも、トランプ氏が「戦争は望まない」とする一方で、ボルトン補佐官やポンペイオ国務長官は引き続きイランを厳しく批判している。一体何が起きているのか、一体誰を信じたら良いのか。

 そんな折、先週末トランプ氏は態度を一変させ、「アメリカと戦う気なら、イランは正式に終わりだ」「2度とアメリカを脅迫するな!」などとツイートした。トランプ氏は同日バグダッドにある米大使館付近にロケット砲弾が撃ち込まれたことに激怒したというのだが、おいおい、この程度で"official end of Iran"とはやや大袈裟ではないか。

 報道によればロケット弾は大使館から約1.6キロも離れた地点に着弾したという。米国は「イラク国内でイランの支援を受けるシーア派民兵組織による犯行」との見方を強めているそうだ。でも、それがどうした?米国大使館に近い、昔「グリーンゾーン」と呼ばれた地域に対するロケット砲攻撃なんて日常茶飯事だった。一体何を騒いでいるのか。

 筆者が同地域で勤務したのは15年も前の話だが、当時からイラク国内におけるイランの影響力は圧倒的であり、特に有力なイラク・シーア派武装集団でイランの支援を受けていない組織など殆どないはずだ。米国がイランを脱兎のごとく忌み嫌うのは自由だが、最近の米国による対イラン挑発は現実を超えた誇張の産物ではないのか。

 やはり、ここで求められるのは冷静な視点だろう。今イランが米国と戦争して勝てると思うだろうか。ここでイランが米国の挑発に安易に反応し米国を攻撃すれば、それこそ米国内の反イラン勢力の思う壺ではないか。米国内では、「2003年のイラク核兵器開発疑惑に似ている」との指摘もあるが、今回は明らかにそれ以下の茶番である。

 しかし、イランが中東各地の反米勢力に有形無形の支援を与えていることは否定できない。中にはイランからの強い圧力や説得にもかかわらず、対米攻撃を実行してしまいそうな間抜け集団もいるだろう。されば、米国の反イラン勢力の「ベタな挑発」も案外効果的ということか。それでも、常識的には「今後何も起きない」と考えるべきだ。

〇アジア
 先週末の豪州総選挙で再び主要メディアの予測が外れた。ロイターは、「与党保守連合が予想に反して勝利したため、最大勢力の自由党を率いるモリソン首相の党内基盤は強まり、長期安定政権への道が開けた可能性がある」と報じたが、本当に「奇跡」の勝利だったのか。日米豪の連携維持という点で変化がないことは良かったが・・。

〇欧州・ロシア
 今週23日から26日に欧州議会選挙がある。EU離脱問題を抱える英国の議会とは異なり、その結果が直ちにEUの方向性を変える訳ではなかろう。だが、最大の焦点はEU国際主義と個別主権国家主義との対立であり、その意味で各国「極右」政党の伸びを懸念する向きもある。

 しかし、EU議会の争点は、EU予算、気候変動、難民問題など多岐にわたる。ここで多数を占めたからといって、ただちにEUの政策が急変する可能性は低い。その実態は「たかがEU議会選挙、されどEU議会選挙」、ということなのかもしれない。戦後の欧州の大実験は結局失敗に終わるのか。今回そのヒントを知ることは可能だろう。

〇中東
 中東関係ニュースはイラン絡みのものが圧倒的に多いが、先週米国の中東専門家の友人とゆっくり朝食を共にしてその理由が見えてきた。誤解を恐れずに極論するが、一言で言えば、彼や筆者が慣れ親しんできた古き良き「中東和平プロセス」を中心とする正統派の中東政策はもう永遠に戻ってこないということなのだろう。

 パレスチナ側がPLOとハマースに分裂し、イランがハマースに対する関与・支援を深めたため、中東和平プロセスは事実上頓挫しつつある。本来はパレスチナ問題が中東問題の本質であるべきなのに、分裂と混乱を続けるパレスチナ・アラブ陣営はそうした己の優位を十分生かし切れていない。

 イスラエルの強硬派にとって、西岸ガザの占領を恒久化する最良の方法はイランの脅威を前面に出し、その問題解決に焦点を当てることで、中東和平プロセスを実質的に先送りさせることだ。その意味でクシュナー大統領娘婿のような素人が事実上中東政策の責任者となることは各国強硬派にとって「願ったり叶ったり」なのである。

〇南北アメリカ
 米与党共和党下院議員がロシア疑惑につき「トランプ大統領は弾劾され得る行為に及んだ」とツイッターに投稿したという。ロシア疑惑で共和党議員が大統領弾劾に言及したのは珍しい。この人、よほどトランプが嫌いか、選挙に強いか、もしくはその両方なのだろう。だが、こうした動きが直ちに共和党内で雪崩を起こす可能性は低い。

〇インド亜大陸

 インドの下院総選挙は23日に開票されるが、出口調査ではモディ首相率いる与党が優勢だという。来週はインドを詳しく取り上げることとし、今週はこのくらいにしておこう。



4月29-6月7日 国際法委員会 第71回会合 first part(ジュネーブ)
5月4日ごろ-6月2日ごろ ラマダン(断食)月
5月13-20日 辻外務大臣政務官がメキシコ、キューバ及びチリを訪問
5月13-6月28日 ジュネーブ軍縮会議(CD)second part (ジュネーブ)
5月17-20日 河野外務大臣がタジキスタンを訪問
20日 ウクライナ大統領就任式(遠山総理特使が派遣)
20-21日 OECDフォーラム(パリ)
20-21日 EU環境相理事会 非公式会合(ブカレスト)
20-28日 WHO 世界保健総会 第72回会合(ジュネーブ)
20日-6月17日 第14期第7回ベトナム国会(ハノイ)
21日 OECD世界経済見通し(パリ)
21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21日 マラウイ大統領・国民議会総選挙
21日 スペイン新議会の招集
21日 チリ大統領教書発表(バルパライソ)
21-6月21日 国際民間航空機関(ICAO)council phase 第217回会合(モントリオール)
22日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会 非金融政策(フランクフルト)
22日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
22日 FOMC議事録(FRB)
22日 PSLV C46(地球観測衛星 Risat-2BR1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
22-23日 OECD閣僚会議(パリ)
22-23日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(ブリュッセル)
22日か23日 ロシア1-4月鉱工業生産指数発表
23日 インド国会下院議員選挙(総選挙)開票
23日 長征4C(遥感三十三号)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
23日- ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星60機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
23日か24日 ロシア4月雇用統計発表
23-26日 欧州議会選挙
24日 メキシコ第1四半期GDP発表
24日 アイルランド・離婚条件緩和の是非を問う国民投票
25-28日 米国トランプ大統領が訪日
26日 ベルギー連邦議会(下院)選挙、地域議会選挙
26日 ドイツ・ブレーメン州議会選挙
26日 リトアニア・二重国籍の是非を問う国民投票


【来週の予定】
27日 メキシコ4月貿易統計発表
27日 オランダ第二院選挙
27日 マダガスカル国民議会選挙
27日 メモリアルデー(戦没者追悼の日)(ニューヨーク市場は全て休場)
27日 ソユーズ2.1b(GLONASS-M 758)打ち上げ(プレセツク宇宙基地)
27日か28日 ロシア1-3月貿易統計発表
27-28日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
27-29日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会A及び非公式・専門家委員会 第55回会合(ウィーン)
27-31日 第1回国連人間居住計画 総会(ケニア・ナイロビ)
27-31日 ASEAN高級実務者会議(ASEAN SOM)(バンコク)
27-31日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第75回会合(バンコク)
28日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28-29日 イスラエル・スタートアップ会議(イスラエル・テルアビブ)
28-31日 バングラデシュ・ハシナ首相が訪日
29日 ユーラシア経済連合(EEU)首脳会議(カザフスタン・ヌルスルタン)
29日 ナイジェリア大統領就任式
29-30日 WHO執行理事会 第145回会合(ジュネーブ)
30日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 米国第1四半期GDP発表(改定値)
30-6月7日 UNDP、UNFPA、UNOPS執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
31日 UNDP、UNFPA、UNOPS、UNICEF、WFP及びUN-Women執行理事会joint meeting(ニューヨーク)
31日 米国4月個人消費支出(PCE) 物価指数発表(商務省)
31日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
31日 インド第4四半期GDP発表
31日 CIS首脳会議(トルクメニスタン・アシガバード)
31日 米国ポンペオ国務長官が訪独
31日 プロトン(Yamal 601)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
31-6月2日 第18回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)(シンガポール)
6月2-6日 ラマダン明け休暇


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問